第二十九楽章 勇者の騎士
《勇者》を歓迎する為に開催されたアスリーヌ家主催の夜会。しかしてその実態は《勇者》がどういう存在なのかを知らしめる為の見世物とも言えた。
(疲れる……!)
着慣れない礼服で着飾ったセーラをエスコートし、全く縁のなかった空気に晒されているのだ。アルベルトのストレスたるや筆舌に尽くしがたいものがあった。
「えーっと……」
さっきから目の前で恰幅の良い貴族が何やら喋っているのだが、余りにも早口なので聞き取れない。とりあえず「私の家柄は云々」と「娘が今年で16になり云々」は辛うじて聞き取れたが、それだけである。適当に話を切り上げてしまいたいが、そもそも口を挟む隙がない。ある意味ではレイナ以上の強敵である。
「ストレイズ卿。あちらで父がお話したい事があると」
「これはセーラ様。あいや、伝言役をさせてしまい申し訳有りません」
セーラの助け舟で貴族は転がるようにカルロスの元へと向かった。
「助かったぜ」
「アルのほうが主賓で立場が上なんだし、話してる暇はないって突っ撥ねてよかったのに」
苦笑するセーラに、アルベルトは同じように苦笑いしながら肩を竦めた。
「主催してるのはセーラの家だからな。多少は良い顔しとかんと、後で立場が悪くなったら大変だろ?」
「そんな事を気にしてられる余裕なんてないでしょうに。でもありがと」
そう言いつつセーラは皿に料理を幾つか見繕って持って来てくれていた。その甲斐甲斐しく世話を焼く姿に周囲から唖然とした空気が流れてくる。
「なあ、セーラ。お前普段はこういう夜会でどういう態度を取ってたんだ?」
「適当に挨拶周りして、家名以外に取り得のないドラ息子達を適当にあしらったら部屋へ戻ってたわ」
「……」
驚く筈である。そんな夜会嫌いの令嬢がこうして1人の少年の世話を焼いているのだから(元々セーラの内面は世話好きな性格でもあるが)。ついでに彼女の一言で周囲にいた同年代の貴族が何人か撃沈していた。
「とはいえ、俺は逃げる訳に行きそうもないな」
「逃げるって人聞きが悪いわね。まあ事実なんだけど」
肩を竦め、砕けた態度を取る姿も驚きなのだろう。周囲の空気を敏感に感じ取りながらアルベルトはこちらをおずおずと見ている少女達にもちらりと目を向けた。
「ちょっとした珍獣扱いだなこれじゃ。折角だし、誰が信用出来るとか教えてくれるか?」
「そうね。あそこで家族で来ている人がいるでしょ?」
セーラの姉であるテレーズと談笑しているアルベルト達と同年代の少女に目を向ける。亜麻色の髪を長く伸ばし、蒼い瞳を持つ美しい少女だった。
「彼女の名はイルミテシア・エンドース。後ろのほうにいるグレイオ・エンドース卿の一人娘で、《中央》ではテレーズ姉様に次ぐ博識で知られているわ」
「因みにその父親のほうは?」
「お父様の古い友人で、《中央》でも屈指の武闘派よ。曲がった事が大嫌いな性格だから信用しても良いと思う」
アルベルトは少し考える。セーラの事は無論信じているが、《中央》との関係維持を彼女だけに背負わせて良い筈はない。1人でも多く信用出来るパイプを確保しておくのは当然であると言えた。
「よかったら紹介してあげてもいいけど、どうする?」
「そうだな。両方と話してみたい」
セーラは微笑んで頷き、アルベルトを先導してイルミテシアに近寄った。
「久しぶりねイルミィ。変わりないようで安心したわ」
「セーラ!貴女も元気そうでよかった。いきなり大使になって独立国家へ飛び込んだと聞いたから心配していたのよ」
セーラは曖昧に笑い、アルベルトを示した。
「紹介するわ。噂になっている独立国家の元首、アルベルトよ」
「紹介に預かりました、アルベルト・クラウゼンと申します。以後お見知りおぎっ!?」
思いっきり舌を噛んだ。慌ててセーラが差し出したジュースで何とか舌の痛みを誤魔化していると、イルミテシアはくすくすと笑みを零した。
「噂はかねがね窺っておりますわ。《北国》を相手に果敢に挑み、見事討ち果たした武勇には父も感心していましたのよ」
