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魔女は竜と謳う  作者: Fe
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第五十二楽章 修羅と巨人と少女

吉宗率いる騎士団(というかスケルトンの群れ)を連れて《エクスカリバー》へ戻り、その後再び小春の村まで戻ったのは実に二日後の事だった。


「で、ありゃ何だ?」


小春の村跡地に足を踏み入れたアルベルトが見たモノ。それは全長4mに届くのではないかという鎧と兜の巨人だった。そしてその足元には黄色の簡素な衣服に身を包んだ少年が美里と何か親しげに話していた。


「あれは……まさか、元信さん!?」


小春が駆け出し、アルベルトも慌てて後を追う。聖四郎も何やら「まさか」という雰囲気で走り出し、取り残されたのはセーラであった。


「元信さん!」


「その声は……小春殿!」


近くまで来て見ると、少年の背丈はアルベルトと然程変わらない。しかし素肌の上に直接羽織った上着から覗く胸板や腕は鍛え抜かれており、ちょっとした鎧のような凄みを感じさせるものであった。


「元信殿!忠勝殿も壮健そうで何よりでござる!」


聖四郎が紹介してくれたところによると、黄色の服を着た少年の名は今井元信いまい もとのぶ。巨人の名は蘇芳忠勝すおう ただかつというらしい。因みに忠勝は武者修行の最中に強力な魔物と戦って危うく死に掛けたところを、近くに住んでいたドワーフの少女がサイボーグ戦士として復活させてくれたんだとか。最もその時は彼女も未熟だった為にこのような大型極まりない姿形になってしまったそうだが。


「某も修行中に幾度となく手合わせしたものでござる。元信殿は美里殿の弟子で魔拳士故に、非常に面白い戦い方をするので某も勉強になり申した」


「なんの。私とて未だ師匠の足元にも及んでおらぬよ」


「あらあら、そろそろ膝元位には来て貰わないと困るわね。私も何時までも若いままじゃいられないし、老いて衰えたから弟子に越えられたよりは現役でいる間に実力で越えて欲しいわよ」


「……なかなかに高き壁でありますな」


「……」


苦笑する元信を気遣うように忠勝が見下ろす。無言で無表情ではあったが、その無機質な目(左目が赤い金属の眼となっており、右目も生気を感じられるものではなかった)が何処か優しい光を帯びているように思えたのは果たしてアルベルトの気の所為だっただろうか。


「それで元信殿、此度は何用で村まで?」


「《南国》に滞在していた時に《東国》が何者かに襲われたと聞いていてもたってもいられなくなってな。忠勝共々慌てて帰ってみれば、もう終わったと言うから脱力していたところである」


参った参ったと苦笑しつつ、元信は肩を竦めてみせた。


「しかし師匠が無事で何よりです。聞けば相当な卑劣外道の輩、師匠が正面からの戦いで遅れを取るとは思いませんがもし人質でも取られればよもや……とは」


「実際危なかったのは認めるわ。あの子……ヤズミにはそういった底知れない闇があるのは確かね」


「底知れない闇ですか」


アルベルトは考える。己の愉悦の為なら誰を虐殺しようと全く意に介さない真性のクズだと思っていたが、美里の感想はそうではないらしい。


「愉悦を求めてやまないという事は、心が飢えているという事でもあるの。誰かに構われたい、愛されたい、或いは憎まれたい。誰にだってある気持ちだけど、あそこまで行くと逆に可哀相だわ」


「……俺は」


ヤズミの今までの所業が蘇る。ハルピュアを虐殺して魔王を蘇らせる呼び水にした事、世界会議を襲撃しあまつさえ小春を殺そうとした事、そして……セーラを殺しかけた事。


「あいつを殺します」


「アル君!?」


生き残った子供達の相手をしていた小春とセーラも愕然とした顔でアルベルトを見たが、彼はそれには一切構わなかった。


「ヤズミの心がどれ程飢えていようが乾いていようが狂っていようが関係ない。俺が望む、二番目の私闘になるでしょうけど……小春やセーラには悪いですが俺はあいつを、ヤズミをこの手で殺したい」


「それは貴方自身の為?」


「そうかも……いや、そうです。色々と尤もらしい理由を挙げれば幾らでも挙げられますが、私闘の免罪符に小春達を使いたくありませんから」


ヤズミが生きている限り何度でも小春やセーラは狙われる。ならその前に自分がヤズミを殺してしまえばいい。しかし彼女達は決して自分を理由にアルベルトに人殺しをさせたくはないだろう。


