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魔女は竜と謳う  作者: Fe
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第六十三楽章 死の刃

アルベルト達が残る10階のフロアを攻略にかかった頃、セーラは町外れで1人剣を振るっていた。


「私達に足りなかったのは、防御力……」


速さではセーラが勝っていた。火力と支援は小春がいた。バレリアとマオも前衛を務める仲間としては申し分なかった。にも関わらず彼女達は敗北したのだ。何故か、それは偏に彼女達には絶対的に防御に関連したスキルが足りていなかったからである。


「まああのリセルが私達の想像を越えた火力を持っていたというのもあるんだけど、私の盾で防げないというのは即ち私の魔力が足りていないという事よね」


そもそもが亜竜を相手に人間であるセーラが魔力、即ち力比べを挑むというのは無茶以外の何者でもない。しかしパーティの前衛でありアルベルトの騎士たる彼女に取ってそれは死活問題であった。


「私にはアルのような盾もなければ、タダカツのような鎧もない。コハルが作ってくれる《楯無》はコハルの魔力に全依存しているし……」


剣を下ろし、手近な岩に座って考え込む。常に攻撃を持ち前の敏捷さでもってかわしてきたセーラにとって、『分かっていても避けられない攻撃』というのは未知のものであった。リセルと戦った時、その全方位から迫る攻撃によって彼女はその恐ろしさを嫌と言う程実感したのだ。


「……今から鍛えても間に合わないわよね?」


一瞬頭に過ったのは、巌の如く全ての攻撃を無傷で受けきる忠勝の姿だ。だが自分があのような姿になった有様を想像し、セーラは一瞬で死にたくなった。


(やめよう、アルを抱き締めただけで殺しかけるような体になるのは流石に嫌過ぎるわ……)


コロリと音を立て、例の髑髏が転がる。それを目にし、セーラはふと黙考した。


「コハル達には悪いけど、やっぱり1度セントラルに戻るべきかしらね。この髑髏が見た記憶から《戦乙女ヴァルキリー》の謎を探れば私の鎧も」


「何が悪いの?」


「○×#%&#*><。!?」


唐突に後ろから声をかけられ、セーラは彼女らしからぬ素っ頓狂な声にもならない悲鳴をあげて飛び上がった。


「あ、ご、ごめんなさいセーラ。そんなに驚くとは思わなかったから」


「い、良いのよコハル。考え事に没頭してた私が悪かったわ……」


胸を押さえて呼吸を整えつつ、済まなそうな顔をする小春に振り返った。


「それで、何か考え事?」


「まあね。この間、地下19階で戦った相手……覚えてる?」


「うん……私達が束になっても敵わなかった亜竜の女の子よね。アルが突破したって」


「そう。私達とアル達のパーティは攻撃力という点において大きな違いはない、では何処で差がついたのか考えると防御力しかなかったのよ」


小春も納得したように頷いた。


「そうね。話に聞いたアルの《カドゥケウス》に匹敵する防御力は私達にはなく、避けられない攻撃を防げない時点で私達には致命的な弱点となる……」


「それ。それを何とかするのにこの髑髏が役に立たないか、そう思ったの」


髑髏に纏わる話を掻い摘んで説明すると、小春は難しい顔で髑髏を手に取った。


「っ!?」


「コハル!?」


まるで熱い物に触れたように髑髏を放り出す小春に、セーラも慌ててそれを受け止めた。


「どうしたの?」


「分からないけど、物凄い怒りと憎しみ……そして悲哀……この髑髏はずっと何かを憎み続けてるわ」


「……」


セーラは考える。もし自分が予測した通り、この髑髏が悲劇に沈んだ《戦乙女》セシルであるならばその憎悪も悲哀も当然のものだ。セーラ自身、アルベルトが同じ様に悲劇の中で散れば同じ様に世界の全てを憎み破壊しつくす事を望むのだから。


「やっぱり私、この髑髏の体を探すわ。多分だけど……きっと私は呼ばれているから」


「その時は私にも一枚噛ませてね?」


無論アルベルトに一言連絡は必要だろうが、セーラも力を求め動き始める事に決めていた。










「疲れた……!」


宿屋ではなく《エクスカリバー》の執務室でアルベルトは机に突っ伏していた。あの後地下22階まで降りた彼等だったが、次の階層への階段を包む障壁の前に断念せざるを得なかったのだ。


「あれを斬る為には技を更に磨かないとな」


「その前に此方の処理が先です」


アルベルトは学生であると同時に《逆十字聖騎士団》の長でもある。こういった書類仕事でも彼の決済がないと動かない事も多々ある為、週末はこうして仕事に勤しむのであった。


