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魔女は竜と謳う  作者: Fe
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第五十五楽章 進級と変化

アルベルトと小春が小雪を引き取って育てる事になった。学園に戻った2人からの報告を受けた学園長は思わず頭を抱えていた。


「何かやらかしてくれるとは思っていたがな?国を立ち上げて魔王を倒し、他国の内乱に武力介入した挙句に古代王の墓を暴いてエセ宗教団体を壊滅させただけでは飽き足らず今度は子供を引き取った?随分と派手にやってくれるな」


徐々に規模が小さくなっているのには触れず、学園長は苦笑混じりに顔を上げた。


「分かった。寮の部屋はアルベルトと小春の2人部屋としよう」


『いや、何でそうなりますか!?』


綺麗にハモった。


「何だ、子供を引き取る為に結婚するとかそういう話じゃないのか?」


「俺達はまだそんな歳じゃないですよ!いや確か《中央》の法律じゃ小春は合法でも俺がアウトでしょ!」


「そうです!そりゃ、アルとならいいなとは思いますけど……」


微妙にズレた小春の回答に脱力しつつ、アルベルトは何とか姿勢を立て直した。因みに小雪は校庭で腹ばいになって日向ぼっこをしているリザードマン達によじ登って遊んでいる。吉宗率いるスケルトン軍団を見るなり大泣きした彼女だったが、不思議とバズバやシバを初めとしたリザードマンには懐いていた。


「そうか、つまらんな」


「つまるつまらんの問題じゃないでしょうが!」


因みに《中央》の法律では男は18歳、女は16歳からが結婚が許される年齢とされている。貴族になると10歳にも満たない年齢から婚約者が決められる例も少なくないが、それでもであった。なおセーラにそういう話が出ていないのは単純にルイーゼが話を悉く潰して回ったからなのだが、それは余談である。


「だが子供からしたら、両親が別の部屋で寝起きしているのは寂しいのじゃないか?特にあの年頃は」


「う」


考えてみればアルベルト自身も5歳で母と死別するまでは親子3人で同じベッドで寝ていたのだ。母が死んで以降は父親を憎んでいたのもあり、無理矢理1人で寝起きするようにしていたのだが。


「小春、腹括るか?」


「私は大丈夫」


もう少し警戒しろと声を大にして言いたい。アルベルトとて健全な十代の少年であり、思春期の情動など色々と持て余した身なのだ。小春のように可愛く更には体つきも均整が取れて出る所はしっかり出ている少女と同じ布団で寝て理性を保てる保障等、地面の底を掘り返したって出て来はしない。


「信じてるから」


「……俺もう床で良いよ」


半分位泣きたくなったアルベルトであった。








そんなこんなで始まった3人の奇妙な同居生活。ベッドが苦手だという小春に合わせて布団を敷き、アルベルトの部屋は織江によって《東国》風の装いに変わっていた。


「アルは内装に希望とかないの?」


「住めれば上等。《エクスカリバー》の私室だってろくすっぽ弄ってないし、小春に任せるよ」


実際結構な時間を《エクスカリバー》で過ごしているが、アルベルトの部屋は最初にナオが家具を運び入れてデザインした当時のままだった。特に私物がないのもあるが、そもそも当のアルベルト自身が私物の類を増やそうとしていないのもある。


「そう?でも要望があるなら遠慮なく言ってね。だってほら……一緒に、暮らすんだし……」


「だな……ま、まあ今のところは好きにやってくれ」


意識されるとこっちまで赤くなる。アルベルトは期待と不安と居た堪れなさと申し訳なさと罪悪感でごっちゃになった内心を持て余しながら《エクスピアティオ》を壁に立てかけた。


「おーいアル!小春も!重悟さんから引越し蕎麦預かって来たよ」


織江がノックも無しに入ってきた。


「お前な……ノックせずに開けるなよ。俺か小春が着替えてたらどうする気だ」


その小春や小雪が着替える為のスペースに目隠し用のカーテンを付けながらアルベルトはぼやいた。


「気にしない気にしない。そりゃそうとご相伴に預かっても良い?重悟さんが打った蕎麦って美味しいから是非とも」


「このちゃっかり者……まあいいけどさ。小春は?」


「勿論歓迎するわよ。あ、折角だし皆も呼ぼうかしら」


そう、アルベルトが感じていた物足りなさはこれだった。結局誰も欠ける事なく傍にい続けて欲しい、そんな我儘だった。








元々重悟は蕎麦を打つのが得意らしく、初めて食べたアルベルトにも美味いと思わせる物だった。そんなこんなで夜になり、小春は小雪を入浴させてから戻って来た。流石に正式に結婚した訳でもないのに一緒に風呂へ行ける程2人とも色ボケてはいなかった。


