ギフトを願う、わがままな可愛いきみへ
「舞踏会のときのこと、覚えてる?」
「ああ、もちろん覚えているよ」
木枯らしが吹いて、すごく寒そうに見えたから。身につけていたマフラーを取り、彼女に巻く。
枯れ葉色の景色に、マフラーの赤が映える。
「一緒に雨宿りをしたときのことは?」
「もちろん、覚えている」
冬のはじめ。
土手沿いをふたりで散歩しながら、話す。
「私も、あなたがホットケーキを作ってくれたのを、覚えているわ」
「失敗したけれど、楽しかったね。
ねえ、ここは寒すぎるね。今から食べに行こうか?」
「いいえ、いらないの」
「それより駄菓子を食べてみたい」
「まだ食べたことがないのかい?」
「一緒に食べようって、約束したでしょう?」
歩き求めた駄菓子屋は、閉まっていた。軒下に風鈴が下がって、木枯らしに疲れたようにちりんちりんと鳴っている。冬を生き抜く風鈴なんて、サバイバルだな。
土手沿いに戻る。
「ここを自転車で走ったら、気持ちが良いだろうね。春になったら、一緒にサイクリングしようか」
「自転車、乗れないの」
「教えてあげるよ」
彼女は立ち止まり、ぼくを見上げる。
「年賀状、送ってもいい?」
「それはすまない、できない。
メッセージをくれるかい?」
「スマホ持ってない」
しゃがみ込み、鞄から手帳を取り出す。切れ端を破り、電話番号をメモして渡した。
「合い言葉を決めておかないとね」
「合い言葉?」
「ナイショで愛を伝えるのに……」
「今でも私のことを、愛している?」
マフラーは、やはり大きすぎたようだ。
少しかがんで、彼女のマフラーを直す。
「毎晩、オルゴールを聴いて眠ってるの。
貴方にもらったのと、同じ曲」
「……愛しているけれど、愛のかたちにもいろいろある。きみに一番都合の良いかたちで構わないんだ、ぼくの愛は」
ぼくは、笑う。
「私に一番都合の良いかたちは、貴方に一番都合の悪いかたちなの」
彼女は、笑わない。
「転生するときに、ギフトが貰えたらよかったのに。今すぐあと10歳くらい大きくなるの」
「転生できたことがギフトなのではなく?」
「貴方のとなりを歩いて、恋人に見られたいの」
「会えたことが奇跡だって、思うけどね。こうして君と散歩できるだけで、幸せを感じるよ」
彼女は恐る恐る、ぼくの手に手をのばす。
握り返すと、微笑んだ。
でも、恋人繋ぎには、できないな。
「大人になるまで、待っていてくれる?」
「さあ、どうだろう?」
問題は、年齢だけでは無いからね。
異世界も現実世界も、大して変わらないな。




