第十一楽章 蜥蜴の婿取り
けたたましい鶏の声でアルベルトは一気に夢から叩き起こされた。
「あー……そっか、夕べは小春の家に泊まったんだった」
昨夜狼の平次と壮絶な戦い(そこまで過激だったかは検証を要するが)の末、殆ど倒れるように眠っていたアルベルトだ。その所為かどうかは不明だが、布団は中々に寝心地がよかったように思う。
「うん、腹減ったな」
ともかく服を着替え、アルベルトは軽く体を動かしてから部屋を出た。
トントンというリズミカルな音の正体は、小春が台所でネギを刻んでいる音だったらしい。
「あ、おはようアル。そろそろ起こしに行こうかって思ってたところ」
「そこまで世話にはなれねえって。おはよう小春」
何か手伝おうかと近づくと、「大丈夫だから座ってて」と言われてしまった。
「他の奴起こしに行くのも無理だしな」
少なくともケーナやサリは怒らないだろうが、かといって嫁でも恋人でもない異性の寝姿を見物していい訳はない。
「うーん……じゃあちょっと味噌汁が吹き零れないよう見てて。私が起こしてくる」
「ああ分かった……ってどうすりゃいいんだ!?見てたら吹き零れないってそりゃちょっとおかしいだろ!」
どんだけ恥ずかしがりの味噌汁なのかと思いつつ(そもそも味噌汁がどういう料理かもよく知らないのだが)、奥の方へ小走りに去る小春を見送りアルベルトは途方に暮れた。
幸い味噌汁が吹き零れる前に全員叩き起こしてきた小春は、特に問題なくアルベルトと交代。その後時間を置かずに朝食は完成した。
「なあ小春。この白い塊って何だ?」
「それは豆腐。豆を茹でて潰して越し取った汁を固めた食べ物よ」
そういえばこの味噌も豆から作ったというし、醤油に納豆にと《東国》の食文化は豆と共にあるのかもしれない。アルベルトは初めて使う箸に悪戦苦闘しながらもそう思う。
「騎獣祭って何時頃からだっけ」
「お昼過ぎから。全部で三回戦だから頑張って」
小春に頷き、アルベルトは景気づけも兼ねて焼いた魚をご飯と一緒に頬張った。
入念な準備運動とルール確認を終え、ついに騎獣祭は開催される。
「さあ今年も始まりました、若者達が獣と心を通わせ鎬を削る!騎獣祭開催だぁぁぁーーーーっ!!」
司会が声を張り上げると、それに呼応するように雄叫びと遠吠えが村を揺るがす。ざっと見渡した限りでは殆どの参加者がアルベルトと同年代か少し上くらいの男らしい。
「まずは第一試合!今回飛び入りで参加を決定、ムーンライト学園唯一の男子生徒アルベルト・クラウゼンが銀狼平次と共に参戦だぁっ!!」
途端に物凄いブーイングが若者組から放たれた。その勢いにアルベルトが軽く仰け反ると、背後から小春達が手を振った。
「アル頑張って!」
「格好良いとこ期待しちゃうよ?」
「アル様ファイトですー!」
「アルも平次もがんばれー!」
「頑張って小春さんを釘付けにして下さい!そうすれば私がさり気無ぶほぁっ!?」
上から小春・織江・サリ・ケーナ・リリィである。リリィについては落ちていた小石を指弾代わりに額へ叩き込んでおく。
「ってうおおおおおお!?」
一気に気配が膨れ上がる。さっきまでは敵意だったのが、今では殺意の域に達していた。
「な、なぁ平次。俺ってやっぱ恨まれてるのか?」
平次は「知らん」と言うようにそっぽを向いた。
「さーて対するは今大会最年少!如月さんとこの桜ちゃんが愛犬コロと一緒に参戦だぁぁぁぁーーーーっ!!」
アルベルトは絶句した。リングとなる広場に入ってきたのは、どう見ても6歳そこらの女の子と彼女を背中に乗せた柴犬だったのだから。
「……どないしろと?」
平次も困ったようにアルベルトを見やる。戦場とあれば容赦をするつもりはないが、幾らなんでもこれはアウトだと思う。
「ええい考えてても仕方ない!」
