あい
あのとき僕は灯され、あのときに僕は死んだ
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あんまり、誰のことも信じられない少年だった
僕の親は機能不全家庭で育っていて、僕はその余波をモロに受けていて
流行り物は全然買ってもらえず、
明るく振る舞うことはできてもコミュニティの輪にはなんとなく溶け込めきれない
信じられるものなんてないんだなという直観をずっと抱えていて
勉強だけできればいい、お金が稼げれるようになればいい
そんな少年だった
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彼女との出会いは小学生の頃...小学4年生の9月に転校してきた
最初、すっごく僕にくっついてきて、鬱陶しくって泣かせて一騒動になったのを、覚えている
結構撥ねることのほうが多かったけど、それでも彼女は僕にお節介を焼いて
そして僕は男子小学生特有のガサツさで撥ね飛ばしていた
そうじゃなくても、彼女はいろんな人から比較的いじめられる方だった
ただ、1対1でやり合うのはともかく、1対多で一方的なのは...
それは僕の良心が痛んで
みんなが見えないところで声をかけてたりしていた
雪合戦で彼女だけが標的になって、びしょびしょになった彼女に声をかけたのを、今でも覚えている
小学5年生のいつだかに、手紙をもらった
もうその手紙は手元にないのだけれど、感謝と...
付き合ってほしいということは書かれてなかったけれども、
それでも告白のようなものが書かれていた記憶がある
僕は、「ずっと護るから」と手紙を返して、そこから文通が始まった、そんな思い出がある
小学6年生のいつだかの、クラブ活動の終わりがけに
PCの電源を落としに2人で誰もいない図書室に行って
気付いたら抱き締め合っていた
勿論、思春期入りがけの何かがあったと思う、
けど、お互いがお互いを大切に想っていて、護りたいと願っていて......
少なくとも僕にとっては、
親なんかよりも、
誰よりも、
一番信頼できる、
表現する言葉がないくらい、
大切な人で、
それが、数十秒に込められていた
その時の彼女の心の真実のところは勿論分からないのだけど、
なにかの支えになっていたのならいいなと、願うばかり
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それは一瞬の話で、あとはふざけ合う日常が流れていった
そして小学校卒業後も交流があった
僕は中学受験で都内の中学に進んだけれども、なんだかんだ関わりをもっていた
ただ、
彼女はエホバの証人であって、
僕は...ミッション系の幼稚園に通っていた経歴はあるけれども、それでも普通の日本人で、
いつかお別れが来る...
そのときが来るのを、当時からよく知っていた
エホバの証人の教義について学んだり色々調査もしたけれど、
やっぱり少しずつ違うなって、そう感じていた
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そして、その X-day は高校3年の初夏
「もう会えない」「なんで」「ひかるが男の子だから」
そんな言葉だったと思う
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そして今、17年が経つ
仕事や、バンドセッションや、公私のいろんな場面で評価されたり、感謝されたりするようになり
でも変わり者だなーという不可思議なモノを見る視線が刺さる
そんな日々
おそらくは、あのときに僕は死んで、
今みんなの前にいるのは、彼女なんだと思う、
彼女がいなかったら本当に僕は生きていけない
でも彼女はもう二度と会えない
だから、僕はせめて彼女になりたいと願い、
彼女を纏い世界と相対している
それはただの幻影
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時々いろんな人にこんな素敵なメッセージをいただく
「すっごく優しい」
「ピアノの音色に愛が籠もってるよね」
「そのタスクにそこまで手を尽くすのは、それは本当に優しさだと思う」
ありがとう、
でもね、
その愛は僕の愛ではなくて、
彼女の愛なんだ
あるいはそれは、
彼女に届けという、彼女ならそうするんじゃないかなっていう、
ただそれだけの願いなんだ
あるいは、
不才な僕が不才を超えた何かをできているのは
きっと彼女に灯されているから
だから、その言葉はとっても嬉しくて、
でも、ただただつらかった
僕は、こう返す
「半分は、演じてるところもあるんだよ」
そうすることで、彼女の魂だけは接いで、継いでいける
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彼女が僕に惹かれた理由は、分からない
僕を照らしたいと思ったのか
それとも僕が信頼できる人だって感じてもらえたのか
僕がエホバの証人ではないにも関わらず
それは、最早確かめる術はない
ただ、僕を照らしてくれたあなたを一瞬でも照らせてたら
だって、もらってばかりだったら、つらい
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できることはもうなにもないけど、
ただせめて笑顔で居て欲しいって
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そして、
独りで接いで継ぎ続けることが、
彼女を憑依させ続けることが、
そろそろ難しくなっていて、
僕はもうどうにもできなくなってきて、
せめて音に遺そうと曲を描いて、描き切って、
今、立ち尽くしながらこの文章を綴っている