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魔女は竜と謳う  作者: Fe
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第七十三楽章 神々の血

先陣を切って飛び出したセーラが《アスカロン》を一閃させ、セシルの肩を狙って斬りかかる。アルベルトはその側面をカバーするように動き、《エクスピアティオ》と《レーヴァテイン》をクロスさせるように斬りかかった。


「どちらの攻撃が本命か読み辛い……随分と通じ合ってるのね」


「ありがとよ!褒め言葉と受け取っておくぜ!!」


アルベルトが一撃を与える間にセーラはその十倍を叩き込む。一発の威力ではアルベルトが勝っていても、総合的に与えるダメージではセーラの方が上なのには誇るべきか泣くべきか微妙であるが。


「おおおおおおお!!炎狼閃!!!」


聖四郎も負けじと追い縋り、両手の槍を振るって絶え間ない連続攻撃を叩き込んでいく。その猛撃を縫って飛ぶセシルを更にルキナが追撃し、すかさずアルベルトとセーラが回り込むという連携で事態はアルベルト達の側に傾いているようにも思えた。


「ボレアス!!」


「っ!?」


セシルが全方位に向けて放った衝撃波。超高密度に圧縮された空気の弾丸のようであった。


「くっ!《カドゥケウス》!!」


仲間達の前に盾を展開して守り、アルベルト自身はその空気弾を《エクスピアティオ》を一閃させる事で斬り裂く。咄嗟とはいえ、我ながら今の斬撃は会心の出来栄えだったと自画自賛してしまいそうになった。


「風をも斬り裂く剣……本当に、何処までもあの人の影ね!」


アーサーと同じやり方らしいが、セシルはそれが気に食わないのか執拗にアルベルトへ攻撃を仕掛け始める。だが此方からすれば、アルベルトが自分の防御と回避に気を遣えば良いのだから寧ろ好都合だ。


「影か……ちょっと訂正させて貰うぜ?俺はアーサーの影で終わるつもりはない。必ず超えてやる!!」


「ほざくな!」


怒りを煽ってしまったのか、セシルの攻撃は更に苛烈さを増してアルベルトに襲い掛かる。流石に全てを斬り裂くとは行かず、決して浅くはない傷を各所に刻む事になった。


「《ヴァジュラ》!!」


「!?」


距離を詰められたそのタイミングを読み誤らず、アルベルトはリンドヴルムの風を解き放つ。回避出来ない距離で攻撃を仕掛け、パワーで勝る聖四郎が槍の回転に巻き込む形でセシルを後方へと吹き飛ばした。


「そういう事……アーサーを超えるというのは冗談ではなさそうね。でも、本気なら尚の事許せないわ!」


再び向かって来るかと思いきや、セシルはある方向を目指して飛び始める。その行き先を見てフレイヤが悲鳴をあげた。


「いけない!あの方角には《ラグナロク》を保管している神殿が!」


「何!?」


慌ててリンドヴルムを召喚し、アルベルトは聖四郎とセーラを乗せて加速する。ルキナは傍らを滑る様に飛んで追走するがセシルは一足早く神殿へと飛び込んで行った。


「くそっ!ちょっと待ちやがれってんだ!」


祭壇に突き立てられた剣を前に降り立ったセシルを呼び止めようとアルベルトは声を張り上げた。


「セシル!お前、その剣が何を意味しているか分かっているのか!?」


「ええ、よく知っているわよ。この剣は元々私が使う為に作られた剣だから」


《ラグナロク》を祭壇から抜き取り、セシルは皮肉めいた微笑を浮かべた。


「かつて魔王アムドゥシアスを倒す為にアーサーは戦った……これは貴方達も知っての通り。けどその為の武器を作るよう神々から依頼を請けた《古竜エンシェント》が作った武器は彼等の望む物ではなかったの」


「それって《エクスピアティオ》の事か?」


少しでも話を長引かせ、隙を探らなくてはと瞬時に頭を切り替えたアルベルトは注意深く問いかけた。


「正確には《エクスピアティオ》と《ベカトゥム》ね。《古竜》達は《エクスピアティオ》を神と人の混血であるアーサーに、そして《ベカトゥム》を善の心を持つ魔族にしか使えないように枷をつけたのよ。でも当時の神々は魔族を全て滅ぼすべしという意見が主流だったから、魔族との共闘を前提としたその剣を厭う声が大半。結果神々が独自に作り上げた《ラグナロク》は魔王どころか《逆十字世界》そのものを破壊しかねない物となってしまった……そしてその剣を担うのは神託を受けた《戦乙女ヴァルキリー》の役目」