アルベルトは意を決して平次の背中に飛び乗る。相手の桜という女の子は口を真一文字に引き結び、怖いのを必死で我慢している様子だった。正直この手は心が痛むが、怪我をさせずに終わらせるにはこれしか思いつかなかった。
「ルールを説明します。まず騎手が相棒から転落したら負け。相棒が戦闘不能に陥っても負け。降参しても当然負けです。後リングから外に出ても負けなんで」
「分かった。それさえ分かれば問題ない」
審判に頷き、アルベルトは平次の首をそっと叩いた。
「試合……開始!!」
審判が場外に飛び出すのが試合開始の合図だ。アルベルトは身を屈め、平次に耳打ちした。
「少しでいい。ちょっと本気で脅かしてやれ」
平次は合点が行ったように牙をむき、大きく息を吸い込んだ。
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「!!!!!」
桜の頭なら一噛みで食べてしまえそうな程に大きな口を開け、そこに並んだ鋭い牙をこれでもかと見せ付ける。当然桜は今にも泣き出しそうになるが、コロが踏ん張り逆に吼え返した。
「!?」
しかしコロは何を思ったか、体を大きく震わせて桜を振り落とした。これが馬や牛なら大怪我だが、幸いコロはどんなに大きくても犬な以上痛いで済みそうだ。
「勝負あり!騎手転落によりアルベルトの勝ち!」
審判の判定が下るまではアルベルトも降りる訳に行かなかったので、彼は待ってましたとばかりに平次から滑り降りて桜に駆け寄った。
「大丈夫か?」
「うん」
痛みと怖さの両方で涙目となっている桜の頭を撫でつつ、アルベルトはコロと一緒に彼女を場外まで連れて行った。
「では続けて第二試合に移ります。次の選手が入場するので、アルベルト選手も早く出て下さい」
「ああ、分かってる」
平次に合図し、アルベルトもリングを降りた。
その後、牛に乗ったのやら熊に乗ったのやら。挙句何処から調達したのか大型のトカゲに乗ったのまでが激しく戦い、準決勝になった。
「準決勝第一試合!アルベルトと銀狼平次に対するは、今までの大会全てを準優勝で飾ってきた桂良助と大熊の嵐!」
入場して来たのはアルベルトと殆ど歳の変わらない少年と、全長3mに達する大きな熊だった。
「……」
物凄い目で睨みつけられ、アルベルトは身に覚えがあるだけに苦笑いするしかない。
「初め!」
「死ねええええええええええ!!」
開始の合図と共に豪腕を振り下ろす嵐の攻撃をかわし、リングを駆け回る平次にアルベルトは何とか掴まって行く。
「アルベルトっつったなぁ!学校で小春に何しやがった!?」
「何の話だ!つーか俺はお前等に恨まれるような素敵イベントなんて……あー……なくもないか」
「ぶっ殺すぞてめええええええええええ!!」
良助の怒りが伝わったのか、嵐も咆哮をあげて襲い掛かる。アルベルトが咄嗟に身を屈めると、平次も意図を察したのか姿勢を低く保って嵐の股を潜り抜けた。
「へっ!?」
「よし!」
そのまま一気に方向転換。昨夜も平次が見せた得意の機動だ。
「食らえええええええええ!!」
跳躍と同時に平次が前足を叩き付け、良助はたまらず叩き落された。
「勝負あり!」
審判の声にガッツポーズを取り、アルベルトは応援していた小春達を振り返る。皆が嬉しそうに拍手するのを見たのか、観客席にいた少年達が一斉に崩れ落ちた。
「……ちょっと悪い事したか?」
思わずそう呟くと、平次が尻尾を振って軽くアルベルトを叩いた。気にするな、という事だろう。アルベルトは次の試合の邪魔にならないように手早くリングを離れた。
小春が用意してくれていた饅頭(昨夜から仕込んだ手作りらしい)を頬張り決勝戦。相手はローブで全身を覆いフードで顔を隠していた。相棒は土色の鱗を持つ大きなトカゲだった。
