第十六楽章 北の思惑・過去との対峙
学校へ戻る前に小春達の実家に立ち寄り、彼女達の荷物を回収してからアルベルトはリンドヴルムをムーンライト学園まで飛ばした。
「よし到着!夏休みも残すところ一週間だが、どうする?」
「どうするも何も、宿題の確認と二学期の予習くらいしかないでしょ?」
小春の突っ込みにアルベルトは脱力してリンドヴルムの背中に突っ伏した。
「何と虚しい青春か」
「だってもう夏休みの間に随分と濃い経験はしたから」
そう言って微笑む小春の表情は何処か艶を感じさせるもの、そう思ったのはアルベルトの気のせいだったのかもしれない。
自室に戻り、荷物を解いたところでアルベルトはサリに部屋を追い出された。要するに彼女が掃除をすると張り切っている為だ。
「やれやれ……」
彼自身としては手伝いたいのだが、「主人の部屋を単独で掃除するのはメイドの嗜みと教わりました!」と梃子でも動かないので泣く泣く諦めた。
「……」
校庭の草原に寝転がり今までの事を考える。世界の真実だとか、自分の出生だとかも頭に過るが……一番は小春達の事だった。
「何で俺なんだ?」
小春を初めケーナにサリ、バレリアは確実に自分を好いてくれている。その事は確実に嬉しいが、同時に戸惑ってもいた。何しろ今までの人生が人生である。客観的に見てアルベルト・クラウゼンという人間があれ程に魅力的な少女達から好かれる程の人間かと問われると、アルベルト自身としては「ありえない」と答えるしかなかった。
「じゃあ今度は俺があいつらをどう見てるのか考えてみよう」
まずケーナはどちらかと言うと「妹」だ。何歳になってもベッタベタに甘えてくる可愛い妹という印象が強い。バレリアは失礼かもしれないが、餌付けした猫の印象だったりする。
「サリはメイドってか、あれこそ猫だよな。小春は……」
彼女の自分の中での立ち居地が分からない。これでも一応ファーストキスの相手なので、相応に意識はしているものの……。
「お袋を重ねてる訳でもあるまいに……」
何時も優しく、それでいて甘やかさない一面もある彼女と行動を共にするのは心地がよい。はっきり言えば母親のポジションなのだ。しかしそう言い切るには歯切れが悪くなってしまう感情を小春に抱いている事も確かな訳で。
「うがあああああああ!!」
思わず唸り声をあげながら頭を抱える。よく乙女心は複雑というが、男心だって十二分に複雑なのだから当然だが。
同時刻。《北国》で最も巨大な都市である聖都ボレアス。その宮殿を1人の青年が闊歩していた。年の頃は24歳程、黒髪を肩で切り揃えた怜悧な美貌を持つ美青年である。
「トロイ様」
「何だ爺」
彼をトロイと呼んだのは青年の後ろに付き従っていた老人だった。といってもその身のこなしは隙がなく、既に老齢である事を感じさせない鋭さを保っていた。
「そろそろお時間かと」
「分かっている。何とか陛下を説得しなければな……」
青年の名はトロイ・ゼーヴァルト。この若さにして既に一艦隊を任せられる《北国》きっての将軍である。トロイは決然とした面持ちで扉を開き、会議室にある自分の席についた。彼の生まれた時から執事を務めているコルトン・フォンボルグはその斜め後方に直立不動の姿勢で立つ。
「では始めよう」
席についたボレアスの皇帝アドルフは、端的に言えば醜い男だった。贅を凝らした食事を好む割に自分が動く事をしない為にその腹は地面につくのではないかと思う程に弛み、それ以外の肉も似たり寄ったりの贅肉塗れとなっている。いっそ腹の底に抱えた野心の炎で脂肪が燃焼してくれないかと、トロイは常々思っていた。
「まずゼーヴァルト将軍。貴様の担当している計画はどうなっている?」
「はっ!現在航空魔導戦艦・《ガイスト》が完成、二番艦以降の建造も着々と進んでおります。しかし……」
「何だ」
ここが正念場だ。トロイは前以て頭の中で組み立てておいた台詞を並べ始めた。
