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魔女は竜と謳う  作者: Fe
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第七十四楽章 世界崩壊

新たなる《戦乙女ヴァルキリー》となったセーラを労うとかより先に、アルベルトはとんでもない事を1つ思い出していた。


「ちょっと待ってくれ。親父が100年前にアーサーの父親になって死んで、また今度は俺の親になってまた死んだって事は……まさか親父は今此処にいるのか?」


「いますよ?」


何を言ってるんだとばかりにフレイヤはあっさり言ってのける。


「というか、今後ろにいますけど」


「何ぃ!?」


慌てて振り返ると、記憶の中にある父親と寸分違わない姿のまま神殿の入り口にテオが立っていた。


「久しぶりだな、アル……」


「お、親父……」


何を言ったら良いのか分からず、アルベルトは思わず俯く。しかしセーラに優しくとんと背中を押され、意を決して走り出した。


「親父……!」


「……」


無言で微笑み、受け止めようとテオは両腕を広げる。アルベルトは躊躇い無くそこへ飛び込んだ。


「どの面提げて出て来やがったクソ親父があああああああああああああああああああ!!!!!」


「ぐあああああああああああああああああ!?」


全身全霊を込めて顔面を殴り飛ばされ、テオはたまらず神殿の外まで吹っ飛ばされる。しかし地面に叩きつけられる寸前で体勢を立て直し、自分も剣を抜いてアルベルトに突撃を仕掛けてきた。


「いきなり親を殴る息子に育てた覚えはないぞおおおおおおお!!」


「こちとら人生の大半を親父に育てられた覚えはないってんだ!」


「ごはあっ!?」


初撃を《エクスピアティオ》で受け止めながら言われた一言で、テオは吐血しかねない声をあげて昏倒した。


「まあ、《サザンの悲劇》で命を落としたのならかれこれ11年はほったらかしてるものね」


「そ、そうだが……そうなんだが……せめてもう少しなぁ……」


セーラの一言で神殿の隅に蹲ってのの字を描く姿は父親どころか太陽神の威厳すらない。事実フレイヤやティファニアスも呆れた目を向けており、実は意外と太陽神の求心力というのは無いのかもしれなかった。


「何だ、一発じゃ足らなかったか?」


「何でそうなるんだ!もっとこう、父と子の感動というかそういうのをな」


「ずっとほったらかして今更親父面してんじゃねえ!グラニよりかもっと性質悪いわ!!」


「ああもう分かった!そこは謝る!土下座でも何でもする!殴りたかったら殴ってぼげひゃあ!?」


許可が出たのでとりあえず殴っておく。


「だからちょっと待て!アル幾ら何でも……」


「どれだけ……」


「え?」


色々とごちゃ混ぜになった感情を持て余したまま、アルベルトは気持ちのままに叫んだ。


「どれだけ俺が独りだったと思ってんだ!!」


少なくとも《ムーンライト学園》に入学するまでの10年、彼が心底心を許せた相手などいなかったのだ。


「……済まん。本当に、済まん」


怒りが強かった割には、父親の土下座する姿というのは予想以上にアルベルトを動揺させた。もう一度背中をとんと押され、振り返ると今度はルキナだった。


「もう良いであろ?それともまだ言い足りぬか?」


「……いや」


言いたい事なら腐る程ある。かつて息子と妻を天秤にかけて息子を選び魔物を打ち倒した英雄、盗賊を相手に単身立ち向かい死んだ父親。そのどちらも同じ人間なのだ。


「今度母さんも連れて来る。自動人形だけど生きてるから」


「というか俺が会いに行きたいんだが」


「転生もしないで神が《ヴァルハラ》を離れるとか何考えてるんですか!」


流石に拙いのか、ティファニアスが割って入った。


「いやほら、ちょっと行って帰って来るだけだから」


「駄目です!どうしても会いたいならアルベルト殿に連れて来て貰って下さい!!」


どうにも空気がグダグダになってしまい、アルベルトが思わず苦笑したその時だった。轟音と共に大地が揺れ、《ヴァルハラ》が斜めに傾いだ。


「な、何だああああああ!?」


「きゃあっ!」


バランスを崩して倒れ込んで来たアリアンロッドを慌てて受け止めつつ、アルベルトは咄嗟に《オケアノス》を召喚して地面に突き刺す事で姿勢を保つ。周囲に目をやると、セーラも何とか《ラグナロク》でバランスを保ちながらケーナ達を支えていた。主を鞍替えして最初の仕事が杖代わりというのは《ラグナロク》にとって不本意かもしれないが、背に腹は代えられない。


