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魔女は竜と謳う  作者: Fe
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第十九楽章 竜は少女と共に

小春達が医務室から出て来れるまでの日数、アルベルトはその時間を遺跡周辺の掃討や内部の探索と見舞いに費やしていた。早い話が、《暁の魔女騎士団》を手伝うアルバイトである。


「お前が最後の1人だ。何か言い残す事はあるか?」


遺跡の地下二階、その一角に居住区のように荷物を運び込まれた部屋。そこでアルベルトは盗賊団の生き残り(前回の戦いでは怯えて出て来なかったらしい)の四肢を切断して壁に叩き付けてから問いかけた。


「ば、化物め……!」


「まあな。だが!」


《エクスピアティオ》を振り下ろし、盗賊を頭から両断してアルベルトは吐き捨てた。


「性根はまだ人間のつもりだ。お前等よりはな」


後続で追いついてきた《暁の魔女騎士団》の団員に最後の1人を仕留めた事を報告してアルベルトは一旦戻る事にした。







「こんなに貰っていいのか?」


一応の仕事終了が言い渡され、アルベルトは二週間分の報酬を受け取ったのだがその額に首を捻っていた。


「……ま、いいか。金は持ち過ぎて困るってこたぁないし」


折角だし何に使おうかと思いながら学園都市をぶらついていると、見慣れない行商人の娘が来ているのが見えた。


「さあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!《北国》で有名な魔女、クリスタ・ペンドラゴンの作ったアーティファクト売るよ!」


(わあ胡散臭え!)


流石に声には出さなかったが、表情にはくっきり出ていたらしい。行商人は不快気にアルベルトを睨んだ。


「何だい何だい!天下のムーンライト学園生だっていうのに、私のお師匠様の力を感じ取れないってのかい!?」


「いやそもそも魔女が自分の作品を売り捌くなんて聞いた事ないぞ!」


魔女が自分の作った物を売る事は実のところ珍しい話ではないのだが、それはあくまで薬品やお守り程度の物だ。少なくとも他の魔女が扱える魔力の篭ったアクセサリー等が出回る事は滅多にない。


「う……いやそりゃ確かだけどね。お師匠様、自分のお金とかすぐ貧しい人に分けたりするから自活能力が皆無で」


「……どんな女神だよそりゃ」


思わず呆れると、行商人は目を見開いて(しかも涙目)アルベルトに取り縋った。


「でしょ!?ていうか聞いた事ない!?『《北国》で結婚したい魔女№1クリスタ・ペンドラゴン』って!」


「いや知らない。俺は《西国》の田舎生まれだから《北国》で有名な魔女なんて」


「ぶあ田舎者!」


一瞬「はっ倒すぞコラ」と物騒な事を考えたアルベルトを誰が責められようか。


「という訳でお願い。幾つか買って」


「あのなぁ、どういう訳だよったく……そもそも俺は一年生だから学園都市のショップは利用出来ない決まりが」


「大丈夫大丈夫。私は登録されてない行商だから問題ないよ」


アルベルトは一旦学園に確認を取り、許可を取ってから彼女が並べた商品を見た。


「例えばそうだねぇ……これなんかどう?身につけると相手と心でやり取りが出来るイヤーフック。1セット2000Stだよ」


「結構張るな……」


ぽんと払える額ではあるが、一般の相場で見れば吹っかけているとも取れる金額である。少なくとも見た目はお祭の屋台で売っていそうなイヤーフックなのだし。


「じゃあこっちの完全防御結界を展開出来るブローチもつけて3500Stでどう?因みにこのブローチを単品で買うと2000Stだけども」


アルベルトが無言でブローチを手に取っていると、何を誤解したのか行商人は焦ったように袋を探った。


「じゃ、じゃあ更にこれも付けちゃおう!敵の属性が何かを瞬時に理解出来るようになるカチューシャ。お値段纏めて5000St!ていうかこれでも駄目ならもう私の純潔をつけるしか」


「アホか」


アルベルトは頭をかき、さっき受け取った袋から金貨を数枚取り出して彼女の手に握らせた。


「セット価格じゃなくてもいいから他の商品も見せてくれ。後そのセットは買うけど純潔はいらん」


「ま、毎度ですー!」


いそいそと袋から商品を取り出す彼女の手元を見ていると、1つ気になる物があった。


「この短剣みたいなのもアーティファクトなのか?」


「おっとそいつに目をつけるとはお目が高い。それは言ってしまえば解呪の力を込めた短剣でね、流石にエンシェント級は無理だけど人間の魔導師やエルフの呪いくらいだったらこの短剣で一突き」


