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魔女は竜と謳う  作者: Fe
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第三十五楽章 十二宮の使徒

会議は終われど、各国の重鎮達が交流する夜会はまだ残っている。しかし根っからの平民であるアルベルトにとっては以前のゴタゴタを思い出し、非常に行きたくないものであった。


「……なんて我儘は通らないわよ。さっきの今で行きたくない気持ちは私も同じだけど」


「だったら汲んでくれよセーラ……」


半分どころか七割くらい泣きの入ったアルベルトにセーラは優しく微笑みながらもきっぱり首を振った。


「絶対駄目」


「だよなちくしょー!」


寧ろさっきの今だからこそ賛成してくれた人間との交流、そして反対した人間の篭絡や根回しに奔走するのが政治というもの。アルベルトも分かっているだけに、苛立ったように頭を掻き毟りながらも腹を括るしかないのだ。


「それと、今回のは私の家でやった私的なものとは違うから」


「何が違うんだ?」


正装するというだけでも十分なのだが、この上まだ何かあるのかとアルベルトはげんなりした声をあげる。


「随伴の女性、ファーストレディが必要になるわよ」


「……なんですと?」


「だからファーストレディ。仮にも何も国家元首なのだし、公的の場に出る以上それは不可欠なのよ」


「そういう事かよ……だったら」


丁度目の前に場数も踏んでいるだろう相手がいるので頼もうかと思ったが、セーラは首を振って拒否の意を示した。


「私は《中央》側として出席しなくちゃいけないから無理。残念だけどね」


するとイルミィも無理だろうし、残る候補者は誰がいたかとアルベルトは考え込む。


「いっそ募集をかけた方が早そうだな」


「そうね。貴方が応え切れるなら」


「は?」


楽しそうなセーラに、アルベルトは一瞬ぽかんと間の抜けた顔を晒す事になった。








「なるほどな……」


時間にして凡そ一時間。《エクスカリバー》全体に艦内放送で事の次第を説明し、希望する者は名前を書いた用紙を執務室前の目安箱に入れてくれと言った結果……30分と経たない内に目安箱は一杯になっていた。


「今回は残念だけど、人間に限りましょう。今の段階で連れて行くのはお互いの為に良くないわ」


「だろうな。どう考えても晒し者になるのは目に見えてるし」


この時点でセルヴィやナオ、バレリアは候補から外れる。マオは下手をすると話すよりも食べる方を優先してしまい会の主旨を大きく逸脱する事になるので彼女も外れる。ルキナは魔族であるため十中八九戦闘になる。


「ミスティは車椅子だし、ケーナもな……」


銀髪を厭う風潮の現在、ケーナを衆目に晒すのは気が引ける。政治的に見れば銀髪であろうとも遠慮なく抱き込める度量を見せるという意味では良手なのだが、ケーナの心情を考えるとアルベルトは二の足を踏んでいた。


「こうなると」


「小春しかいねえ……!」


礼儀作法に通じ、公の場での度胸もあり、何より人間である。それにこういう場に出しても問題がないくらいの美少女でもある。


「しかしだな」


「何かしら」


「消去法で選んだなんて言われて嬉しいか?」


「……黙ってれば分からないわよ」


この時ばかりは心底アルベルトと小春の両方に同情したセーラであった。








小春はセーラの家で着付ける事が決まり、アルベルトもセーラの家で正装に着替えて居間で待っていた。


「そういえば、小春の服って巫女服とかの《東国》風な服しか見た事ねーな。ちょっと深呼吸深呼吸……」


元々小春が可愛いのは分かっている。そしてドレスに着替えたセーラがあれ程の破壊力を持っていたのだし、小春も期待……否、覚悟の必要があった。


「お、お待たせ……」


カツカツと明らかに歩き慣れていないヒールの足音にアルベルトは深呼吸を止めて振り返り、今度は普通の呼吸も止まった。


「小春……だよな……?」


小春の纏った蒼いドレスは普段のゆったりとした巫女服とは対照的に体のラインはかなりくっきり出ており、普段見せていない肩や背中の白さがより際立っていた。結んでいた髪は下ろして先端を結び、左肩から前に流してある。唇に薄らと紅を塗っている以外は余り普段と変わりない顔なのが少し目についた。


