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魔女は竜と謳う  作者: Fe
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第七十六楽章 決戦前夜

戦いの準備を皆が始めてから半月程経った。《逆十字世界》は相変わらず機械天使の猛威に晒されており、《エクスカリバー》に乗っていない全ての命は小春の結界に守られて日々を怯えて過ごしていると言う。早く戦いに行って全てに決着をつけたいという想いとまだ準備不足だと推し留める想い、その2つがアルベルトを苛んでいた。


「曽祖父殿……どうか某に力を御貸し下され!今こそ《天覇てんは》の力を!!」


吉宗の墓から持ち出した聖四郎の曽祖父が愛用したという槍。半月という時間の間に聖四郎はその槍を己の物とすべく特訓に勤しんでいた。


「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


まるで何処までも澄み渡る空を思わせる蒼穹の炎。最初の内はその炎で自分自身を焼きながらも、聖四郎は休む間も惜しんで鍛錬を続け、今日ついにその炎を完全に物にしたのだ。


「アルベルト殿!いざ参るでござる!!」


「来い!!」


聖四郎の炎に対抗するならとアルベルトは《レーヴァテイン》を召喚し応戦する。紅蓮と蒼穹、2つの炎が激突し周囲は激しい熱気に包まれる事となった。








30分程激しく打ち合い、双方疲れ果てた所で訓練はお開きとなった。アルベルトは聖四郎に肩を貸しながら食堂へ行き、シャロンが用意してくれたジュースで乾杯する事にした。


「ふう……にしてもアルベルト殿。何時になったらヤズミと決着をつけるのでござるか?」


「……やっぱり、もう行くべきか?」


「某には分かり申さぬ。しかしこのまま時が経てば経つ程に戦意が落ちるのも確かではと思うでござる」


アルベルトは無言でコップに残ったジュースを飲み干し、「考えておく」と告げてその場を後にした。


「……」


「アル!」


複雑な気分に悩みながら歩いていると、声をかけてきたのはセーラだった。


「どうした?」


「ううん、なんだか辛そうだったから」


「別にそういう訳じゃないんだけどな。まあ……そろそろ時期なのかもしれないと思ってはいた」


主語を省いた言葉だったが、セーラは合点が行ったように頷いた。


「なら皆を集めましょう。兵は拙速を尊ぶ、思い立ったが吉日という奴よ」


アルベルトは無言で笑い、それだけでセーラは全てを察して走り出した。









時が来た。その一報は《エクスカリバー》を駆け巡り、主なメンバーは全員が共有区画に集まっていた。


「よくこれだけ集まったもんだな……」


最初は学友と一部の有志しかいなかった《逆十字聖騎士団》。それが今では複数の国を巻き込んだ連合国家として幾万の民を抱えるまでに成長していたのだ。


「……」


とんと背中を小春に押され、アルベルトは1歩前に出た。


「皆聞いてくれ!今の《逆十字世界》は未曾有の危機を迎えている事は皆知っての通りだ。本来ならとっとと乗り込んでぶっ飛ばせば良いんだが、何しろ今回は相手が相手。俺自身ビビって二の足踏んでた事で皆を不安にさせたかもしれない。そこは本当に済まなかった」


頭を下げると、周囲がざわつく。セーラがすっと手を挙げてそれを鎮め、アルベルトは再び口を開いた。


「だが俺はもう迷わない!相手が神話に謳われた禍神であろうと、稀代の卑劣漢にして真性の下衆であるヤズミであろうと、この身に宿る全ての力と技を駆使して奴等を討伐する!!」


一旦言葉を切り、アルベルトは呼吸を整える。


「そしてこれは恐らく、《逆十字連合国》が騎士団であった頃を含めても空前絶後に危険な戦いとなる事は間違いが無い。だからこそこの戦いは参加する者全てが覚悟と決意を持って臨んで貰いたいんだ。明日のこの時間に改めて集まって貰うが、俺や仲間への義理立てで参加する事の無いように頼む」