「そ、それはどうも……」
一瞬件のグレイオを窺ったが、今までアルベルトに殺気をぶつけたりしていた父親達と違い何処か面白そうな表情をしていた。緑の髪を短く刈り、全身を鍛えぬいた筋肉と頑健そうな鎧で覆った武人然とした男だからなのだろうか。
「時に……」
イルミテシアの目が好奇心で輝いた。
「アルベルト様はドワーフの技術で建造された戦艦を所有されていると窺っています。どの様な原理で動いているのかご教授頂いてもよろしいですか?」
「へ?」
アルベルトは呆気に取られ、背後でグレイオが肩を落として脱力した。
「あーっと……俺はその辺門外漢なもんで。後日技術者を紹介しますので彼女から訊いて貰えれば」
「そうですか?ではお願い致します。それと……余り無理のない言葉を使われて結構ですよ?私の家は貴族といえど伯爵位ですから、貴方の方が上なのですし」
「そうなのか?じゃあお言葉に甘えて、俺の事はアルでいい。そっちも出来ればセーラと話すみたいに気楽にやってくれると助かるな」
「分かったわ。では私の事はイルミィと」
イルミテシアは握手を求めたが、アルベルトは苦笑して左手を出した。
「済まない。右手は訳あって動かせないんだ」
「そうなの?だとしたら随分と大変なのね」
左手での握手に切り替えていると、背後のグレイオが何故かガッツポーズしていた。
「そうだわ。父も紹介するわね」
「助かる」
イルミテシアに話を振られ、グレイオは慌てて背筋を伸ばして咳払いした。さっきまでの百面相は大体アルベルトに確認されているという事実に気付いているのかどうかは微妙だが。
「紹介に預かったグレイオ・エンドースだ。君の噂は聞いているよ、アルベルト君」
「どうも。アルベルト・クラウゼンです」
先に娘と馴れ馴れしい口を叩いていたにも関わらず、殺気をぶつけてこない父親というのは初めてでアルベルトは安堵半分困惑半分であった。
「娘が気を許したのだし、気楽に話してくれて構わんさ。下手に言葉を強要してまた舌を噛まれてはたまらんしな」
「う……見られてた……」
まだヒリヒリと痛みの残る舌を持て余しながら苦笑いするアルベルトにもグレイオは鷹揚に笑った。
「此処では少し他所の耳が心配だな。場所を変えるか」
「はあ、まあいいっすけど」
セーラに目配せすると軽く頷いていたので、グレイオと共に庭まで出た。何か間違っている気がしないでもないが。
「さて、此処ならいいだろう。君は何を望んでいるのかね?」
「……俺が望むのは、調和された世界です。人間もエルフもドワーフもリザードマンも竜も……出来るなら魔族とだって仲良くやっていきたい。最初こそ学友を助けに行く為の方便として作った独立国家ですが、今は新たに出来た俺の夢を叶える為に使いたいと思ってます」
グレイオは「難儀な男だな」と苦笑し、星が輝く夜空を見上げた。だがこれはアルベルトの偽らざる本心であった。
「幸いにして俺には七帝竜が宿っています。彼等を通じて竜族の協力を取り付ける事は可能、そしてエルフやドワーフにリザードマンとも親交を持つ事が出来た。100年前に途絶えた交流を復活させる事が出来たんだ。俺に出来て他の人に出来ない道理はないでしょう?」
「やれやれ……またとんでもないな君は。確かに私個人としてはその理想に深く共感するし、協力も惜しまない。だがな、アルベルト君は聖オスケイア教を知っているかね?」
唐突に覚えのない単語を出され、一瞬アルベルトの目が点になった。
「いえ、田舎育ちで宗教には疎いもんで」
「そうか。これは《空白の歴史》以前より世界で信仰されている宗教でね。『人よ人のままであれ』という教典を元に活動している」
「人のままで?」
「そうだ。人は人とのみ関わり、その分を超えずに生きていく事こそが幸福であると記しているんだ」
気に食わない。アルベルトの率直な感想だった。セルヴィやバレリア、ナオにマオと出会わなければミスティを助け出す事は出来なかった。そもそも彼女達と出会えたのも七帝竜のお陰なのだ。