「美里さんの前で言う事じゃないかもしれないですが、小春はとても綺麗です。この温かな村で生まれ、この世の全てに愛されて育った彼女には普通じゃ在り得ない美しさがある。だから汚したくないんです。利己的極まりない私闘の理由なんてモノには」


「あらあら。娘をそこまで褒めちぎられて悪い気はしないわね」


美里は笑うが、アルベルトにとっては割りと切実な問題であった。ヤズミを殺す事にはデメリットよりもメリットのほうが圧倒的に多い、というか生かしておく事のデメリットが多過ぎる。だからと言ってアルベルト自身にそんなご大層な大儀がある訳でもないのだ。要はヤズミを殺したいから殺す、それだけで。


「これが俺の最後の私闘にします」


「そう……なら私からは1つだけ」


美里は何時もの柔らかな笑顔ではなく、真剣な目でアルベルトを見据えた。


「私闘だろうが大儀ある戦いだろうが、所詮は力で相手を捻じ伏せる暴力の応酬よ。それを忘れないでね」


「……肝に銘じておきます」


一瞬2人の間に火花が散ったが、美里はすぐに何時もの空気に戻った。


「じゃあ折角だし皆でご飯にしましょうか?元信君と忠勝君も食べてくわよね」


「決定事項ですか。喜んで相伴に預かります。な、忠勝」


寡黙な巨人はゆっくりと頷いた。








美里が作った野菜と猪肉の煮込み料理は炊き立てのご飯とよく合うものだった。


「しかし……」


忠勝が普通に食事が出来る事にも驚いたが、何より笑えるのは彼が持つと箸が耳かきどころか爪楊枝にしか見えないところだった。大柄な忠勝の為、焚き火を作って外で食べているのは正解だったかもしれない。


「いや美味い。修行は血反吐を吐く程にキツかったですが、師匠の料理で頑張れました」


「あら、じゃあ午後からはもう少し本気で稽古をつけようかしら」


「すみません調子に乗り過ぎました」


漫才のような会話をする師弟を微笑ましそうに眺めていた小春は、ややあって表情を曇らせながらアルベルトを見た。


「ねえ、アル」


「何だ?」


お代わりの煮物を器に注ぎながらアルベルトは小春を見た。


「ヤズミを殺すって、本気?」


「ああ。大儀も何も関係ない、俺自身の為にあいつを殺す」


小春は悲しそうにアルベルトを見つめるが、何も言わずに食事を再開した。


「……」


何も言わずにいてくれる事を感謝するのも、意見を拒絶した事を詫びるのも今はきっと正しくない。どちらも小春を今以上に傷つけてしまう事は確かなのだし。


「……」


結局アルベルトも何も言わずに食事を再開する。その何処かぎこちない空気に、聖四郎だけが首を傾げていた。








食事が終わり、食器を洗うのは小春と美里に任せたアルベルトは村の広場で素振りをしていた。


「アル」


「セーラか」


隣に立ち、素振りを始めたセーラはちらりとアルベルトに目を向けた。


「私は止めないわ。遅かれ早かれ、ヤズミは誰かが殺さなくてはいけない相手。生かして反省を促すなんて無茶もいいところだもの」


「そうか」


左手だけで振るわれる《エクスピアティオ》が風を斬り、鋭い音を響かせる。風圧で飛んで来た葉が斬れたのは苦笑するしかない。


「本当は私が殺るつもりでいたけど、アルが殺したいなら止めないわよ。それでも……」


剣を止め、セーラは真っ直ぐにアルベルトを見据えた。その瞳には優しさと決意が光り、何時もの凛としたセーラ・アスリーヌの姿であった。


「あーくんの背中は私が一生守るわ。誰であろうと、貴方とヤズミの決着を邪魔させたりはしない。例えそれがコハルであっても」


「……くれぐれも2人で戦うような真似はしてくれるなよ」


セーラの強さはよく分かっているし、小春も最近になってどんどん力をつけてきている。その2人が親友(1人の男を巡っている2人が親友というのも妙な話だが)であるからこそ丸く収まっているが、もし小春とセーラが本気で戦うような事になればどうなるのか。アルベルトには想像もつかなかった。


