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魔女は竜と謳う  作者: Fe
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第三十六楽章 それぞれの力

唸りをあげてタウラスの鉄球がセーラ目掛けて叩き込まれる。体を捻って回避するが、風圧で軽く飛ばされそうになった。


「さすが、牡牛座を冠するだけあって馬鹿力ね」


「その通り。蠍程の外道さも双子座程の連携もないが、力だけなら《ゾディアック》最強の自負があるぜ」


セーラは少し困ってしまう。何しろ自分が相手にしているのはタウラスだけでなく、セーラが今まで見てきた中でも随一の卑劣漢であるヤズミもいるのだ。


「待ってセーラ!私も……!」


「駄目よコハル!言葉は悪いけど、丸腰で近接戦闘を行えない貴女ではこいつらの相手は無理だわ」


本音では足手纏いとはっきり言い切ってしまいたいが、小春の心情を考えるとそれも出来ない。以前は小春と2人がかりで何とか撃退したヤズミに加え、少なくとも彼と同等の力を持つであろうタウラスが加わっている。


「ぬおおおおおおおおおお!!!」


追撃を仕掛けるタウラスの横からバルクレイが体当たりを仕掛ける。その猛牛の如き勢いに流石のタウラスもたまらず吹き飛ばされた。


「おわっ!装備も無しにやるもんだねぇ」


「2対1は流石に見てられないからな。お前は俺が相手をする」


背後でルクレツィアの随伴を務めていたもう1人の小柄な女性が魔法を発動させ、バルクレイの服を銀色の強靭そうな鎧へと変えた。同時に右手には長大なハルバードが召喚される。


「助かるぜアナスタシア。お前の鎧と武器、これがあれば負けはない!」


「余計な事言わんで良いからとっとと倒せこの馬鹿!!」


真っ赤になって叫ぶアナスタシアに笑い、バルクレイはタウラスと互いの得物をぶつけ合いながら激突する。


「じゃあこっちも戦いましょうか?」


「いいねぇ。そういうの、壊したくなるな」


刀を構えながらヤズミは獰猛な笑みを浮かべる。セーラは笑顔は浮かべず、冷たい目で腰を落とした。








バーサーカーと化したバレリアとの連携というのは正直言って正気ではない。故にマオはバレリアの猛攻の対処に追われるカストルではなく、その援護に向かおうとするポルックスへ斬りかかった。


「確かに我等の本分は連携、だが単独が弱いと思って貰っては困る!」


2本の剣を手足のように操り、マオ以上の身軽さでこちらを翻弄するポルックスに流石のマオも攻めあぐねる。


(マオ、聞こえる?)


(ナオ?うん、聞こえるよ)


頭の中にナオの声が響く。彼女達だけが行える双子同士の精神感応だった。


(状況は理解したわ。奴の行動には一定のパターンがあるわね……多分周囲に互角に戦える人間がいなかったから、その分行動がパターン化したのよ)


(難しい事は良いから教えてよ。その……えーっと……リターンじゃない、パテでもない……)


(パターンよ。まず最初のアタックは正面から両方の剣を使った唐竹割り、フェイントは絶対にないのでそのまま弾き返して)


(そうそう、それそれ!合点承知だい!)


言われる通りに振り下ろされた攻撃を斧で弾き飛ばす。今までは回避していたのを迎え撃たれた事に驚いたのか、ポルックスは少し意外そうに眉を上げた。


(そしてその攻撃の後は後方へ退避、その後加速魔法を使って死角に回り込み左の剣からの連続攻撃。それは別の人が止めるから安心して)


(別の人?)


言葉通りにマオの左後方へ回り込んだポルックスを待っていたかのように砲撃が降り注ぐ。別ルートから来ていたリリィの奇襲だった。


「くっ、まだいたのか!」


「当然です。コハルさんとタイプは違えど、マオさんも私好みですから」


(ナオ、アルがリリィは変態って言ってたけどどういう意味?)


(言ったままの意味よ。私達みたいに男の人を好きになるより女の子が好きってだけだから)


(全然意味分かんない)


マオの理解の範疇を超えていた。そもそも恋愛自体余りよく分かっていないマオにとって、レズビアンというのは異世界の出来事も同然であった。


(それはともかく次よ。第二の攻撃も回避・迎撃された場合、今度は兄弟での連携になる。でも片割れはバレリアと戦っているから、最初の攻撃を繰り返してくるわよ)


(了解だい!)