「開発主任であるミスティ・エルリックがそろそろ学校へ戻る時期です。ですのでこれから次の休みになる冬までは作業能率が現在と比べ40%程落ち込む見込みがあります」
「ふん、ならば学園へ戻さずに開発を続けさせれば良いではないか。それとも貴様……いずれ義妹になる身だからと甘い顔をしておるのではあるまいな?」
「軍人の責務に懸けてそれはないと誓います。そもそもこの計画は諸国に悟られないよう極秘に行われている計画です」
王が頷いたのを確認し、トロイは更に言い募った。
「ならば彼女を学園に戻さない事は、各国に興味を持たれる可能性を考慮しても危険だと考えます」
「……」
「設計図自体は既に完成していますので、そこまでの遅れを出す事はありません」
「……よかろう。この件に関しては将軍に一任しよう」
「ありがとうございます!」
着席し、次の議題が始まる中でトロイは机の下で拳を握り締めた。
会議は終わり、トロイは疲労を感じながらも会議室を後にした。
「陛下の戦好きにも困ったものですな。前線に出るのはトロイ様を初めとした未来ある若者達だというのに」
「爺、声が大きい。だが確かにな……専守防衛こそが軍の本分である筈だが、陛下はどうにも野心がおありのようだ」
厨房に入ると、竈の前に立っていた歳若いメイドが飛び上がらんばかりに驚いた。
「と、トロイ様!?」
「驚かせて済まない。そろそろ焼きあがる頃だと思ってな」
作業台に置いてあったキッチンミトンを両手にはめ、トロイは竈を開けて中身を取り出した。
「よし。いい具合だ」
焼いてあったクッキーの1枚に串を刺して焼け具合を確かめ、トロイはコルトンを呼んだ。
「1枚味を見てくれ」
「どれ……ふむ……」
軽く息を吹いて冷まし、コルトンは慣れた動作でクッキーを口に入れた。
「腕を上げられましたな」
「爺に言って貰えれば幸いだ。それと、名前は?」
「ふえっ!?しゃ、シャーリーです!」
「ではシャーリー。済まないがこのクッキーを袋に分けるのを手伝ってくれないか?」
シャーリーと名乗ったメイドは慌てふためきながらも頷き、菓子を小分けするのに使う袋の束を持って来た。
「……これで完了だな。爺は済まないが、船に行ってあいつらにこれを差し入れてやってくれ」
「分かりました。トロイ様は彼女達の所へ?」
「ああ。シャーリーも仕事を邪魔して済まなかったな。これは礼だ、取っておけ」
「あ、ありがとうございます!」
残ったクッキーを一袋とチップに金貨を少し弾んでやり、トロイは自分が持って行く分を手に取って厨房を出た。
「ではトロイ様。後程」
「分かった。皆にもよろしく頼む」
コルトンとも別れ、目的地へと向かう。どんな顔をするだろうかと少し楽しみにしつつ。
「ミスティ、私だが入ってもいいか?」
「義兄様?いいよ」
宮殿の一室を開けると、そこではミスティが羊皮紙の山に埋もれるようにしながら何かを書いていた。
「少し休憩にしたらどうだ」
「そうする」
部屋の隅に備え付けられたポットで手早くコーヒーを淹れ、トロイは角砂糖を2つと粉ミルクを大匙で二杯入れてから掻き混ぜる。彼自身はブラック派だが、ミスティは甘党な為どうしてもこうなる。内心このコーヒーが美味いのかと思えた事は唯の一度もないが。
「ほら。それとこれは差し入れだ」
「やたっ!義兄様のクッキー美味しいから好きなんだ♪」
コーヒーを啜り、幸せそうにクッキーを頬張る姿を何と無しに眺めていると、ミスティが書いていた仕様書が目に入った。
「見てもいいか?」
「いいよ。義兄様が使う物なんだし」
礼を言って仕様書を手に取る。パラパラとページを捲っていくにつれ、徐々にその顔も険しくなっていった。
「またとんでもないな。魔法を砲弾とした魔砲については知っているが、これはその大型版か?」
「そうそう。戦艦に搭載するんだから、どうしても大口径になるしね」
下手をすれば町1つを丸々灰に出来そうな威力を秘めている兵器にトロイは内心頭が痛くなる。
(こいつが実戦に投入されたら、それは果たして『戦争』と呼べる代物なのか?)
