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魔女は竜と謳う  作者: Fe
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第五十一楽章 古代の王・天の姫

その後、3日という時間をかけて《ウロボロス》に制圧された村や町は全て解放された。とはいえ強行軍による連戦は流石のアルベルト達にも大きな疲労を残しており、彼等は聖四郎が修行の際に度々利用していたという天然温泉に来ていた。


「この温泉には疲労回復以外にも腰痛や肩こり、打ち身や傷の回復にも効果があるでござる。某も修行中はよくお世話になり申した」


「そりゃ良いが、男女別か?」


「ぶおおおおおおおおおおおおお!!」


「……って想像だけで鼻血噴くな!どんだけ初心なんだお前!?」


とりあえずミスティが作った増血剤を飲ませ、アルベルトは寂れた庵のような建物の前で軽く溜息をついた。


「じゃあ小春達が先に入っててくれ。俺はちょっとその辺を散歩してくる」


「1番疲れてるのってアルだと思うけど」


「気にしなくていい。戦闘続きで少し気が昂ぶってるんで、少し冷ましたいんだ」


小春達が納得して庵に入っていくのを見送り、アルベルトは聖四郎に肩を貸しながらその場を後にした。


「か、かたじけのうござる。アルベルト殿……」


「お前幾ら何でも女に弱すぎだぞ?どういう生活をしてればこうなるんだ」


「何分、五年もの間山篭りしておった故に女人と顔を会わせる事もなかった故に」


自分と足して2で割れば丁度良いかもしれない。アルベルトはそんな事を考えながら足を踏み出した、その矢先だった。


「なああっ!?」


「崩れたでござる!」


足元が突如崩落。アルベルトは咄嗟に聖四郎を突き飛ばし、自分だけが穴に墜落していった。










「あたたっ」


「コハル、やっぱり背中少しやられてたみたいね。自分じゃ加減出来ないでしょうし、貸して」


小春の背中にタオルを当てて軽めに擦りながらセーラは空を見上げる。夕暮れになりかけた空は茜色と呼ぶに相応しい美しさだった。


「あ、ありがとセーラ」


「いいのよ。こういう時でもないと貴女に少しでも借りを返せないし」


そう言った矢先、温泉の扉が荒々しく開いた。


「た、大変でござる!アルベルト殿が穴……に……ぶあああああああああああああああああああ!!!」


タイミング悪く風が吹き、温泉を包んでいた湯気が全て吹き飛ばされる。今まさに温泉に入ろうとタオルを外したところだったケーナやセーラに背中を流されていた小春の裸体を諸に見た聖四郎は盛大に鼻血を噴き上げて昏倒した。