「な、何なんだよそれ……」


余りにも無茶苦茶な話にアルベルトは思わず絶句してしまう。言葉にこそ出さないが、セーラ達も同様にショックを受けているらしかった。


「最も残酷な存在が創造主だ……ってのは結構ある話よ?納得して貰えたかしら」


「ああ……絶対にその剣を憎しみのままに振るわせたら駄目だって事はな!」


ジリジリと間合いを詰めていたセーラが先陣を切って飛び出し、聖四郎が後に続く。しかしセシルは抜き放った《ラグナロク》を一閃させ、その一撃で2人を纏めて壁に叩き付けた。


「あぐっ!?」


「ぐああああああ!!」


セーラと聖四郎が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。しかし本来なら世界を滅ぼす程の力を持っている筈の《ラグナロク》の力は本当にこの程度なのかとアルベルトは疑問を覚えていた。


「これからどんどん力を上げていくわ。アーサー以外の《勇者》なんて全て紛い物よ!」


「どうだろうな。何しろ俺はそのアーサーに会った事がないんだし」


セーラ達が体勢を立て直す時間を稼ぐ為に斬りかかり、ルキナもそれに合わせて剣を振るう。セーラや小春と比べると付き合いは浅いが、それでもルキナがどう動くのか・自分がどう動けば良いのかが理屈ではなく肌で感じ取れる事がアルベルトに確かな高揚と力を与えてくれた。


「サラマンダー頼む!」


(おうよ!!)


背後に召喚されたサラマンダーの炎をセシルがかわし、アルベルトはその炎を《レーヴァテイン》で吸収しながら走る。その動きに呼応するようにルキナも《ベカトゥム》を構えた。


「極限まで研ぎ澄まされた一撃は時として神をも屠る……!ヴァルナー!!」


《ベカトゥム》の周囲が歪み、一閃と共にセシルがいる空間を次元ごと斬り裂く。流石にこれは回避出来ずに血をしぶかせるセシル目掛けてアルベルトも《エクスピアティオ》を正眼に構えて走った。


「っ!?な、何だ?」


ピキピキと音を立てる右手。いや、正確には彼の右手を封じている筈の腕輪だった。それが徐々に罅を広げ、ついに砕け散った。


「うわああああああああああああああああ!?」


「アル!?どうしたのじゃアル!」


右手から吹き上がる力。それは七帝竜とは違う、アルベルト自身を戒めていた物にも思えた。


(この力……なるほどな、貴様の力で我等を抑え込める訳だ)


納得したようなバハムートの言葉にも反応する暇が無い。アルベルトは自分の中で荒れ狂う力を制御しようと必死になっていたのだから当然であるが。


「まさか!?太陽神アポロ様のご子息は1人ではなかった……?」


追いついてきた女神達のうち、フレイヤが驚愕の声をあげた。だがその言葉でアルベルトの心に1つ思い当たる事があった。


(太陽……?俺にその力があると言うのなら!)


アルベルトはルキナを振り返った。


「ルキナ!力を貸してくれ!!」


「無論じゃ!妾は何をすれば良い?」


「今から俺の中で暴れている力を《エクスピアティオ》に注ぎ込む!そいつに《ベカトゥム》を干渉させて相殺するんだ」


「心得た!」


自分の何処にこれだけの力が眠っていたのかとアルベルトは他人事のように感心してしまう。氾濫する大河を髣髴とさせる力の波動は留まる事を知らぬかのように神剣へと流れ込んでいくが、それを黙って見ている程セシルも人が好くはなかった。


