家族の温度差
義一が行方不明になった。和子は、とても動揺した。義雄にも、必死で助けを求めた。しかし、義雄は、
「単なる家出だろ。そのうち戻ってくるよ」
と流した。さすがに和子は、その言葉に怒った。
初めてといっていいほどの大喧嘩をした。
しかし、その後で、義一から電話があり、
しばらく好きにやらしてもうから
というサバザバした声を和子は聞いた。
家族に、それを伝える和子。
やはり、そんなことだよ
と、義雄。
しょーもない、お兄ちゃん・・
と、菜奈。
家族の素っ気ない反応に、和子は一人喚いたが、だから、どうなるはずもない。
そして、時は流れていく。
時々、義一から電話があった。何をしているのかは、よく分からなかった。
でも、母である和子は、それで安心する。そして、和子には自分の家で暮らしている家族のこと、生活を共にしている者に囲まれて、変化は、さほどなかった。
ただ、義一がいないだけ。
その事実だけが、あった。
それも、いつしか和子は、受け入れていた。
「どこかで、元気にやっているならば・・あの子は決して悪いことはしない」
変わらぬ自分の日常で、和子は、そう思っていた。
いつか、義雄が言っていた。
「菜奈が、同じようなことになったら、そりゃ、俺だって何としても探しに行くんだけどな」
じゃあ、義一の場合、なぜ、そうしないのか?
和子は、敢えて、それは聞かなかった。
きっと、また
「男には・・」
と、和子には、よく分からない諭し方をするのは、分かっていたからた。