第三十二楽章 激突の勇者
魔王アムドゥシアスに対抗する為に結成された連合軍。中でも個性派揃いの魔族の力を吟味しつつ、アルベルトは頭の中で着々と作戦を組み立てていた。
「魔王には最低でも一撃俺とルキナが同時に入れない事にはどんな攻撃も通らない、か」
「うむ。じゃが逆に言えばそこさえ通せば後は全員の総力で畳み掛けるだけじゃ」
無論それを簡単に許す相手ではないとは分かっている。先代の《勇者》であるアーサーですら封印が精一杯だった(これは単に《ベカトゥム》を持っていた魔王フェネクスとの共闘を拒んだ所為なのだが)相手に今の自分が太刀打ち出来るのかという不安もあった。
「幸いアムドゥシアスの軍勢は大半が悪魔やオーガで、ガーゴイルのような無機物は少数だ。なら俺の力が通じるだろう」
「キルトのか?」
元々インキュバスであるキルトは目を通じて相手の意思を掌握する力を持っているのだという。とりあえず男を襲えばどうにでもなるサキュバスと違い、インキュバスは相手の女性をその気にさせなくては精気の摂取効率が著しく悪くなるのだ。本来はそういう時に使う目であるが、応用次第では今回の作戦のように相手の行動を封じる手段としても使えるのだとか。
「余り男相手に使いたい力じゃないが、それでも軍勢の大半はこれで数分黙らせる事が出来る。その間に魔王討伐部隊が城内に突入してアムドゥシアスを討つ。これでどうだ?」
「他のメンバーは城外に残り、魔物を倒し続けると」
内部に突入してしまえば、狭い空間を活用し人海戦術に対抗する事も可能になる。現時点ではこの上ない上策に思えた。
「討伐部隊は俺とルキナが固定として、後は……」
「どちらも万能型とはいえ基本が前衛寄りの能力だからな。自衛を行える後衛……誰かいないか?」
「小春とリリィ、オールラウンダーって意味ならセーラとケーナだが」
キルトは彼女達の能力を記した書類(早い話が成績表である。許可は前以て取ってあった)を熟読し、軽く頷いた。
「やはり女性だからなのか、このメンバーだと防御面に少し不安が残るな。こちらから防御に長けた魔族を送り込んでもいいがそれだと部隊の機動力が落ちる……」
「防御に関しちゃ魔法である程度補強可能。とはいえ長期戦を考えると厳しいな」
2人して頭を抱えていると、書類を捲っていたナオが挙手した。
「《エクスカリバー》の第二の切り札を出しましょうか?」
「第二の切り札?」
「はい。第一の切り札はアルも知っての通り、あの主砲です。そして第二の切り札は《エクスカリバー》が超弩級魔導戦空母と呼ばれる所以、艦に搭載されたミスリルゴーレムの部隊の事です」
「ゴーレムか……確かに使えそうだな」
アムドゥシアスが使役するガーゴイルと同じく、石像兵という種族に分類されるゴーレムは大雑把に分けて二種類に分かれる。一つはドワーフ族が作った人工のゴーレム、もう1つは付喪神のように岩や金属が意思を持って寄り集まり変化した自然のゴーレムだ。共通しているのはどちらも高い防御力を持ち、動きは鈍い分パワーに優れた種族である事だろう。
「問題は機動力だな。ゴーレムの鈍足に付き合ってもたもたやって、そのまま囲まれてぶちのめされたら目も当てられない」
流石にぶっつけ本番という訳には行かず、会議は平行線である。
「出来る限り不確定要素は排除したいんだがな……」
「軍師の言う事じゃないかもしれんが、正直かなりぶっつけ本番になりそうだぞ?ルキナとの連携にしてもな」
確かに今のアルベルト達には時間がない。仮にも魔王を名乗る以上はルキナの実力も相当な物なのだとは思うものの、彼女の呼吸や癖も分かっていない状態では連携といってもかなりの無理があった。
「だったらアルは少しでもルキナと連携の練習をしておくべきじゃない?凡その事は決まってるし、後の細かい部分は私達でやっておくから」
セーラに促され、アルベルトは軽く頷いてルミナに目配せしてから立ち上がった。
「じゃあそうさせて貰う。後を頼んだ」
「ええ、頼まれたわ」
