自己愛
私は、1人の時間が好きだ。クラスの話題はくだらないものが多いし、1人の方が気楽。トイレだって好きな時間にいけるし。
だから転校生が来るらしいと聞いて、しかも私の隣の席と聞いて、ちょっと嫌な予感。
先生が、「転校生、入ってきなさい」と言って彼女が入ってくる。おお、結構美人な気がする。
彼女が、「よろしくお願いします」と言って笑った。うわあ、笑顔、正直いって気持ち悪い。言い過ぎか、ちょっと、作り物っぽい。ちょっとから、本当に、嫌な予感に変更。
早速彼女が話しかけてきた。
「最初わからないこと多いから、色々聞いちゃうと思うけど、ごめんね」
「最初は心細いよね。全然いいよ」
心の中で、ほどほどにな! と叫ぶ。まあ、転校なんて最初は誰もが不安であろう。そこまで私は非情ではない。ま、ほどほどにな!
「ありがとう! 1人で新しい場所でやっていけるか不安だったから、優しそうな子が隣でよかった」
優しいかどうかはわからんけどな。
「ねえ、唐突なんだけど、私、昔スカウトされたことがあって、」
へえ? 聞いてないんですけど。でもまあ確かに美人だ。スカウトぐらいされるのかもしれない、知らんけど。
「すごいね、確かに美人だもんね」
とりあえず「雑談」ってやつをやってみる。
「あの、それでね、前の学校で女の子からの妬みがすごくて。だからあなたみたいな子と今回は仲良くしたいなって」
聞いてないんですけど。しかもなんかぎりぎり失礼なこと言われなかったか? そんなことないか。とりあえず彼女の話に同情しとく。
「大変だったね。この学校では楽に過ごせるといいけど」
「ありがとう! これからよろしくね!」
あー、これ1人の時間なくなるやつだ。終わったなー…….。あなた美人だから、あっちの1軍グループに入れて貰えばいいんじゃないか? 私、結構1人の時間を大切にするタイプなんですけど。なんて初日に言ったら変な奴なので、適当に頷く。早くチャイム鳴らねえかな。あ、ちょうど鳴った。最高のタイミングやんけ。チャイム、ありがとう。
授業が終わると、すぐに彼女が話しかけてきたので、まさか、毎時間お話しタイムじゃねえだろうな、と思ったのがよくなかった。この日は休憩時間ごとに毎回お話しタイムとなった。嫌な予感、的中!
今日は非常に疲れた。トボトボと家に向かう。まさか、これから毎日毎時間お話しタイムじゃねえよな? あ、やば、またフラグ立てちゃった。そうなりそう。あー、平穏な日常よ、戻ってきてくれー。
家に帰るとすぐご飯食べて爆速で寝た。環境の変化って良くないよね。
目覚ましの音がうるさいので爆速で止める。近所迷惑になっちゃうからね。歯磨きしながら、今日は彼女にまとわりつかれなければいいけど、なんて考える。初日はずっとべったりだったからな。なんか話題がだるそうだし。寝癖ついてんな。まあこのままでいいか。
朝、彼女と道の途中でばったり会う。明日から時間ずらそ。
「おはよー、昨日よく寝れた? 私はね、救急車で運ばれたの。転校初日で疲れちゃったからかな?」
ほんとかこいつ。まあ嘘でもいいけど、話題がだるいやんけ。心配してほしいんですね、わかります。
「へえー? 大変だね、お大事に」
「私ねぇ、よく救急車で運ばれるんだー。貧血だから大したことないんだけど、急に倒れるから周りの人が心配しちゃって」
「へえー? それは大変だね」
興味なさすぎておんなじ返答しちゃった。
そこからも彼女のお話しは止まらない、止まらない。ずっと体弱い話された。学校についてからも! こいつはなにを求めてるんだ。私の尊い時間を返してほしい。心配ならもう十分しただろ! あの、そろそろ、もういいですか? と言いそうになったところでチャイムが鳴る。昨日からチャイム、ありがとう。こんなにチャイムが嬉しいなんて。
私の休憩ごとにお話しタイムなのでは、というフラグは回収された。見事に毎回話しかけてくる。だるい、だるすぎる。しかも内容が、「お父さんが会社経営してる」だの、「モデルも実はやってた」だの、嘘かわからん微妙な話をされる。嘘でも本当でもどうでもいいが、彼女の望んだ返答をさせられるのがだるい。へー、すごーい、そうなんだー、しか言ってないけどな。こんな日々が毎日続くのか? やってられんぞ。このままじゃいつか爆発する、私が。明日は遅く登校しよ。こんなん聞いてられんまじで。
はい、目覚ましうるさいね、ビンタのように止める。叩きすぎた、痛い。