「彼等が君を見てどう考えるか分からん。無論アルベルト君程の武勇があれば、自分1人の身を守るくらいは容易いだろう」
「でもその力で俺の周りにいる皆を守れるかは分からない、ですか」
グレイオは頷いて自分の腰から提げた剣の柄に拳を置いた。
「その通りだ。《逆十字聖騎士団》に所属しているのは皆一騎当千の猛者達だろうが、それでもな」
溜息をつき、グレイオは掌の中で何かを書いてくしゃりと丸めた。
「本当なら侍女にでも頼めば良いんだが、手が空いたらで良い。ゴミを捨てておいてくれ」
唐突にそう言ってアルベルトに紙くずを1つ放った。
「……分かりました。寝る前にでも捨てておきますよ」
グレイオが軽く笑って屋敷へ戻っていくのを見送り、アルベルトは自分も欠伸を噛み殺しながら屋敷へと戻った。
その後、何を食べたのかも覚えていない有様でアルベルトは宛がわれた部屋へ戻った。
「さて……」
グレイオから投げ渡された紙くずを拡げると、そこにはエンドース家は長い事件の聖オスケイア教の手の者によって脅迫されている事が記されていた。現状で公に多種族との交流を掲げるアルベルトと《逆十字聖騎士団》を支持する事は出来ないが、それでも個人的にはその理想に共感した証としてイルミテシアを留学という形で《エクスカリバー》に乗せて欲しいという旨も記されていた。
「セーラ、これはどう見る?」
「見たままで大丈夫よ。エンドース卿は腹芸や化かし合いを嫌っている、今時珍しいくらい真っ直ぐな人だから信用していいわ。それにイルミィを《エクスカリバー》に乗せるのは多分貴方と彼女をくっつけたいんでしょうね」
さらりと言われ、アルベルトは盛大に咽た。
「何故に!?」
「貴族の世界では十代半ばになったらぼちぼち政略結婚にせよ何にせよ、ある程度将来を共にする相手を決めておかないといけないのよ。でもイルミィは貴方も見た通りあの調子でしょう?色恋沙汰より本を読んで学問を学ぶほうがずっと楽しいみたいで、エンドース卿の数多い頭痛の種だったの」
「そこに体よく彼女の好奇心を満足させそうな男が出て来たんでこれ幸いと」
セーラは微苦笑しながら頷いた。
「勿論それはついでで、本当はイルミィの知的好奇心を満足させてやりたいのと安全を確保したい親心でしょうね。今のところ《エクスカリバー》はこの《逆十字世界》で1番安全な場所でしょうから」
「まあ確かに」
2人でしばし笑い合い、セーラは唐突に真剣な表情になってアルベルトを見据えた。
「聖オスケイア教について聞いたのよね?」
「ああ。俺の理想にとって最大の邪魔者になるみたいな感じで」
セーラは頷き、夜会の席から失敬してきたクッキーをアルベルトにも渡してから自分のを口に入れた。
「私は学園に入学する前、宗教とは名ばかりのテロリスト集団を殲滅する仕事に従事した事があるから分かるわ。彼等に和平も説得も在り得ないと」
「また過激だな」
セーラは残ったクッキーを紙の上に乗せてテーブルに置いてから続けた。
「1つの思想に凝り固まった集団というのはそれだけ強いの。その思想に対して一切迷いも疑いも抱かないからこそ、その敵に対して容赦も情けも持たない。《北国》で皇帝を倒した時とは違い、本当に最期の一兵まで殺し尽くすくらいのつもりじゃないと」
「……本当に、無理なのか?」
「アルの気持ちは分かるわ。でも1つの思想や支柱の元で一枚岩に纏まった集団がどれ程強いか、それを私達は身を持って知っている筈よ。他ならない《逆十字聖騎士団》の強さがそれだもの」
生まれも育ちも種族すらも違う彼等が1つの場に集い、共に力を合わせて戦えるのは偏にアルベルトの存在故だ。彼を支えに、その背中に自分達の力と夢と希望を託したからこそ皆が迷いなく戦い続ける事が出来るのだとセーラは説いた。
「思想の違いはあれど、その形は俺達と何も変わらない。だからこそ相容れないか」
「そうよ」
アルベルトは頭を押さえながら椅子に座り直した。
「……それでも」
「それでも?」
「それでも俺は、手を伸ばす事を諦めたくない。ヒューベリオンとだって言葉という杯を交わし、友となれたんだ。それにセーラ」