今から頑張ったところで、精々が付け焼刃だというのは分かっている。それでも何かせずにはいられない辺り、アルベルトも大概落ち着いてはいないのかもしれない。
訓練場でレイナを相手にしばし剣を交え、アルベルトとルキナは疲労を取るべく腰を下ろしていた。
「今日日、魔王も前線に出ないと駄目なのか?」
「うむ。近頃は何処も手が足りておらぬでな」
小柄な体躯に似合わずルキナの腕力はアルベルトと同等。足運びは剣の重さに振り回されがちな所もあるが、レイナを苦戦させる時点で十分及第点と言えた。
「アル、お客さんだよ」
タオルを投げ渡してきた織江を振り返ると、グラニが立っていた。
「グラニ?何で此処に」
「詫びと頼みがあってな」
グラニは床に座り、両手をついて頭を下げた。
「まず今回魔王を蘇らせた切欠を作ったのは俺の団員だ。そこを詫びさせてくれ」
「すると、あのヤズミとかいう奴が」
グラニは普段の豪快さが微塵も感じられない態度で頷いた。
「あいつは戻ってくるなり『嫌な予感がする』と言って荷物を纏め、こっちが何か言う前にトンズラしちまった。まさか此処まで大それた事をやらかしてくれていたとは思わんかったがな」
「それはもう良いさ。それで、頼みってのは?」
グラニを糾弾するのは簡単だが、ここでそれをやっていてもアムドゥシアスが再び封印される訳でもましてや倒せる訳でもない。アルベルトは一旦吹き上がりかけた怒りを瞬時に抑制して促した。
「俺達の傭兵団も戦線に参加する。最前線に配置してくれ」
「申し出は嬉しいが、最前線?」
「責任を取ろうという腹であるな」
ルミナに指摘され、グラニは首肯した。
「今回の一件、部下の手綱を取れなかった俺の責任だ。その辺りでケジメをつけておきたいんでな」
「言いたい事は分かった。実際人手不足だし、百戦錬磨の傭兵団が加わってくれるなら助かる。でもケジメをつけるべきなのはヤズミであってあんた達じゃないだろ?責任はそいつに取らせ、あんた達を死なせるつもりは俺にはない」
アルベルトはそう言って笑い、グラニに手を差し伸べた。
「あんたの力はよく分かっている。この時だけでも一緒に戦おう」
グラニも笑ってその手を握り締めた。
グラニ達傭兵団の戦力を加える事で陣形と作戦に修正を加える事になる。キルト達にその旨を伝え、アルベルトは後の事を任せて(というか邪魔だと追い出された)艦内を回っていた。
「あ、アル。どうしたの?」
甲板に出ると、小春が月を見上げながら座っていた。
「小春こそどうしたんだよ。まあ俺の場合は邪魔だから追い出されたんだが」
「リーダーなのに?」
痛いところを突かれ、アルベルトは苦笑しながらも腰を下ろした。
「結局は突撃隊長だし、後ろで踏ん反り返って指揮を執るガラでもないしな。魔王の防御を貫く為にはどうしても俺が前に出ないと」
なので作戦では指揮を別の誰かに任せ、アルベルトは最前線で暴れ回る事になっている。
「明日の戦闘……つーかもう戦争だな。一応志願制にしてあるから、小春も出たくないなら出る必要はない。俺やセーラへの義理立てで命張る必要はないぜ」
「見損なわないでよ。怖いのは確かだけど、でも止まりたくない」
そう言いながらも小春の手は小さく震えていた。
「アルには話したっけ。私が魔女を目指す理由」
「いや、そういえば聞いた事なかったな」
もし聞いていて忘れていたのなら失礼だが、実際小春は話していなかったらしい。苦笑しながらも教えてくれた。
「私は元々蓮華先生と同郷で、一度村が魔物に襲われた時に先生がたった一人で村を守り抜いたの。その姿に憧れて、憧れ続けてムーンライト学園へ。それが理由」
「良いじゃないか。憧れで選べる道って大事だと思うぞ」
「でもね。セーラもケーナちゃんもミスティも皆が皆それぞれ重たい十字架を背負って魔女を目指してるなか、私だけはこんな軽くて良いのかって気にもなるのよ」
アルベルトは何も言えずに空を仰いだ。満月はぼんやりと赤く輝き、美しさと不気味さを同居させていた。
「だから眩しいのかもな」
「え?」