因みにバレリアのほうは攻撃パターンを取る間もない位に徹底的に攻め立てており、カストルは既に左肩を齧られて腕を片方しか使えなくなっていた。無論バレリアのほうも決して浅くない傷を数多く負っているのだが、彼女は血の臭いを嗅ぐほどに興奮状態となるため寧ろ動きはより荒々しくなっていた。


(はやくこっちを片付けてバレリアを手伝いましょう。このままじゃ失血死しかねないわ)


(だよね。痛みを感じてないだけで、怪我はしてるんだし)


同じ行動を繰り返してくるポルックスを迎撃しながらマオは頷いた。


「あのー、ナオさんと通信してるのは分かるんで私にも説明を」


「ゴメン無理。僕はナオ程頭良くないから適当に合わせて!」


「無茶苦茶ですね!まあ合わせますけども!!」


ここはリリィの強みだった。特に誰と組むと相性が良いというのはないが、代わりに誰とでも呼吸を合わせ連携出来る。目的の為なら数秒前まで殺し合っていた相手だろうが親の仇だろうが力を合わせるのが真のプロフェッショナルと考えると、リリィこそが本物のプロフェッショナルなのかもしれない。


「……流石に潮時か。これ以上やってると我等が死にかねん」


パターンから外れ、身を挺する勢いでカストルを救出したポルックスが呟いた。離脱の寸前にバレリアの尾を左足に叩きつけられた所為か、向こう脛の部分が圧し折れていた。


「あのクズの為に命を張ってやる義理などない。元を辿れば奴が余計な事をした所為で《勇者》が派手に動き、世界が大きく動く事になったのだから」


「一応味方ですよね?どんだけ嫌われてるんですかヤズミってのは」


呆れ顔のリリィに、ポルックスは瓦礫の中から取り出した柱を切り分けて左足に添えて紐を巻きつけながら苦笑した。


「我等は世界の安定の為、全てを今日という日で固定する為の礎となる事を選び人を捨てた外道。だが奴は己の愉悦の為にしか動かん。嫌うには十分過ぎるだろう」


「後半だけ同意しますがね」


リリィは《アバリス》を構えて魔力を装填した。


「固定された今日に私は価値を感じません。生きているならば、明日が欲しい」


「それも道理。だが何が起こるか分からない明日に怯えて生きるよりは、安定した今日が続くほうが幸福ではないのか?飢えた子供が今日パンを食べる事が出来ても明日は分からないとくれば、食べる事が出来た今日を繰り返すほうを望むと思うがね」


水掛け論。いや、どちらも平行線だ。リリィは「今日よりはマシかもしれない明日」を望み続けていた過去を思い出し、反論する事もやめにして引き金を引いた。


「……逃がしましたか。アルに怒られますかね?」


「アルなら怒らないよ。寧ろ怪我がなくてよかったーって喜ぶかも」


リリィはマオに笑い、四つん這いになって荒い息をつくバレリアに回復魔法をかけながらしばし瞑目した。










バルクレイとタウラスの戦いはほぼ互角。寧ろバルクレイの武器と防具は彼の魔力に依存していない分有利かもしれない。しかしセーラのほうは苦戦していた。何しろ武器が前に使っていた魔力剣のみ、防具は一切持っていないのだ。


「そらっ!」


「くっ!?」


ヤズミが斬り合いの合間を縫い、テーブルに置かれていたワイングラスをセーラに投げつける。咄嗟に剣で弾くが、砕けた破片がセーラの頬を傷つけ飛び散ったワインが視界を奪った。ヤズミはその隙を見逃さずに飛び掛り、スカートの裾を踏みつけながらセーラの肩を狙って刀を振り下ろした。


「この……!舐めるなぁ!!」


セーラは咄嗟にスカートを自分で引き裂きながら回避。それでも残った部分は腿の半分くらいの長さで残っているのだが、公衆の面前で素足を晒す羞恥は如何程のものか小春には見当もつかない。