「戦場で棒立ちになるとは余裕ね!」


「しま……っ!?」


ルキナのフォローも間に合わないスピードでセシルの攻撃がアルベルトを捉えようとしたその矢先。聖四郎の槍とセーラの剣が同時にその突撃を押し止めていた。


「これ以上はやらせないわよ!」


「某の炎、未だ燃え尽きる事を知らず!《戦乙女》セシル殿、相手に取って不足無しでござる!!」


聖四郎が炸裂させる炎の爆風に乗り、セーラは更に加速してセシルに斬りかかる。近接戦闘に慣れているアルベルトの目ですら赤い閃光としか思えない程の勢いで飛び回り撹乱していくその姿は、セシルの気を逸らしアルベルトにとって十分な時間を稼いでくれていた。


「行くぞアル!」


「来いルキナ!」


《エクスピアティオ》と《ベカトゥム》が交差し、互いの力を共鳴させる。その瞬間アルベルトの脳裏に何かの映像が過った。








(済まないレベッカ。恐らくこの子には七帝竜だけでなく、大きな宿命を背負わせる事になる)


大きく膨らんだ腹部を愛しげに撫でるレベッカに、アルベルトの記憶と比べると幾分若いテオが複雑そうな顔でそう告げた。


(大丈夫よ。貴方に似てきっと強い子に育つわ)


(俺としては君に似て、皆に好かれる優しい子に育って欲しいが……その宿命を思えば強さこそ必要か)


レベッカは腹部を撫でる手を止め、テオの頬に触れた。


(案外どっちも持ってくれるかもしれないわね。1人で出来る事には限りがあるけど、1人が寂しければ2人で手を繋いで、それでも足りなければ皆で輪になって手を繋げるそんな子に)


(そうあって欲しいな。1人で持ちきれない荷物も誰かが支えてくれれば持てる、それが人間の持つ強さだと最近学べたよ)


(あら、貴方も転生した以上は人間じゃないの?)


(おっと、これは1本取られたな)


その意味が分かるよりも先にアルベルトの意識は閃光に引き戻された。







「アル!準備は良いな!?」


「何時でも!」


《ベカトゥム》の刀身が《エクスピアティオ》から溢れる力の奔流を受け止め、共鳴しあう事で更に増幅していく。


「よく見ておれ《戦乙女》よ!これがそなたとアーサーが手に取らなかった、人と魔族が力を合わせるという手段が齎した結果じゃ!!」


もう離れないとばかりに寄り添う2本の神剣と反神剣、アルベルトとルキナの身長差だと少し振り辛いが気にせず振り被った。


「悪いな。あんたの気持ち、俺には理解出来ないし通してやる事も出来ないんだ」


セシルに散々言われた事ではあるが、確かに世界から裏切られて悲運のままに死んだ男の気持ちもその宿命に翻弄されて散った女の気持ちもアルベルトには分からなかった。


「それでも……!何かを守らなくちゃならないなら、俺は今と未来を守る!!」


2つの力が1つとなり、大いなる奔流となってセシルを飲み込む。その流れに乗り、セーラが《アスカロン》を刺突の構えで持ちながら飛んだ。


「貴女の考えは共感出来る部分が多いし、同じ立場なら私だってそうするわ。でも私は貴女じゃないし、アーサーはアルじゃない」


余りにもシンプルだが、セーラにとってはそういう考えであった。


「だから止めると言うの!?何も喪っていない、何者にも裏切られていない貴方達が!」


「止めるさ!あんたの好きにさせていたら、この世界でどれだけの人間がかつてのあんた以上に苦しむと思ってるんだ!?」


「それの何が悪いのよ!この世界で今生きてるのは貴方達も含めて皆、アーサーの犠牲を当然として生きている寄生虫でしょう!?」


「かもしれないわね」


刺突を防がれるも、セーラは満身創痍になりながら反撃を繰り返すセシルの攻撃を盾で受け流しながら返した。


「ならアーサーは言ったの?《勇者》として戦った報酬、或いは賞賛を寄越せと」


「言う訳がないわ!アーサーは誰よりも優しく、そして強かった……それを分かろうともしなかったのは周囲の人間達よ!」


「言わなきゃ伝わらないわよ。褒めてくれなんて言う必要はなかったかもしれないけど、『力を貸してくれ』位は言うべきだったわね」


セーラは全身に魔力を行き渡らせ、今までを遥かに超えた加速を行おうとしていた。


「何も言わなくても通じる間柄になるのは理想だけど、全ての存在とそうなってしまったら何の為の言葉?アルは私達に協力を求め、共に戦う事を頼んだ。だから私達は彼の望みと理想を実現する為に戦える!」