アルベルトは小春の頭に手を置き、苦笑とも違う笑みを浮かべた。
「さっきも言ったけど、憧れっていうプラスの感情だけで選べる夢ってのはそれだけ価値があると思うんだ。重たいモン背負った奴だけが強いんじゃない、ついでに言えば人を殺した経験があったり、殺せる才能があるから偉いんでもない。まして罪の意識もないまま偉ぶれる位に面の皮が厚かったり、そんな奴でも持ち上げて神輿に乗せる奴等がいるからなんてのは持っての外だ」
甲板に大の字に寝転がり、夜空に輝く星を見上げながらアルベルトは笑った。
「多分だけど、小春の言う『重たい十字架を背負った人間』からすると小春みたいに純粋な夢を持った人間って相当綺麗に見えるんだと思う。勿論俺も含めてだが」
「そう、なのかな」
「そうさ。例えるならどんな時でも道を照らす太陽そのもの、かもしれないな」
幾らなんでも気障過ぎた。その事に頭を抱えていると、小春は微笑んでアルベルトの額に手を置いた。
「ありがとうアル。少しだけ、元気出たわ」
「ならよかった」
部屋へ戻っていく小春を見送り、アルベルトは再び夜空を見上げてくしゃみを1つした。
翌朝。例によってベッドに潜り込んでいたケーナを引っ張り出し(今回はマオとバレリアもいた)、着替えを済ませたアルベルトは共通区画に集まった仲間達の前に立った。
「今この時間にこの場へ来ているという事は、今日これから行われる魔王アムドゥシアスとの戦いに参加する意思があると見なす。もし違うのであれば今すぐ立ち去ってくれ。誰も責めはしない」
誰も動く者はいない。人間だけでなく、エルフもリザードマンもドワーフも魔族も全員がその場で立っていた。
「これから行われる戦いは、はっきり言えば先代の《勇者》が魔族と組む勇気を持てなかったのと1人の人間がやらかした馬鹿が重なった結果起こるものだ。はっきり言って俺達には縁もゆかりも……あ、俺は幾らかあるか」
背中に背負った《エクスピアティオ》を軽く叩いて笑うと、どっと笑い声が起こった。
「まあとにもかくにも尻拭いという印象が強いが、それでも奴をのさばらせておく訳には行かない!戦うぞ!!」
『おおおおおおおおーーーーーーーっ!!!』
士気は高い。そこでキルトが進み出た。
「作戦を説明する。まずは兵団をぶつけ、城までの道を拓く。その後精鋭班が内部に突入し、魔王を討つ。これだけだが、兵団は出来る限り派手に暴れ、時間を稼ぐ事が重要になるぞ」
例えるならば砂漠の逃げ水だ。つかず離れずで戦い、可能な限り多くの兵士を引き付ける事で突入した精鋭班をサポートする。これをどれだけ長期間行えるかが作戦の肝であった。
「突入メンバーを発表する。まず俺とルキナを軸に、セーラ、マオ、バズバ、トロイ、グラニ、そして小春。名前を呼ばれ、拒否する意思のない者は速やかに装備を整えてブリッジへ集合してくれ。以上解散!」
三々五々に散っていく仲間達を見送り、アルベルトは軽く息をついた。
食事を済ませ、体を温めたアルベルト達がアムドゥシアスの居城前に降り立った矢先の事。彼等は絶句していた。
「……なあキルト。俺達の作戦は魔王が玉座にいる事を前提に立てていたよな」
「……そうだな」
「魔王が最初から軍勢の先頭に立って待っている場合はどうすればよかったんだっけ?」
作戦が前提から崩れた。まさか魔王が最前線で軍を率いているとは思わなかったのだ。
「いや、そもそもルキナの前例があるのにその可能性を考えてなかった俺達が間抜けだっただけか」
苦笑いするしかないが、対するアムドゥシアスは妙に愉しそうであった。
「よく来たな《勇者》よ。だがこれから命のやり取りをしようという時に、そのうるさい雑兵は無粋極まりないわ」
「っ!?総員退避ーーーーーーーーーー!!」
アムドゥシアスの手から衝撃波が広範囲にわたって放たれるのと、アルベルトの指示で兵士達が慌てて後退したのは殆ど同時だった。
「ええい、次元断!!」
ルキナが《ベカトゥム》を振るい、空間を斬り裂く。放たれた衝撃波は大半がその裂け目に飲み込まれ、何とか被害は軽微で済んだ。