アルベルトは迷いのない目でセーラを正面から見た。
「セーラだけじゃない。小春にケーナ、リリィ、ミスティやアルトにシャロン、トリア、エミリオ達だって本来なら俺は友達どころか出会う事だってなかった。でもこうして俺達は盟友として、仲間としてあれる。だったら俺は例え相容れない相手だとしても手を伸ばし続けたい」
「……そうね。そんな貴方だからこそ皆が集まり力になるのかもしれないし、私は救われたのかもしれないわね」
セーラは綺麗な笑顔を浮かべて席を立ち、そっとアルベルトの足元に跪いた。
「せ、セーラ!?」
「我が剣と誇りにかけて、魔法騎士セーラ・アスリーヌは貴殿をお守りする事を誓います」
思わず立ち上がっていたアルベルトだったが、セーラが顔を上げた事で背筋を正した。
「アル、右手を貸して」
「こ、こうか?」
戸惑いながらも右手を差し出す(肘から上は動くので、辛うじてではあるが何とかセーラの前に出せた)と、セーラは微笑んでその手を取り甲に口付けた。
「この瞬間より、私は貴方の騎士になる。アルの敵は全て……私の剣で排除してみせるわ」
「……せーちゃん、本気なのか?」
あえて昔の呼び方で呼ぶアルベルトにセーラは笑って頷いた。
「当然よ。あーくんが《逆十字世界》を1つに纏めるのであれば、私はそれを阻む全てから貴方を守る。だからあーくんは何も気にせず、全力で走り抜いて」
「分かった。なら俺も誓おう」
セーラを立たせ、その髪に触れてアルベルトは言った。
「俺は全てに手を伸ばす。この世界に生きる全てと共存出来る世界を作り上げる。それがミスティとの約束であり、同時に俺の夢でもあるんだ。必ず叶える、だから付いて来てくれ」
「ええ、何処までも」
セーラはアルベルトの頬に手を添え、ついと背伸びして唇を重ねる。
「言ったでしょ?今までは唯初恋の相手というだけだったけど、これから私は貴方の騎士。まあ『我が騎士』なんて呼ばれてもアレだから、今まで通りの呼び方でいいけどね」
「そりゃ助かるな。我が騎士」
「こ、こら!」
顔を赤くするセーラに思わず笑ってしまいつつ、アルベルトは窓から空を見上げた。
後日。前以て根回しをしていた事が功を奏したのか、《中央》との同盟締結は滞りなく進んだ。
「では三日間でしたが、お世話になりました」
「いえいえ、何もお構い出来なくて申し訳なかったわ」
セーラとよく似た笑い方をする彼女の母、ミーティアが優しく微笑んだ。
「それにしても、まさかセーラの初恋相手がこうして目の前に再び現れたというのは何とも運命染みてるわね。貴方、そうは思わない?」
「……思いたくない」
妻が味方してくれなくて拗ねているのか、カルロスは何処か子供染みた態度でそっぽを向いた。
「また何時でもいらっしゃい。貴方とその仲間なら歓迎するから」
「どうもありがとうございます。それと、料理美味かったです」
「あらありがとう。セーラを頼むわね」
アルベルトはふと目の前の女性はセーラが騎士の誓いをたてた事を知っているのではないかと思ってしまう。だが彼女の笑顔からは特に何も感じ取る事はなかった。
「ええいちょっと待て!その前に私と一度勝負しろ!!」
「へ?」
アスリーヌ家長女ルイーゼが剣を抜いてアルベルトに迫った。
「私が手塩にかけて育ててきたセーラを貴様はああああああああ!!妹を託すに相応しい男か、この私が見極めて……あれ?」
何時の間にか剣が無くなっている事にルイーゼはポカンとなる。その背後でミーティアはルイーゼの剣をゆっくりと振り上げた。
「えい」
「がはっ!」
刃の腹で頭を殴られ、ルイーゼはバタリと昏倒した。
「この子は私からよーく言い聞かせておくから安心して行ってらっしゃい。セーラも気にせずにね」
「は、はい……」
それでいいのかと思いつつ、此処でもたついていたらまたドンパチになるかもしれないと思い直す。何しろ《エクスピアティオ》はミスティが強化の為に預かっているので、今のアルベルトには七帝竜から貰った武器しかないのだ。