「アルが穴にまでは聞こえたわよね?」


「そ、そうね」


慌ててタオルを巻き直しながらもセーラは状況を分析する。


「詳しい話を聞く為にもまずは服を着ましょう。目を覚ます度に鼻血を噴かれてもたまらないし」


妙に落ち着いているセーラに小春は何とも言えない気分で頷いた。









「いてて……何だここは」


アルベルトが落ちたのは、自然の物ではない洞窟のようだった。


「何かの基地……それとも、墓か?」


もし墓か何かなら、テュポーンの力で無理矢理外に出るのはやめたほうが良いだろう。そう考えていた時だった。


「アル、無事!?」


「は?」


セーラと小春が穴の壁を滑るように降りて来たのだ。


「無事だけど、お前等……」


「貴方が落ちたって聞いたらいてもたってもいられないわよ」


「アルベルト殿!ご無事でござるかあああ!?」


聖四郎までもが降りて来て、アルベルトはいよいよ頭痛が酷くなってくるのを感じた。


「……誰か1人で良いからロープ用意しとけよ」


『……あ』


この時ばかりは全員が抜けていた。


「と、とにかくどうやらこの洞窟は唯の洞窟ではないようでござるな」


「ああ。だから脱出用の措置はしておいて欲しかったんだが」


「ま、まあ仕方ないわよ。それにこのメンバーなら出来ない事のほうが少ないわ」


微妙に引き攣った顔の聖四郎とセーラにはこれ以上文句を言う気も失せて(小春には最初から文句をつける気が湧かない)、アルベルトは改めて周囲を見渡した。


「小春、この辺って何か伝承とかあるか?」


「さあ……私もこの辺の事は詳しくないから」


だよなと頷き、アルベルトは壁に手をつきながら歩き始めた。


「じっとしてても仕方ない。小春、ケーナ達には何て言ってあるんだ?」


「一時間経って戻らなかったら、《エクスカリバー》に戻って捜索隊を組織するよう言ってあるわ」


「上出来だ。じゃあちょっとばかし探検してみるか」


状況は決して良くはない。だがアルベルトは不思議な高揚感に包まれ、一歩を踏み出した。










「皆ちゃんといるな?」


「ええ。コハルもセイシロウもちゃんといるわ」


アルベルトを先頭に、次をセーラ。小春、聖四郎の順番で隊列を組み行動する。何しろ小春以外の3人が揃って前衛の為、どうにもこの辺はバランスがよろしくない。


「しかし、こうも何の気配も感じられないとなると逆に不気味でござるな」


「全くだ。せめてスライムの一匹でも出て来てくれれば張り合いがあるんだが……ん?」


ゴツリと金属を蹴った感触がして、アルベルトは手探りで地面に触れた。


「何だこりゃ……盾か?」


暗闇に慣れてきているとはいえ、全てを見通せるという訳ではない。アルベルトはミスティから貰っていた照明弾を1つ使う事に決めて放り投げた。


「やっぱり盾みたいね。でも何でこんなところにあるのかしら?相当良い物みたいだし」


照明に照らされた部屋には3つの台座があり、その内2つには剣と勾玉が置かれていた。


「すると此処に置いてある物なのかもね」


セーラが空いていた台座に盾を置くと、地響きと共に奥の壁が開いた。


「行ってみるか?」


「ちょっと、怖いわ……」


小春がアルベルトの腕をそっと掴む。その手が微かに震えているのが分かり、アルベルトは一瞬迷った。


「でもアルは行ってみたいのよね?大丈夫、付いて行くわよ」


「あー……」


好奇心と小春を気遣う心が二律背反を起こし、アルベルトは思わず頭を抱えた。


「多数決取ろう。行ってみたい奴手を上げてくれ」


セーラと聖四郎が挙手した。これで決まりである。


「……よし、俺も腹を括った。でもヤバそうだったらすぐ逃げるぞ」


「心得たでござる。小春姫の身は某もお守りするでござる」


4人は一旦呼吸を揃え、隊列を組み直して部屋へ足を踏み入れた。









部屋は随分と広く、中央に大きな台座。その上にはこれまた巨大な棺が安置されていた。


「こんの墓泥棒共めがあああああああああああああああああああ!!!」


銅鑼を鳴らすような豪快な声。如何にも数トンはありそうな石の蓋が豪快に吹き飛び、中から赤いマントを纏ったスケルトンが立ち上がった。


「な、なななななあああ!?」


「余の眠りを妨げるとは良い度胸、その意気に免じて我が150の兵団にて散るがよい!!」


その声に呼応するように、周囲から次々と武装したスケルトンが現れる。しかもその纏う闘気は並のアンデットでは在り得ない強さであった。


「拙い……アルベルト殿、こやつ等唯の不死者ではありませんぞ!」


「どういう意味だ!?」


咄嗟に《エクスピアティオ》と《レーヴァテイン》を抜きながらアルベルトは訊いた。


「本来不死者は不死術者ネクロマンサーの力量までの力しか出せないのだけど、この人達は違う……英霊よ!生前の強さがそのまま具現化しているわ!!」


小春の言葉を裏付けるようにスケルトンの一体が片刃の剣を振り下ろす。咄嗟に《エクスピアティオ》で受け止めるが、余りの重さに思わず一歩下がった。


「当然だ。余と苦楽を共にし、天の姫を守るという意の元に集った戦士達なのだからな」


赤いマントのスケルトンは自らの剣を抜き放つ。青白い輝きは月光を思わせ、見る者の目を奪う美しさを持っていた。


「かかれぃ!!」


号令一過、次々と襲い掛かるスケルトンの斬撃をいなしながらアルベルトと聖四郎は同時に力を解き放った。


「天地無双の名の下に、推して参る!」


「俺も全力でやらせて貰う!癖になるなよ!?」


《レーヴァテイン》から放たれる蒼穹の炎がスケルトン達を一瞬にして飲み込む。だが魂を縛る邪法を解けば自然と消滅するアンデットと異なり、英霊となり自分達の王への忠義のみで現世に留まっている彼等は自ら肉体(骨だが)を即座に修復して立ち上がってきた。