「余りお化粧はしてないんです。コハルさん、元々肌が綺麗ですから寧ろ化粧は無粋です」


ぐっとサムズアップするシャロンにアルベルトも思わず無言で返礼していた。


「あ、あのアル?お願いだから何か言って……」


「似合ってる。つかマジで」


「あ、あぅ……」


直球過ぎたのか、紅がいらない程に真っ赤になる小春を鑑賞するのも悪くないのだが、生憎とアルベルトにも時間がなかった。


「おっと時間だ。新参者が遅刻する訳には行かない、だったなセーラ?」


「そうよ。これは何処も同じね」


前以てセーラに教えられた通り、アルベルトは左手を小春に差し出した。


「ではお手をどうぞ」


「は、はい……」


腕を組むというのは《東国》育ちの小春にとって羞恥が先に来るらしく、普段のおっとりとした落ち着きが微塵もなくなっていた。


「……ねえ、シャロン」


「何ですか?」


アルベルトと小春を乗せた馬車を見送り、セーラは自分の感情を持て余して溜息をついた。


「私ってアルに恋してるのよね?」


「はい。11年越しの初恋が今再び燃え上がったと」


「にも関わらず、アルが小春と楽しそうなのは妬くどころか寧ろ『面白い』と思ってるんだけどこれってどうなの?」


自分もドレスに着替えていたのだが、二度目だった所為か肝心のアルベルトにスルーされた事にも然程腹が立たない。一体自分はどうしたのかとセーラは首を傾げた。


「多分ですけど、セーラ様はアルだけじゃなくコハルさんの事も大好きなんだと思います。だからケーナさんの『皆でアルと一緒にいる』という案に頷いたのでしょう?」


「……あ、そっか」


やっと腑に落ちた。アルベルトの事は本気で自分の全てを捧げたいと思う位に惚れ込んでいるが、それとは別ベクトルで小春に対しても『心からの親友』『同じ少年を好きになった同志』という親愛の情があるのだ。


「コハルだけじゃない、ミスティやケーナにバレリア達に対してもね」


ミスティはアルベルトの片腕として錬金術の腕を振るい、ケーナは同じ帝竜の力を持つ者として共に切磋琢磨し、バレリアとマオは良き戦友として共に戦場を駆け、セルヴィは知識の授与を行い、ナオは国土にして旗艦となる戦艦を作った。


