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魔女は竜と謳う  作者: Fe
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第三十七楽章 アルベルトの答え

戦いは終わり、アルベルト達は疲労困憊しつつも無事に《エクスカリバー》に帰艦した。セーラは今夜は実家に泊まるものと思っていたが、普通にアルベルト達に付いて来ていた。まあ現状で荒ぶっているだろう父親や姉と会いたくないという気持ちは分からなくもない。というより送って行って悲惨な目に遭うのは間違いなくアルベルトなので、彼としてもそこは心底助かったと言える。


「各国の代表にも軽傷はあれど死者はなし。こちらもバレリアが派手に怪我した以外はこれと言って大きな被害は……そうだサリ。小春は大丈夫だったか?」


「首の痕でしたら綺麗に治りますよ。幸い本格的に首を吊る前にセルヴィさんが救出してくれたので」


アルベルトはほっと安堵の息をついた。折角綺麗なのに、小春の肌に締め付けられた痕が残っては勿体無いどころの騒ぎではない。


「気にしてますね」


「俺が仕事に引っ張り込んでコレだからな。流石に責任感じる」


サリは「そっちですか」と軽くジト目でアルベルトを見ながら小さく溜息をついた。


「だったら今日はもう休むとしよう。サリもお休み」


「はい、お休みなさいアル様。良い夢を」


スカートの裾を摘んで一礼し、サリはアルベルトの私室から繋がる使用人の部屋へ消えて行った。


「……こうして自分で着替えられるというのはある意味幸福かもな」


最初のうちはサリが幾度と無く着替えを手伝おうと手を伸ばしてきたのだ。そこを何とか説き伏せ、自分の事は自分でやるようにしているものの侍女としての役割を果たさせてやれていない事については反省すべきかもしれない。というより先輩侍女としてサリを可愛がっているシャロンからのプレッシャーが怖い。


「部屋の掃除くらいは任せていいのか?」


別に見られて困る物がある訳でなし(というか服と武具以外の私物がこの部屋にはない)、それでいいのかもと考えながらアルベルトはベッドに入った。








翌朝。服を着替えて洗濯籠に放り込み(後でサリ達侍女組が全員分の洗濯物を集めて洗う手筈になっている)、アルベルトは予定表を確認しながら食堂へ向かった。家族どころか恋人でもない女の子に自分の衣服を洗われるというのは一種の羞恥プレイに近いものがあるが、そもそも洗剤の良し悪しもろくに分かっていないアルベルトでは手伝いようがないのだ。それに自分が小春やセーラの衣服(下手すれば下着も)を洗えるかと問われれば、彼は全身全霊で首を横に振る。


「あらおはようアル。夕べは大変だったみたいね」


イルミィが朝食後の紅茶を飲みながら挨拶してきた。特に指定席を決めている訳でもないので、アルベルトは基本的に食事の時は最初に声をかけてきた相手と同じテーブルにつく事が多い。今回も多分に漏れずイルミィのテーブルに座った。


「おはよう。昨日は《ゾディアック》とかいう集団相手にドンパチするハメになるし、セーラが色々と派手にやってくれた後始末に負われなくちゃだし。まあ後半については面倒どころかどんと来いだけどよ」


「そういう台詞を全員に言ってる筈なのに、よく刺されないわね」


「……寛容で優しい皆に最上の感謝を」


朝食に選んだ肉メインのサンドイッチを前に祈りを捧げると、イルミィは楽しげに笑った。


「それにしても《ゾディアック》か……黄道十二星座を冠するなんて随分と洒落た事をするのね」


「その辺、何か意味があるなら教えてくれないか?俺はとかく学がなくてな」


イルミィは「よろしい」と空になったカップをソーサーに置いて頷いた。


「黄道十二星座とは、黄道が経過している13星座のうちオフィウクス・蛇使い座を除いた12の星座のこと。因みに黄道とは天球上における太陽の見かけの通り道の事ね」


「……大丈夫だ。ちゃんと付いて行けてる」


イルミィは茶請けにしていたらしい干し葡萄(聞けば父親であるグレイオの好物だとか)を一粒口に入れてから話を続けていく。


「星座を説明するわね?まずはアリエス、牡羊座。タウラス、牡牛座。ジェミニ、双子座。キャンサー、蟹座。レオ、獅子座。ヴァルゴ、乙女座。リブラ、天秤座。スコルピオ、蠍座。サジタリウス、射手座。カプリコーン、山羊座。アクエリアス、水瓶座。そしてピスケス、魚座。タウラスがパワーファイターだった事と、双子座を名乗ったのが双子だった事からも恐らく《ゾディアック》はそれぞれの星座を象徴する力を持っているのでしょうね」