本当なら全員で戦いに行きたいが、本気で命の保障がない時点で無理強いは出来ない。そう告げてアルベルトは一礼してその場を後にした。


「私は行くわよ。考える間でもないわ」


「おいおい……」


後を付いて来たセーラの迷い無い言葉にアルベルトは思わず笑ってしまう。


「当たり前でしょう?騎士としての義務感でも矜持でもない、私という女がアルと共に戦場へ出る事を望んでいる……それだけよ」


「そこまで言われちゃ仕方が無い。最期の時まで俺の背中を預ける」


儀礼に則って礼を取るセーラの髪にそっと口付け、アルベルトは一拍遅れて自分が何をやらかしたのかを認識した。


「あ、その……済まん」


「良いのよ。アルは髪にキスする事の意味って知ってる?」


自分の髪を弄りながらセーラは悪戯っぽく微笑んだ。


「意味は『思慕』、思い慕う事。だから私にとってはとても嬉しい意味なのよ」


「……左様ですか」


セーラはアルベルトの首に腕を回し、背伸びして唇を重ねた。


「そして唇は『愛情』。勝ちましょう、アル」


「ああ!」


負ける道理はない。アルベルトはひたむきに自分を想う騎士を抱き締め、他の場所も見て来ようと歩き出した。









日が暮れ、夜になる。戦いを前にした決起集会だとばかりに酒と料理を腹に詰め込むリザードマンと聖四郎達男組、音楽で昂ぶる心を鎮めようとするエルフ、武具の手入れに余念のないドワーフなど様々な種族が明日の戦いに備えて何かをしていた。


「よう」


後ろから声をかけられ、振り返るとバレリアが豪快に焼き上がった牛の脚を持って歩いて来るところだった。


「アタイも行くぜ。明日の戦い」


「その為にまずは腹拵えという所か?」


笑って頷き、バレリアは豪快に齧り付いた。


「アタイ達リザードマンはさ、こうやって誰某の為に戦うって事はなかったんだ。全部アルが教えたんだぜ?」


「それはよかった事なのか?」


「当然さ。勝手気ままに暴れるだけだったアタイ達の、この無駄に頑丈で馬鹿力な身体を使って役に立てるんだからな」


アルベルトはバレリアの頭を撫でる。特に深い意味はなく、唯そうしたかったからだ。


「頼りにしてるぜ?突撃隊長」


「おう!」


残った分も食べてくるというバレリアと別れ、アルベルトは充てもなくのんびりと歩く。途中でセルヴィから木彫りのお守りを貰い、ナオとマオからは使い古してボロボロになった兜を新しく作って貰い、グラニ達傭兵団の酒盛りに巻き込まれて少しばかり強い酒を飲まされた(結果少し加減が利かない状態で殴ってしまったのは反省だが)。


「歌……?」


酔いを醒まそうとエルフの居住区画に行くと、マーリスの指揮でヴィーヴィやルキナにリセルといった魔族達がケーナやアリアンロッドと歌っていた。


「アルではないか。最近他の種族から音楽というものを教わったが、これは良い物じゃな」


「俺もそう思うよ。ルキナも初めての割には上手いし綺麗な声じゃないか」


ルキナは少し頬を染め、「からかうでない」と呟いた。


「人と魔族だけでなく、エルフにドワーフにリザードマンまでもが共に過ごし国すらも1つに纏め上げる……そなたと出会ってからは妾の夢があっという間に叶って行くな」


「俺だけじゃない。皆の力だと思うぞ?まあ月並みな台詞で申し訳ないが」


「そんな事ないです!」


リセルが両手を胸の前で握り締めながら詰め寄った。


「あ、いえ……そのぉ……私の今はアルがいないとなかったなーと……」


「あー……」


確かにリセルに関してはその通りだとアルベルトは苦笑いする。今から思うととんでもない事を散々やらかした自覚はあるが。


「ケーナはアルの翼になるよ。リンドヴルムよりも速く飛んでみせるから」


その言葉には流石に気分を害したのか、アルベルトの右手の中でリンドヴルムの力が鼓動を強めた。


「妾達は改めて誓おう。如何なる戦場でもそなたと共に在り、戦い抜くと」


「私も誓います。女神の名とこの《ファフニール》に懸けて」


「ありがとな。なら俺もお前達皆を守って勝ち抜いてみせるさ」


ルキナは微笑んで《ベカトゥム》を抜き、応えるようにアルベルトも《エクスピアティオ》を抜き放つ。ケーナも《カラドボルグ》を掲げ、アリアンロッドも《ファフニール》を抜き放った。誓いを込めて交差する四つの武器が澄んだ音を響かせた。