「小雪はもう寝たのか?」


「ええ。皆ではしゃいで、疲れたみたい」


織江が完全に野次馬根性で調達してきた夫婦布団の真ん中に眠らせ、小春は優しく小雪の胸を叩くようにあやしながら微笑んだ。


「しかし織江の奴にも参ったよな。賑やかしというか、野次馬というか……」


「そうね……でもちょっと感謝もしてるの」


小春は起き上がってアルベルトと向かい合う。既に寝巻きに着替えている彼女の姿は普段と違い大人びた色香を纏っているようにも思え、アルベルトとしては妙に落ち着かない。


「私ね、昔はいじめられっ子だったの」


「へ?」


一瞬在り得ない事を言われた気がしてアルベルトは目が点になった。いじめられる、小春からは1番縁遠い言葉に思えたからだ。


「ブスって言われたり、履物を隠されたり……あ、頭にカエル乗せられた事もあったっけ」


「おいそれって……」


いじめじゃなくて気を惹きたかっただけじゃないのか。その言葉をアルベルトは飲み込んだ。幼い男の子なら大なり小なり誰でも経験がある『気になる女の子の気を惹きたいが為についつい意地悪をする』というあの感覚だ。


「まあ織江がその男の子達の中で大暴れして以来それは無くなったから、今じゃ気にしてないけどね」


「……あいつが具体的に何をやったかは聞かないでおく」


大方男の急所を片っ端から蹴り上げたのだろうと勝手に邪推し、アルベルトは軽く肩を竦めるに留めた(そしてそれは事実だった)。


「まあ何だ、小春にとって織江が掛け替えのない親友だというのはよく分かった」


「そうよ。だからって訳じゃないけど、アルにも仲良くなって欲しいなとは」


「小春やセーラみたいに惚れられてる訳じゃないだろうが、普通に友達付き合いで良ければだな」


小春はくすくすと笑って頷いた。


「じゃあそろそろ私達も寝る?」


「……」


深い意味はない。小春なのだし決して意味深な言葉ではない筈だ。というか小雪がいるのに意味深な言葉を言っても仕方が無い。よってアルベルトの完全な邪推と暴走に過ぎないのだが、彼も男だという事なのだろう。


「でしたら私も混ざります」


「どっから出て来やがったガチレズまな板!つかその鼻血を拭け!」


小雪を起こさないように小声で怒鳴るという器用な真似をしながら、アルベルトは割りと容赦なくリリィを部屋の外へ摘み出した。


「じゃま、寝るか」


「そうね」


そこで小春が赤くなるとアルベルトまで気恥ずかしくなる。煩悩退散と十回唱えてからアルベルトは小雪を挟んで右側へ潜り込んだ。というのも彼は左手でないと小雪が手を握ってきても握り返してやれないからだ。


「じゃあアル。お休みなさい」


「おうお休み」


小春が指を鳴らすと、魔法で点灯していた魔導灯が音も無く消える。その暗闇のなかでアルベルトは静かに目を閉じた。









翌朝。アルベルト達は新しい腕章とエンブレムを学園から受け取っていた。今日から進級して二年生なのだ。小雪は付いて来たがったが、流石にそれはバズバ達に面倒を見て貰う事で何とか宥めた。


「さて諸君、進級おめでとう」


教卓に立ち、学園長は微笑を刻みながらアルベルト達を見据えた。


「激動の1年を経験し、もしかしたら二年目は恐ろしく退屈な1年になる……訳もないな」


「何でですか!」


「いやアルベルトがいる時点で騒動が起きない訳はないと思うが」


「俺は疫病神ですかい!」


実際一年生の間に起こった騒動の大半はアルベルトの存在が切欠(時折ケーナもいたが)だったので否定出来ないのが悲しい。


「いやいや、今年も期待しているぞ?」


「だったらその棒読み何とかして下さいよ……!」


「まあそれはさておきだ」


何時までも漫才はしておれんと思ったのか、学園長は話を切り替えた。


「二年生に進級した事で学園都市のショップも利用可能になる。特に喫茶店《小鳥の憩い》で出されるパフェやケーキは絶品だが、食べ過ぎて太るなよ?まあアルベルトがふくよかな女性が好みなら頑張るのもありだが」