溜め込んだ魔力が炸裂し、セーラは光の矢となって空を駆ける。次元を屈折させたかの如く繰り出される10の連撃が、同時に聖四郎の炎で足を止められたセシルを捉えた。


「振るわれし斬撃は咲き誇る薔薇の如く!」


神速の速さで繰り出された技は抗う間を与えずにセシルを捉え、ついに狂える《戦乙女》の背中を地につけた。










右手で《エクスピアティオ》を構えたアルベルトが静かに倒れたセシルの首筋に剣を当てた。幾らダメージを受けても、神の加護を受けた《戦乙女》を殺せるのは神剣による一撃のみと聞いていたからだ。


「何処までもあの人と同じ目をするのね。いいわ、やりなさい」


セシルは微笑みながらもアルベルトを皮肉気に見上げた。


「そうね、最期に1つ貴方に呪いをあげるわ」


「呪いだと?」


セシルは笑みを浮かべたままアルベルトの目を見つめた。


「何で貴方が気に入らなかったか、ようやく分かったのよ。かつてアーサーも同じ様に《エクスピアティオ》を父親から受け継いだわ……父親の名前はテオ」


「!?」


それは自分の父親と同じ名前で、アルベルトを動揺させるには十分過ぎた。


「気付いたかしら。貴方の父親とアーサーの父親は同一人物、母親こそ違えどアーサーは貴方の兄よ」


「ちょっと待ってくれ!あんたがアーサーと共に戦ったのは100年前だろ?それがどうして腹違いの兄弟になるんだ!?」


「それは私から説明しますわ」


振り返ると、女神フレイヤが弓を携えてゆっくりと歩いてきた所だった。


「まずはこの《ヴァルハラ》を守ってくれた事に最上の感謝を。そして真実をお話します」


「……」


「待って。その前にとどめを刺して貰える?もう回復魔法を使う力も残ってないし、このまま文字通りの生殺しは辛いから」


アルベルトは思わず「誰の所為で悩んでると思ってるんだ」と言いそうになるが、寸でのところで何とか思いとどまった。


「あの世でアーサーと仲良くな」


「どうかしらね。私は確実に地獄へ墜ちるでしょうし」


アルベルトは微苦笑し、セシルの胸目掛けて《エクスピアティオ》を突き刺した。一瞬の光輝の後、塵のように崩れて消えて行くのを見送ったアルベルトは残された《ラグナロク》を拾い上げた。


「この剣はどうする?また封印するのか?」


「その事も含めてお話します。ではこちらへ」


アルベルトはセーラ達にも目配せし、フレイヤの後をついて歩いて行った。









途中でリリィ達とも合流し、アルベルト達はフレイヤの神殿へと来ていた。


「まずはそうですね……貴方がテオと呼ぶ父親について説明しましょう」


「頼む」


何が来ても驚くつもりはないが、それでも平静ではいられまい。そう感じたのか隣に座ったセーラがそっとアルベルトの手を握ってきた。


「まずテオというのは仮の名。本来の名は太陽神アポロ……人間のテオはアポロ様が人間として転生した姿の名なのです」


「……」


予想以上の爆弾が飛び出し、アルベルトは思わず呼吸が止まるのを感じた。


「本来私達神々の役割は下界を見守り、いざという時には手を貸す事……しかしアポロ様はある時、人間という種そのものを愛してしまわれました。もっと近くで人間と共に生きてみたいという欲求を抑えられなくなったアポロ様はある時自ら転生して人間に生まれ変わり、人間の社会に溶け込んで生きて行く事を選んだのです」


フレイヤは昔を懐かしむように目を細めた。


「そして1人の女性と出会い、今度は彼女個人を愛するようになり生まれたのがアーサーです。しかし神の血を引いて生まれたという事実は、彼に魔王アムドゥシアスの討伐という宿命を背負わせる事になりました。その顛末は貴方達も知っての通りです」