「あなたアラームの叩く音うるさいのよ! 静かにしてちょうだい!」
理不尽! なんでや、アラームの方が絶対にうるさい。
「あなたね、お姉ちゃんみたいにゆっくり食べなさい。そんなに食べたら太るわよ」
「はいはい、じゃあ行ってくるね」
「もっと早くアラームかけなさい! だから早く食べなきゃいけないのよってもう外出てるわあの子!」
お母さんの小言を聞き流して家を出る。あ、いつもと同じ時間に家を出ちゃった。つい、てへへ。
でも、なぜか今日は彼女に出会わなかった。よかった。
彼女は昨日より遅く登校してきたが、やはり私に話しかけてくる。 よくそんな自慢話がポンポンでてくるな。お父さんの帰りがおそいから寂しいだの、でも会社経営頑張ってるから文句言えないだの。会社頑張ってるでいいやん。会社「経営」の経営いるか? どんどん腹立ってきたぞ。と、思っていたら後ろの席のクラスのマドンナ(名前忘れた)が話を聞いていたらしい、輪の中に入ってきた。
「会社経営? すごーい! なんの会社やってるの?」
彼女の顔の歪み方は尋常じゃなかった。全身で「嫌です!」を放っていた。なんで? 私にしてた自慢話をマドンナにもしろよ。それで私を解放してくれー。
「あー……、えっと、なんだったけな、IT系? 難しくてわかんないんだけど」
「へえー! すごいね」
マドンナは興味を無くしたのか去っていった。まて、去るなよ。あーあ、今日も休憩のたびに自慢話されんのかなー…….。つらい。
「姉ちゃん! こんなうるせえ目覚ましずっとなってんのに起きねえとかどんな神経してん「うるせえ!」姉ちゃんの目覚ましの方がうるせえ!」
やべ、今日寝過ごした上に弟と喧嘩で時間潰してギリギリだ。チャイムと同時にドアを開ける。
先生に、「セーフということにしとくが、次はアウトだぞー」と注意される。弟は絶対遅刻だな。
さ、今日も休憩時間にモデルは大変だっただの、これその時の写真だの、どうでもいい話を聞かされる。うーん、なんかいつも通りでこれが日常になってきたな。逆にこの話聞きたくなってきた。いや、それは言い過ぎ、聞きたくはない。とか考えてたら途中でマドンナが会話に入ってくる。ナイス!
「モデルもやってたのー? すごい! なんて事務所?」
またも彼女は嫌そうな顔。だからなんで? 私はよくてマドンナは嫌な理由教えろよ。
「えーっとなんだったかな。忘れちゃった」
「え? 自分の事務所忘れることある? ウケるんですけど」
確かにな。モデルってみんな事務所入ってんの? 全く無知だから知らんけど。でも嘘が濃厚になってきたなー。最初から嘘っぽかったけど。
「ねえ、モデルの時の写真見せてよー。みたいみたい」
「あー、今はないかな」
「え? さっき私に写真見せて自慢してたじゃん」
やべ、つい口が滑った。でもお前が息を吐くように嘘つくからだぞ。純粋に疑問として言ってしまっただけだ。
「えー? 私には見せられない写真ってこと?」
「いや、忘れてた! あったあった、見せるね」
そこには綺麗な彼女が写ってる。まあモデルでも通用するぐらいには綺麗だわな。
「すごーい! 本当にモデルやってたんだね」
そうしてマドンナは去っていった。待て! だから去るなよ。
今日も目覚ましにビンタしてってあああ! 目覚まし壊れたぞ!
「お母さん、目覚まし壊れた! 明日からお母さん私を起こして!」
「いやよ! 自分で起きなさい」
「可愛い娘のためだと思って」
「可愛い……?」
本気で何言ってんだこいつって顔された。娘だぞ! 酷い母親だ。やべ、こんな喋ってる場合じゃない、「いってきまーす!」
「朝ごはんぐらい食べなさい! お兄ちゃんを見習いなさい、ご飯3杯は食べるわよってもう行ってるわあの子!」
さあ、今日はどんな自慢話を聞かされるかな? ちょっと楽しみになってきた。
彼女は小さな声で、「昨日は倒れて病院行ったの」と言ってきた。こいついっつも病院いってんな。そしてなんでこんな小さい声。もっとハキハキ喋れよ。と思ってたらマドンナは地獄耳なのかまた会話に入ってきた。
「大変だったねー! どこの病院いったの? 私、お母さんが看護師だからもしかしたら会ってたかも」
こいつもこいつでなんで会話に入ってくるんや? ちょっと楽しそうだし。
「えーっと、大きな病院だったかなー…….」
こいつも病院名ぐらい考えとけよ。嘘つくの下手なんか?