「するとヤズミと蠍座がどう関係するんだ?」


イルミィは自分が直接会った訳ではないが、あのセーラが怒りを露にしていた真性の外道を思い浮かべた。


「……蠍は元々色欲の象徴。相当女遊びが激しい男なんじゃない?」


「あのチビがかぁ?」


「いや、それは正しいな」


サンドイッチを頬張りながらアルベルトが笑っていると、背後から声がかかった。


「グラニ!」


「よう、おはようさん。面白い話をしているじゃないか?俺も混ぜてくれ」


2人用のテーブルだったが、グラニは他所から椅子を持って来て腰を下ろした。彼の盆には朝から厚切りのステーキが乗っており、傭兵云々以前に彼の大熊染みた体躯がどうやって作られたものかを如実に語っていた。


「話を戻すが、あのヤズミはアレで結構口が上手くてな。貴婦人もいる前で何だが今までに何人の女を食い散らかしたか、数えるのも面倒なくらいだ。そういう意味では奴に蠍の称号はぴったりだと思うぞ」


「……その蠍を掘った盗賊団に故郷を蹂躙された俺からするとすっげー複雑だが」


ついでにとどめを刺したのは自分自身なので、そこをとやかく言うつもりはないが。


「まあ何だ。ヤズミの野郎は素質そのものが余りに低くてな。その分鍛錬と手札の数を増やす事で格上相手でも互角以上に戦う腕を手に入れてる。性格の問題さえ目を瞑ればそれなりに使える奴だぜ」


「その性格の問題がデカ過ぎるんだよ。下手したらあんたの図体が小人に見えるレベルだぞ」


辟易としてアルベルトがぼやくと、グラニは豪快に笑って二つ折りにしたステーキを目玉焼きと一緒に頬張った。せめてハンバーグにしろと内心で思ったアルベルトだが、朝から空気をぶち壊す事もないと黙っていた。










同じ頃。《ゾディアック》の面々も傷を癒し食事に入っていた……が、空気は非常に険悪であった。


「なあ、御通夜じゃないんだからもうちょい何か話さない?」


「てめーがそれを抜かすかスコルピオ。ジェミニとタウラスを見捨ててとんずらぶっこいたてめーが!あぁ!?」


獅子を思わせる長大な鍵爪を傍らに置き、赤毛の男が凄む。獅子座のレオ、彼もまた《ゾディアック》の一員であった。


「だってしょうがないじゃないかー」


「誰のモノマネをしてるか知らないが、つまらないし殺したくなる。命が惜しければ黙っていろ」


冷たく言い放ったのは射手座のサジタリウス。左手が大型ボウガンと一体化した彼は右手で器用にパンを齧った。


「にしても、今回の作戦でようやく死んでくれるかと思ったがしぶといなお前」


「僕を殺す気?生憎とそんなの僕が楽しくない」


山羊座のカプリコーンの嘲笑にもヤズミは全く動じた様子がない。


「人を撃って良いのは撃たれる覚悟のある者のみ。一発撃ったなら一発撃たれなくては均衡を保てない。スコルピオ、貴殿は撃たれる覚悟があると?」


「その時はお前が撃たれろ」


リブラの言葉にもヤズミはサディスティックな笑顔で言うだけである。その様子にタウラスが思わずぼやいた。


「お前は一度地獄に落ちろ」


「こっちの台詞だ」


「俺達の台詞で合ってるんだよ!」


タウラスはついに堪忍袋の尾を切り、残っていたシチューとパンを一緒くたに混ぜてかき込んでから席を立った。


「あら行っちゃった。次はどうやって遊ぼうかな?コハルもセーラも、案外《勇者》を狙うほうがそそる顔してくれそうだしなー」


そう言った途端、ヤズミの頬を掠めて鞭が壁に突き刺さった。今までは黙って給仕に専念していた蛇使い座のオフィウクス、《ゾディアック》ではない為に数えられてはいないが仮面をつけた女だった。ヤズミを狙ったのは彼女の鞭である。