「何が起こってるんだ!」


「《ヴァルハラ》のバランスが此処まで傾くというのは……まさか心臓を!?」


フレイヤとテオが慌てて飛び出し、ティファニアスとトールもそれぞれ得物を手に飛び出して行く。突然の事にぽかんとしていたアルベルトだったが、ややあって自分がアリアンロッドを抱き締めていたままだった事を思い出した。


「っと済まん!大丈夫か?」


「ふ、ふえええ……」


白い頬を真っ赤に染め、完全にオーバーヒートして目を回している彼女をとりあえず傍に控えていた侍女らしい天使に預けておく。


「セーラ、まだやれるか?」


「無理でもやってみせるわ。アルの行く戦場には何処であろうともね」


アルベルトは小さく笑い、「無理はするな」とだけ言ってリンドヴルムを召喚した。








心臓。それは《ヴァルハラ》を支える神力炉(人間の魔力に相当)の大元であり、言わばメインエンジンである。《ヴァルハラ》を支える全ての源にして急所であり、部外者に此処を制圧されるというのは《ヴァルハラ》の終焉を意味してもいた。


「くっ……待ちなさい人間……!貴方達が触れて良い物では……くあああああああああああああっ!!!」


「うざいなぁおのれ」


血塗れになって倒れた天使兵の翼を分解しながらヤズミはせせら笑う。その場には何人もの天使が倒れており、それらは全て彼等……《ゾディアック》によって倒された者達だった。


「よくやってくれたぞスコルピオよ。これでこの世界を統べる力、禍神の力は我等の物だ!」


高笑いする老人の名はザルバト。《ウロボロス》の首魁にして、この世で最も魔女に嫉妬し続けた男の成れの果てであった。


「この力があれば《逆十字聖騎士団》等恐れるに足らず!……む?」


キンという小さな音に、ザルバトは訝しげにその方向を見た。そこにはまだ十を幾つか越えた程にしか見えない子供の天使が、取り落とした短剣を必死で拾おうとしている所だった。


「ふん、羽虫の1人位は生かしておいてやるのも良いか」


天使すらも羽虫にしか思えない。それ程に強大な力を目の前にしたザルバトは思い上がっていたのかもしれない。


「ザルバトの旦那」


別の場所を調べていたピスケスが戻って来た。


「どうも心臓を壊すだけじゃ封印は解けないみたいですぜ。天使に訊こうにもこのクズが全部殺してしまいやがって」


「何言ってるのさ。あそこに1人残ってるじゃん」


ヤズミは震える手で短剣を何とか拾い上げた天使に近づき、その羽を数枚力任せに引き千切った。


「あぐあああああああああ!!!」


「ねえ、おのれは禍神の封印を解く方法を知ってる?」


痛みに泣きじゃくる天使を蹴り上げ、ヤズミは髪を掴んで持ち上げた。


「やめ、やめてぇ……封印、解いたら駄目ってママが……」


「ふうん?じゃあ解き方は知ってるんだ。解けよ」


更に数度腹を殴りつけ、血を吐かせながらヤズミは嗤う。それでも泣くばかりの天使にいい加減苛立ってきたのか、今度は片翼を根元から千切った。


「あああああああああああああああああああああああ!!」


「おいヤズミ!やり過ぎだ!!」


カストルが気色ばんで止めに入るも、ヤズミは更に右腕を圧し折りにかかる。


「あーあぁ、おのれがもっと早く素直になれば痛い思いしなくて済んだのにねぇ」


「貴様いい加減に……!」


ポルックスも得物を構えてヤズミを斬ろうとしたその矢先だった。翠の風と共にリンドヴルムが飛び込み、アルベルト達が女神達と共に乗り込んできたのだ。


「その手を放せ下衆野郎!!」


リンドヴルムの風に乗り、アルベルトが《エクスピアティオ》を一閃させる。ヤズミは咄嗟に天使を手放し短距離転送で距離を取った。すかさずセーラが俊足を生かして天使を受け止め、その痛ましい姿に顔を歪めながらも治療に入った。