「ではお父様、お母様、お姉様……行って参ります!」
「ええ、行ってらっしゃい」
馬車に乗り込み、去って行く娘を見送りミーティアは大きく手を振った。
道中でイルミテシアと合流し、アルベルトとセーラは再び《エクスカリバー》へ戻った。
「あ、アルお帰りなさい!」
ぱたぱたと小春が駆け寄って来た。
「ただいま小春。何かあったのか?」
彼女にしてはえらく慌てた様子にアルベルトも少し身構える。
「世界規模でトラブルがあった訳じゃないんだけどね。ちょっとお客さんが来てるの」
「客?」
小春は「人間じゃないけどね」と苦笑して案内した。
「えーっと……」
セルヴィが応対しているのは1人……というか一羽の少女だった。但し下半身は羽毛に覆われ、足は鍵爪。両手も柔らかそうな白い翼になっており、胸元も白い羽毛で隠された魔物の少女であった。
「どういう種族なんだ?」
「あらお帰りなさいアル。この子はハルピュアのヴィーヴィ、貴方に助けを求めてきたんです」
ヴィーヴィはピィピィと甲高い声をあげるが、アルベルトには何を言っているのかさっぱり分からない。
「セルヴィ、通訳してくれ」
「分かりました。ヴィーヴィは元々《中央》の森で暮らしているんですが、最近になってその森でハルピュアを狩る者が増えてきたらしいんです」
ヴィーヴィは泣き出しそうな顔で更に捲くし立てる。
「生来ハルピュアは樹木の枝に営巣する種族で、その巣に拾った宝石やコインなんかを溜め込む習性を持っています。ハルピュア狩りをしている者達はそれも目当てでやっているんでしょうね」
「それもって事は、ハルピュア自体にも狩られる要因があるのか?」
「羽は魔力の導線として高い効果を持つ素材になりますし、爪や足の骨は弓矢を作るのに適しています。それに最近では肉も食用として取引されるようになったらしくて」
「……」
アルベルトは頭を抱えた。
「分かった。セルヴィ、エルフ居住区の森はまだ余裕があるよな?」
「はい。アルの許可さえ貰えるなら今すぐにでも彼女達を引越しさせる事が出来ます」
それでアルベルトの腹も決まった。
「《エクスカリバー》の進路を《中央》のハルピュアが暮らす森へ向けろ!速やかに現場へ急行、ハルピュア達の救出作戦を敢行するぞ!!」
『了解!!』
「あ、それとサリ!」
「何でしょうか?」
「彼女の部屋を用意しておいてくれ。イルミテシアといって、セーラの知り合いだ」
このまま彼女を待ちぼうけさせてもよくない。アルベルトはイルミテシアをサリに任せ、こちらに感謝の意を示すように額を地面に擦り付けるヴィーヴィの頭を撫でた。
「安心しろ。生き残っているハルピュアは全員助けてやる」
「……ア」
「ん?」
ヴィーヴィは必死に何かを言おうとしている。アルベルトは辛抱強くそれを待った。
「ア……ア、リ……ガト……」
「どういたしまして。でもそれは皆救出出来てからの話だ」
アルベルトはミスティから《エクスピアティオ》を受け取りに練成室へと向かった。
同時刻。《中央》の酒場にて、小柄な少年が傭兵仲間と戦利品を分けていた。
「しかし良いのかよヤズミ。旦那に黙って狩りなんかやって」
「今は休暇中だし問題無いでしょ。それに僕は魔物狩りをしただけなんだしさ」
正直な所、ヤズミと呼ばれた少年はハルピュアという魔物をそれ程重要視していなかった。さして強くもなく、縄張り意識が強いだけの魔物にこれだけの金銭価値があると知っていたらもっと早く狩りに来ていた位だ。
「まあ確かに弱いし積極的に攻撃して来ない相手だからな。楽に稼げて小遣いガッポリって訳だ」
「そういう事。じゃあ僕はもう一回行って来るよ」
サディスティックな笑みを浮かべ、ヤズミは刀を担いで立ち上がった。
「今度は卵も狙ってみようかな?」
そんな事を呟きながら彼は酒場を出て行った。
「恐ろしいガキだぜ。グラニの旦那も手を焼いてるらしいしな」
「味方としちゃ頼もしいが、友達にはなりたくないタイプだ」
傭兵達は軽く身震いしてそう言った。
続く