「粘るねえ。でも折れないか……どうせならそろそろ這い蹲って許しを乞う姿も見たいけど」


「お断りよ」


まだセーラの心は折れていない。それが分かるからこそ、小春は自分の無力が歯痒かった。


「あの、アナスタシアさん……でしたよね?」


「ええ。何かしら?」


傍らでバルクレイのサポートをしているアナスタシアに小春は声をかけた。


「さっきの武具を召喚する魔法ってどうやるんですか?」


「あれは召喚した訳じゃないわ。私の家に代々伝わっている精神世界の工房に保管されている設計図から、私が武具を組み上げて取り出してるだけよ」


思わず小春は絶句していた。


「まあ行き方さえ分かれば、最低限の魔力がある人間なら誰でも入れる場所だから。教えましょうか?」


「良いんですか!?」


「別に門外不出という訳じゃないもの。それにそういう手でも使って手助けしないと、あの子負けそうだし……そういう意図から私に接触したんでしょ?」


小春は頷いた。セーラの腕を疑う訳ではないが、アルベルトが何時到着するかも分からない以上小春も戦うべきだ。しかしそれをセーラが望まない以上、彼女なりに何かしらの援護を行わなくては気が済まなかった。


「いいわ。今から私が言う言葉を繰り返して」


言われた通りに小春が言葉を繰り返すと、彼女の意識は光に呑まれた。









気がつくと小春は古びた工房の中に立っていた。外は真っ白な大地と真っ白な空、今小春がいる工房以外に一切建物がないだだっ広い空間が広がっていた。


「ここが、アナスタシアさんの精神工房……」


頭の中に叩き込まれた情報に従い、設計図を呼び出してみる。途端に頭に溢れかえった膨大な情報に一瞬眩暈が起こった。


「くっ、駄目駄目……!頑張らなくちゃ」


セーラの戦闘スタイルはスピードと手数を重視する。実際彼女の戦闘におけるスピードはアルベルトすらも凌駕しており、《逆十字聖騎士団》最速と言っても過言ではない。


「つまり強度よりも軽さと動きやすさを重視した設計にすべき、って事よね。防御力は魔力で補うとしてその導線に素材をミスリルで……」


といっても錬金術は専門外の小春にとって、魔力でミスリル等の魔法金属を精製するのは絶望的なのだが。


「……あれ?」


頭の中に響く声。それはアナスタシアでもセーラでも、ましてアルベルトでもない聞いた事のない声だった。


「貴方達は……うん、そうね……分かったわ」


小春は微笑んで頷き、両手を拡げて周囲を舞う設計図に目を向けた。


「私が作る鎧……その銘は、《楯無たてなし》!!」









「あっ!?」


セーラは目を見開いた。知らない間に壁際まで追い詰められ、逃げ場を失っていたのだ。


「ゲーム終了~。ま、運が悪かったね♪」


刀の切っ先がセーラの胸元目掛けて突き込まれる。その様がまるでスローモーションのようにゆっくりと彼女の網膜に焼きついた。


「自分の騎士の死に様、《勇者》が何て言うか見物だよ!」


その瞬間セーラの体が光に包まれる。驚きに目を見開く間に光は弾け、セーラは見た事のない鎧に身を包んでいた。まるで《東国》の武者をモチーフにしたかのような不思議な意匠は意外にも彼女のセンスに合致しており、ヤズミの刀を容易く弾き返した。


「この魔力……コハル!?」


「うん!」


全身から魔力を迸らせ、小春は大きく頷いた。


(でもこの強度、コハル1人の魔力で賄い切れるとは思えないけど……)


まるで別の何かが小春に力を貸している。そんな事を考えたセーラにヤズミが再び仕掛けた。


「え?」


思わずセーラはぽかんとなった。振り下ろされたヤズミの刀が、傍にあったテーブルに阻まれたのだ。


(誰かが動かした訳じゃないのに、どうして?)


「この……どわあああああああああ!!」


床の石が動き、ヤズミは蹴躓いて派手にずっこける。丁度顔が行った箇所の床石が飛び上がってヤズミの鼻を強打したのには、セーラも笑えば良いのか同情すれば良いのか分からなかった。


「みんな、行って!」


小春の鋭い声が飛び、その瞬間周囲のテーブルに乗っていたフォークやナイフが浮かび上がって一斉にヤズミへ襲い掛かる。しかしヤズミも刀を振り回し、上手い具合にそれらを弾き飛ばしていた。