「あんた、結構やるみたいだね」
「へ、女!?」
声はアルベルトと歳の変わらない少女のものだ。その事実に混乱するよりも早く試合開始の合図が聞こえた。
「行けジーク!」
ジークと呼ばれたトカゲは大きく吼え、鈍そうな図体からは想像もつかない機敏な動きでこちらに迫る。
「おっと!」
しかし平次は狼、平地を駆け回るよりも寧ろ岩場や木々の間を立体的に走り回るほうがよっぽど得意なのだ。少なくとも跳躍にかけてはこちらに分がある。
「後ろはご注意!」
「は?……ってどああああああ!?」
唸りを上げて尾が振るわれ、平次ではなくアルベルトを直撃する。咄嗟に手甲で防いだが、かなりの衝撃が来た。
「そうだったな……トカゲの尻尾は十分武器になるんだった!」
「あっはははははあ!さあ遊ぼうぜえ!!」
段々とアルベルトの闘争本能も燃えてきた。口元に獰猛な笑みを刻み、平次と共に雄叫びをあげて突撃を仕掛けた。
一体どれ程の時間をかけて戦っていたのだろうか?既に太陽は西の山へ沈みかけ、平次とジークも共に荒い息をついている。そんな彼等に付き合っているのだから、アルベルトもジークの騎手も同様に疲弊していた。
「ここは一旦、引き分けにするか?」
「そう、だな……せーので行くぞ」
お互いに距離を取り、腰を浮かせた。
「せーの……!」
2人同時に相棒の背中から滑り降りる。それを合図に平次とジークは同時に倒れ込んだ。
「しょ、勝負あり!今年の騎獣祭決勝……引き分け!2人の優勝者が出ましたぁ!」
歓声が満ちるなか、アルベルトは少女に近づき左手を差し出した。
「左手ですまない。右手は訳あって動かせないんだ」
そう言うが、少女はフードの奥で目をぱちくりとさせただけだった。
「……何をする?」
「握手、知らないのか?」
思わずアルベルトはぽかんとなる。しかし相手の少女は本気で分かっていないらしい。
「んーとほら、アタイ人間じゃないし」
そう言って彼女はフード付きのローブを脱ぎ捨てる。その姿を見てアルベルトは盛大に慌てた。
「ちょちょ、胸隠せ後腰も!」
周囲にいた青少年は鼻血を出して倒れ、アルベルトは慌てて落ちていたローブを拾って無理矢理着せた。
「何すんのさー!」
「お前が何してんだ!いきなり公衆の面前で服を脱ぐ馬鹿が何処の世界に……あれ?」
初めてまともに彼女の顔を見たアルベルトは思わず絶句していた。鮮烈な赤毛(セーラのものと違い、炎というより血を思い起こさせる赤だが)はまだいい。少し幼さを残した愛らしい顔つきに似合わずその瞳孔は縦に割れており、まるで爬虫類だ。更にはその腕も薄い緑色の鱗で覆われており、よく見ると腰の下辺りからトカゲを思わせる尻尾も生えていた。
「だってアタイはリザードマンなんだぞ!?服なんて野暮ったいモン着てられっかー!」
「はぁ、やはりこうなったか」
ごす、と鈍い音が聞こえたかと思うとリザードマンらしい少女は頭を押さえて蹲った。
「あがぁっ!?くぉらバズバ!お前父ちゃんの部下ならもうちょい手加減をだなぁ!!」
「ならばもう少し族長の娘らしく振舞え。これでは粗野な獣と変わらんぞ」
バズバと呼ばれたのは、身長2mを越す大きな二足歩行のトカゲだった。だが手は人間と変わらない五本の指を持っており、身の丈を超える長大なハルバードを握っていた。トカゲにしては珍しく額に1本の角が生えており、爬虫類ながらなかなかに精悍な面構えである。
「アドゥンの加護を!」
「へ?」
村人のみならずアルベルトも固まると、そのリザードマンはしばし当惑したようにこちらを見た後、何かを思い出したように手を打った。
「あー、本日はお日柄も良く」
「違う違う」
どうも人間の文化を誤解しているらしいと、アルベルトは手を振って止めた。