「善処はするわ。コハル相手だと私も加減出来ないでしょうし」


「だから勘弁してくれって」


「冗談よ。ちょっと困らせたかっただけだから、ごめんなさい」


「あのなぁ……」


勝てる気がしない。頭をかきながら苦笑すると、セーラはくすりと笑みを零した。


「でも私は貴方の志と矜持、命と心を守る為なら誰が相手でも戦うし勝ってみせる。例え相手が神や悪魔であろうともね」


「頼むからそのリストから小春だけは除外しておいてくれ。本気で」


「大丈夫。コハルもああは言ってもきっと貴方を止める事はしない……いいえ、出来ないと分かってるわ。あの子は聡いし、優しいから」


「また傷つけてしまうな」


自分で守ると言っておきながらこの体たらくである。アルベルトは最早自嘲の笑いすら出せずに空を見上げた。


「本心で愛した人の為なら傷つく事も厭いはしない。女って案外そういう強かなところもあるのよ?気にしなくて……とはいかないわよね。アルも優しい部類の人間だから」


「どうだろうな……」


自分が優しい人間だと思った事はない。ただ目の前で誰かが理不尽に傷つくのを見るのが辛いから傷ついて欲しくない、言ってしまえば究極の我儘だと感じていた。


「盗賊の時は村の敵討ちという名目が作れたけど、今回はそんな物すらない。完全に私怨で戦う訳だ。《勇者》のやる事じゃない気がするけどな」


「あら。先代の《勇者》も最期は自分の大切な人を守る為だけに、守る対象だった人間に剣を向けたのよ?私怨、恋情大いに結構だわ」


セーラの迷いがない言葉にアルベルトは苦笑するしかない。本当に彼女は自分のブレーキ役としては全く役に立たないのだと思い知らされたのも含めてだ。


「小春が傍にいてくれてよかったよ。俺とセーラだけじゃ際限なく暴走しまくって明後日の方角に爆走してそうだ」


「そうね。私も同意するしかない」


2人して苦笑し、アルベルトは肩を竦めて《エクスピアティオ》を背中の鞘に納めた。


「背中を預ける。ヤズミを殺し、その後もな」


「お供致します」


畏まって答えるのがおかしく、2人してまた笑ってしまった。












「一晩くらい泊まっていけば良いのに」


「師匠の元気な顔を見れただけでも十分。私と忠勝は武者修行に戻ります」


名残を惜しむ美里と、快活に笑う元信。相も変わらず無言で佇む忠勝というのはかなりシュールだ。


「それで次の修行の場に目星はつけたの?」


「はい。彼らに、《逆十字聖騎士団》に合流する腹積もりです」


美里は苦笑する。元信は快活で心優しい男に見えるが、その本質は根っからの戦闘狂である。恐らくはヤズミを横取りして自分が殺し、悔しがるアルベルトを自らの対戦相手とする腹なのだと彼女は当たりをつけていた。


「ま、私としては娘に降りかかる危害が消えてくれればそれに越した事はないんだけどね。アル君が殺そうが元信君が殺そうがさして変わりないわ」


「ありがとうございます」


「でもアル君を本気でズタボロにするのはやめてね?小春が泣くし、私だって未来の義息子を傷つけられて安穏としていられる程善人じゃないから」


言外に「アルベルトを傷つけたら私がお前を殺してやる」と付け加えると、元信は分かっているというように頷いた。


「師匠、私は1つ己に課した誓約がございます」


「何かしら」


「決して、師匠と小春殿を悲しませる事だけはしないと」


「ならいいわ。行きなさい」


ならば彼はアルベルトの良き強敵ともとなる。そして忠勝はアルベルトを守る最強の盾となるだろう。


「私も相当に自分勝手かもしれないわね」


娘の恋人を守る為には愛弟子すらも捨石とする。そんな自分がおかしく、美里は去って行く2人の背中を見送りながら小さく苦笑した。









村を後にしたアルベルト達だったが、互いに会話はなかった。小春は沈み、アルベルトは先頭を無言で歩く。セーラはその後ろに付き従い、聖四郎はどう空気を取り持ったものかとおろおろしている始末だ。