「それでコルトン。上がってる陳述って何だ?」


「簡単に言えば交通網の整備です。現在はドワーフが各区画を繋ぐトロッコで賄っておりますが、引っ越して来る者や観光客も増えましたのでトロッコだけでは回らなくなっておりますぞ」


「……」


徒歩で回りきれる規模ではない以上、乗合馬車のような物も必要になるらしい。


「仮にだコルトン、この《エクスカリバー》で乗合馬車を走らせるのは無理か?」


「相当な予算が飛びますな。御者というのはとりあえず馬を走らせる事が出来れば良いというものではありませんし、馬にしても育て訓練するのにも金がかかります」


「じゃあ却下と」


馬車はアウト。となるとアルベルトは悩みながらも机に頬杖をついた。


「アル、今良い?」


扉を開けて入ってきたのはナオだった。


「あ、丁度良いや。ナオにも相談しよう」


ナオは軽く頷き、自分が持って来た『《エクスカリバー》の二番艦建造計画』を一旦脇に置いて話を聞く姿勢を見せた。


「……つまり、今のままだとトロッコだけじゃ交通網が回らないって事?」


「らしい。まあ実際こうやって収支のレポートを見ても、観光で入ってくる人間が落とす額って結構なもんになってるしな」


「うーん……トロッコの本数を増やしても本末転倒よね。線路が増える訳じゃなし、寧ろコスト面で辛いし」


コルトンも加わり3人で悩んでいた時だった。


「……じゃあさ、リザードマンで暇を持て余してる奴等に馬車引かせてみるか?」


「……おおう」


思わずナオも拳で掌を叩いていた。確かにリザードマン達は戦闘以外で特に仕事をしている訳ではなく、かといってドワーフやエルフのような特殊技能で何かを手伝えるという訳でもない為現在では暇を持て余す者多数であった。


「リザードマンが引く車に乗って《エクスカリバー》の中を回れるとあれば話題にもなるし、すぐにバズバを呼んでくれ!」


「心得ました」


コルトンが頷いて退出し、アルベルトは企画を具体的なものにすべく紙とペンを取り出した。








「人を乗せた荷車を引け、という事か?」


「そうそう。リザードマンで暇を持て余して体力の有り余った奴等を何人か借りたいんだ」


「それを言い出したら全員がそうだが……」


苦笑気味のバズバだが、自分の同族が無駄飯喰らいになっている事には忸怩たるものがあったらしい。


「かくなる上は我々の尻尾を切り取って肉として提出しようかと思ったくらいでな。渡りに船という奴だ」


「いやそれはどうよ」


「む?リザードマンにとって自分の尻尾というのは何日も獲物が獲れず、飢えた時には非常食ともなるのだぞ。切れてもまた生えてくるしな」


「……」


一瞬でも興味が沸いてしまった自分が憎い。アルベルトはそんな感情を空の彼方へふっ飛ばしながら企画書に目を通し直した。


「じゃあバズバとしては問題なしと」


「うむ。後は我等の膂力に耐えうるだけの車があれば良いのだが」


「それなら私達ドワーフ班が既に設計・製造に着手しています。夕方にはざっと90台が揃いますよ」


自信ありげにナオが微笑んだ。


「如何にリザードマンの力が強大であれど、私の設計に狂いはありません。全力疾走にだって耐えてくれます」


「ほう、それは楽しみだ」


「いやバズバ、お前も引き手をやる気かよ」


やる気を見せるバズバに苦笑しつつ、アルベルトはどうなるかを楽しみに考えていた。









しかしアルベルトは忘れていた。彼等リザードマンに同族内以外のルールを守らせる事がどれ程困難かを……。








「退け退け退けえええええええ!!」


「あ、エルフ区画ってどっちだ?」


「誰か止めてく……ぎゃああああああああああああああああ!?」


夕方。轟音と雄叫びと悲鳴と間の抜けた声が響き渡るなか、アルベルトとコルトンは揃って頭を抱えていた。理由は簡単である。ナオ達ドワーフが開発した車を引っ張り移動する訓練を行っていたのだが、引き手を持つや否や暴走する者や方向が分かっていない者、挙句操作を忘れて激突する者と実に混沌とした様子を見せていた為であった。