「そうなんだー、あのさ、嘘っぽくない?」
「えー? そんなことないよ、あの、トイレ行ってくるね」
あ、逃げた。マドンナが私に話しかけてくる。
「よくあんな話毎日聞いてるねー! うざくない? 絶対嘘だよ」
「まあ、嘘だろうけど。まあ、うざいけど」
「うざいんだ! 私がなんとかしてあげようか?」
うわー! 正直に言ってしまったら選択間違った感じするな。いじめとかしそう、こいつ。それはそれで困るんだけど。私が主犯者にさせられるのもいやなんだけど。めんどい、めんどくさい。彼女がきてからずっとめんどい。
「いや、とりあえず今のところ話聞いとくよ、実害あるわけじゃないしね」
ありまくりですけどね! 私の貴重な時間が削られてますけどね!
「ふーん? そっか!」
そうしていつものように去っていった……。マドンナ、さては面白がってるな? いやな性格。
次の休憩時間もくるかくるかと身構えていたが、彼女が話しかけてこない! どうした、飽きたか? それはいいことだ。彼女は嘘を言わない、私も平穏が保たれる。win-winじゃないか!
今日はいい日だったな。1人の時間はやっぱりいい。うんうん、カバンを担いで帰ろうとしたその時だった!
「ねえ、今日は途中まで一緒にかえらない?」
なんでや! 思わず声に出そうになった。今日大人しくしてたじゃん。
「ああ、うん、いいよ」
私は嫌な顔を隠しきれなかっただろう。でも彼女は嬉しそうだった。今日だけだからな!
「それでね、お父さんとお母さんと一緒にフレンチレストランに行ったんだけど、テーブルマナーがわからなくって、すごく恥ずかしかったの」
うんうん、そんな時もあるよね。わかるわかる。
「それで、会計は合計50万だったんだの。びっくりでしょ?」
はい、これは嘘! 嘘の証拠ないけど、絶対嘘!
「あのさ、それ、そろそろやめたら?」
「え……。なんのこと?」
うーん、彼女のためを思って心を鬼にした方がいいのかなー。でもここで発狂とかされても困るし、めんどいし……。
「いや、なんでもない。私そこの本屋寄ってくわー。おやすみー」
とりあえず、今日はいいかな。
本屋入って、無意識に取った本が「なぜ虚言を吐くのか」だった。……気にしてるな、私。長い時間話してちょっと気になり始めたか?
自己肯定感や現実逃避がうんちゃらかんちゃら。すぐに本を閉じる。うーん、私と正反対ってことやな。私がなんとかできる問題ではないかも。
朝起きたら頭痛い。そういう日もあるよね。今日ぐらいは休んでもいいんじゃないか? と思っていたら母からの怒号が飛ぶ。
「早く学校いけや! お母さんを目覚まし代わりにせんとって」
「頭痛いねん」
「ごちゃごちゃ言わんとはよ学校いけ!」
布団奪われた! この親にしてこの子ありって感じ。今の時代にそぐわねえ育児だろ、この昭和おかん!
痛む頭を抑えて学校に登校すると、彼女がいない。おお、今日はいい日か!? と思っていると、マドンナから話しかけられる。今日はお前かよ!