「アルベルト殿ー!」


「ん?……ってどああああああ!?」


背中のスラスターを吹かして高速で飛んで来た忠勝と、その手に乗っていた元信にアルベルトは珍しく素っ頓狂な声をあげて飛び上がった。


「やっと追いつけたぞ!私と忠勝も貴殿の軍に加えて頂きたい」


「はあっ!?」


元信はアルベルトの前に跪いた。


「貴殿の周囲はこれから先、更なる争乱と混沌に満ちると見た。それこそ私が求めた戦場、更なる武と智を高める上でもその戦場を逃す手はない!」


「あんた、真性の大馬鹿野郎だな」


掛値無しにアルベルトは本気で呆れていた。


「如何にも。ついで言えば、あの師匠の顔をあそこまで曇らせたヤズミという奴にも興味が沸いた」


「あいつは俺の獲物だぞ」


後ろで小春が悲しそうに目を伏せたのは気付かないフリをしつつ、アルベルトは釘を刺すつもりで言った。


「分かっているさ。私は闘争を、果てしない命の取り合いを求めている……アルベルト・クラウゼン、私がヤズミを先に倒してしまったら貴殿は私を憎むか?」


「さぁ、さぞ悔しいとは思うが憎むとまで行くかは分からない。ご期待に沿えず済まないな」


「そうか……仮に貴殿の傍にいる仲間を手にかけて憎まれたとしても、それは師匠との約束と私の誓約を破る事になる。妥協するとしよう」


元信は改めて頭を下げた。その背後で忠勝は無言のまま、何処か呆れたような空気を纏っている。


「私と貴殿、どちらがヤズミを仕留めても構わない。その後で、私と本気で戦っては貰えまいか?」


「命を懸けた果し合いか……いいぜ、その申し出を受けよう」


「ありがたい!この今井元信、その瞬間まで貴殿に絶対の忠義を捧げると誓おう!」


アルベルトは無言で微笑み、静かに頷いた。









「正直、ついて行けるか不安でござる。今のアルベルト殿は何か狂気にも似たものを感じまする」


つい聖四郎は口が滑り、その言葉で小春は余計に傷ついたように下を見た。


「ねえ、聖四郎君」


「小春姫?どうかしたでござるか」


小春はアルベルトの背中を見つめ、左目から一筋涙を零した。


「ヤズミなの?ヤズミが、アルをあそこまで変えたの?」


「……某には分かり申さぬ。某に言えるのは、ヤズミという男がアルベルト殿にとって好敵手などではなく不倶戴天の仇敵と目されたという事だけでござる」


好敵手が自分だと自惚れるつもりはないが、少なくともヤズミがアルベルトに眠る……男が誰しも心に大なり小なり飼っている修羅を目覚めさせた事は確かだった。


「一時的なものでござる。アルベルト殿がヤズミを仕留めれば、小春姫が愛した何時もの優しく誠実なアルベルト殿に戻るでござるよ」


「違うの……私、悔しいの……!」


アルベルトもセーラも気付いていない(或いは気付いていないフリをしているのか)。小春は止め処もなく涙を流しながら自分自身を抱き締めた。


「アルは私を綺麗だと言ったわ。でも私、本当はそんな人間じゃないもの!セーラやケーナちゃんみたいに、一緒にアルを守り助けて行こうと誓った仲間以外の、部外者がアルに干渉する事を嫌がってる……そんな薄汚い女だから!」


泣き叫ぶ小春に何をしてやれるか、聖四郎は困り果ててしまう。今までが修行1本で生きてきた筋金入りの修行馬鹿の頭に、こういった女性を慰めたりするようなやり方など全く入っていないのだから当然だが。


「……某にはそれが然程悪い事とは思えませぬ。アルベルト殿に仲間内以外が干渉する事を嫌がるのは、偏に彼を守りたいから。それをこうして涙するのも小春姫が優しいからではありませぬか?」


泣き続ける小春に何を言えばいいかも分からぬまま、何か言わねばと必死で言葉を探した結果聖四郎は更にぐちゃぐちゃになる。


「某、口下手故に上手い慰めなど思いつかぬ。しかし小春姫の気持ちが一概に間違っているとも思えぬでござる」


小春から返ってくる答えはなかった。









同時刻。《ウロボロス》の本部をヤズミは歩いていた。


「お、そろそろいい感じに仕上がってるじゃない」


「これはスコルピオ殿。ええ、スコルピオ殿が持ち帰ってくれたサンプルのお陰で、何とか形を為しこうして《神の器》を産ませるところまでは漕ぎつけました」


誇らしげに笑う研究員の前には生体ポットが置かれ、その中では赤子を抱いた小春と瓜二つの少女がたゆたっていた。


「この培養液に浸しておけば後一月程で12歳程度には成長します。まあ急激な成長に細胞のほうが耐え切れませんでしょうから、実戦に耐えられるのは多く見積もって4回。何もさせなくても半年生きられれば良い方でしょうね」