トロイにとって戦争に限らず戦闘というものは全て互いの武勇と矜持のぶつけ合いというものだ。だがこの魔導戦艦が完成すれば、それは対空攻撃手段に乏しい各国を一方的に蹂躙する虐殺に成り下がる。それが嫌でしょうがなかった。
「こう言っては何だが、これだけの兵器を何の為に開発するか分かっているのか?」
「抑止力でしょ?『持っている』事はそれだけでも武器なんだし」
「……」
確かに最初はそうだったかもしれない。だがミスティは政治の話をするには余りにも純粋過ぎたのかもしれない。
「……そうか。そういえば、明日には学校へ戻れるぞ。陛下にも許可を取り付けてきた」
「本当!?義兄様ありがとう!!」
椅子から飛び上がるように飛びついてくる未来の義妹を抱きとめ、トロイは優しく頭を撫でてから椅子に戻した。
「すぐに屋敷へ戻って荷物を纏めて来い。一日でも早く戻りたいのだろう?」
「うん!あ、でもこっちは」
「既にミスティが纏めている設計図分は全部私達で進めておく。何も気にせず学園生活を謳歌して来るといい」
ミスティは笑って頷き、手早く書類の類を纏めてから部屋を飛び出して行った。
「さて、私も戦場へ戻るとするか……」
纏められた設計図と仕様書を抱え、トロイも部屋を出た。
馬車を動かして貰い、自宅へ駆け戻ったミスティは解いてもいなかった荷物を担いで再び家を飛び出す。その前に家族への挨拶が先だったと急ブレーキをかけたが。
「父さん、母さん達もいる?」
「ミスティ?そうか、もう夏休みも終わる時期か」
居間で暖炉の火に当たりながら本を読んでいたミスティの父、クリフト・エルリックが思い出したように言った。
「うん。義兄様が王様の許可を取り付けたって」
「まだトロイ君とエミリアが結婚した訳でもないのに、気の早い娘だ」
エミリアはミスティの八歳上の姉で、トロイとは幼馴染で将来を誓い合った仲でもあった。
「あら、ミスティだって学園に戻れば愛しの彼に会えるんだもの。本当はもっと早く戻りたかったんじゃない?」
背後から声をかけてきたのは実母のミネア・エルリックである。姉のエミリアが24歳である事を考えると結構な年齢の筈だが、未だにミスティの実姉と言っても納得されてしまう若々しさは怪奇現象かもしれない。因みにミスティのスタイルは姉共々母親の遺伝である。
「い、愛しの彼ってアルはそんなの……じゃ、ない……と思う」
「ミスティがそういう顔をする時点で大当たりだと思うんだけどね。まあ何にしても遊べるうちに遊んで、一杯勉強しときなさい」
「あー、ミスティ」
見ると父は紅茶のカップを小さく震わせながら顔を俯けていた。
「その『彼』とやら、次の休みには家まで連れて来なさい。私が直々に試そう」
「な、何を!?」
「なぁに心配する事はない。これでも若い頃は聖都ボレアスで最強と言われた騎士団の1人だったのだから」
「貴方荷物持ちだったでしょ」
妻の容赦ない一言に父親は豪快にズッコケた。
「ぬああああああああ!こ、腰があああああああ!!」
「……噂のアルベルト君と戦ったら一秒足らずで死ぬわねこの人」
「いや、アルの事だから必要最低限の手加減はしてくれると思うけど……」
いや、そもそもアルベルトは一度戦うと決めた相手に配慮する性格だったかミスティには見当がつかない。確か盗賊の時は容赦なく後腐れなく皆殺しにしていたし、ガルーダの時も捨て身で戦っていた。
(よし、父さんがアルと戦うと言い出したら全力で止めよう)
最悪作ったばかりの粘着弾を使って父を止める事も視野に入れ、ミスティは父を介抱する母に挨拶して居間を後にした。
「ミスティ」
「お姉ちゃん」
正門前でミスティを見送るべく待っていたのは、姉のエミリア。ミスティと同じピンクの髪を腰まで伸ばし、うなじで1本に纏めていた。
「元気でね」
「うん」
姉妹で余りベタベタするほうではなく、2人の会話は何時もこんな調子である。とはいえ不仲という訳ではなく、お互いを想うのに多くの言葉を必要としないだけの事だが。