「《勇者》に余計な手出しをするのは私が許さない……!」


「おっと怖い怖い。じゃあおのれが《勇者》の首を獲ってくれる訳?」


「構わない。《勇者》は、あの子は私が始末をつけるわ」


ヤズミはそれでもう興味を失ったのか、懐から《逆十字聖騎士団》の主な人間のリストを取り出した。


「どれも上玉揃いだねえ。コハルはこっちの都合に必要だから手出し出来ないとして、どれから壊そうかな?」


そう呟き、ヤズミはケーナの似顔絵を指で弾いた。










朝食を食べ終え、レイナとの鍛錬を終えたアルベルトは再び執務室で職務に勤しんでいた。


「リーダー!」


「リオン?ノックはどうした」


以前にコルトンから散々に叩き込まれていたのだが、それを忘れるような出来事があったのだろうか。


「あ、そ……それは先生には内緒な?それよりも見てくれよこれ!」


リオンが複数のノートを拡げてみせる。そこにはリオンやその弟や妹の名前が少しのたくった字で書き連ねてあった。


「やっと先生から合格貰えたんだ!読み書きは覚えたぜ!」


「そうか、おめでとう」


コルトンが叩き込んだのは読み書きと計算だ。曰く、「これさえこなせれば少なくとも契約内容を堂々と誤魔化される心配はない」らしい。


「なあリーダー。俺達、何時まで勉強してれば良いんだ?」


「というと?」


リオンは頬を膨らませながらポケットに入っていた銅貨を何枚か取り出した。


「借金はもう清算したから、ここからは給料だって貰ってるけどさ。俺達勉強してるだけだぜ?」


「それでいいんだよ。子供の本分は本来学んで遊ぶ事だ。それに言っただろ?返したければ将来返してくれれば良いって」


「そうは言われたけどさ……」


アルベルトはちらりと隣で控えるサリに目配せする。彼女も手元の手帳に目を落として頷いたので、アルベルトは残っていた書類を箱に入れて立ち上がった。


「じゃあちょっと弟と妹も呼んで来い。ちょっと付き合って貰おう」


「……へ?」


リオンの目が丸くなった。







途中でケーナとマオも誘い、アルベルト達は居住区のエルフ区画へと来ていた。ここは森林として作られている区画なのもあり、森林浴や子供の遊び場としても重宝がられているのだ。


「ヴィーヴィ!」


「ピュイ!」


そして今ではハルピュアの居住区も兼ねている。ヤズミによって虐殺されたハルピュア達の生き残りでは最も年長だったヴィーヴィが他の仲間を纏め上げ、群れのリーダーとして此処にいた。


「しばらく様子を見に来れなくて済まないな。何か足りない物とかはないか?」


「ピュ?ピピッ!」


バサバサと翼を羽ばたかせて歌うように囀るヴィーヴィの言葉を、セルヴィは何度も頷きながら聞き終えてアルベルトに向き直った。


「何も問題はないと言ってるわ。ご飯も美味しいし、エルフだけじゃなくて人間も優しいからって」


「それはよかった。ヤズミみたいな奴が人間の代表格だと誤解されっぱなしなのは辛いからな」


談笑するアルベルトとセルヴィ達だが、置いてけぼりを食ったのは付いてきたリオン達である。


「なあリーダー。俺達は何をするんだ?」


「おっと忘れるところだった。此処にはハルピュアがいるのは知ってるよな?」


リオン達が頷いたので、アルベルトは安心して話を続けた。


「ハルピュアは見ての通り鳥の要素が強い魔物だが、非常に大人しい。まあ色々あって今此処にいるのは殆ど子供のハルピュアばかりなんだ」


ちゃんと話に付いて来れているのを確認しながらアルベルトは言った。


「皆に頼みたいのは、ハルピュア達の羽繕いを手伝ってやって欲しいんだ。このブラシをこうやって……」


心得たとばかりにヴィーヴィが差し出した右の翼にブラシを当て、流れを整えるように優しくブラシを入れてみせる。


「様子を見ながら、痛がらないようにそっと優しくやってくれ。本当なら大人のハルピュアが教えるんだが、それが無理だからな」


「分かった。やってみる……頑張るぞ皆!」


『おー!』


セルヴィや他のエルフ達に詳しいレクチャーを受けながら、リオン達がおっかなびっくりハルピュアの羽にブラシを入れるのを見守りながらアルベルトはゆっくりと腰を降ろした。