「一体何故お前達がこの《ヴァルハラ》に!?」


矢を放ち他の《ゾディアック》を牽制しながらフレイヤが叫ぶ。その疑問に応えたのはザルバトだった。


「提案したのはヤズミだがな。そこの小僧共が《戦乙女》を追って《ヴァルハラ》へ飛び込むのに便乗させて貰った」


「そうそう。つまりこの惨劇は全ておのれらの所為って事!どう?どんな気分?全部守るなんて妄言ぶち上げてこんだけ殺しまくってねえどんな気分?」


「いい加減黙れ」


レオが忌々しそうに溜息をつき、腰を落としてアルベルトを睨み据えた。


「気にするな。勝手に付いて来たのは俺達だし、殺したのも俺達だ。お前等は俺達を憎み、断罪し、討伐すれば良い」


「用意された敵ってのは正直気に入らないが……!」


右手に《レーヴァテイン》を呼び出し、アルベルトは二刀の構えを取る。その視線が突き刺すのはレオでもザルバトでもない。


「ヤズミ、お前を殺す事は俺の中で確定事項だ!」


「へえ……っ!?」


まだアルベルトの間合いではない。そう慢心していたヤズミだったが、剣の風圧で首筋が斬れたのを見て流石に顔色を変えた。


「悪いな。もうそこも……俺の間合いだ」


「ちょっとちょっと、何それずるくない!?」


これ以上戯言に付き合うつもりはない。アルベルトは此処で全ての決着をつけるべくヤズミに斬りかかった。








ザルバトの命令で渋々ヤズミの援護に向かったレオを聖四郎が抑え、セーラと元信がカストルとポルックスを引き受ける。ピスケスはアクエリアスの援護を受けながら菊千代とルキナに襲い掛かり、ケーナは槍を構えてリブラを迎え撃った。リリィはカプリコーンの突撃を掃射で防ぎつつ本命の砲撃を叩き込む隙を窺い、リセルが光の矢を連射してキャンサーを狙い、忠勝とアリエスが真正面から激突した。


「貴殿との決着は某も望む所!いざ勝負にござる!!」


「まあそうだな!お前と遣り合ってる間はあの野郎を助けなくても良い訳だし、存分に殺し合うか!」


炎を纏った回転蹴りを正面から受け止め、レオは両手の鍵爪を駆使して聖四郎の攻撃を迎え撃つ。聖四郎はすかさず軸にしていた槍を分離させて炎狼閃の構えを取った。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!闘魂ッ!絶唱うううううううううううううううう!!!!!!」


炎は更に熱量を増して蒼穹の炎となり、激突したレオの左腕が一瞬にして灰と化した。


「貴方達の連携のパターンは読めているわ。そこ!」


「何時までも足踏みを続ける我等と思うな!」


セーラはカストルの俊足を上回る神速で全身に剣を浴びせ、元信はポルックスを前に速さと重さの両方を兼ね備えた拳の連打で押さえ込む。渾身の一撃が肋骨を砕き、ポルックスは血反吐を吐きながら床に叩きつけられた。


「ポルックス!貴様……ぐあっ!?」


「余所見は駄目よ」


意識が逸れたその一瞬。一瞬あればセーラの速さなら十分過ぎる程の隙だった。連続で繰り出される刺突がほぼ同時にカストルを襲い、全身の関節という関節を全て刺し貫かれてカストルは昏倒した。仮に意識があっても立ち上がれなかったであろうが。