「あ、そうそう。トロイが気にしてたわよ」
「何を?」
「あのミスティが夢中になるってどんな男だーって」
「……とても勇敢で、優しくて、強い人よ。少し無茶だけど」
言葉を重ねるにつれて体が熱くなるのを感じ、ミスティは火照った頬を冷ますように空を仰いだ。
「そっか。聞けば夏休みを使って世界を回ってるんだっけ?《北国》にも来てくれたらよかったのにねー」
「今年の冬には、きっと来てくれるよ。きっと……」
ミスティは笑い、鞄を持ち直した。
「じゃ、行って来ます」
「ん、行ってらっしゃい」
ミスティは先に港の宿で待っているであろうアルトを迎えに行く為、辻馬車を捕まえようと手を上げた。
それから五日後。ミスティはアルト共々無事にムーンライト学園の土を踏んだ。
「よっ」
「アル!」
「へえ、わざわざ迎えに来てくれたんだ」
笑うアルトに軽く手を上げて応え、アルベルトは小さく笑った。
「宿題も終わってしまってやる事が他になくてな。海を眺める傍らってところだ」
「何にしても嬉しいよ。ありがと!」
アルベルトとミスティは互いに笑い合い、アルトと3人で並びながら学園へと向かった。
「あ、アル!よかった見つかって……」
学園の門を潜った矢先、セーラが走って来た。
「どうしたんだセーラ。そんなに慌てて」
「慌てると言うとちょっと語弊があるけどね。アルに爵位が授けられたからそのエンブレムを届けに来たのよ」
そう言ってセーラは呼吸を整えるように深呼吸し、軽く咳払いした。
「場所が場所だから略式でやらせて貰うわ。汝アルベルト・クラウゼン、セントラル王家宰相アスリーヌ大公の名代としてセーラ・アスリーヌが公爵位を授ける」
そう告げてセーラはアルベルトの胸に金色に輝くエンブレムを着けた。
「クラウゼン公爵の領地はムーンライト学園学生寮、208号室及び空室となっている207号室とするものである」
「またすげー屁理屈捏ねてきたな」
呆れてアルベルトがぼやくと、セーラは「私もそう思うわ」と苦笑した。
「これはあくまでアルを《中央》に置く為の方便だもの。まあ私達も合法的にサリをアルのメイドとして置く為の方便にしてるからお互い様だけど」
「確かにな。でもそれだったら別にもっと下の位でもよかったんじゃね?」
「それは《中央》側の思惑だからどうしてもね。恩を着せてると言えばそれまでだから気にしないでいいわよ」
セーラの言葉にアルベルトも苦笑を零す。
「まあどうせお飾り貴族なんだ。セーラの言うとおり気にせずにおくよ」
「それがいいわ」
そう言ってアルベルトの胸につけたエンブレムを指で弾くセーラの姿に、アルベルトは一瞬別の誰かがダブったように感じた。
「……?」
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
セーラは納得したように踵を返し、寮への道を歩き始める。ミスティ達も荷物を置いてくると言って小走りに立ち去った。
「なあ、セーラ」
「どうしたのアル?」
「もしかして俺達……いや、忘れてくれ」
セーラは「変なアルね」と笑い再び歩き始めた。
そして更に二日が過ぎ、アルベルト達一年生は1人も欠ける事なく全員で二学期を迎える事が出来た。
「さて、皆無事に戻って来たようで何よりだ。中には夏休み中に随分と派手な冒険を楽しんだ者達もいるようだが……」
学園長は意味ありげにアルベルトや小春達に目をやり、薄く笑って話を続ける。
「早速二学期のミッションに入るぞ。今回は島の北に位置するメギド遺跡の最深部に安置されている女神像と一戦を交え、力を認められる事で《女神の雫》という魔法素材を取ってくるのが目的だ」
「あのー、全部バラしてますけどいいんですか?」
織江が挙手しながら尋ねる。
「普段なら遺跡の場所までしか教えんのだがな。今回はそれと別に遺跡の浄化依頼が入っている」