「ふん、この程度で天地無双を名乗るとは片腹痛いわ!!」


聖四郎の突撃を剣先で受け止め、王は自分の斬撃で聖四郎を吹き飛ばす。その余波で石壁がすっぱりと綺麗に切断された。


「ぬうう……某、これ程までに心躍る戦いはアルベルト殿との戦い以来でござる!」


「同感だ。こんな状況だってのに、随分とわくわくしてきたぜ!」


セーラは苦笑しながらもアルベルトの背中と小春を守り、何とかスケルトンの猛攻を凌いでいた。


「後ろは私とコハルに任せて、2人とも遠慮なく好きにしていいわ!」


「分かった。頼むぞセーラ!」


戦意の削がれないアルベルト達に、王は何処か興味を惹かれたように首を捻った。


「貴様等、墓泥棒の割には随分と堂々としておるな?ふむ……名を聞いておこう」


「《西国》より来た、《勇者》アルベルト・クラウゼン」


「真田家四代目、真田聖四郎にござる」


その瞬間王の剣が止まった。


「なんと!よもやそなた、我が最大の忠臣・真田幸長の縁者か!?」


「我が曽祖父の名を知るという事は……もしやかつて《東国》を一大国家として築き上げた御雷吉宗みかずちよしむね公にあらせられるか!?」


「知り合いか?」


どうも戦闘どころではなくなった雰囲気に、アルベルトも思わず剣を降ろしていた。


「いや、今から100年前……この《東国》を1つの国家として天下統一した武将がいたのでござる。それがこの御方にあらせられる」


「……」


もう完全に朽ち果てて骨しか残っていない身では王の威厳もへったくれもないが、それでも吉宗というらしい王は威風堂々と剣を降ろした。


「真田の縁者が墓泥棒であろう筈もない!皆の者、武器を下ろせ!!」


アルベルト達を取り囲んでいたスケルトン達から殺気が消え、次々と剣を鞘に納めて下がるのを見てようやくアルベルト達は息をついた。


「どうした?苦しゅうないぞ、面を上げよ」


(俺が苦しいんだよ!)


思わず内心で毒づきながらもアルベルトは安堵の息を零さずにはいられなかった。


「む……?」


吉宗が魔法を使ったのか、部屋が明るく照らし出される。そこでようやく彼は小春の姿を認めたらしい。


「なんと、まさか!?天の姫が何故斯様な場所へ!?」


「あ、天の姫?」


その後、何とか落ち着いた吉宗が説明したところによれば小春はかつて吉宗が命に代えても守れと天意を授かった少女の生まれ変わりらしいとの事だった。


「その者は白き肌に太陽を宿し、澄んだ瞳に星を宿すと言われている。そなた、望まぬ相手に触れられた際にその者を焼いたりはせなんだか?」


「あ……」


小春の脳裏に過るのはヤズミと初めて戦った時の事だ。彼が小春の首を掴んだ瞬間、その腕が炭となって焼け落ちた。次に会った時には既に再生していたが、あの光景は今も小春の脳裏に焼き付いていた。


「待ってくれ王様。あんたの言う《天の姫》とは一体どういう役割を持っているんだ?」


「伝承では理を正す者の母となる、とされておるな」


「理を正す?」


吉宗は頷き、棺を安置してあった台に上る階段に腰を下ろした。


「左様。本来なら《勇者》が現れるという事そのものが世界の力関係がおかしくなっている事の証左とも言える。もしも《勇者》の力が及ばなかった時は、《天姫》の産む子がその身を以って崩れた世界の均衡を保つのだと」