「ほう、水か……」


アクエリアスが作り上げた水の結界の中で、菊千代は面白そうに目を細めた。


「その通り。俺は水の中でなら無敵ってなぁ!」


「なるほど。だがな」


菊千代は慌てずに刀を構え、ピスケスが間合いに入った瞬間に一度だけ刀を振るった。


「水ごと斬ってしまえば問題はない」


「おま、強過ぎるだろ……!」


「これでも世界最強と謳われた剣豪でな。まあ最近始めて負けて、世界では二番目に成り下がりはしたが」


「び、貧乏クジ引いた……」


それでも急所は避けており、ピスケスは単純に痛みで気絶した。流石にアクエリアスは峰打ちに留めておく。


「さて、他はどうなっておるかの?にしても妾は全くやる事がなかったのじゃが」


ルキナは苦笑しながらそう呟いた。








ケーナは雷撃を槍に纏わせ、加速魔法を唱えてから刺突にかかる。リブラは肩を刺し貫かれるが、慌てずに自分が持っていた天秤を軽く弾いた。


「均衡を保とう。撃った分は撃たれなくてはな」


「え……ああああっ!?」


突然ケーナの肩が何かに貫かれ、血が流れ落ちる。


「訳が分からないか?これは私が天秤座を司る所以、撃たれたら撃ち撃ったら撃たれ……常に同一のダメージを互いに与える魔導具だ」


「ん、そうなんだ。じゃあケーナでも勝てるかも」


リブラは訝しげに眉を顰めた。彼の腹積もりとしては、竜の力を持つケーナとまともに事を構えるのではなく時間稼ぎが出来ればそれでよかったのだ。


「何をするつもりだ?」


「んーと、我慢比べ」


何をするつもりかと一瞬当惑したリブラだったが、次の瞬間目を見開いた。ケーナは槍の穂先を自分に向け、自分自身を刺し貫いたのだ。


「何をやって……ぐああああああああああああ!!!」


貫かれたのは肝臓、紛れも無く人体の急所である。そこまで理解し、リブラはケーナの狙いを把握した。彼女は竜である自分の生命力を頼みにあえて自ら致命傷を負い、均衡を保つリブラの魔導具を逆手に取ってきたのだ。そして人間と竜ではどちらがしぶといかと問われれば、間違いなく竜に軍配が上がる。魔導具の使い手であるリブラが倒れれば天秤は効力を失いケーナは生き残るという算段であった。


「馬鹿な……これ程の無茶を仕出かすとは何を考えている……!?」


「ケーナはアルの竜だもん。アルの為ならどんな無茶だって頑張れる!」


迷いの無い目に、リブラは薄く笑い魔導具を破壊した。


「貴様の勝ちだ。銀の竜」


ケーナは安堵したように崩れ落ち、セーラが受け止めた。


「貴様が来たという事は、ジェミニも負けたか」


「そうね。既に大勢は決していると思うわ」


リブラが周囲を見渡すと、リリィの砲撃でキャンサーとカプリコーンが手足を吹き飛ばされていた。アリエスは忠勝を相手に奮戦しているが、スタミナを考えるとそろそろ息切れする頃合だろう。


「そっちの《勇者》とヤズミは戦いながら奥へ行ってしまったようだな」


「そうみたいね。私は追わせて貰うけど、まだやるつもり?」


ケーナの治療を終え、セーラは「望むなら何時でもやってやる」とばかりに《ラグナロク》を構えた。


「冗談言うな。既に魔導具を失い今の私は唯の男だ。行け」


「ええ、そうさせて貰うわ」


セーラはまだ余力のあるルキナと菊千代、リセルを伴い奥へと走り出した。








その頃。アルベルトとヤズミの戦いは熾烈を極めていた。如何なる間合いだろうと追尾するアルベルトの猛撃を転送と直感でかわすヤズミという鬼ごっことも取れる状態ではあるが。


「アルベルトさん!加勢します!!」


飛び込んで来たアリアンロッドが《ファフニール》を構え、ヤズミに穂先を向ける。


「清き光の戒めを!」


《ファフニール》は使い手であるアリアンロットが望んだ相手を強化し弱体化しもする。本来ならこれでヤズミの動きを止めてアルベルトがとどめを刺して終わる筈だった。


「くああああああああああああああっ!?」


「アリアンロッド!?」


しかし弱体化の光はヤズミに届いたと思った次の瞬間には、アリアンロッド自身を貫いていた。突然の事にアルベルトも動揺して手が止まり、ヤズミはその隙に距離を取った。


「大丈夫か!?」


「は、はい……《ファフニール》の力を解除すれば。で、でもどうして……?」


「あはは!残念だったねえ?僕にはそういう神の加護とか呪いとか全然効かないんだ」


せせら笑うヤズミに剣を向けつつ、アルベルトはその意味を反芻する。板に水を流すかのように嘘を重ね、下衆な言動を繰り返すヤズミが相手な以上その言葉を額面どおりに受け取るのは危険過ぎる。だが仮に今の言葉が真実だったとして、それを無視するのもまた分の悪い賭けと言えた。


「だったらアリアンロッド、俺の強化だけって出来るか?」


「はい。それは大丈夫です」


1度力を解除し、アリアンロッドは改めて《ファフニール》の力をアルベルトに注ぐ。今まで以上に体が軽くなるのを感じ、アルベルトはセーラにはやや劣るがそれでも凄まじい加速で飛び出した。