「浄化と言いますと」
「この辺りはコハルが詳しいんじゃないか?遺跡の内部に前以て私と蓮華で浄化術式の起点となるポイントを複数設置しておいた。各班の戦闘員はそのポイントを探し出し、術を起動させて遺跡を浄化してくれ。そうでもしないと魔物が多過ぎてな」
学園長は一旦息を吸い、何故かアルベルトに目を向けた。
「それと今回、アルベルトにはミッションから外れて貰う」
「ええっ!?」
「な、何でですか!!アルは私達A班の主砲ですよ!?」
アルベルトより先に小春と織江が動揺した。
「アルベルトは剣士だろうが……それはともかく、昨日ギルドから報告があった。そのメギド遺跡に盗賊団が入り込んでいると」
「それなら尚更アルがいるんじゃないですか?」
セーラの言葉にも学園長は首を振った。
「唯の盗賊なら、な。そいつらは全員……蠍の刺青を左頬に彫っているそうだ」
「っ!!」
その瞬間アルベルトの全身が強張った。十年前、故郷の村を蹂躙しアルベルトから父親も帰る家も優しかった近所の人達も……『大切な預かり物』も全て奪い取って行ったあの盗賊。彼等の頬にも蠍の刺青が彫られていた事が、たった今鮮明に思い出せたのだ。
「今のアルベルトを見れば分かるだろう。こいつを遺跡に放り込み件の盗賊と鉢合わせさせたが最後、《サザンの悲劇》の二の舞になりかねん」
「そんな……!」
「無論これではA班が圧倒的に不利になるからな。特例として今回は全ての班の戦闘員が協力してミッションに当たるように」
学園長はアルベルトの席の前まで歩き、優しく肩を叩いた。
「今回だけだ。夏休みを経て大きく成長したのは分かるが、それでもな」
「……分かりました」
口ではそう返しながらも、アルベルトの心は黒く淀んだままであった。
その後、全員で集まり遺跡の攻略法を考える事になった。
「これが遺跡の地図。全部で四つのフロアに別れてて、白い丸が書き込まれている小部屋が蓮華先生が起点ポイントを設置した場所」
織江が地図を指差しながら説明していく。
「すると、1つ1つの結界を作って遺跡全体を覆う感じかしら」
「んー、それだと魔力消費も馬鹿になんないし……ここは六芒星結界を使う」
「六芒星結界?」
セーラの意見を織江が否定し、地図を指でなぞった。
「この起点を一部だけ起動していき、この様に三角形を2つ重ねた星の形を作るんだ。本来は五芒星でやるんだけど、《中央》のやり方に蓮華先生が合わせて調整したみたいだね」
「それだと、まともに六芒星を作れるのは地下二階だけにならないか?」
それぞれの階層を示した地図を見比べながらアルベルトは唸った。
「だねぇ。とりあえず地下二階に安全地帯を作ってから地下四階の女神像に挑むってのが吉かも」
アルベルトは無言で地図を睨みつける。その目に込められた意味を悟ったのか、ケーナが後ろからアルベルトを抱き締めた。
「大丈夫、ケーナ達が頑張るから」
「そうね。アル、私の手を殴りなさい」
セーラが右手の掌を示し、アルベルトを促す。言われるままにアルベルトが軽めにその掌に拳をぶつけると、セーラは右手をしっかりと握り締めてアルベルトの左手を包み込む。
「貴方の悔しさも怒りも、私が持って行くわ。全部あいつらに叩き付けてやるから安心して」
「……分かった。ありがとうな」
話が纏まったのを確認したのか、織江は懐から幾つかの玉を取り出した。
「じゃあ結界の張り方も説明しておくね。この端境玉を起点になってるポイントに設置して魔力を込める。それで六芒星を作れば結界が発動するよ」
「分かったわ。戦闘員である私とセーラ、リリィさんとケーナちゃんで分担して持っておくわね」
小春が受け取り微笑んだ。
「じゃあミスティ、皆と協力して回復用ポーションを作れるだけ……」
「むにゃ……」
『寝るなああああああああああああ!!!!』
この時ばかりは全員が心を1つにして叫んだ。
続く