「コハル、これは一体何が起こっているの!?」


「この建物、築100年経っているのよね」


「へ?」


一瞬小春が何を言ったのか分からずセーラはぽかんとなる。ややあってその意味が染み通り、思わず頷いていた。


「そうか、付喪神ね?」


「そうよ。100年という歳月を経て、この建物そのものが付喪神になっていたの。さっきセーラの鎧を作るのにも力を貸してくれたのよ」


なんともはや、とセーラは感心するやら呆れるやらで苦笑いするしかない。以前アルベルトに話を聞いてはいたが、こうしてあらゆる存在の協力を無条件に得られるという意味ではアルベルトと小春はとてもよく似ているのかもしれない。


「こ、このヤロー……」


会議場(というか付喪神)はタウラスを無視し、ヤズミだけを攻撃しているらしい。あっという間にボロボロになったヤズミは歯噛みしながらも、瞬間転送で小春の懐へ飛び込んだ。


「え!?」


「コハル!」


峰打ちを受けて意識を失った小春を、ヤズミは持っていた縄を彼女の首に巻きつけてから再び転送した。


「くっ……やられた!」


歯噛みしている暇はない。セーラはそのまま外へと飛び出し、そこでようやくアルベルトと鉢合わせた。


「セーラ、無事だったか!」


「私はともかくコハルが無事じゃないわ!ヤズミに連れ去られたわよ!」


途端にアルベルトの目も見開かれた。


「あいつ小春に触れたのか!?」


「首に縄つけて転送したのよ。直接触れてはいないから、あいつも考えたわね」


アルベルトは軽く頷き、リンドヴルムを召喚してセーラと2人で空へと飛び立った。


「織江の調べじゃ、あいつの転送は長距離を飛べないタイプらしい。近くに……いた!」


グリフォン(性格の大人しい魔獣等はこうして飼い慣らされ、乗騎となる場合もある)に跨り、小春を連れ去ろうとするヤズミを見つけてアルベルトはリンドヴルムを加速させた。


「おいヤズミ!お前小春を連れ去るだけじゃ飽き足らず、仲間も見捨てやがったのかよ!?」


「ああ?どうせ最初から捨て駒だよあいつは!それより良い訳?ここで僕にかまけてたら、このセントラルの東西南北の塔に仕掛けておいた爆弾が炸裂するけど」


『はあっ!?』


思わずアルベルトとセーラでハモった。ヤズミは愉しげにせせら笑い、どうするのかとアルベルトを見据えた。


(どうする……!?ここでヤズミと戦えば爆弾の解体が間に合わないかもしれない、だが爆弾の対処に回れば小春をみすみす攫わせてしまう……)


アルベルトが歯を食い縛ったその時、《エクスカリバー》からの通信が入った。


「アル聞こえる!?ナオがセントラルのあちこちに不自然なエネルギー反応を見つけたから、そっちはオリーヴ達が処理に向かったよ!」


「織江か!」


「そうそう。私が皆をピンポイントで現場まで転送したから、解除自体はそう難しくないよ。こっちは任せて!」


なら遠慮はいらない。アルベルトは仲間のありがたみを噛み締めながら一気にヤズミの背中へ肉薄した。


「ちっ……随分とおんぶに抱っこって訳だね」


「俺は仲間を信じてる。何よりも、信頼出来る仲間を見出す自信がある!仲間を平然と捨て駒にするお前とは違うんだよ!!」


糾弾する声にもヤズミは涼しい顔を崩さなかった。


「それでもより強く生まれ変わるために犠牲を厭わない。それこそが強くなった証であり、仲間じゃないの?」


「最初から犠牲にする事前提で仲間とかほざいてんじゃねえ!」


《エクスピアティオ》を振り下ろすと、ヤズミは縄の端を握ったまま小春をグリフォンから蹴り出した。


「げっ!」


このままだと小春は首を吊る形になり、どちらにせよ彼女の命に関わる話になるのだ。


「さーてどうするのか……え?」


風を斬り裂く音と共に飛来した1本の矢が縄を断ち切り、小春は意識のないまま落下する。その下へケーナが飛び込んで来た。


「ケーナ!?一体何を……」


小春を受け止めるように飛び、ケーナは目を閉じて意識を集中させる。その力が膨大なまでに膨れ上がった。


竜変化ドラグナイズ!!」


虚空から呼び出された雷がケーナを打ち据えたかと思うと、閃光と共に彼女はシルヴァーナの姿へと変わる。小春はその頭の上に柔らかく着地した。恐らくはケーナが自分の周囲に力場を展開する事で小春を受け止めたのだろう。