「だから何でいちいち俺を引き合いに出しますか!」


「まあ、面白いからだな」


完全に脱力して机に突っ伏すアルベルトを、学園長は楽しそうに眺めた。


「さて、今日は残りの時間は休みになるからのんびり街を散策して来い。課題は明日からだ」


学園長が退出し、すわ皆が誘って来るのではと一瞬身構えたアルベルトだったが意外にもセーラが肩を叩いただけだった。


「今日はコハルとコユキちゃんを優先してあげて。私達はまた今度で」


「あ、ああ……ありがとな」


小春に声をかけてから2人で退出するアルベルトを見送り、セーラは傍らのシャロンとトリアに目配せした。


「では、追跡隊出撃!」


ようは出刃亀と野次馬であった。








寮まで小雪を迎えに行き、3人で並んで街を歩く。アルベルトと小春が左右から手を繋いでいるが、時折ブランコのように持ち上げてやったりと何だかんだでアルベルト自身もこの行動を楽しんでいた。


「あ、あそこが《小鳥の憩い》ね」


「らしいが、すげー混んでるな」


他クラスの二年生や上級生、卒業した魔女も時折此処に帰って来るらしく店は賑わっていた。


「すみません、3人なんですが空いてますか?」


「あ、はい。こちらへどうぞ!」


えらくテンションの高い店員に案内され、店の奥にある4人がけのテーブルに案内される。注文を伝えると「《勇者》様に声かけられちゃったー!」と小躍りしながら去って行ったのには苦笑するしかない。


「居辛い……」


主に周囲の視線だ。小雪がアルベルトと小春の妹なのか親戚なのかで周囲のヒソヒソ話が断片的に耳に入ってくるのだ。


「お待たせしました。クリームパフェ2つとチーズケーキになります」


「あ、チーズケーキ俺です。パフェはその2人」


注文した品を受け取りながら、アルベルトは何気なく外のテラス席に目をやって軽く噴いた。


「どうしたの?」


「いやあれ」


小春も目をやり、その目が丸くなった。


(何やっとんじゃセーラ達はーーーーーーーー!!)


トレンチコートに帽子、そしてサングラスとどう考えても間違った偵察の変装スタイルである。あれではかえって目立つという事に気付いているのかいないのか。


「ま、まあとにかく食べましょうか」


「いただきまーす」


目を輝かせてパフェに取り掛かる小雪や小春を見ていると、やはり女の子なんだと思ってしまう。アルベルトも自分のケーキを口に入れながらぼんやりと思っていた時だった。


「ねえアル」


「ん?」


「私ね、こんな幸せな日がずっと続いたらってそう思うの」


小春らしいとアルベルトは笑い、軽くその頭を小突いた。


「もう、何?」


「ずっと続けるんじゃない、明日はもっと良い日にしようぜ」


「……うんっ!」


小雪は何が何なのかよく分かっていないようだったが、アルベルトと小春が楽しそうなので自分も楽しそうに笑っていた。周囲で壁を殴る音が聞こえたのは果たしてアルベルトの気のせいだったかは定かでない。


「あ、あのーお客様。もしよろしければ相席でも良いですか?」


「へ?」


顔を上げると、さっきの店員が困った様子で1人の男を案内してきていた。長旅をしてきたのか、薄汚れた衣服と顔。その服装は《東国》の侍にも似た出で立ちで、背中には身の丈程もある長大な刀が鞘に納められていた。


「ま、まあ俺達は構いませんが……いいか?」


「はい、大丈夫です」


店員に案内された男はどっかりと椅子に座り、「このパフェというのを頼む」とだけ告げた。歴戦の猛者という雰囲気にしてはえらく可愛い注文である。


「楽しんでいるところを邪魔して済まん。腹ごしらえを済ませて用事を終えたらすぐに立ち去ろう」


「いや気にしなくて良いですって」


運ばれてきたパフェを前に目を輝かせる様はまるで子供だ。そう思っていると、アルベルトは小春が何か注意深く男を観察している事に気付いた。


「どうした小春?」


「え、うん。この人何処かで見た事があるような……」


小春の記憶に引っかかるものはあるらしいが、それが何なのかは分からない。そんな状態のまましばらくいると、男はパフェを食べ終わり手を合わせた。


「支払いはこれで良いか?」


「あ、はい。お釣りのほうお持ちしますので少々お待ち下さい」


店員が奥に戻って行ったのを見送り、男はアルベルトに向き直った。


「ところで少年」


「はい?」


「この島に住んでいるなら知っていると思うが、セーラ・アスリーヌを知っているか?」


「……知っていると言ったら?」


質問に質問で返すのは無礼だが、アルベルトは男の雰囲気が変わったのに気付いて一気に警戒レベルを引き上げた。心持重心を前に移し、何時でも立ち上がれるように浅く腰掛けなおすと男ははたはたと手を振った。