それは確かに便利な道具である。


「で、肝心の値段は?」


「色々買って貰ったしねー。10000と言いたいところだけど、こっちもお勉強して8000Stでどうだ」


「……もう一声」


流石に結構な額なので、アルベルトも少々二の足だ。


「むー……じゃあ7000St!これ以上は銅貨1枚だってまかんないよ!」


「よし買った!」


「売った!」


金貨を渡し、商人から短剣を受け取ると彼女は嬉しそうに荷物を纏めて立ち上がった。


「じゃあこれで私は店仕舞い。縁があればまたね!」


パタパタと港へ走って行くのを見送り、アルベルトは思いがけずに良い土産が手に入った事で良い気分に浸りながら寮へと戻った。









寮の庭に行くと、セーラが馬に乗って早足で歩いているところだった。


「おいおいおい!傷口開いたらどうすんだ!」


「大丈夫、もう糸も抜いたし綺麗に治ってるわよ」


楽しそうに笑い、セーラは馬をギャロップさせてから手綱を引いて止めた。


「もう満足したの?じゃあ戻ってお休みなさいエクレール」


「ヒヒーン!」


てきぱきと手綱と鞍を外され、エクレールと呼ばれた馬は軽快に走って行った。


「エクレール?セーラのセンスからして菓子の名前だとは思うが、どういうのだ?」


「……」


羞恥心からなのか、真っ赤になって固まるセーラが妙に可愛らしく思えた。







その後、セーラが気を利かせたのか一年生全員が集まっての茶会にはエクレールが茶請けに用意されていた。


「これがねぇ……」


一般にクリームやチョコレートを使った菓子というのは高級品で、庶民どころか田舎者の平民たるアルベルトには本来一生無縁の長物な代物であった。それは爵位を得てもお飾り貴族な時点で全く変わりないのである。


「何だか良い匂い……きゃっ!」


ケーナが失敗し、口元がチョコレートとクリームだらけになってしまう。隣に座っていた小春が苦笑しながらも布巾で拭いてやっているのが微笑ましい。


「なるほどな、どういう物か大体分かった」


呼吸を整え、ほぼ二口で食べ切って見せるとトリアが小さく拍手した。


「お見事です。因みにこのエクレール、語源は稲妻と呼ばれていますがその理由も諸説ありまして」


トリアは紅茶を一口飲んで続けた。


「この生地を焼いた時に出来るひび割れが稲妻に見える、或いは今アルがやったみたく稲妻のように速く食べなければ始末の負えない事になるからという二説が有力です」


「へぇ、明日から使えそうだな」


「全く役に立たない無駄知識ですけどね」


しばし談笑していると、今度は織江がアルベルトの持っていた物に気付いた。


「あれ?アルがそんな可愛い包みを持って来るなんて、明日は台風?」


「縁起でもないからやめろ。ちょっと港にアクセサリーの行商人が来てたんで、学園の許可を取った上で幾つか買っただけだ」


やはりアクセサリーだと興味が沸くのか、小春達の手元を覗き込んだ。


「余り見ても面白くないと思うが……」


「そんな事ないわよ。素敵ね」


小春は感激したようにブローチを手に取る。


「気に入ったならやるよ。どうせ男の俺がブローチ着けてもシュールなだけだし」


「本当!?」


「ああ。寧ろ小春に着けて貰ったほうがこいつも本望だろ」


特に意識もせずに言ったのだが、周囲から妙な圧力を感じたのは果たしてアルベルトの気のせいだろうか?


「……じゃあセーラ、このカチューシャいるか?」


「あ、あらそう?ふむ……綺麗ね。ありがと」


さて残ったのは短剣とイヤーフックである。


「あ、因みに私はいいからね。そういうのはミスティとかケーナにあげちゃえ」


織江が手を振ったので、アルベルトはちらりとこちらを見ている2人にに目を向けた。


「……どっちがいい?」


「じゃあ、あたしはこれ!」


ミスティが迷いなくイヤーフックを手に取った。すると必然的にケーナが短剣を持つ事になるのだが……。


「それでいいのか?」


「いいよ。アルからのプレゼントなら何でも嬉しいから」


「……」


顔が熱くなり、アルベルトは思わず目を逸らした。


「にしても随分と良いモン買ったんやねー」


オリーヴが短剣をケーナに見せて貰いながら唸った。


「魔力を凄く綿密かつ繊細に編み込んでるし、しかも最低限魔力があれば誰でも使えるようになっとるよ。こんな丁寧でしかも大胆な構築のアーティファクトが作れるって一体どんな人やねん」