「その時はまた作ればいいでしょ。それに『これ』をぶつけたら流石の《勇者》も何も出来ないだろうね」


ヤズミは酷薄な笑みを浮かべながら生体ポットで眠る、若過ぎる親子を眺めた。


「しかし、こちらもかなり事を急ぎましたので下手をすると母胎となったこっちの培養体のほうが持たない可能性があります」


「ふーん?後何回使えそう?」


「希望的観測も込め、2回」


ヤズミは舌打ちしてポットを軽めに蹴った。


「やっぱ模造品じゃなくて本人攫って来ないと駄目かぁ。何か嫌な予感するし、他の奴を行かせようっと」


「よろしいのですか?確か《ゾディアック》からも離反者が出たとか」


「気にしなくていいよ。どうせ《勇者》の戯言に乗せられる程度の気持ちしかなかった奴等だし、いても邪魔なだけだ」


ヤズミはあくまで裏切られたのは自分達で、タウラス達こそ乱心した者と吹聴していた。《ゾディアック》でそれを信じる者は誰もいないが、彼等と切り離されている末端の《ウロボロス》構成員は別である。


「確かにそうですな。我等の理想を理解出来ないとは何と嘆かわしい」


「所詮は喰ってく為に付いて来た乞食だからね。ま、おのれ等みたいな大儀ある人間じゃなかったって事さ」


すらすらと板に水を流すかの如く嘘を並べ立てるヤズミの言葉に、研究員は感服したように頷いた。










《エクスカリバー》に戻り、元信と忠勝の部屋(忠勝はゴーレムを格納するドックが落ち着くとの事だったが。因みに忠勝をサイボーグ化したのはナオだったらしい)を用意した後の事。アルベルトは今日一日自分を支配していた狂気とも取れる闘争心について考えていた。


「気分が優れぬか」


「王様」


入ってきたのは客将として《逆十字聖騎士団》に兵を率いて合流した《東国》の王・吉宗であった。


「男に生まれた者は誰しもが心に修羅を飼う。余も同じであるし、聖四郎の曽祖父であり智将と謳われた幸長ですらもそうであった」


「修羅……」


「如何にも。その修羅に身を委ね、喰われた者の最期はえてして悲惨なものよ。闘争を求め殺戮を求め、最期には己の命すら惜しまぬ勢いで戦い続けて死に至る」


カタカタと骨しか残っていない体を揺すって笑い、吉宗は昔を懐かしむように眼窩の光を細めた。彼の眼球は既になく、目がある筈の場所は赤い光となっているのだ。


「しかし女人にはどうにもその辺が理解出来ぬらしくてなぁ。余も生前幾度となく妻に泣かれ怒られ、終いには座敷牢に閉じ込められた事もあったわ」


それ故に喰われずには済んだ。と付け加えて吉宗は持っていた酒を煽る。全て喉から零れ落ちて絨毯を汚したのは見なかった事にしておいた。


「アルベルト、そなたはまだ若い。若いが故の勢いもあり強さもあろう。だがまあ、時には足を止めて後ろを振り返るのも良いものだぞ?少しばかり長生きした年寄りの戯言と聞き流して構わんがな」


「……1つだけ。元信は修羅に飲まれているのか?」


吉宗も彼を見たのか、少し考えるように顎を撫でた。


「いや、彼奴は修羅を逆に飲み下し飼い慣らしておるな。好きな時に己の修羅を戒める鎖を外し、好きに戦う事が出来る。まあ相当の傑物である事は確かよ」


「俺も訓練してみるか……いてっ」


軽く小突かれた。


「今足を止めて振り返れと言ったばかりだろうが。そなたが先へ先へと進んで行くのに平気な顔して着いて行ける女子ばかりでないと知れ」


「小春の事か?」


「左様。あの娘は優し過ぎる。故にそなたが血に汚れ、修羅に墜ちる様を見たくないのだろう」


「……」


修羅に墜ちればヤズミと戦える。そう思う反面、戻って来れるかという不安もある。どちらにせよ小春を泣かせる事にはなるのでそこがネックとなっていた。


「決意はしたが早速揺らぐか」


「それも若さ故よ。存分に悩み、答えを探せ若人」


吉宗は瓶に残った酒をアルベルトのコップに注いで部屋を出て行った。


「人か修羅か、はたまた外道か……」


とりあえずコップの酒を捨てるのも勿体無いと口に含んだ。









「ぶあああああああああああああああああああああ!!」







余りにも度が強く、たちどころに吹き出してしまったが。














          続く

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