「こいつらどんだけ自由なんだよ……」


そもそもリザードマンという種族は、自分達の群れの規律には厳しい。しかしそれも精々が『自分が獲った訳ではない獲物を勝手に食わない』『脱皮の際に温泉に浸かるのは年上から』という程度のもので、人間が守る法律のような類は本能任せに生きる彼等にとって不要な物でしかなかった。一応アルベルトの事は《逆十字聖騎士団》という群れのボスという認識らしいので指示には従ってくれるが、ある程度の方向性を示唆して後は自分でやれとなるとこの有様である。


「済まん。我等のほうで出来る限り統率は取るが……」


「望み薄、か」


リザードマン達の間で通用するバズバのカリスマは信頼しているが、彼がいなくても機能する集団にするとなるとまた難題であった。


「何となくバレリアがあれだけ自由な理由が分かった気がした」


「言葉もない」


最終的にこの案件は、バズバが「一日の間に1番大勢の人間を運んだ者には肉を牛1頭分進呈する」と宣言した事で全員がやる気を出したので何とかなった。








日が暮れ、夕食を終えたアルベルトは軽く聖四郎か元信辺りと仕合おうかと考えながら《エクスカリバー》の通路を歩いていた。


「……って何やってんだお前等!?」


格納庫へ行くと、聖四郎と元信が人間やエルフの子供達を満載に乗せた車を引っ張りながら走っているところだった。


「おお、アルベルト殿!バズバ殿達が面白い修練をしていると聞き、某達も是非にとやってみているところでござる」


「車だけでは物足りないが、こうして乗れるだけ人を乗せると中々に良き負荷となる。うむ……これは良い!」


「脳筋め……!」


思わず怒鳴りたくなるが、喜色満面で大騒ぎしている子供達(アルベルトも十分まだ子供の年齢だが)を見ていると怒るのも馬鹿らしくなる。結局文句を言うのはやめにし、邪魔をしないようそっと離れた。


「あ、アル」


「どうしたナオ?例の二番艦なら承認した筈だが」


今のまま発展すれば、《逆十字聖騎士団》の領土は《エクスカリバー》だけでは手狭になる。そう考えたナオは予てより考えていた「魔導戦艦による艦隊を編成する」事を考えていた。


「そこは良いのよ。既に二番艦だけでなく駆逐艦や重巡洋艦、軽巡洋艦も建造に入っているから」


「何処から持ち出したんだよそれだけの資源……」


「故郷の山はそれだけ優秀なの。それにミスティがこういった金属資源の練成理論を確立してくれたお陰で、その辺の岩を練成して素材にする事も可能になっているからね」


ぶかぶかの白衣のままガッツポーズを取るナオの頭を撫でつつ、アルベルトは雄叫びを上げて爆走する聖四郎と元信を眺めた。


「しかしナオ、この《エクスカリバー》だけでもかなりの戦力だ。これ以上の艦隊を作るとなると、他の国を刺激しやしないか?」


「この艦は前線基地であると同時に本丸よ。確かに強力だけど、この艦が撃沈される事態だけは何としても避けなくちゃいけないわ。だからこそ国土とは関係のない国防の為の力が必要になる……そういう事」


そう言われてしまうとアルベルトとしても納得するしかない。


「まあこういう機械関連に関してはナオに一任するさ。頼りにしてるぜ?俺の工学参謀さん」


「へぅ……」


ナオは褒められ慣れていないのか、人差し指を擦り合わせながら元々小さい体躯を更に縮こまらせてしまう。


「にしても普段から世話になりっぱなしだし、何かお礼しないとな。何か欲しい物とかあるか?」


「ふぇ!?え、あ、えっと……今夜アルの部屋、行ってもいい?」


「ん?別に良いぞ」


因みにこの時点でアルベルトとナオの認識には天と地程の開きがあった事は言うまでもない。アルベルトにとってナオはまだ可愛い妹のノリなのである。


「本当!?じゃあ、ちゃんと綺麗にしてから行くね」


「あ、ああ。泊まる位でそこまで気合入れんでも……危ねえ!」


咄嗟にアルベルトはナオを抱えてその場から飛び退る。さっきまで2人が立っていた場所には数本のナイフが突き刺さっていた。


「ちっ……仕損じた!」


姿を現したのはアルベルトより少し歳下くらいの少女だった。しかし黒ずくめに覆面と非常に怪しい風体である。


「アサシンって奴か?一撃で仕留められずに気取られた挙句、姿を晒すとはとんだ三流女だな」


「抜かせ!我が主の御為、アルベルト・クラウゼン……此処で死ね!!」


両手に小刀を構え、少女は凄まじいスピードでアルベルトに襲い掛かる。殆ど直感でかわし、アルベルトは腕を軽く斬られながらも何とか体勢を立て直そうとするが続く追撃がそれを許さない。