「あー、確か《北国》のクリスタ・ペンドラゴンとか何とか」


『ブーッ!!』


その瞬間小春と織江とケーナを除いた全員が噴き出した。


「な、何だどうした何があった!?」


「クリスタ・ペンドラゴンって言ったらアレじゃない!」


「《北国》で結婚したい魔女No.1だっけか」


「そっちじゃないわよ!当時10歳だったにも関わらず七竜戦争を生き抜いた魔女の1人で、しかも七帝竜の1体を単独で退けたっていう伝説の魔女!」


とんでもない言葉にアルベルトも固まった。


「そうなのかリンドヴルム?」


(そういえば一度ヒューベリオンが片腕をもぎ取られて荒ぶっていたが……そうか、それか。我の記憶している限りでも竜族の目に見える敗北はそれくらいなのでな)


ついでに言うとその魔女は今年で30歳になるという事でもあった。


「つーかお前等が負けるって、そのクリスタ・ペンドラゴンが凄いのか七帝竜が寝惚けてたのかどっちだよ」


(願わくば後者のほうが言い訳も立つな)


笑いに包まれる談話室で、アルベルトはふと「こんな日常がずっと続いて欲しい」と願わずにはいられなかった。








それから更に一週間。リハビリも終え、教師からもお墨付きを貰って復帰を許された小春達はアルベルトを加えて再び件の遺跡へと足を進めた。


「地下二階までは楽勝だな」


「そうね。まあそこから先は私達も行ってない場所だから少し怖いけど」


セーラらしくもない台詞にアルベルトは笑みを浮かべる。


「安心しろって。もう盗賊は根こそぎ殺ったし、今度は俺もいるんだ」


「そうね。期待してるわよ?私達の……うん……突撃隊長さん」


今一瞬何を言おうとしたのかは分からない。とはいえ少し赤くなったセーラの顔を見ていると何となく理解出来る気はした。


「じゃあ此処の階で六芒星結界を張りましょう。前回の時に三箇所は既に起動させたから、後三箇所ね」


小春に頷き、織江から追加で受け取った端境玉を設置しに向かった。


「これで最後の1個と」


六箇所目のポイントに端境玉を設置した途端、静謐な空気が地下二階を満たす。それと同時に蠢いていた魔物の気配が一瞬にして消滅した。


「おお、効果覿面だな」


「といってもこれだと遺跡全体をカバーは出来ないわ。地下四階までは強行突破になるわね」


本来なら1つ1つのフロアに結界を張りたいところだが、他のフロアだと六芒星を作る為の頂点となる部分が足りない為それは無理であった。


「なーに、準備運動には丁度いいさ」


「それがアルベルト・クラウゼン最期の言葉であった……なんちゃって」


「縁起が悪すぎるからやめなさい」


リリィの茶々にセーラが突っ込む。幾度となく御馴染みとなったやり取りであった。









その後、時折休憩を差し挟みつつアルベルト達は最深部の部屋へとやって来ていた。


「あれが女神像か……あんまり綺麗じゃないな」


「ちょっと失礼じゃない?とはいうものの……確かに教会に安置されている物のような神々しさは皆無ね」


セーラもアルベルトに同意し、小春達も表情を曇らせる。


「ま、考えててもしょうがない。確か資料によると試練は1人ずつらしいから誰から行くか決めようぜ」


小春が作ったクジを1人ずつ引いていく。アルベルトは3番目だった。


「ケーナが1番だね。頑張るよ」


《カラドボルグ》を担ぎ、軽く気合を入れてケーナは祭壇に上がる。他者の介入を防ぐ結界が祭壇を覆い、ケーナと女神像が対峙する事になる。


(む……?いかん、小僧!あの娘を下がらせろ!!)