その後も家族水入らずで過ごすミスティ(トロイとコルトンもそこにいた)と夕食に付き合ったり、やっと正体を明かしたらしい菊千代に織江が泣きながらその胸をぽかぽかと叩いているのを視界に納めたり、そして今日はテオとレベッカと一緒に寝るという小雪にお休みを告げてアルベルトは自室へと戻った。


「ふう……」


自室の椅子に座り、明日の戦いに思いを馳せているとノックと共に意外な顔が入って来た。


「何だリリィ。珍しいな」


「まあたまにはコハルさん抜きというのも悪くないかと」


ガチレズの彼女にしては珍しいと思っていると、リリィは持っていた瓶を振って見せた。


「それって昔セーラが開けたシャンパンじゃねえか」


「ええ、銘柄は教えて貰ったので買ってきました。勿論ノンアルコールです」


既にグラニに飲まされて少し頭痛を感じているので、アルベルトとしてはありがたい。棚に保管されているグラスを2つ取り出してテーブルに置くと、リリィは慣れた手つきで栓を抜いて注いだ。


「何に乾杯しましょうか?コハルさんの未来にか、コハルさんの幸せか、はたまたコハルさんの」


「さっきから小春ばっかりだな。まあブレなくてお前らしいが」


「当然です。それが私クオリティですから」


訳の分からない事を言いながらもリリィはアルベルトとグラスを合わせる。チンと小さな音が響き、しばらくの間は無言でシャンパンを楽しんでいた。


「覚えているか?このシャンパンを始めて飲んだ時の事」


「忘れはしませんよ。セーラさんが始めて出来た友達だって舞い上がってアルコール入りのまで開けて大騒ぎだったんですから」


そうだったとアルベルトは苦笑気味に肩を竦めた。


「生憎と俺はあの時真っ先に酔い潰れてしまって、何があったのかは覚えてないんだ。リリィは覚えてるのか」


「ええ。まあ私の口からは語らないでおきますよ。多分コハルさんもセーラさんもアルに知られたとなったら立ち直れないでしょうし」


何をやったのか激しく気になるが、リリィがそう言うのであれば気にしない方が良いのだろう。肩を竦めて興味を持たない事を示すと、リリィは満足気に頷いて半分だけ飲んだグラスをテーブルに置いた。


「じゃあ後でコハルさんが来たら飲ませてあげて下さい。私の飲みかけを」


「お前な……」


リリィは「冗談です」と言って残りを一息に飲み干し、お休みを告げて部屋を出て行った。余りにも普段通りのノリだったので、アルベルトとしてもすっかり緊張が解れてしまった。