「人間がやる初対面の挨拶は『始めまして』だ。その後に自分の名前を名乗る」
「そ、そうか。失礼をした……始めまして、リザードマンの戦士バズバと言う」
「始めまして。この村の人間ではないが、アルベルト・クラウゼンだ」
そう言って左手を差し出すと、やはり知らないのかバズバも怪訝そうな顔をした。
「人間は友好の意を示す時にこうやって互いの手を握り合うんだ。本来は右手でやるもんだが、俺は訳あって右手を動かせないんで左手で頼む」
「ふむ……こうか?」
ハルバードを杖のように持ち、バズバは左手でそっとアルベルトの手を握った。
「返礼どうも。それじゃ、一体何の用事で人里まで降りてきたのか話してくれるか?こっちとしても接触したいと思っていた相手だし、渡りに船って奴だ」
「そうしよう。だがここでは少し人の目が多すぎる。何処か静かに話が出来る場所はないか?」
今のアルベルトに用意出来る場所など、小春に頼んで家を貸して貰うくらいしかなかったのだが。
「あ、じゃあ私の家にする?」
織江が背後に駆け寄って来た。
「いいのか?」
「うん。どうせ家の親、流行り病で両方死んじゃってるし」
余りにもサラリと言われたヘビーな過去に絶句しながらも、アルベルトは彼女に甘える事となった。
織江の家は小春の家から程近い場所に建てられた一軒家だった。やかんでお湯を沸かす囲炉裏を囲んで座り、アルベルト達ムーンライト学園の関係者と村の代表として重悟が参加した。
「改めて自己紹介しよう。私はリザードマンの戦士バズバ。こちらは族長であるアークリザードの一人娘であるバレリア」
「よろしくー。あ、こっちは相棒のジーク、バジリスクだよ」
大分回復したのか、土間で丸くなっていたジークが挨拶するように一声鳴く。すぐにあくびをして丸くなったが。
「さっきから気になってたんだが、リザードマンの女ってのはこうも人間っぽいのか?」
一瞬無礼かな、とも思ったがバズバはさして気にした風もなく首を振った。
「その事も用件の1つだ。バレリアは我等リザードマンの歴史の中でも特異というか、変種でな」
『変種?』
人間側全員の声がハモった。
「元々リザードマンは男も女も外見は然程変わりない。精々男のほうが体が大きく力が強いという程度でな」
しかしバレリアの見た目はどちらかというと、人間の少女がトカゲのコスプレをして遊んでいるという風にしか見えないのである。
「でもアタイもリザードマンなんだぜ?ほれ」
そう言ってバレリアは不服そうに纏っていたローブを肌蹴る。ケーナ程ではないにせよ形の良い胸が露になるが、それよりも異質なのはその腹だ。人間になら確実にある筈の器官、へそが存在しなかったのだから。
「この辺もバレリアがリザードマン、卵から生まれたという事は理解して貰えただろう」
「あ、ああ……なら何故こんな姿に?」
分からん。とバズバは頭を抱えた。
「生き字引と言われた老師も族長もこの問いに答えを見出せなかった。かくなる上は《南国》のエルフに知恵を拝借しようと思って里を出たのだが……」
バズバはジト目になってバレリアを見た。つまりこのお祭騒ぎに釣られてジーク共々飛び入り参加をしたらしい。当の本人は明後日の方角を向いて口笛を吹いている。頬に一筋汗が流れているところを見るに、一応罪悪感は感じているらしいが。
「因みに、海を渡る手段は?」
「我等リザードマンは元々水の戦士だ。海を泳いで渡る事など造作もない」
「アタイ達は陸上では肺呼吸、水中ではエラ呼吸に切り替えるのさ。まあ深海まで潜るのは流石に無理だけど、海面近くを猛スピードで泳ぐくらいなら軽い軽い」
一応納得してから、アルベルトはもう1つの疑問を思い出した。
「そういえばさっき、バレリアの事が用件の1つって言ってたっけ。じゃあもう1つは?」
