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7/12

『恋の高熱は治まらない!?ツンデレ悪役令嬢、両サイドから愛されて胃が痛い』

 風邪が治った日の朝。


……いや正確には、治った“ことにされた”朝だった。


 


「熱は平熱に戻ったな。37.1℃。誤差範囲だ」


「うん……喉の痛みも引いたし、もう大丈夫……だと思うけど」


「じゃあ今日は、俺がエスコートしてやるよ! 久々の屋敷内デートだ!」


「いや、俺が先に治癒魔法かけたんだから、俺が最初に話す権利があるだろ」


「どんな理屈よそれ!? もうやめて、争うな!!」


 


 すでに朝からうるさい。

 寝起き一時間でこのテンションは、風邪より有害なのでは……?


 


 しかも、二人とも見た目は爽やか王子&クール系魔導師なのに、

 私の前では恋愛バカ×理屈バカに変貌するの、本当にやめていただきたい。


 


「ねえ、ほんとに落ち着いて? 今日は静かに読書でもしてたいの。なんなら一人で庭で紅茶でも――」


「じゃあ俺が紅茶入れてやる!」


「僕は本を選ぶ。二百冊ほど持ってくる」


「多い!!」


 


 午前中:愛されすぎて逃げ場がないタイム

 私は結局、セリウスの選んだ哲学書(恋愛感情の定義について50ページもある)を片手に、

 アランの「絶対に甘いけど君が飲むからいいと思った」謎のミルクティーを飲まされていた。


 


「はあ……なんで風邪ひいただけで、こんな展開になってるのかしら……」


 


「エレノア様……わたくし、部屋を出ましょうか?」


「……マリーベルは、残ってて。メンタルの回復にあなたが必要」


「そうですか! ではこのカモミール強強バージョン、お淹れします!」


「それ何……!? 癒されたいのに胃が痛い予感しかしない……!!」


 


 


 昼食時:求婚(物理)

 事態が加速したのは、お昼前だった。


 セリウスがいきなり、

「正式に申し込む。君に再婚約を」

 と、私の前にひざまずいた。


 


「……は?」


「これは“魔導誓約”。エンチャントされた指輪には“破棄不可の魔力契約”が含まれている」


「いやちょっと待って、それヤバいやつじゃない!? 強制力あるの!?」


「違う。お互いが愛し続ける限り、契約が続く”という内容だ」


「それ重すぎるぅぅぅぅぅ!!!」


 


 そして直後、アランが皿をガン!と置いて立ち上がった。


 


「俺も正式に申し込む!」


「何を!?」


「エレノア、君と――」


「ストップ! プロポーズなら順番守って!! 私の許可なく始めるな!!」


 


 


 午後:本気の火花タイム(と胃痛)

 セリウス「僕は、君を縛る気はない。だが、君の未来を並んで歩きたい」


 アラン「俺は過去のことを詫びて、今から君を全力で守りたい」


 セリウス「今から?」


 アラン「おう!」


 セリウス「それは、過去に守れなかったという告白だな」


 アラン「お前、性格悪いぞ!?」


 エレノア「どっちも喧嘩すんなってばぁああああ!!」


 


 私は、ついに耐えられずソファに突っ伏した。


「……ねぇ、私が風邪ひいたこと、忘れてない?」


「むしろ忘れられない」


「昨日の君が……可愛かったから」


「黙ってお願い……本気で照れるから……」


 


 


 夜:最終ラウンドは静かに…ならなかった

 夜、マリーベルが「お風呂の用意ができました」と報告に来たあと――


 二人はまだ、私の部屋のドア前に立っていた。


「エレノア。明日、正式に、王に申し出る」


「えっ、なにを……?」


「再度、婚約者として君を迎えたい、と」


「ちょ、まって、王ってあなたの父親よね!? そんな国家規模の話、いきなりする!?」


 


「僕も。明日、魔導師団を辞任するつもりだ」


「待って、待って!? なんで急に進路相談始まってんの!? 風邪治ったばかりよ私!!」


 


 私は頭を抱えた。


 明らかに、風邪よりこっちの方が重症だ。


 


(……でも。嫌じゃなかった)

(あの時の言葉も、今日の騒ぎも)

(本気で私を想ってくれるって、こんなに……強くて、優しいものなの?)


 


 顔が熱くなる。

 でもこれはもう、風邪のせいじゃない――そう思ったとき、


 


「……ずるいのよ、あんたたち」


 


 小さな声で、私はつぶやいた。


「好きって、言った方が……勝ちみたいな顔して」


「……あ、もしかしてそれ……」


「黙りなさいっ!」


 


 ふたりの前で、私は真っ赤な顔で枕にダイブした。

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