「……その時親父はどうしてたんだ?」


「神と言えど転生してしまえば人間と変わりありません。何も出来ないまま、失意のまま一度目の生を終えました」


フレイヤは目を伏せ、一瞬だけ瞑目した後再び話し始めた。


「そして二度目、アポロ様は自らに新たな機会をと再び転生しました。しかしここでも愛した女性と息子のどちらかを救えないという、人間の限界を思い知らされたのです」


「その息子が、俺……」


フレイヤは頷き、アルベルトの手を握るセーラの力が一層強くなった。


「なら俺の腕輪は何だったんだ?最初は七帝竜を封じる為の腕輪かと思っていたが、現に腕輪が壊れた後でもまだ配下になっていないバハムートとアレキサンダーはずっと大人しくしているんだが」


「その腕輪は本来、貴方に半分流れる神の血を封じる物です。絶対神オーディン様と唯一互角の力を持った太陽神の力ですから、半分でも人間の肉体には強過ぎます」


「んなぁ!?だとしたらアルベルト殿、今の貴殿は……!」


聖四郎が慌てるが、当のアルベルトは暢気なものであった。


「それが意外と落ち着いてるんだ。さっき《エクスピアティオ》に出来るだけ流し込んだ所為か?」


「それもありますが、無限竜と守護竜の2体が力を抑制しているようですね。召喚に応じずとも貴方を認めているようです」


(女神。いらん事を抜かすのはやめて貰おうか)


バハムートの不機嫌な声が響きアルベルト達は思わず噴き出した。


「うふふ、ごめんなさいね」


(全く……まあいい。小僧の持つ太陽神の力が今後何某かの役に立つのは確かなのでな。それまでに死なれては困る)


「ま、感謝しとくぜ」


(ふん……)


照れているのか不貞腐れているのかは微妙だが、バハムートはそれ以上口を開く事はなかった。


「それで、俺は今後どうすれば良いんだ?俺としては今のまま《エクスカリバー》と《逆十字聖騎士団》を率いて世界を変える夢を追いたいんだが」


「お好きに。半分神の血が流れるとはいえ、貴方は人として生を受けて生きているのです。《ヴァルハラ》の民にその行動を縛る権利はありません」


アルベルトは軽く頷き、自分の右手をそっと握った。ようやく自分の意思で動くようになった右手を。


「じゃあ《ラグナロク》はどうするんですか?聞けば結構ヤバい剣みたいですけど」


リリィの疑問にフレイヤは困ったように笑った。


「それなんですけどね。この剣は今の《戦乙女》に力を貸したいと言っています」


「ってーと、セーラ?」


「ええっ!?」


セーラは驚くが、フレイヤは頷いた。


「はい。というよりは今から神託を授け、《戦乙女》となって貰うという状態ですが」


「あのセシルの末路を見た上で《戦乙女》になれとか、あんた等も相当な鬼畜だなおい……!」


流石に気分を害してアルベルトが唸るが、フレイヤは微苦笑するに留めた。


「そうですね。ですからこれは貴女の裁量に委ねます。どうしますか?」


「……」


セーラはしばし目を閉じて考え込んでいた。アルベルトの手を握ったままだった手が微かに震えたのが分かり、アルベルトは思わず手を握り返していた。


「……なります。《戦乙女》に」


「分かりました。では此方へ」


奥の祭壇にセーラを立たせ、フレイヤは両手を拡げた。


「母なる海、父なる天、慈しむべき命よ。この者に白き翼と誇りある剣を捧げん……」


セーラの元々持っていた力なのか、或いは新たに授けられた力なのかは分からない。だがアルベルト達は今までとは全く違うセーラの放つオーラに圧倒されていた。


「セーラ・アスリーヌ、女神フレイヤの名に置いてそなたに《戦乙女》の剣と鎧を授けましょう」


「ありがとうございます」


セーラの纏っていた鎧と衣服が下着諸共光と共に消え(この時点で聖四郎とリリィが鼻血を噴き出したが、後始末はケーナと菊千代に任せておく事にした)、真紅の装甲と質素でありながら確かな気品と美しさを感じさせるドレスを新たに纏う。そしてその背中からは優美な白い光の翼が広がり、フレイヤは微笑んで鞘に納められた《ラグナロク》をセーラに差し出した。


「新たなる《戦乙女》よ。貴女と《勇者》の進む道に大いなる未来と幸いがあらん事を」


深く頷いて祭壇を降りるセーラを、アルベルトは小走りに迎えに行った。











           続く

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