冥王がよくわからない
「さっここが私の家よ」
私が自宅を自慢するように言うと、冥王はとっとと中に入れろと言わんばかりのオーラを放ってきた。
「ははは……すみませんねえ。どうぞ」
私は扉を開き、冥王が入る。周りを確認して、家を後ろにして後ずさりながら入り、扉を閉じた。
「ふぅー」
元々人が少ない街だが、何とか誰にも見られずに冥王を入れられた。
先に家に入った冥王は、まだ玄関で突っ立っていた。
「あれ、どうしたの?突っ立ってないで、奥の部屋まで行っといて」
私は冥王を通り越して、奥の部屋より一つ手前の部屋に入る。冥王は廊下を歩きながら私に質問してきた。
「この家は、勇者一人か?」
「エリアスでいいわよー。私に家族はいないわ。両親はもう亡くなってるから」
「……」
冥王は奥の部屋である、リビングのソファに座った。リビングといっても、一人暮らしだからなのか殺風景な部屋だな、と冥王は感じた。
「んーと。よしよしあった!冥王っ!お父さんのお古だけど使って!」
私はリビングに、冥王に着せる服を持ってきた。
「じゃっ私廊下で待ってるから、着替え終わったら呼んでね」
「……ふん」
私は廊下に出て、リビングの扉を閉じた。冥王は渡された服を開いて、気に食わない顔をした。
「おい、俺はこんなボロ布を着なければならんのか」
「仕方ないでしょ。男性用なんかそれ以外捨ててないんだから。文句言わないで早く着てよね」
冥王はムスッとして、その絹の服を着る。ふと冥王は、テーブルの上に
置いてある写真立てが目に入った。エリアスの顔をした小さな子供と、髪の長い女、細身の男が写っている。
「……」
冥王は写真をじっと見つめ、またすぐに着替えを進める。
「――もういい?」
「ああ、もういい」
しばらくしてから私が扉に向かって声をかけると、返事が返ってきた。扉を開けて冥王を見ると、頭を除けば、今までの野菜っぽさは抜けていた。
……残念なイケメンには変わりないんだけど。
「うん!似合ってんじゃん」
「どこがだ。俺にはただのボロ布にしか見えん」
最初に着ていた服に比べると地味過ぎる服。それが気に食わないのか、冥王は眉間に皺を寄せてムッスーとして言った。
「まあ、いい。それより気になっていたんだが、あれはお前の家族か?」
冥王の視線の先にある写真を見て、私は笑って答えた。
「あぁ、それ?私がまだ四歳の頃の写真らしいよ」
「……らしい?」
「うん。正直、お母さんがどんな人だったか覚えてないの。お母さんは私が五歳の時に病気で。お父さんがずっと面倒を見てくれていたんだけど……」
私はそこで、話すのを止めた。冥王はその続きが聞きたいのか、私の目をじっと見ていた。
「ごめん、こんな話もうやめよっか」
「父親も、死んだのか」
「え……」
無理やり話を終わらせる私のことなどお構いなしに、冥王は続きを要求してきた。いや、確認してきた。質問する冥王の顔は、どこか虚しいような、悔しそうな表情をしていた。
「……うん」
「それは俺の……冥王のせいか」
「っ!」
私は冥王の言葉を否定しなかった。何故ならその通りだったから。
父は冥王の炎で命を落とした。人々の命をゴミのように扱う冥王を、私は許せなかった。それ以来、父の仇として、冥王を倒すことを目標にして生きてきた。
私は自分が気づかないうちに、自分の拳を固く握り締めていた。
冥王は私の心境を知ってか知らずか、小さく言う。
「俺が憎いのだろう。自分の目の前に父親の仇があるんだ、八つ裂きにしないのか?」
「そんなことしたら、私もあんたと一緒じゃん」
私は苦笑いで答えた。
「それより、冥王はこれからどうするの?行く宛がないなら、私の家に引きこもる?……というかあんましその派手な髪とオーラで外を歩き回ってほしくないんですけど」
冥王の姿は世間では知られていない。知っているのは一緒に討伐に出かけたパーティーの三人だ。
「あ……そういえば、シルクたちにもこのこと話さないと。あーあと口止め料も二人分要るわね。これから忙しくなりそう……」
私がハァーっと長いため息を吐くと、冥王は私の顔を見てフンッと見下しながら言う。
「勝手なことを……いつ俺がこんな所に住まうことを承諾した」
「じゃあ、行く宛はあるのね?なら心配しなくても良さ気ね」
「……」
しばらく考える素振りを見せてから、冥王はこちらに振り向いて言った。
「ない」
「あっそ……じゃあ決定ね。空き部屋もあるし丁度良いわね」
私はもう一度冥王を連れて、冥王の服を取り出した部屋へ戻り、この部屋を使うように言った・・・・・・そこは以前は父が使っていた部屋だった。
「あとでちゃんと床も掃除するし、ベッドも用意するから、しばらくは物が少なくても我慢してよね。必要な物なら――」
「情報が欲しい。本でも何でもいいが、最近の魔物の動きがわかるような話を持ってこい」
既に部屋に配置していた椅子に座り、足を組みながら私に『命令』した。
(私が聞き終わる前に……てそこはいいけど、頼み方がなってない!冥王だから我儘?なのはわかるけど……)
「はいはい。持ってきますよーだ、冥王『様』!」
私は嫌味を精一杯含ませて返事をして、ふくれながらその場を後にしようとした。
「待て」
すると冥王が、後ろ姿の私に声を掛けた。
「何よ」
「……レギウスだ。我が名は冥王レギウス。これから冥王とは呼ばなくていい、いいな」
鋭い眼つきでジロリと睨むような表情。私は冥王……レギウスのこの目が嫌だった。
「……ええ、わかったわ」
名前なんてどうでもいいのに。むしろ『様』を付けたところに反応しなさいよ……そう思っている今の私は、レギウスの心情など一欠片も気にしてなどいなかった。
第2話 ありがとうございました。
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