「わぁっと!ちょっと待てせめてナオだけでも逃がさせろ!」


「不要だ。そのドワーフを抱える事で貴様の動きが鈍るなら好都合!」


アルベルトは軽く舌打ちするが、その顔に焦りはない。ナオを抱えている為に剣を抜けない状態であっても彼は余裕だった。何故なら……。


「某達の前でアルベルト殿を害そうとは何たる度胸、この真田聖四郎が全力で成敗致す!!」


「今の私が仕える主君への暴挙は断じて許さん!!」


聖四郎の炎を纏った槍の豪撃、そして元信の風を纏った連打が次々と叩き込まれて少女は慌てて回避に専念し始めた。この身のこなしは大したものだと他人事のように感心してしまう。聖四郎達の援護が遅れたのは、子供達を逃がす為に一旦その場を離れた為である。アルベルトとしても子供を無視してこっちに来ていたら怒っていたので、全く問題はない。


「流石に分が悪い……!引き上げ」


「忠勝!!」


「!!」


元信の声でゴーレムに混じって休眠状態に入っていた忠勝が目を覚まし、天井目掛けて跳ぼうとした少女に《蜻蛉切》を叩き付けた。


「えええええええええ!?」


流石に跳んでいる最中では回避も出来ず、少女は背中を打ち据えられて昏倒した。忠勝も流石に手加減はしたらしく、骨折はしていないらしいのは幸いだった。


「それでアルベルト殿、大事はなかったでござるか?」


「ああ。ナオは怪我してないよな?」


「私じゃなくてアルでしょ!?腕見せて!」


上着を脱がせ、ナオは青褪めた顔で血の滲んだ二の腕を見つめる。


「私の所為、よね……」


「何でそうなるんだ?この傷をつけたのはそこで泡噴いて、余り男に見せられるような顔じゃなくなってるどっかのアサシンで……ッ!?」


因みに元信が覆面を剥ぎ取ると、素の顔は美少女と呼べるものだった。ナオはそんな事には構わず、アルベルトの傷に口をつける。舐めれば治るなどと犬みたいな事を信じている訳ではないが、彼女なりの償いとも言えた。


「とりあえずこいつはメロディアに引き渡すか」


「あいつ等女相手の尋問も出来るのかよ」


「女同士だから、女の弱いところも全部知り尽くしている。口を割らせるのは男を相手にするより楽……だそうだぞ」


微妙に疲れた様子の元信に何も言えず、アルベルトは何も言わずに傷から口を離さないナオをどうしたもんかとしばし悩んだ。因みに聖四郎は全く意味が分かっていなかった。


「ちょーっとそいつは困るなぁ」


『!?』


気を失った少女が一瞬にして消え、彼女を荷物のように担ぎ上げた黒ずくめの男が空調管理用のパイプに立っていた。


「まずは家の若いのが先走った事を陳謝させてくれ。《中央》に本部を置くアサシンギルドの一人、黒曜こくよう。俺様も野暮は好きじゃないんだけどさ、こいつまだ経験が浅いのと初めて指名で仕事が来たから張り切り過ぎた訳よ。それでちょーっと見逃してくれないかなーと」


「何!?つまり《中央》にはアルベルト殿を暗殺する動きがあると、そういう事でござるか!」


激昂する聖四郎だが、黒曜と名乗った男ははたはたと手を振ってみせた。


「流石にそれは喋れないわ。こっちにも職務上の義務とかプライドとかあるし……でも今回の依頼、報酬は良いんだけどどうにも私怨臭いんだよなぁ。団長さん、これは独り言なんだけど最近誰かに恨みでも買わなきゃ来ないような依頼なんだよなぁ……それこそどっかのドラ息子に喧嘩売ったとかさぁ……」


「……」


そういえばそんな心当たりがなくもない……気がした。


「という訳で。家の大将からすると、あんた達《逆十字聖騎士団》が他の種族と仲良くやってどんどん勢力拡大してくれると異種族のお客が増えると期待してるんだ。なので今回みたいな暗殺は来ても請け負うなというお達し」


「にも関わらずこいつは来た。その落とし前はどうつける気だ?」


元信の台詞に黒曜は「むぅ」と唸り声をあげた。


「一応俺様達は諜報も仕事だから、《逆十字聖騎士団》の内面も多少なり通じてるんだが……お宅等の諜報部ってめっちゃ優秀なのね。これじゃ家の職員を何人か派遣して働かせるから許してとは言えないし……」