「そして私はアルの騎士。如何なる時も彼を守り、敵を排除する……それでいいのよね」


そう呟いた矢先、セーラはヒールの踵が折れて危うく転びかけた。


「シャロン、悪いけど《エクスカリバー》に連絡を入れておいて。バレリアとマオに『すぐ出られるように』準備をしておくようにって」


「はい?分かりました」


替えのハイヒールを持って来ながらシャロンは頷いた。


「まあ、取り越し苦労で済めば1番良いのだけどね」


自分の馬車に乗り込みながら、セーラは溜息混じりに苦笑した。








昼間に挫折を味わった世界会議場が夜にはパーティの会場となる事に複雑な気持ちを抱きつつ、アルベルトは小春をエスコートしながら会場入りした。


「おお、貴公がアルベルト団長か。こうして話す日を楽しみにしておったぞ」


古めかしい喋り方をしていたのは、昼間真っ先にアルベルトに追従したルクレツィア王女だった。


「自己紹介がまだであったな。妾はルクレツィア・テスタロッサ、《西国》の一領地を預かる王女だ」


「《逆十字聖騎士団》団長、アルベルト・クラウゼンだ。俺の事はアルでいい」


「ふむ?では妾の事も気軽にルクレツィアと呼んでくれ。残念ながら愛称の類は無いので、そこは容赦願いたい」


一旦小春に腕を放して貰い、左手で握手を交わす。既に彼の右手が動かない事は知っていたのか、ルクレツィアは特に気にする様子もなく左手での握手に応じてくれた。


「それにしても《東国》の娘を連れて来るとは趣味が良いな。貴公は《西国》の出だと聞いていたから、てっきりファーストレディもそこから来ると思っていたのだが」


「生憎と《西国》出身者に知り合いがいなくてな。それに候補に挙がった中では俺が1番信頼する相手だ」


「ふええっ!?」


唐突に言われ、当の小春が素っ頓狂な声をあげる。ルクレツィアはそんな彼女を眺め、納得したように頷いた。


「なるほど、な。貴公が手元に置きたがる訳だ。貴女の名は何と?」


「え、み、三崎小春です」


「コハルか。よし、アルの所をクビになったら妾を訪ねて来るがいい。破格の待遇で迎えると約束しよう」


「おいちょっと待て。俺の見てる前でいきなり引き抜きは勘弁して欲しいんだが?そもそも俺が小春を手放すと?」


「やはり駄目か」


「駄目だ」


きっぱりと言い切り、アルベルトは思わず無意識で小春の肩を抱き寄せていた。


「ほう、見事見事……って妾がからかってどうする!?」


「おわっ!」


いきなりノリツッコミに入るルクレツィアに流石のアルベルトも面食らった。


「姫様、流石に何時ものノリから考えて清楚で淑やかな令嬢の真似事は無理があり過ぎるかと」


「バルクレイ!おのれは妾を何だと思ってるか!?」


言われてみれば、ルクレツィアの着ているドレスも小春とよく似たドレス(スタイルは均整が取れており、十分に魅力的である)なのだが正直今の今まで全く気がついていなかった。


「大体、アナスタシアとあれ程勉強したにも関わらずボロが出るどころか最初から取り繕えてないじゃないですか。諦めて素で話をしたほうが弾むと思いますが」


「む、むむぅ……」


背後で影のように付き従っていた大男はアルベルトと小春に恭しく一礼した。


「始めまして。ルクレツィア様の随伴を勤めております、バルクレイと申します。以後お見知りおきを」


「はあ、どうもこちらこそ」


アルベルトも年齢の割には背が高いほうだが、バルクレイはそんな彼でも見上げなくてはならないくらいにデカい。


「ここでは話せない事も多いだろう。いずれそちらの国を訪問するか、アルに妾の国を訪問して貰うかしたいものだな」


「確かに。何なら明日にでも来るか?どうせ《エクスカリバー》は《中央》の近くに停泊してるし」


移動する国というのはこういう時実に便利だ。アルベルトは後日色々とお互いにもっと突っ込んだ所まで話し合う為の席を設ける事をルクレツィアと約束し、他の客と会話するべく会場を歩き始めた。








「……気に入らないな」


どれくらい時間が経っただろうか。以前セーラの家で経験したものと違い、アルベルトはあくまで客の立場なので途中退場が出来ない。結果として他の老人達の好奇と色欲に満ちた視線に小春を晒し続けなくてはならないという面倒かつ腹立たしい状態になっていた。


「小春、大丈夫か?」


「う、うん。大丈夫よ。私の事は気にしないで」


と言われても、アルベルトは自然と小春を隣に立たせるのではなく自分で彼女を隠すように動き始めていた。


(それに何だ?このざわざわする感じは……)


少し遅れて到着したセーラも同じ様にワイングラス(中身はジュースだが)を手に取りながらも何処か緊張を隠せないでいるらしい。アルベルトとセーラは互いに目配せし、セーラのほうが歩み寄った。


「これはアルベルト団長、今期の会議は惜しかったですわね」


「確かに。しかしセーラ嬢、何もこんな場でまで堅苦しくする事はないと思うが」


これは前以て2人で打ち合わせていた事だ。セーラは微笑んで頷き、軽く背伸びしてアルベルトの頬に口付ける。その瞬間周囲の空気が凍った。


「そうね、私達の間に遠慮は不要だったわ。アル」


今までセーラが浮かべていた上っ面だけの笑顔ではない、年頃の少女らしい微かな恥じらいも混ざった心からの微笑を浮かべる相手が今日参加したばかりの新参者。これは周囲に対するアピールであり、同時に牽制でもあった。