唐突にバハムートの声が響き、アルベルトが反応するよりも早く女神像が光を放った。禍々しい黒い光を。


「え……?」


その光を浴びたケーナはしばし呆然と立ち尽くしていたが、ややあって何かに怯えるように震えだした。


「ケーナ!?」


「やだ、何これ……ケーナの中に、ケーナじゃないのがいる……誰……!?」


「どうしたの!?しっかりして!」


ケーナは頭を抱えて蹲り、何かを振り切るように激しく頭を振る。


「怖い、嫌だよ……コハルちゃん、セーラさま、リリィちゃん、アル……助け……」


その絶叫を最後にケーナは光に包まれて消失する。後には《カラドボルグ》とアルベルトがプレゼントした短剣が転がっているだけだった。


「ケーナ!くそ、何処に……のわあっ!?」


突然始まった地震。遺跡が崩落するような激しい揺れにアルベルト達は顔を見合わせた。


「とにかく離脱するわ!」


「だったら俺に任せろ!」


《コアトリクエ》を呼び出し、アルベルトは戦斧を高く掲げる。


「道を拓け!!」


大地を司る戦斧はまるで口を開けるように遺跡の天井を開き、更に床をエレベーターのように持ち上げてアルベルト達を地上まで連れて行った。


「便利ねこれ……」


「これも鳴動竜の力をちょっとばかし応用したって奴だ。とにかく急ぐぞ」


大地に働きかけ、加速しながらアルベルトは胸の内に膨れ上がる嫌な予感と戦っていた。









そして数秒と経たず地上へ飛び出したアルベルト達は信じられないものを見た。


「綺麗……」


思わず小春が呟く。それ程に『それ』は場の空気を忘れさせる程に美しかった。


「白い竜、なのか?」


シルエットからして、恐らくはリンドヴルムと同じ《飛竜ワイバーン》だろう。鱗の色は燦然と輝く白、だが瞳の色は何処か不気味さを感じる濁った赤だった。大きさは凡そサラマンダーより少し小柄というところである。


「キュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!」


(あれは、まさか……!)


「知っているのかリンドヴルム!?」


アルベルトも何となく「まさか」という気持ちはあった。五行の中では風と雷は元々1つと言っても良い位に近しい為、リンドヴルムはアルベルトの直感以上にはっきりとその竜の正体に思い当たったのかもしれない。


(行方の知れなかった雷を司る帝竜、創世竜シルヴァーナだ)


こうして立っているだけでも凄まじい威圧感が吹き付けてくる。アルベルトは反射的に《エクスピアティオ》を抜いて身構え、セーラ達もそれぞれ得物を構えた。


「……?」


しかし小春が訝しげに顔を顰めて錫杖を降ろした。


「どうした?」


「うん、あの子の目が気になって」


「目?」


濁った赤い瞳が何だというのか。よく分からないままに改めてその目を見つめ、アルベルトも小春の言いたい事が何となく理解出来た。


(悲しみ、そして苦しんでいるのか……?)


そして何もかもが思い通りにならない苛立ち。そんな感情が伝わってきたその刹那、シルヴァーナが動いた。


「飛ぶ気か!?」


翼を拡げ、暴風を纏い飛翔する。何処へ向かうつもりかと地図を広げ、アルベルトは思わず飛び上がった。


「おい!シルヴァーナの奴何をする気か知らんがムーンライト学園に向かってるぞ!?」


「ええっ!?」


「拙いわね……仮に何もする気がなかったとしても、あの質量が動き回るだけで大惨事になるわ」


セーラは一瞬だけ逡巡し、アルベルトに向き直った。


「アル!」


「分かってる。街に到達する前に俺が止めてやるさ」


リンドヴルムを召喚してその背に飛び乗り、アルベルトはサムズアップで答えた。


「お願いね。後……コハル、貴女もアルと一緒に」


「私でいいの?」


「ええ。回復や浄化のスキルを考えるとコハルが1番適任だわ」


小春も頷いてリンドヴルムに跨る……のではなくアルベルトの後ろに横座りで乗る。一瞬だけ早まったかと思いながらも、セーラはその気持ちを押し殺してリリィを振り返った。


「私達は一旦遺跡に戻って、ケーナの武器を回収してから後を追う。ケーナの捜索も必要だから」


「分かった。なら俺達は足止めと時間稼ぎを主に戦えばいいんだな?」


セーラは頷き、リリィと共に遺跡へと駆け戻る。


「さて、小春」


「何?」


「急ぐぞ」


小春が頷いたのを確認し、アルベルトはリンドヴルムを飛翔させた。


(時にアルベルト)


「何だリンドヴルム」


(何故シルヴァーナは今出て来たのだと思う?)


「……」


流石にスピードではリンドヴルムが圧倒しているらしく、見る見るうちに大きくなる後姿を視界に収めながらアルベルトは小さく溜息をついた。


「出来れば間違いであって欲しいんだが」


(残念ながら魔力の波長は完全に一致している。我やサラマンダーも何故目の前にいながら気付けなかったのか……)


「アル、もしかしてケーナちゃんは……」


重苦しい小春の声にアルベルトは小さく頷いた。


「あの竜は、ケーナの変化した姿だ」


(しかもあの女神像……バハムートは気付いていたが、特異な呪いがかけられていたようだ)


聞き捨てならない事を言われ、アルベルトは前方を見据えて加速するリンドヴルムを見やった。


「どういう呪いかは分かるか?」


(大雑把な概略はな。標的となった者の力を極限まで引き摺り出し、術者の意のままに操る呪い。余り距離が空くと維持出来ない術式のようだから、術者も何処か近くにいる筈だが)


言われて周囲を見渡すが、既にかなりの高度で飛んでいる為地上の木々ですら豆粒のように見えている。これでは人間(かどうかは分からないが)を見つけるのも一苦労というか不可能に近かった。


(追いつくぞ。どうする?)


