表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

入れ替え魔法

作者: 山田裕子
掲載日:2026/08/13

私、ヘンリエッタ・バーデンは、辺境伯令嬢である。

わりと自由に育ててもらった。

剣術も体術も得意だが、一応令嬢である。

辺境の地では、王都とは比べ物にならないほど、魔獣が出没する。

たとえ令嬢と言えども、戦力になるなら討伐に駆り出される。

そうした環境なので、王国有数の軍事力を持つ一族なのである。


好きで討伐に行っているのだが、そろそろ令嬢としてのマナーや立ち振る舞いも学ぶようにと、王都の学園に入れられた。

おまけに辺境伯家と関係を深めたい王家のたくらみで、王子を婚約者に据えられてしまった。

私は一人娘なので、王家から辺境伯家への婿入りである。


どんな相手なのだろうと、少しだけ期待していたが、がっかりだ。

顔合わせのお茶会で、一目見てこいつはへなちょこだと思った。

体格がひょろひょろしていて、剣も持てそうにない。

服装がちゃらちゃらしていて、ピアスやら指輪やら私よりつけている。

なにより、中身が最悪だ。

私とは、話も合わない。


「王都に来て評判の店とかにはもう行ったかい?」


「いえ、まだです。それより殿下は何がお得意ですか?」


剣がダメでも、弓ぐらいならと期待した私が馬鹿だった。


「そうだねぇ、うーん。ご令嬢に似合うドレスを見繕ったり、芝居の台詞をマネするのが得意かな。」


なんだ!それは!

そんなの辺境では、何の役にも立たない。

ドレスショップも一軒しかないし、芝居は年に一度しか来ないぞ。

嘘でもよいから、学問が好きとか領地経営に興味があるとか言えばよいものを。

頭も悪いのか。

よし、決めた!

この婚約、何が何でもぶち壊してやる!

令嬢としての評判なんか、知ったことか。


父上に手紙を出して相談したら、王家との関係を拗らせたくないとのこと、しばらく我慢するようにと返事が来た。

しばらくっていつまでなんだ、とぶつぶつ文句を言っていると、

分家の出身で、今は王都での護衛をしてくれているフレデリックが、慰めてきた。


「向こうから断るように仕向ければいいんだよ。

あんなへなちょこ、領地での鍛錬や討伐に連れて行けば、すぐ王都に逃げ帰るんじゃない?」


「それまでの辛抱か。仕方ないな。」


とはいえ、ストレスはたまる。

殿下は学園では、取り巻きの令嬢を引き連れて行動している。

私とは話が合わないと悟ったのか、こちらへのお誘いはない。

昼食の時も、放課後の帰宅時もだ。

まっすぐ城に帰るのではなく、カフェや劇場に寄り道しているらしい。

いいのか、王族がそんなことで。

こっちは、辺境伯家の子として、魔獣討伐や、領地経営の勉強、加えて今は令嬢としてのマナーまで学ばされているのに。

あんな奴が婿に来るなんて冗談じゃない。

むかむかと怒りがわいてくると、自然歩き方もドスドスとなる。

侍女ににらまれて、しずしずと歩くこととなる。

面倒くさい......。


面倒くさいので、かかわらないようにしていたら、どうやら特定の令嬢と親密な仲になったそうだ。

急に親しくなったので、魅了の魔法や惚れ薬でも使ったのかと噂されている。

そんなはずなかろうに。

このままお気に入りと結婚するとか言い出して、婚約解消にならないか。

少々期待した。


そんなある日、珍しく殿下の方からお呼びがかかった。

王城の東屋で待っているとのこと。

行ってみると、既に人払いもされ、殿下が一人待っていた。


「よく来てくれたね。今日は大事な話があって来てもらった。

ちょっと父上たちには知られたくないので、人払いをしている。

座って聞いてくれ。」


すすめられた東屋の大理石のベンチに腰を下ろす。

紅茶やお菓子も用意されている。


「じつは、男爵家のマリールイーズと恋仲になってしまってね。

それで、できれば......」

「婚約解消ですか?!」


勢い込んで尋ねると、王子はちょっと驚いたようだった。

つい、嬉しくて前のめりになってしまった。


「いや、婚約解消は、父上が許してくれないだろう。

だから辺境に行く際に、マリールイーズも連れて行くのを、内緒で許してほしいんだ。侍女という名目でいいから。」


何だとぉー!!馬鹿にするにもほどがある。

私は激昂し、思わず拳を振り上げた。

でもさすがに殿下を殴るのはまずいと思って、寸止めしたが。


王子はビビッて逃げようとしたが、慌てていたのか、誤って転んだ。

鈍くさい奴め。

あれ?