「ピュイ」


「ん?ヴィーヴィはもう自分で出来るんじゃ……おわっ!」


気分を害したようにバサバサと翼を当ててくるヴィーヴィに思わずアルベルトは降参し、大人しく彼女の羽繕いを手伝う事になった。









それから三十分後。無事に全てのハルピュアの羽繕いを終え、リオン達はある程度年長(人間で言えば11歳前後らしい)のハルピュア達の足に掴まって空を飛び回っていた。


「お、おい落とすなよ!?」


「ピィ!」


「大丈夫大丈夫!これすっげー楽しいし!」


理由になっていない。楽しいからと言って落ちない保障は何処にもないのだから。


「大丈夫ですよアル。さっき仲間に言って、あの子達が飛んでる下の地面に魔法をかけておきましたから」


「そうか。流石だなセルヴィ、用意が良い」


セルヴィは「光栄です」と笑って頷いた。


「楽しそうね」


振り返ると、イルミィがスケッチブックと画材道具を抱えてやって来るところだった。


「羽繕いはもう終わってしまったの?残念だわ」


「何だ、参加したかったのか?」


「違うわよ。これでも専門は魔物学と美術だから、元々ハルピュアは造形の綺麗な魔物だと聞いていたし是非ともその姿を間近で見たかったの」


「動物園じゃねえんだぞおい!」


思わず腰を浮かすと、イルミィは慌てて両手を振った。


「ごめんなさい。気分を害したなら謝るわ」


「いや、俺も冷静じゃなかった」


イルミィの好奇心は今に始まった事ではない。アルベルトはヴィーヴィに確認を取ってから彼女を紹介する事にした。


「イルミィ、紹介する。今ハルピュア達の纏め役をやってるヴィーヴィだ」


「ピュイ」


「よろしく、と言っています」


「ありがとう。私はイルミテシア、気軽にイルミィと呼んでいいわ」


イルミィとヴィーヴィは互いに自己紹介を追え、イルミィは早速ヴィーヴィの羽や足などに触れて確かめている。


「鳥とは根本的に体の形が違うのに、あれ程機敏に飛びまわれるのはどうしてかと思ったけど……そうか、羽そのものが魔力の導線になって周囲の風を操っているのね」


「ピュ?」


普段から本能でやっている事を説明されても分からないと首を傾げるヴィーヴィに構わず、イルミィは彼女の足を持ち上げて先端の鍵爪に目を凝らした。


「本では爪には毒腺があるって書かれてたけど、それらしい器官は見当たらないわね」


「……おいイルミィ。それくらいにしといてやれ?ハルピュアにも羞恥心はあるらしいんでな」


言われてイルミィは自分がヴィーヴィにどういう格好をさせているのかをようやく把握した。座り込んだ彼女の片足だけを持ち上げさせ、無理矢理開脚させている状態なのだ。羽毛が丁度下着やズボンのようになっているとはいえ、ハルピュアが最も隠そうとする器官(要するに繁殖関係)を曝け出す格好になっていた。これが人間だとどういう有様かに思い当たりイルミィは慌てて手を離して飛び退いた。