それからしばらく経って。リリィの言っていた通り小春が入って来た。


「小雪はもうぐっすり眠ってたわ。アルはまだ眠れない?」


「大分落ち着きはしたが、気持ちが昂ぶってな。飲むか?」


小春は微笑み、「アルコールが入ってないなら」とグラスを手に取った。


「誰か来てた?」


「リリィの差し入れだ」


珍しいと目を丸くする小春のグラスに、アルベルトは少しぎこちなくシャンパンを注いだ。


「乾杯」


「乾杯……何に?」


分からず合わせたらしい小春に笑いつつ、アルベルトは少し考えを巡らせた。


「そうだな……世界に」


「そうね。それくらいが私達には丁度良いのかも」


一杯空け、小春は手で自分を扇ぎながら腰を浮かせた。


「隣に行ってもいい?」


「ああ、いいぞ」


小春は嬉しそうにアルベルトの隣に腰を下ろし、そっと腕に寄り添う。少女らしい柔らかな感触が腕から伝わり、アルベルトは少々落ち着かないものを感じながら杯を干した。


「……怖いのか?」


「少し、ね……」


微かな震えを感じ取って訊ねると、小春はこくりと頷いた。


「まあそりゃ当然だな。俺も怖いし」


「そうなの?」


「小春、俺を何だと思ってるんだ?これでも人の子だぞ?半分だけ」


小春は意味深に笑ってグラスを机に置き、アルベルトの右腕をそっと抱き締めた。


「アルは心が強いから」


「小春には負けると思うぞ。少なくとも俺とどっちが小雪の親をやれてるかと問われたら、100人が見て100人が小春を指すだろ」


「強がってるだけよ」


小春はグラスを机に置き、アルベルトの正面に移動してその目を覗き込んだ。


「小春?」


「アルの勇気、分けてくれる?」


「……こうやってか?」


自由に動くようになった右手も使い、両の腕で小春を抱き締める。彼女もアルベルトの首に腕を回して目を閉じた。


「ん、ありがと……」


夜は更けていく。流石に此処で寝るのは拙かろうとアルベルトは小春をベッドに連れて行った。










翌朝。特に何事もなく一夜を明かしたアルベルトは小春を起こし、再び《エクスカリバー》の共有区画へと来ていた。既に場には戦闘に出る者達はあらゆる種族関係なしに集まっており、今か今かとアルベルトを待っていた。


「これだけ集まってくれて、本当にありがとう」


感謝を伝え、アルベルトは壇上に上がった。


「これより《逆十字連合国》は最終作戦を発動する!敵は強い、はっきり言って俺1人じゃ勝てるかどうかも分からない。しかし!」


《エクスピアティオ》を抜き放ち、アルベルトは大きく振り被る。それに応えるようにセーラと小春とルキナ、アリアンロッドが進み出た。バレリア、セルヴィ、マオとナオ、ケーナもそれに続く。


「この地には《勇者》と共に戦った仲間達の血脈だけでなく、かつては敵対していながらも共に歩もうと進み出た者達がいる!そこにはアーサーをも超える器と、限りない希望の象徴がある!」


進み出た者達がそれぞれ得物を掲げる。アルベルトはそれに意を強くして更に言葉を重ねた。


「聖戦だのと気取るつもりはない。ヤズミに、禍神に蹂躙された昨日のツケを払わせ今日を護り……そして明日を得る為の戦いだ!故郷を思え、友を思え、家族を、愛する人を思いその力を解き放て!」


歓声が上がり、集った戦士達は得物や拳を突き上げて雄叫びを上げる。


「これが《逆十字世界》で行われる最後の動乱にしよう。そして全てが終わったら、その時はまた以前にやったように全ての種族関係無しに楽しめる宴を開こうじゃないか」


それはアルベルトの偽らざる本心であった。ケーナに語った通り、今日よりももっと楽しい明日にする為にこの命を懸けると。


「ヤズミをのさばらせていては、この《逆十字世界》に恒久的平和など在り得ない!奴にはこれまでも多くの者が涙を流し、大切な何かを奪われ続けてきた!それは俺も同じであり、この手から取りこぼしたものは数知れない……」


実際にはセーラも小春も喪わずに済んでいるが、もし取り戻せなかったらと思うとアルベルトは内心で心底ぞっとした。


「これ以上の暴挙を許してはならない!俺は誓おう、この剣と歩んできた道……そして《勇者》の名に懸けてヤズミを討伐すると!」


皆の目にも大きな力が宿っているように思える。それが後押しとなりアルベルトは更に1歩前に出た。


「俺の望みは唯1つ!」


大きく息を吸い込み、アルベルトは声を張り上げた。


「我等に、勝利を!!」


『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!』


雄叫びが《エクスカリバー》を揺るがし、口々に「我等に勝利を!」と皆が唱える。


「アルベルト団長万歳!」


「《逆十字連合国》万歳!《逆十字世界》に栄光を!!」


そんな声に意を強くし、アルベルトは《エクスピアティオ》を振り下ろした。













             「全軍出撃!我が旗に続け!!」













         続く

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