「むー」


事情を知っているとはいえ、やはり面白くないのか少し頬を膨らませた小春が殊更に強くアルベルトの左手を抱き締める。結果それなりに形の良い胸に腕を挟まれる事になり(生地の薄いドレスというのもあって)感触をダイレクトに味わうアルベルトはかなりのっぴきならない事になっていたりするのだが、それは余談である。


「良い感じよコハル。上手い具合に会場が乱れたわ」


予定調和のように相手へ阿り同時に弱者を排除していく決まりきった流れしかない、停滞した夜会。そこにアルベルトとセーラが共謀して爆弾を複数投げ込んだのだ。ここから何がどう動くかは読めないが、少なくとも風穴は開いた。


「さて、これが吉と出るか凶と出るか……おい!」


「伏せて!!」


窓ガラスが割られ、次々と魔法による攻撃が飛び込む。セーラはスカートを翻し、太ももの部分に取り付けていたホルスターから抜き取った愛用の魔法剣でそれを切り払った。


「この中にいちゃ的だ!俺達で排除するぞ!!」


「了解よ」


この会議場は一切の武器持込が禁止されている(そういう意味ではセーラの行動はかなり問題である)為、アルベルトも《エクスピアティオ》が無く丸腰の状態だ。流石に右手の七帝竜は取り外し出来ないのでちゃんといるが。


「待って。コハルは確か今武器は持ってないわよね?」


「う、うん」


「だったら会場にいて。多分私もアルも貴女を守りながら戦う余裕はなさそうだし」


小春は無念そうに頷き、一緒に飛び出そうとしていたのを踵を返した。


「だったらセーラも残れ。もし会場を直接狙われたら小春や後は……まあついでに他のジジイ共を守るのが必要だろ」


「……気をつけて」


セーラもこの場で四の五の言う程我儘ではない。お互いに言葉少なに意思を交わし、パンと手を打ち合わせてからそれぞれの方向に走り出した。










「《レーヴァテイン》!」


右手に炎の剣を呼び出し、アルベルトは会議場を飛び出した。


「おや、いきなり《勇者》を釣れるとは何たる僥倖」


待っていたのは2人の男だった。


「我が名はカストル」


「我が名はポルックス」


『《ウロボロス》に席を抱く十二宮戦士・《ゾディアック》の一員』


一卵性の双子らしく、全く同じ顔と同じ声。得物も同じツインサーベルだ。


「そうかよ。だったら《ウロボロス》のアジトだとか構成員だとか、きっちり喋って貰おうかね!」


「そのような暇があるか?」


カストルと名乗った男が笑みを深くした。


「我等だけが此処に来たとは思うまい?スコルピオ、タウラスの2人も此処へ来ているのだぞ」


「じゃああいつらは……まさか!?」


会議場で新たな爆発と煙が巻き起こり、アルベルトは咄嗟に戻ろうとした。だがそれよりも早くポルックスの斬撃がそれを阻む。


「行かせぬ」


「ちぃっ!」


《レーヴァテイン》を振るって迎撃するが、どうにも普段左手にある《エクスピアティオ》がない分据わりが悪い。


「アルー!」


顔を上げると屋根から屋根に飛び移りながらマオとバレリア、レイナが飛んで来る所だった。


「アル、これを!」


マオが持っていた剣を投げ渡す。アルベルトの愛剣・《エクスピアティオ》だった。


「ナイスだマオ!」


「こっちは僕達に任せて、アルはあっちをやって!!」


《エクスピアティオ》を投げた勢いのまま体を回転させ、マオは愛用の戦斧を振り回してカストルに斬りかかる。カストルも剣で攻撃を受け止めたが、マオのパワーが大き過ぎてたまらず下がった。


「兄貴!」


カストルを援護すべくポルックスがマオに斬りかかるも、割って入ったバレリアの腕に食い込み血が迸った。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