「重ね重ね本当にごめんなさいヴィーヴィ!私ったら興奮してなんて事を……!」


「ピュウ……」


実際問題、この場には所謂雄として認識されているのがアルベルトしかいない為ヴィーヴィも思ったよりは落ち着いていた。


「好奇心旺盛も結構だが、もう少し他者との関係が拗れないように気を配ろうな」


「はい……」


落ち込むイルミィが少し可哀相になり、アルベルトは慰める意味でも軽く頭を撫でた。







散々飛び回って疲れたのか、リオン達とハルピュア達が舞い降りてきたところで小春とトロイがバスケットを複数抱えて入って来た。


「あれ、どうしたんだ小春?トロイも」


「そろそろお昼だからと思って誘いに行ったら此処だってサリに聞いたから」


「折角なのでたまにはこういうのも良いかと思ってな」


なるほどと納得し、アルベルトは一旦その場を離れて学園の仲間とナオやルキナにも声をかけてミスティの車椅子を押しながら戻った。


「あーお腹空いたー!」


「こらまず手を洗えって先生に教わっただろ!」


バスケットに手を伸ばす弟や妹を川まで引っ張るリオンに皆が笑い、その隙にと手を伸ばすマオとバレリアにアルベルトとバズバが拳骨を落とす。


「じゃあ食べようか」


『いただきます』


シートを敷いた上に皆で輪になって座ると、アルベルトはふと何かに似ていると感じた。


「あ、確か前にセーラに借りた本に出てたな。円卓って」


「ええ。その場では誰もが平等に対等の関係となる。確かにアルも今なら団長とか《勇者》とか関係ないわね」


「元からなかったやろ。威厳も関係も」


オリーヴの突っ込みに思わずアルベルトはズッコケた。


「その通りだが指摘されると妙に腹立つな!」


「まあまあ、アルがうち等の友達やっちゅー事やで」


そう言われると怒るに怒れなくなる。


「ふぇええええええ!リオン兄ちゃんがレモン取ったあああああ!」


「違うって!レモンは食べるんじゃなくて唐揚げにかけるもんで」


「かける前に確認取ろうね。唐揚げにレモンかけるのを嫌がる人もいるから」


リオン達を小春が面倒見ている辺りは、流石故郷でも愛された姉貴分というところなのだろう。因みにアルベルトはレモン派である。


「あ、アルはお味噌汁飲む?作ってきたからあるわよ」


「そうか?小春の味噌汁は美味いからな……って他の人が作った味噌汁知らないけどさ」


豆腐と油揚げ、甘芋(サツマイモのような芋)が入った味噌汁を受け取りながらアルベルトは笑う。


「毎日飲みたいと思う?」


「どうした織江。まあ確かに毎日飲めたら幸せだよな、美味いし」


その瞬間小春は真っ赤になって俯き、織江はニヤニヤと笑みを浮かべる。その意味にアルベルトが気付くのは大分後になってからだった。


「コハルちゃん、ケーナもいる」


「分かったわ。はいどうぞ」


「勿論私も頂きます!」


ケーナとリリィも揃って味噌汁を受け取る。セーラは慣れない味で口に合わなかったのか、トロイが作った野菜スープを受け取っていた。


「あ、そうだ!そろそろ出来てる筈!」


マオが唐突にドワーフ居住区へ走り出す。何が起こったのかと思っていると、仲間のドワーフに手伝わせながら丸々と太った猪の丸焼きを5頭持って来た。


「皆も食べよー!」


「また丸焼きかい!」


思わず突っ込むが、ドワーフの国で食べた丸焼きが美味しかったのも事実なのでアルベルトは先んじてナイフを手に丸焼きへ近づいた。


「ふむ……丸ごと貰うぞ」


そう言ってシバが丸焼きを抱え上げ、大口を開けてかぶりつく。その様にマオとリザードマン達以外の全員が固まった。


「おお!シバさんイケる口だね」


そう言いながらもう1頭の丸焼きにかぶりつくマオ。見る見るうちに骨だけになっていく丸焼きを意識から外し、アルベルトは皆に肉を切り分ける事にした。


「ほう。このような料理は初めてじゃな」


「ルキナ、余り上品ぶると油で汚れるから此処は豪快に行け」


キルトから丸焼きの食べ方を教わりながらルキナもおっかなびっくり肉を齧った。


「そろそろデザートもどうですか?」


そう言ってセルヴィはエルフが育てている果物を並べていく。既に満腹に近くなっていた年少組は喜んで果物に手を伸ばした。


「小春、刺身とかはあるか?」


「うん、こっちに。もしかして?」


アルベルトは頷き、刺身の入ったバスケットを持って川の方へ近づく。集まってきた人魚達にバスケットを渡してその場に腰を下ろした。


「ありがとアル。普段は丸ごと食べてるけど、こうやって切り分けて味付けするのも良いわね。人間って面白い事を考えるわ」


赤身の魚を選んで取りながらマーリスは微笑んだ。


「何だか楽しくなってきたわ。私達で歌いましょう」


人魚達のコーラスにヴィーヴィを初めとしたハルピュア達が合わせて囀り始め、今度はケーナや小春も合わせてハミングする。セルヴィが何か言う間でもなくエルフの何人かがハープや笛を持ち出して演奏を始めると、今度はドワーフ達が太鼓を持って来て打ち鳴らす。リザードマンに楽器や歌という文化はないようだったが、トリアが目の前で手拍子を始めたのを見て恐る恐る真似を始める。同じ様にゴブリンやインプも手を叩き、メロディアの音頭でサキュバスやユイチリ(樹木の精霊。見た目はエルフに近いが魔族としての力が強い変わった種族)も歌い始めた。








何時の間にか食事会は、演奏会へと変わっていた。








何時の間にか《エクスカリバー》の人員がほぼ全員集まって大騒ぎになった大宴会兼演奏会は日没をもってお開きとなった。


「楽しかったねアル」


「そうだな」


後片付けを手伝いながら、ケーナは楽しそうに笑った。


「ケーナね、アルが見たいものが分かったよ。アルは今日みたいな日がずっと続くと良いって思ったでしょ?」


「その通りだ。でもそれは今日を繰り返したい訳じゃない」


ケーナが首を傾げるのを尻目にアルベルトは残ったバスケットを拾って立ち上がった。


「今日俺達は皆で楽しむ事を知った。明日はそれを踏まえてもっと楽しくなるかもしれないだろ?いや、楽しくすればいいんだ」


「……あ、そっか!うん。ケーナ分かったよ!」


アルベルトに抱きつき、ケーナは全身で喜びを表す。アルベルトも彼女の髪をそっと撫でながら笑った。


「続けるさ。この楽しい日々を、そしてそれがこの世界に俺が見せる……共存の答えだと」











                続く

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