『恋の高熱は治まらない!?ツンデレ悪役令嬢、両サイドから愛されて胃が痛い』
風邪が治った日の朝。
……いや正確には、治った“ことにされた”朝だった。
「熱は平熱に戻ったな。37.1℃。誤差範囲だ」
「うん……喉の痛みも引いたし、もう大丈夫……だと思うけど」
「じゃあ今日は、俺がエスコートしてやるよ! 久々の屋敷内デートだ!」
「いや、俺が先に治癒魔法かけたんだから、俺が最初に話す権利があるだろ」
「どんな理屈よそれ!? もうやめて、争うな!!」
すでに朝からうるさい。
寝起き一時間でこのテンションは、風邪より有害なのでは……?
しかも、二人とも見た目は爽やか王子&クール系魔導師なのに、
私の前では恋愛バカ×理屈バカに変貌するの、本当にやめていただきたい。
「ねえ、ほんとに落ち着いて? 今日は静かに読書でもしてたいの。なんなら一人で庭で紅茶でも――」
「じゃあ俺が紅茶入れてやる!」
「僕は本を選ぶ。二百冊ほど持ってくる」
「多い!!」
午前中:愛されすぎて逃げ場がないタイム
私は結局、セリウスの選んだ哲学書(恋愛感情の定義について50ページもある)を片手に、
アランの「絶対に甘いけど君が飲むからいいと思った」謎のミルクティーを飲まされていた。
「はあ……なんで風邪ひいただけで、こんな展開になってるのかしら……」
「エレノア様……わたくし、部屋を出ましょうか?」
「……マリーベルは、残ってて。メンタルの回復にあなたが必要」
「そうですか! ではこのカモミール強強バージョン、お淹れします!」
「それ何……!? 癒されたいのに胃が痛い予感しかしない……!!」
昼食時:求婚(物理)
事態が加速したのは、お昼前だった。
セリウスがいきなり、
「正式に申し込む。君に再婚約を」
と、私の前にひざまずいた。
「……は?」
「これは“魔導誓約”。エンチャントされた指輪には“破棄不可の魔力契約”が含まれている」
「いやちょっと待って、それヤバいやつじゃない!? 強制力あるの!?」
「違う。お互いが愛し続ける限り、契約が続く”という内容だ」
「それ重すぎるぅぅぅぅぅ!!!」
そして直後、アランが皿をガン!と置いて立ち上がった。
「俺も正式に申し込む!」
「何を!?」
「エレノア、君と――」
「ストップ! プロポーズなら順番守って!! 私の許可なく始めるな!!」
午後:本気の火花タイム(と胃痛)
セリウス「僕は、君を縛る気はない。だが、君の未来を並んで歩きたい」
アラン「俺は過去のことを詫びて、今から君を全力で守りたい」
セリウス「今から?」
アラン「おう!」
セリウス「それは、過去に守れなかったという告白だな」
アラン「お前、性格悪いぞ!?」
エレノア「どっちも喧嘩すんなってばぁああああ!!」
私は、ついに耐えられずソファに突っ伏した。
「……ねぇ、私が風邪ひいたこと、忘れてない?」
「むしろ忘れられない」
「昨日の君が……可愛かったから」
「黙ってお願い……本気で照れるから……」
夜:最終ラウンドは静かに…ならなかった
夜、マリーベルが「お風呂の用意ができました」と報告に来たあと――
二人はまだ、私の部屋のドア前に立っていた。
「エレノア。明日、正式に、王に申し出る」
「えっ、なにを……?」
「再度、婚約者として君を迎えたい、と」
「ちょ、まって、王ってあなたの父親よね!? そんな国家規模の話、いきなりする!?」
「僕も。明日、魔導師団を辞任するつもりだ」
「待って、待って!? なんで急に進路相談始まってんの!? 風邪治ったばかりよ私!!」
私は頭を抱えた。
明らかに、風邪よりこっちの方が重症だ。
(……でも。嫌じゃなかった)
(あの時の言葉も、今日の騒ぎも)
(本気で私を想ってくれるって、こんなに……強くて、優しいものなの?)
顔が熱くなる。
でもこれはもう、風邪のせいじゃない――そう思ったとき、
「……ずるいのよ、あんたたち」
小さな声で、私はつぶやいた。
「好きって、言った方が……勝ちみたいな顔して」
「……あ、もしかしてそれ……」
「黙りなさいっ!」
ふたりの前で、私は真っ赤な顔で枕にダイブした。