「ちょっと待て……じゃあ何か?俺が《勇者》として派手にミスれば将来生まれる小春の子供を生贄にして問題を解決するって事かよ!?」


「無論、余もその様な事は望んでおらぬ。伝承にはそう記されているがどの程度事実かは分からぬしな」


アルベルトは反射的に小春の手を握る。一瞬小春は驚いたようだったが、すぐに握り返してくれた。


「アルベルト殿、負けられぬ理由が増えましたでござるな」


「ああ。本当に負けられない」


吉宗はその様子を見、大きく頷いた。


「余もまたこの国を、《天姫》を守る者。余とその配下の兵団も貴殿等に加わろう」


「真にござるか!?武を以って《東国》を平定した吉宗公の力添えとは、まさに鬼に金棒でござる!」


アルベルトはちらりとセーラに目を向ける。彼女も意図を察したのか、頷いて返した。


「それとあっちの部屋には余が生前に集めた宝物や武具がある。何かしらの役には立つであろうし、全て持って行くがよい」


太っ腹(既に腹はないが)な発言に思わずアルベルト達は笑ってしまった。無論礼は言ったが。









吉宗に案内された宝物庫には所謂金銀といった財宝は余りなく、どちらかというと武具のほうが主であった。


「そういえば王様。此処に入る前の部屋で祭壇に置かれていた武具があったんだが」


「む?叢雲と水鏡、鎮魂の事か?あれが気に入ったのなら持って行って構わんぞ」


説明を受けた所、叢雲は剣・水鏡は盾・そして鎮魂は勾玉の事らしい。


「余が死んだ後でその魂を清める為に当時の巫女が使った物だ」


「という事はコハルが持つべきね」


「え、ええ!?私剣なんて使った事ないわよ!?」


「大丈夫よ。私が教えるわ」


武具や宝物の運び出しを行っている最中、聖四郎も何か見つけたようだった。


「おお!これはまさしく曽祖父が愛用したという槍!」


「ほう、そういえば幸長も己の槍を此処へ納めておったか」


聖四郎が使っている槍と比べても年季が入っており、相当に使い込まれた名槍である事は間違いがなかった。


「どうするんだ?」


「一応持って行く事は持って行くでござるが、この槍を手に取って戦うのはまた別な機会にしておくでござる。今の某はまだ未熟、曽祖父の槍は余りにも重い」


「そっか」


他にも弓や刀など様々な武具を持ち出し、吉宗の案内で外に出ながらアルベルトは大量のスケルトンを連れて帰る事を副官に何と言い訳しようか考えていた。









その後、今まさに捜索隊を率いて来た所のケーナから泣きながら体当たりされるという歓迎を受け(鳩尾に直撃が入り、一瞬父親の顔がちらついた)、コルトンからは嫌味と皮肉のたっぷり入った説教を受けてようやくアルベルトは人心地ついた。


「アル、まだ起きてる?」


「小春か?入ってくれ」


執務室の机でまどろんでいたアルベルトは、既にサリが寝ている事を思い出して自分でドアを開けに行った。


「察するに、今日の話か?」


「うん。色んな事が一度に分かって頭の中がグチャグチャだから……」


寝巻きの上に上着を羽織っただけの小春は、今にも消えてしまいそうな儚さを感じさせる。アルベルトは少し戸惑いながらも椅子を勧め、自分は向かい側に腰を降ろした。


「お願いがあるの」


「何だ?」


小春は身を乗り出し、そっとアルベルトの手を掴んだ。


「絶対に、負けないで」


「言われる間でもないさ。絶対に誰にも負けない、小春を含め皆が俺に力を貸してくれる限り俺に負けはない」


右手の七帝竜、《エクスカリバー》に集った仲間。その全てがアルベルトにとっての力なのだから。


「ありがと……」


まだ何処か怯えた様子の小春をどうしたものかとアルベルトは一瞬悩んだ、その時だった。


「もう1つお願いしても良い?もし、今夜は一緒に寝てって言ったら」


「勘弁して下さい。主に俺が何しでかすか分からん」


絶対に何もせずにいられる自信がない。体に触れるくらいならまだ可愛いほうで、下手すれば小春に一生モノの傷を負わせてしまう事にもなりかねないのだ。


「何されても良いから……それでも?」


「……」


頭の中で天使りせい悪魔よくぼうが壮絶な戦いを始めたのが分かり、アルベルトは本気で困り果ててしまった。


「……」


不安そうに潤んだ目でこちらを見上げてくる小春に、アルベルトは天使りせいの敗北を悟りかけた時だった。


「アルー!まだ起きてる?」


「ぶっ!」


ノックも無しにドアを開けて入ってきたのはマオだった。


「な、何しに来た……」


「いやほら、皆で相談して今日はアルの部屋で寝ようかって」


「俺の意思何処行った!?」


しっかり枕を抱えたナオやセルヴィまでが入ってくるのを見て、アルベルトは苦笑いするしかない。


(これじゃ、どうなりそうもないわな)


小春と顔を見合わせると、彼女も苦笑混じりに微笑んだ。


「ほら早く早く!」


「アル待って!ケーナも混ざる!」


結局主なメンバーがほぼ全員集まってきた事には閉口してしまった。そしてアルベルトに拒否権はなかった。










とりあえずアルベルトは誰にも何もせず静かに眠ったと、彼の名誉の為に記しておく。










          続く

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