「くたばれ!!」


振るわれる神剣。その一撃はヤズミの脇腹を薙ぎ、鮮血と共に後方へと吹っ飛ばした。


「あがっ!?」


「お前に与える慈悲はない!」


何とか立ち上がるヤズミを追撃し、両腕を斬り落とす。


「無様に散れ!!」


「こ、このっ!!」


ヤズミを壁際まで追い詰め、両手を失った彼の息の根を止めるなど簡単に思えた。しかしヤズミは足で背後の壁を蹴り、その瞬間壁が全て分解された。


「なっ!?」


「いけない!あれは……!」


アリアンロッドが叫ぶのと、セーラ達が飛び込んで来るのはほぼ同時だった。ヤズミが破壊した壁の向こうには3体の石像が正三角形に配置され、互いの視線が交わっているのが分かった。恐らくあれがルキナの話していた禍神なのだろう。


「おのれらが悪いんだよ?おのれらが僕を此処まで追い詰めるから、僕だけを不幸にするから!」


「ま、待てスコルピオ!まさか禍神の封印を解くつもりか!?それではわしの支配する世界が……!」


とっさに止めようとしたザルバトの頭にヤズミは躊躇いなく蹴りを入れ、その頭を分解した。余りにも呆気ない、そして躊躇無くこういった殺し方が出来る相手だという事にアルベルトは今更ながら戦慄していた。


「視線を逸らせば封印は解ける……簡単だねえ!」


止める間はなかった。ヤズミの術で床が砕け、禍神の像が1体倒れる。その瞬間力は解き放たれた。


「うおおおおおおお!?」


「アル!」


セーラが押し倒すようにアルベルトを庇い、衝撃で飛んで来た瓦礫を脇腹に受けて弾き飛ばされる。アリアンロッドが他の仲間を盾で守ろうと立ちはだかるが、衝撃波だけで叩き伏せられた。


「逃げて皆!《ヴァルハラ》が……崩壊する!!」


そう叫んだティファニアスの声は殆ど悲鳴だった。


「くそおっ!」


後一歩が届かなかった。禍神の像から溢れる禍々しい波動を全身に吸収して徐々に変化しながら高笑いするヤズミを睨みつけ、アルベルトは頭を切り替えて気を失っているセーラを抱き上げた。


「あははははははは!これぞ愉悦!全部壊れて、皆僕と同じ不幸になれば良い!」


「ヤズミ!」


撤退する仲間達の殿につき、アルベルトはありったけの憎悪と怒りを込めてヤズミに殺意を叩き付けた。


「殺してやる……!必ずお前を殺してやるからな!!」










トロイが気を利かせてくれたらしく、《エクスカリバー》はかなりの高度まで上がってきていた。アルベルト達は生き残った天使や天上人(翼こそないが、《ヴァルハラ》で神々に治められている人々)と他の《ゾディアック》を避難させ、何とか自分達も脱出に成功していた。


「アル、あれ……!」


甲板まで出て来た小春が震える手で地上を指差す。崩壊する《ヴァルハラ》の残骸が隕石のように地表や海へ落ち、降り注ぐ禍神の力で《逆十字世界》は火の海となっていた。


「ッ……!」


ブツリと唇に痛みが走り、自分が噛み切ったのだと分かる。生温かい血が顎をつたって落ち、アルベルトは視界が怒りで赤く染まるのを感じた。


「ヤズミイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!」


これ程までに憎んだ相手はいない。これ程までに殺したい相手もいない。そして、これ程までに自分の無力を恨んだ事もなかった。


「アル!!」


頬に走る衝撃。小春に頬を叩かれたのだと気付き、アルベルトは一瞬状況も忘れてぽかんとなった。一瞬で怒りも憎しみも吹き飛ばしてしまえるというのはある意味凄いのかもしれないが。


「今アルが考えなくちゃいけない事は何?ヤズミを憎む事じゃない、そうでしょう!?」


「あ……」


思考が切り替わり、アルベルトは頭が驚く程冷静になるのを感じた。


「……悪い小春。ちょっと行って来る」


「うん。それと、痛くしてごめんね」


「良いんだ。お陰で目が覚めた」


被災者の救出部隊を組織し行動に出るべくアルベルトはその場を後にした。まだ自分達は生きてる、なら何をやるべきかは分かり切っている。












この日、世界は崩壊した。後に《炎の日》と呼ばれるこの時をある者は絶望の幕開けと呼び、またある者は希望を携えた《勇者》が目覚めた日だと呼んだ。











           続く

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