「乱暴だが、空中だと俺と小春が自由に動けない。一旦叩き落とすぞ!」


リンドヴルムは「掴まっていろ」と告げて高度を上げ、シルヴァーナの上を取った。


「ルォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」


咆哮を上げ、上から叩き付けるように巨大な見えない弾丸を叩き付ける。極限まで圧縮され、鋼にも勝る硬度を得た空気弾だ。


「キュアアアアアアアアアアアア!?」


背中をまともに打ち据えられ、シルヴァーナはたまらず落下する。後を追って急降下すると今度は向こうが全身から雷撃を放って反撃してきた。


「うおおおおおおおお!?」


(任せておけ!)


リンドヴルムは凄まじい機動力を見せて全ての雷撃を回避する。アルベルトは小春が振り落とされないように抱き抱え、自分もリンドヴルムにしがみ付くので必死だった。


(悔しいが、地面に落とした後の格闘戦では我だと力負けするぞ)


「ああ、その時はサラマンダーの出番だ」


地面に叩き付けた衝撃が此処まで空気を震わせて伝わってくる。改めてアルベルトは竜の持つ力の恐ろしさを思い知った。


「ケーナ、待ってろよ。必ず助けてやる……!」










学園都市から少し離れた場所にある丘の上。そこで男と女は双眼鏡を片手にその様子を見つめていた。


「今のところは成功だな。オーガニック・マテリアル……話を聞いた時は半信半疑だったが、竜族の超感覚すらも騙しきるとは恐れ入った」


「それで、この後はどうするのだ?」


興奮気味の男とは対照的に女は冷めた目で、男と戦場の両方を見据えた。


「上手く七帝竜の器を仕留めれば、最大の障害は消えたも同然。当初の予定通り強制支配の処置を行ってから引き渡す」


「……まあ、デモンストレーションとしては上々か」


魔女候補生と竜を従えた剣士を纏めて倒すだけの力、確かに宣伝効果は抜群だろう。


「まさかと思いたかったが、そこまで墜ちたか」


別の声が割り込み、2人は振り返った。


「誰かと思ったが、お前か……アウゼル」


ムーンライト学園学園長、アウゼル・シュミットとアルベルト達の担任である葛城蓮華が立っていた。


「家の可愛い生徒達に何をしてくれてるのかしらね~♪」


口元は魅力的な笑顔を象っているが、その目は全く笑っていない。蓮華の周囲の空間が歪んで見える程に強烈な魔力が放射され、間違いなく彼女が激怒していると教えていた。


「何を馬鹿な事を言っている。『アレ』は元々我々組織の所有物だ。それを持ち逃げした裏切り者がいて、巡り巡って貴様達の所へ行っただけの事だろう」


「それでもあの子は私達の教え子で、私にとっては娘同然だ」


アウゼルは得物である魔銃を構えながら言い放つ。


「全く……我が兄ながら此処までやってくれるとはな。せめてもの慈悲だ、妹の手で引導を渡してやる」


「出来るか?池でボートを漕ぐ時も俺の背中ばかり見ていたお前に」


せせら笑う兄に、アウゼルは小さく苦笑した。


「勘違いしているだろ。ボートは後ろ向きに漕ぐものだぞ?つまり兄さんの背中を私が見ていたという事は、私が先に進んでいたという事だが」


「貴様……」


「ボートの話だ。気にするな」


お喋りは終わりだと魔銃に弾丸として魔力を装填し、アウゼルは実の兄に銃口を向けた。


「まあいい、少し揉んでやる」


兄のほうは棍を取り出して身構える。


「じゃあ私も久々に本気になろうかしらね」


蓮華の両手に魔力が集束し、青白い稲妻を放ちながら2本の刀へと変わった。


蒼花夢想そうかむそう御剣みつるぎ


その構えに対し、アウゼルの兄と行動を共にしていた女も両手の指にナイフを挟んで腰を落とした。


「お別れだ」


「どっちかな?」


もう交わる事のない兄妹の道。それが再び武力という形で激突した。












                  続く

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