その血で狂戦士の力を迸らせたバレリアに顔をまともに殴られ、ポルックスは道に置かれた樽を数個巻き添えにしながら地面に叩きつけられる。


「済まない2人とも、ここは任せた!」


「任されたぁ!」


「イケエエエエエ!!」


まだ微かに理性が残っているのか、言葉を発したバレリアにも頷いてアルベルトはレイナ共々走り出した。









会議場内。セーラと小春の前に2人の男が現れていた。


「なるほど、貴様らしい下衆なやり口ね」


セーラが吐き捨てると、男の片割れが不愉快そうに眉を上げた。


「悪いが俺とスコルピオを一緒にしないでくれ。俺はこいつ程外道でも鬼畜でもドSでも非常識でも好色でもチビでもない。これでも《ゾディアック》の中じゃ常識人で通ってるんだ」


もう1人の男―ヤズミはその瞬間片割れの男を蹴り飛ばした。


「何しやがる!」


「誰が飯粒だ。僕は清らかな天使のようだっつーのに」


「天使に謝れクソ外道が!毎度毎度派手にやらかして《ゾディアック》の名を穢しやがってからに!」


残酷無慈悲なほうの天使ならぴったりかもしれないとセーラは益体もない事を考えながら剣を構えた。


「まあ片方は丸腰とはいえ、あんた達と正面から遣り合えばこっちも火傷じゃ済まないかもしれないしな。取引と行こう」


「取引?」


最初に口を開いた男は軽く頷き、小春の疑問に応えた。


「俺は《ゾディアック》のタウラス。三崎小春、俺達はあんたをスカウトしに来たんだ」


「私を!?」


「そ、丁度ヴァルゴの席が空白でな。まあ奴は身の程知らずに七帝竜に手を出して消し飛んだんだが」


タウラスは「お手上げ」と言うように苦笑して両手を挙げた。


「まあ今あんたが《ゾディアック》になるとかならないとかは答えなくて良い。今は何も言わずに俺達と来てくれれば、これ以上の破壊行動も虐殺も行わずにおくと約束しよう」


「……」


小春は双方の戦力を冷静に分析する。ヤズミの強さは知っているし、現状戦えるのはセーラ1人と言っていい。そこまで考えた時だった。


「ふざけるのも大概にして貰えるかしら……?」


低く押し殺した声でセーラが言った。


「コハルを差し出して全員の命を救う?冗談じゃないわ、アルの理想を私達が穢す訳には行かないのよ」


「その結果全員死ぬかもしれないぜ?」


「それこそ冗談じゃないわ。そもそも……貴方達如きがアルと同列に立つつもり?」


セーラは不敵に笑い、剣を構えて一歩前に出た。


「私が……いいえ、私達が愛したアルベルト・クラウゼンの理想はお前達テロリスト風情が語れる程安くない。これ以上なめた口を叩くなら、アルの前に私がお前達を叩きのめすわ!」


「へえ、アンタ程の美人がそこまでぞっこんになるとは、アルベルト・クラウゼンってのは相当な男みたいだな」


「そうよ。私は初めて会った時から彼が好き」


「ちょ、ちょっとセーラ?」


流石に拙いと思い小春が止めようとするが、遅かった。


「この身全てを捧げて私は生涯アルに尽くす。改めて名乗るわ、私はセーラ・アスリーヌ。お前達の敵、アルベルト・クラウゼンを愛する彼の騎士だ!」


「見事!」


タウラスは楽しそうに拍手した。


「しかし参ったぜ。ギャラリーがこんなにいる中でそこまで盛大に惚れたと断言出来る程とはなぁ。それだけに残念だ」


巨大な鎖付き鉄球を持ち、タウラスは笑った。


「そんな女でも叩き潰さなくちゃならねえ。悪いな」


「……」


セーラはそれどころではなかった。此処には各国の要人が集まっており、そんな中で《中央》の宰相の娘が《逆十字聖騎士団》の団長に恋慕していると盛大に宣言してしまったのだ。これが後の世に齎す影響がどれ程のものか……考えるのも嫌だった。











              続く

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