でも転んだままピクリとも動かない。

打ち所が悪くて気絶しちゃったかな?

急いで王子に駆け寄り、様子を見た。

あー、運悪く頭を大理石のベンチにぶつけたな。

治癒魔法で頭の傷は消えた。

なのに王子は目を開けない。

呼吸もない。

死んでしまったか?

王子の自爆とはいえ、後味が悪い。


非常にまずい状況だ。

直接私が殺したわけではないが、このまま正直に報告しても、私が殺したことにされるかもしれない。

王家があれこれいちゃもんを付けて、辺境伯家ごと潰そうとするかもしれない。

これはなんとか隠蔽しないとまずい。


そのとき一匹の猫が東屋の横を通りかかった。

しめた!

天啓のようにひらめいた解決策は、私の封印されし固有魔法だった。


幼いころに発現した私の固有魔法は、生物の魂を入れ替えるというものだった。

初めて使ったのは、いとこのフレディとカエルを入れ替えたときだった。

カエルになったフレディは茫然としてたたずんでいたが、カエルの方はパニックを起こし、フレディの姿のまま、池に飛び込んだ。

慌てて元に戻したら、フレディが溺れて、大騒ぎになった。

溺れたショックでフレディは、魔法のことを忘れてしまった。

それ以来封印していた魔法だ。

今こそそれを使おう。


以前試したときは、二つの魂が入れ替わった。

王子が死んでいて魂がないなら、猫の魂だけいれるというのもいけるかもしれない。

迷っている暇はない。

心配したが、無事王子の中に猫の魂が入った。

猫がやはりパニックになったので、手刀をお見舞いしてベンチに寝かしておいた。

猫の体は、かわいそうだが、植込みの中に隠しておこう。

あとは何もなかったように、ここを去ろう。

王子の離宮で待機していた侍従に用事は済んだので、帰宅すると告げ辺境伯家のタウンハウスへと戻った。

後で呼び出しが来ても、知らぬ存ぜぬで押し通す予定だ。

あの魔法は、私以外誰も知らない。

かけられたフレディでさえ、覚えていないのだから。


翌日王宮から呼び出しを受けたが、私のいない間に事態は勝手に解決に向かっていた。

私が帰った後、マリールイーズとやらが、王子に呼ばれていたので東屋に向かった。

うたたねしていると思い、キスして起こそうとしたら、気づいた猫王子ともみ合い、引っかかれ、噛みつかれたとか。

フーゥと威嚇して、大暴れしたそうだ。

しかもマリールイーズは、王子に飲ませようと、惚れ薬らしきものを持っていた。

それがばれ、その副作用で王子がおかしくなったと思われた。

魂に作用する魔法は痕跡が残りにくいらしく、王宮魔術師でも私の魔法は見抜けなかったようだ。

王子の異常は、おそらく薬の影響だろうという結論が出ていた。


私も帰るときの事情を聴かれたが、


「殿下は、寝不足なのか、うたたねをしていたので、お話も済んだことですし、

失礼させていただきました。

私がご一緒の時は、特に異常もなく普段どおりでした。」


辺境伯家という身分がものを言ったのか、犯人は男爵家のマリールイーズということになった。

殿下の寵愛を得るために、長期にわたり得体のしれない惚れ薬を飲ませ続けた副作用で、殿下は精神に異常をきたした。

という結論だ。

今殿下は、離宮で静養をしている。

私との婚約は解消された。



あの猫には、本当に悪いことをした。

危急の際とはいえ、猫の人生(猫生)をむりやり変えてしまった。

すまない。

一応衣食住は保証されているので、許してくれまいか。

王宮の料理は、一流だ。

療養中だから、昼寝もし放題。

快適な部屋で、余生を過ごしてほしい。

日向ぼっこをして、うとうと眠っている猫殿下には、またこっそり干し肉を差し入れよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