「という事は、さっきの矢はセルヴィね。脅かしてくれるじゃない」


セーラが苦笑していると、屋根を飛び移りながら走って来たセルヴィがケーナに飛び乗ってリンドヴルムの隣まで高度を上げてきた。


「セルヴィ!小春とケーナは大丈夫なのか?」


「大丈夫です。コハルは命に別状ないですし、ケーナはシルヴァーナの意識と共存する事で創世竜の力を完全にコントロールしています」


シルヴァーナはこちらに顔を向け、笑うように目を細めた。その表情はアルベルト達がよく知るケーナのものだった。


「さて、ヤズミ。これ以上お前の不愉快な手札は出てくるのか?それともネタ切れか?」


《アポカリプス》を呼び出し、アルベルトは2つの砲身を接続して狙撃モードに切り替える。ヤズミは嘲笑うように口元を歪めるも、何も言ってはこなかった。


「アルが討つ必要はないわ。私がやる」


セーラが剣に魔力を込め、斬撃を刃として飛ばす。如何にグリフォンの機動力を持ってしてもかわせない筈の速さだったがヤズミはまたしても瞬間転送で姿を消した。流石にこの状況で小春を攫えると思える程寝惚けてはいないらしく、その姿は何処にも見えなかった。


「あ、アル聞こえる?こっちは全ての爆弾を処理して、怪我人もなし。バレリアがちょっと暴れ過ぎてボロボロだけど、そこもリリィが迅速に治療してくれたから問題ナッシング」


「そうか。こっちも取り逃がしはしたが、小春も皆無事だ」


幸いにして会議場のほうも怪我人も死者も出なかったらしい。タウラスもレイナがバルクレイを援護した事で撤退したようであったが、向こうは目的を果たせずこちらの被害はなかった以上大勝利と呼んでも差し支えないとアルベルトは思った。









その後、アルベルトは全く意図していない場所での後始末が待っていた。セーラがヤズミと戦う前に叫んだ、「私はアルの騎士」という言葉についての事情説明を求められたのだ。


「考えてみれば、セーラは宰相の娘でしかも次期当主だし当然なんだよな……」


(難儀な話だぜ人間ってのはよ)


サラマンダーのぼやきにもアルベルトは笑うしかない。本来ならセーラはエミリオの補佐として政治に携わる筈の立場であり、《逆十字聖騎士団》に派遣された特命全権大使は言ってしまえば「お嬢様のおままごと」と周囲には認識されていたらしい。しかし今回セーラは自分の持つ全てをアルベルトに捧げ、彼の騎士として生きると盛大に宣言してしまった。これにより《中央》と《逆十字聖騎士団》の同盟は易々と破棄出来なくなる(するつもりもないが)し、周囲に疑いとして持たせていた「《逆十字聖騎士団》の団長とセーラ・アスリーヌは只ならぬ仲なのでは」という爆弾が現実のものとして認識された事にも繋がっていた。


「何かもう、本当ごめんなさい。貴方の迷惑になると分かっていれば……」


「それは良いさ。まあその、何だ?単純な気持ちだけ言わせて貰えば嬉しかったしさ」


そこは偽りのない本心だった。自分でも不誠実だと何度思ったか知れないが、結局のところこうしてセーラや小春を初めとした面々が傍にいてくれる事そのものが心地よいのだと勝手に思っていた。


「さて、どっちかというと国際社会への言い訳よりもセーラの家族への言い訳のほうが大変かもな」


今までは何だかんだで父親以外は味方してくれるパターンが多かったが、今度は姉も敵である。


「お父様は私とお母様で押さえられると思う。でもその……本気でキレたルイーゼ姉様は今まで止められた例が一度も」


「すると以前お前のお母さんに止められたのは」


「まだ本気じゃなかったわ。多分三割くらい」


「三割本気か七割本気かどっちだおい」


冗談のような会話を交わし、2人で思わず笑ってしまう。


「もしもだけどさ、セーラ」


「何かしら」


アルベルトは紅茶に蜂蜜を入れながらセーラを見た。


「俺の騎士になる事、このまま《エクスカリバー》に乗る事を全面反対されて交渉の余地がなかったらどうする?」


「決まってるでしょ。家出してでもアルと一緒にいるわよ」


「……」


何が何でも承諾を取り付ける事を内心で誓ったアルベルトであった。












              続く

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