「そう邪険にしないでくれ。拙者も取って喰おうとは思っておらん。だが僅か16歳にして騎士の称号を得る程の凄腕だ、武芸者としては一度手合わせしたいと思うのが常識……む?」


「何だ!?」


突然響いたキィィィィィィィィィンという耳鳴りにも似た音。しかし小春や小雪、周囲の人間には聞こえていないらしい。


「どうしたのアル?」


「いや、聞こえてないのか?」


小春が首を傾げていると、男は小さく含み笑いを零した。


「なるほどな、《紅桜べにざくら》。お前が気を変えるとは珍しいが、そんなにもこの少年を喰らいたいか」


「っ!?」


その言葉に小春も顔色を変え、状況が変わったと思ったのか、外にいたセーラ達も腰を浮かした。


(なるほどな。どうやらこの男、絶刀ぜっとうを持っているらしい)


リンドヴルムの声が響いた。


「絶刀?」


「如何にも。あらゆる物質を切断する切れ味を持つが、それ故に強き者の血を喰らいたいと鳴き続ける我儘な刀よ。元々はセーラ・アスリーヌを喰らう為にやって来たが、此処に来て拙者の《紅桜》は気を変えた。少年、貴殿を喰らいたいとな」


男から滲み出る殺気に店内の生徒達も一斉に反応した。ある者は剣の柄に手をかけ、ある者は呪文の詠唱に入り、ある者は魔銃のセーフティを外して構えた。


「案ずるな。拙者が興味を抱くのはこの少年のみ」


「待て」


今にも抜刀しかねない男を前に、アルベルトは手を挙げて止めた。


「俺も男だ、挑まれた勝負に背を向けるつもりはない。だが此処で戦うのは拙いだろ。小雪が怯えてる」


「む?」


見ると小雪は涙目になって小春に縋りつき、小春もしっかりと小雪を抱き締めていた。男はそれを認め、あっさりと殺気を収めた。


「確かにそれはいかんな。子供の笑顔と甘味は世界の宝だ」


「……い、意外とあっさり納得するんだな」


てっきり笑い飛ばされると思っただけにアルベルトとしては拍子抜けである。


「拙者は全力で仕合いたいのでな。何処か都合の良い場所はないか?」


「横槍が入らないという意味でなら良い場所がある」


アルベルトは小春に目配せしてから支払いを済ませ、店を出た。その途中でセーラにも目を配る事は忘れなかった。









アルベルトが案内したのは学園から少し離れた草原だった。


「なるほど、確かに此処なら申し分ない」


「気に入って貰えて何よりだ」


《エクスピアティオ》を抜いて構えると、男も背中の野太刀を抜き放つ。その刃には血管のような模様が浮かび、まるで鼓動するように脈打っているのが見えた。


「拙者の刀、《紅桜》。気に入って貰えたか?」


「命のやり取りをしようって時に気の殺がれるデザインだ」


軽口を叩き、アルベルトは腰を落とした。こうして見ると男の構えには隙がなく、全身から触れれば斬れるような殺気が漲っている。


「では仕合うと……いや、その前に名前を聞いておこう」


「……アルベルト・クラウゼン」


「ほう。つまり最近話題になっている《勇者》とは少年の事か」


男は嬉しそうに頷き、《紅桜》を下段に構えて腰を落とした。


「では拙者も名乗ろう。流れの武芸者、山根菊千代やまね きくちよ


アルベルトも殺気を放ち、それが上空で交錯する。


「なら殺るか」


「望むところよ。拙者と《紅桜》を失望させるな」


神剣と絶刀、人智を超えた2つの武具が戦場を感じて歓喜の声をあげたような気がした。


「《勇者》アルベルト・クラウゼン……!」


「武芸者、山根菊千代……!」


風が吹きぬけ、2人は裂帛の咆哮をあげて激突した。










「推して参る!!」


「罷り通る!!」










             続く

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