「ネットに出てこないモデルってなんだろーねー?」
「まあ、嘘なんじゃないの。なんでそんな嘘つくか知らないけど」
「お父さんITの会社やってるのも嘘かな?」
「それは知らないけど」
すると隣の野球部が「転校生? ITの会社経営? なわけ、俺と同じ安い賃貸のマンション住んでんぞ」と言ってきた。どんどん輪がでかくなる。斜め前、隣のクラスのやつ、誰かわからんやつ…….。
「なになにー? 面白そうな話ー?」
「え? それは嘘すぎ、やば、あはは」
「モデルとか、そんな自分が可愛いと思ってる?」
なんだか人格批判が始まったので席を立つ。どいつもこいつも。
渡り廊下でひとり弁当を食す。さみい。さて、なんで彼女って嘘つくんだろなあ。彼女に思いを馳せる。寂しいのかな。過去に嫌なことあったんかな。まあ嫌なことあったとて嘘をついていい理由にはならないんですけどね。家庭環境最悪なんかな。逆に私ってなんでこんな1人好きなん? 家族が多いから、学校では1人でいたいんかな? 親から愛されてるってわかってるから、1人でも大丈夫って説もあるな。なーんてな! こんなキモいこと口走ったらおかんに笑われるわ。まあ、実際仲良くなりたいやつがクラスにいないっていう単純な理由もある。ただただ家から近いって理由で学校は選ぶべきではないな。
でもまあ、彼女は自分を守りたくて嘘ついて、結果傷つけてるんだろうな。この年になっても、自分を守る方法が嘘しかないと信じる、可哀想な子。彼女の事情は全く知らないんですけどね。てかあいつらまだ盛り上がってんのかな? ほんと性格悪い奴ら。
「おはよー、なあおかん、友達……ではないんだけどクラスの子が嘘つきだったらどうする? 見過ごす?」
「見過ごすってなによあんた、私はそんな子に育てた覚えはないわよ」
「そんな子に育ってますけど」
「友達ならば、愛を持って向かい合うべきよ」
「だから友達じゃねえって」
ふーん、向かい合うねえ。
今日は何もないといいけどな、そんな祈り虚しく彼女が登校するやいなやすぐマドンナが騒ぎ立てる。
「昨日はどこの病院ー?」
「えっと」
マドンナはいつもより大声だ。しかもクラスのみんなが注目してる。いやな雰囲気。
「前の学校の子に聞いちゃった。前の学校でも嘘ついて不登校になっちゃったんだね! それで転校してきたの? でもまた嘘ついたら意味ないでしょ!」
そういうことかよ。
「あとさ、モデルの写真もう一回見せてよ! 前の学校の子から聞いたよー、美容院で撮った写真なんだってね。もしかして美容院で撮ったこと、モデルだと思ってる?」
クラスが笑いに包まれた。はあ、めんどくさいけどこれはやりすぎ、いじめだな。彼女も泣き始めた。
「そんぐらいにしといたら。泣かせるのはやりすぎ」
「ごめーん、あはは」
火に油か。
「あなたもあなただよ。嘘ついていいけど、自分傷つけるのやめたら? あなた、自分大好きっぽいけど、本当の自分好きじゃないでしょ。心の奥にいる、自分を傷つける行為だよ」
「やさしいー、あはは、そうだよー! 嘘はよくないよー」
彼女はすごく小さな声で、「違う、私、本当に」そう言いながら涙した。
「前の学校の子から聞いたよー、嘘ばっかだったって! 本当のことなんて、あるのかなぁ?」
クラスが笑いに包まれる。本当に? 本当に、なんだろう。
耐えきれなくなったのか、彼女は飛び出した。
おもちゃがなくなったからか、不貞腐れた5歳児のように、みんな静かになった。
私は、彼女を追うべきかどうか迷った。これ以上私が彼女にできることもないしよぉ。迷って迷って迷い続けた後、外に出た。でももう、彼女はどこに行ったかわからなかった。
彼女は次の日から不登校になった。数日後、転校することになったと担任から伝えられた。そして、クラスでいじめ指導が行われた。先生が怒る。いじめ、よくない、いじめ、なくそう。そんな単純な問題じゃないんだけどなあ。先生の言葉がなんだか薄っぺらく感じた。
彼女はどう過ごしているだろうか。今この時間も、また嘘をついているのだろうか。本当に、ねえ。望んじゃう気持ちはわかるけどね。多分、いつか、本当になってたらいいのにって、願ってたんだろうなぁ。本当に、モデルになってたらいいのに。本当に、病気ならみんな心配してくれるのに、本当に、お父さんがお金持ちならみんな羨んでくれるのにって。
でも、それは今の自分を傷つけているのと同義だ。きっとどんどん苦しくなってく。彼女に私の言葉が伝わってるといいけど。
「私は、自分を愛してるって言えるよ、あなたはどうなの?」
なんてな。虚しい独り言。あの後すぐに追いかけたら良かった。きっと彼女も心の底で望んでたはずなのに。申し訳ないことをした。そうして彼女ともっと話し合えば良かったな。彼女の「本当に」の後の気持ちを、聞きたかった。聞けば、また同じ結末にならずに済んだかもしれないのに。
次の転校先では、虚言がなくなるといいけどなぁ。今の私にできることは、ただ祈るだけだ。