「馬鹿にしおって……今度はこちらが返礼させて貰うぞ!!アル、合わせぃ!!」
「分かった!」
再び《ベカトゥム》が光を放ち、ルキナは声を張り上げて唱えると同時に振り下ろした。
「メテオ・ヘヴィレイン!!」
「やるぞヒューベリオン!!」
ルキナの放つ魔法で再び空が裂け、無数の隕石が土砂降りのように降り注ぐ。アルベルトも跳躍して《アポカリプス》を呼び出し、2つの砲身を接続して広域破壊砲に切り替えてから引き金を引いた。
「悪いな。相応の返礼はさせて貰った」
「ふん、所詮貴様等の力にも耐えられん程度の力しかない雑兵よ。余の戦いには相応しくない」
まるで弱ければ生きる価値がないとでも言うような台詞にアルベルトは軽くカチンと来た。
「そうかよ……でもそれはお前の理屈だろ?俺達が勝ってしまえば、別に力があろうがなかろうが生きてても構わないよな」
「当然だ。強き者が生き残り、己の法を敷く。それこそが王なのだからな」
「ならば問う!魔王アムドゥシアスよ、貴様にとって王とは何じゃ!?」
ルキナの問いにアムドゥシアスは豪快な笑い声をあげて答えた。
「民の……いや、全ての上に立つ者だ!」
「ではアル、そなたは何と答える?」
「……民の、前に立つ者」
安全圏で踏ん反り返り、命令を下すだけの存在に誰が付いて来るだろうか?そういう意味ではアムドゥシアスも王を体現しているのかもしれない。
「よろしい。では始めようぞ、魔王アムドゥシアスよ!」
「来るがいい、血の穢れた小娘が何処までやれるか見せてみろ!!」
「俺を忘れるなよ魔王!俺はアーサー程優しくはないからな!!」
アルベルトは神剣を、ルキナは魔剣を手に走る。アムドゥシアスも右手に持っていた巨大な鎖付き鉄球を大きく振りかぶった。
「ぶるあああああああああああああああああああああああ!!!!」
「テュポーン!弾け!!」
(心得た!!)
アルベルト達の間に割って入るように召喚されたテュポーンが角を駆使して鉄球を弾き飛ばす。しかしその後に追撃出来なかったところを見ると、角にかかった負荷は相当だったようで連発は出来ないと判断せざるを得なかった。
「だがこの瞬間を待ってたぜ!」
地面にめり込んだ鉄球と、それに繋がれた鎖を足場にアルベルトは一気に駆け上がる。注意を逸らすようにルキナも飛び、2人はほぼ同時にアムドゥシアスの胸板に肉薄した。
「甘いわぁ!!」
「いいっ!?」
しかし流石は魔王と言うべきか、アムドゥシアスはめり込んだ土と岩盤ごと鎖を引き戻して鉄球を振り回す。そのまま背中に直撃すれば如何にアルベルトと言えど間違いなく即死だ。
「うおらああああああああああああああああ!!」
そこにグラニとバズバが割って入り、それぞれの得物を叩きつけて鉄球を弾いた。
「くあああああ!こいつは腕が痺れるぜ!」
「全くだ。そう何度も出来んな」
口ではあれこれ言いつつも、グラニの表情は愉しげだ。バズバも珍しく口元を笑うように歪めていた。
「風よ、我が意に従い力を此処に。我が愛おしき友の疾き助けとなれ!!」
小春が術を発動させ、アルベルトとルキナのスピードを強化した。再び叩きつけられた鉄球を戻す隙を突いて同時に斬り付けた。
「ぐおおおおおおおおおお!!」
アムドゥシアスを包む障壁が白と黒の光に包まれて消失し、初めてその頑健な肉体から血が噴き出した。
「今だ皆!一気に畳み掛けろ!!」
「ええ、分かってるわ!」
セーラが剣を抜いて走り、武器を握るアムドゥシアスの右手に斬り付ける。
「甘いわ小娘がああああああ!!」
腕の筋肉を締めたのか、セーラの剣を食い込ませたままアムドゥシアスは豪腕を振り回す。たまらずセーラは吹き飛ばされるが、地面に叩きつけられる前にアルベルトが召喚したリンドヴルムに助け出された。
「大丈夫か!?」
「え、ええ。何とか」
アルベルトとセーラを追撃しようとするアムドゥシアスに対してはリリィが砲撃で左目を狙い撃ち、動きを止めた所で背後に回り込んだバレリアが両手の爪を駆使して左肩の肉を抉り出す。更にむき出しになった骨を噛み砕く事で完全に左腕を沈黙させた。