「まあ、人を手玉に取る事にかけちゃ百戦錬磨の連中だからな……」


アルベルトは若干苦笑しつつ答えた。


「だからと言ったらアレだけど、家の大将をそっちに訪問させて直接侘びを入れさせては貰えないか?こういうのってやっぱりカシラが頭を下げないとどうにもならんし」


「構わないが、あんたの一存で決めていいのか?」


「大丈夫大丈夫。大将からこの馬鹿を止めるのに全権預かってるから、俺様の判断は即ち大将が自分で判断したのと同じって言われてるんだ。だから三日以内に必ず大将がそっちに侘びを入れに行くんで、この場は何も言わずに見逃してくれないか?つか見逃して下さいお願いします」


パイプから飛び降り、担いでいた少女を脇に転がしてから土下座の姿勢に移る黒曜にアルベルトは怒る気も失せてしまうのが分かった。


(つーか此処最近土下座される事多くないか俺?)


そんな事を考えつつ、アルベルトはふと過った疑問を片付ける事にした。


「じゃあ黒曜、俺からの質問に1つ答えてくれたら今回の事は不問としておく」


「何が知りたい?」


「俺の暗殺を依頼したのが、俺が思っている奴と同一ならそいつは今頃謹慎されている筈なんだ。それがどうしてお前達に暗殺の依頼を出せる?」


「あ、そういう事」


黒曜は納得したように頷き、姿勢を正して咳払いした。


「家のギルドは伝書鳩なり子飼いのお使いなり使って依頼をしたい旨を報せてくれたら、後はこっちの職員が直接依頼者の家にお邪魔して詳しい話を聞くシステムになってるんだ。だから謹慎中だろうが入院中だろうが、相手が死体でもない限りは随時依頼を請け負えるって訳」


「なるほどな。よく分かった、帰っていいぜ。2人ともな」


「助かる!家の大将には必ず訪問させるんで、その時はよろしく!」


その言葉を最後に姿を消す黒曜と少女を見送り、アルベルトは左腕を抱き締めたまま俯くナオを見下ろした。


「アルベルト殿、この後はどうするでござるか?」


「とりあえず小春に治療を頼んだらコルトンに事の次第を報告して、後は風呂入って寝る」


そう言うと、ナオが静かに腕を放したので軽くもう一回頭を撫でてやる。


「ふえ?」


「寝ないで待っててやる。気持ちが落ち着いたら来い」


そう言って格納庫を立ち去る途中、「破廉恥でござるうううううううううう!!」という聖四郎の絶叫と鼻血が噴出す音が聞こえたのは……ある意味自明であった。










その後、自室でナオ用に温めた牛乳とマシュマロを用意していると何故か慌てた様子のセーラ達がやって来た。


「どうしたんだ皆?そんな血相変えて。暗殺者ならとっくに追い返したが」


「そっちじゃなくて!」


「違うのかよ!」


セーラにしては珍しい答えに思わずアルベルトも突っ込んでしまう。


「セイシロウが大騒ぎしてたのよ。貴方がナオを部屋に呼んだのが破廉恥だとか」


「あの熱血馬鹿鼻血野郎……!」


アルベルトは軽く肩を竦めるに留めた。内心では翌日聖四郎をぎったぎたにぶちのめす事を決意していたが。


「まあその暗殺者絡みのドサクサで俺が負傷してしまってな。責任感じてるみたいだったから、何とか慰められないかと」


テーブルに置かれた牛乳とマシュマロでセーラ達も事情を察してくれたらしい。一様にほっとした空気が流れていた。


「じゃあ今日はナオを部屋に泊めるの?」


「まあ部屋へ来たいって言ってたしな。それくらいなら別に良いだろ」


何処までもナオを子供扱い(アルベルト達も人の事は言えないが)した言い方にセーラは少しだけ頭が痛くなった。


「アル、1つだけ忠告しておくわ」


「何だ?」


セーラはアルベルトの鼻先に指を突きつけて言った。


「お母様の受け売りだけど、男は生まれてから徐々に男へ育って行く。でも女は生まれた時から既に女よ」


「よく分からんが、分かった」


セーラは「ならよし」とだけ言い、お休みを告げて部屋を後にした。










その後、マシュマロを溶かしたホットミルクを飲んで眠ったナオがアルベルトを抱き枕にして寝たのだが……翌朝自分がアルベルトを抱き締めている事に気付いて珍しく大慌てしたのは余談であった。










             続く

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