「こちらもバレリア絡みになるが、里に外の血を入れたくてな」
バズバは少し恥じるように頭をかきながら言った。
「老師……ああ、我等の里で知恵袋として動くリザードマンの事だが彼の言葉でな。バレリアがこのような姿で生まれたのは、リザードマンではなく人間と交わり子を育めという啓示ではないかと」
「なるほど」
本来のリザードマンは里で生まれた卵を一箇所に集め、孵るまでの間皆で守る。生まれた子供はすぐに狩りを覚え、大人から色々と学びながら成長するらしい。
「つまり早い話が、婿探しだ」
思わず全員がズッコケた。
「ず、随分と急なんだな」
「そうでもない。バレリアは人間の年齢に直すとまだ16歳程でな。リザードマンの基準ではまだ子を作れる程体も出来てはおらんし、とはいえ婿候補は探しておいて損はないという事でこうして連れて来た訳だ」
一応でも納得した空気が流れると、さっきまで説明を全部バズバに丸投げしていたバレリアがアルベルトににじり寄った。
「それでさ、アルベルト」
「何だ?」
微妙に嫌な予感を感じつつ、アルベルトは顔を引き攣らせながらバレリアを見た。
「アタイの婿になれ!」
「やっぱりかあああああああああああ!!」
「ちょ、ちょっと待って!今日始めて会ったばかりの相手に求婚なんて急すぎるわよ!」
小春が青褪めて叫ぶ。口にこそ出さないが、ケーナやサリも似たような空気を醸し出していた。
「アタイとジークを相手にあそこまで戦い抜いた男なんてリザードマンにだっていない!あんたが始めてなんだ……強い男だ、惚れ甲斐がある!」
「何じゃそりゃあ!?」
思わず頭を抱えていると、重悟がポンとアルベルトの肩を叩いた。
「何、出会いは何時でも突然というものだ。大人しく婿入りしてしまえ」
何故か優しい口調でサムズアップする重悟に、小春がじろりと睨む。据わった目で己を見据える愛娘の姿にはさしもの重悟も絶句した。
「お父さん……寝言は寝ながら言うから可愛げもあると思うの。太陽はまだ出ているのに夢が見たいなら、今すぐ眠る?」
「ま、待て小春!父さんが悪かった、今のは取り消すから落ち着いてくれー!」
さり気無く錫杖を取り出し、氷結刃の詠唱を始めている小春に重悟は土下座しかねない勢いで謝り倒す。そしてバズバは今にもアルベルトを押し倒しかねないバレリアの後頭部に拳骨を入れてから引き摺り戻した。
「わーこら離せバズバ!」
「人間の社会に入るなら人間の流儀を学べと何時も言ってるだろうが!例えリザードマンに布で胸と腰を隠す文化がなかったとしても、人間の中で暮らすならそれは必須だ!」
実際問題バレリアのスタイルはかなり良いので、そうしてくれたほうがアルベルトとしても色々と助かる。
「それはさておき、済まなかったアルベルトよ。だがバレリアがそれだけお前を気に入ったという点は信じてくれ」
「ああ。それは素直に嬉しいが」
バズバは目を細める。どうやら笑っているらしい。
「それに何もバレリアと添い遂げる必要はない」
「へ?」
「元々リザードマンに夫婦という概念はないのだ。里で生まれた子供は全員で育てるものだからな。まあアルベルトには一晩でもバレリアと過ごして貰い、最終的に孕ませてくれればこちらとしては問題ない」
俺は大問題だと思いながらアルベルトは頭を抱え……1つ思いついた。
「そこを承諾出来るかは分からないが、細かい問題の摺り合わせもあるし族長に直接会わせて貰えないか?その後でならリンドヴルムに頼んでエルフの里まで送って一緒に《ユグドラシル》の知識を借りる事も出来るし」
「それはこちらとしても望むところだ。喜んで族長に引き合わせよう」
渡りに船とはこの事だろう。アルベルトは思いがけず足掛かりが出来た事を喜びながら改めてバズバと握手を交わした。
続く