「じゃあ右は僕が貰うからね!」
すかさずマオが全身のバネを利用して跳び上がり、戦斧ごと回転するように叩きつけて右肩を斬り落とす。しかしアムドゥシアスは痛みに苦しむどころか、心底愉しくて仕方がないとばかりに笑い出した。
「くははははははは!面白い、実に面白いぞ貴様等!余も長い事生きてきたが、これ程に血沸き肉踊る戦いは始めてだ!」
「そりゃどうも……っと!」
体当たりを仕掛けるサラマンダーの背中と頭を足場にして駆け上がり、アルベルトはアムドゥシアスの右角を根元から斬り飛ばす。魔力の流れが乱れて動きが揺らいだ隙を突いてルキナも剣を振り上げた。そこから放たれる豪雷が小春の放った術と混ざり、集束した光線となってアムドゥシアスの腹をぶち抜いた。
「魔王アムドゥシアスよ!貴様は確かに強く、単純な力だけなら妾達の誰よりも強かろう。だが貴様は1人じゃ!」
「俺達は1人で戦ってはいない。お前が1人切り捨てる間に1人と手を結んだ。お前が十人見捨てる間に俺達は十人と仲間になった。お前が百人犠牲にする間に俺達は百人の友を得た。それが俺達の勝因であり、お前の敗因だ!」
アムドゥシアスは愉快そうに笑い、どっかりと腰を下ろした。
「なるほどな……確かにそれなら余がこうまで追い詰められるのも道理」
ぽっかりと開いた穴から噴き出す血液に苦笑しつつ、アムドゥシアスは大の字に横たわった。
「認めよう……貴様等の勝ちだ。さぁ、とどめを刺すがいい」
「悔い改め、生きるつもりはないのか?」
《エクスピアティオ》を降ろさずにアルベルトは問いかけた。
「余の恥をかかせるつもりか?貴様も戦士の端くれならば、死に様を穢すような真似はするな」
「アルよ、妾からも頼む。どうかその手で引導を渡してやって欲しいのじゃ。それが《勇者》の勤めでもあるが故に、な」
「……分かった」
躊躇いは消えないが、アルベルトはアムドゥシアスの体に登り心臓の部分で《エクスピアティオ》を振り上げた。
「魔王アムドゥシアス、敵でありながら俺達に総力戦を仕掛けさせたその力に敬意を表そう。そのお陰で俺達は、また一歩強くなれた」
「……先に地獄で待っている」
捨て台詞のような言葉を最期に、魔王はこの世から消滅した。
アルベルトは振り返り、駆け寄って来た仲間達の前で剣を振り上げた。
「俺の……いや、俺達の勝ちだ!魔王は此処に打ち滅ぼされ、当面の危機は去ったのだと宣言する!!」
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
皆の歓声が爆発し、誰も彼もが構わずに涙を流して抱き合い喜びを分かち合った。
「アル」
セーラが微笑んでアルベルトに肩を貸す。小春もそれに付き添い、アルベルトは2人に支えられながら《エクスカリバー》へと戻って行った。
その後。飲めや歌えの大騒ぎになる中で、グラニは大きなフライドチキンを齧りながらアルベルトの集めた仲間達を眺めていた。
「にしてもお前、よくこれだけかき集めたな?」
「まあ成り行きでな」
アルベルトが差し出したワインのボトルを受け取り、豪快にラッパで飲み干してグラニは口を拭った。
「あらアル。料理を切らしてますよ」
「悪いなトリア」
近づいて来たトリアがアルベルトの皿に手際よくサラダとステーキを乗せていく。その彼女の顔をまともに見た途端、グラニは心臓がひっくり返りそうになった。
「あ、アイラなのか!?」
「アイラ……?」
トリアは何を言い出すのかと分からない顔でグラニを見上げた。
「アイラは私の死んだ母の名ですが、貴方は一体……」
グラニは混乱しながらもトリアの肩を掴む。彼女の顔が痛みで歪んだのを見て慌てて手を離したが。
「アイラは俺の妻の名だ。つまりお前は俺の」
「嘘です!」
それだけ叫んでトリアは走り出す。まるでグラニの正体を拒絶するような声は、今までアルベルトが聞いた事もない位に鋭く悲鳴のようであった。
続く




