「火花も焦げも恋のスパイス? 王子vs魔導師、恋の厨房バトルロイヤル開幕!」 ~悪役令嬢、胃袋を巡る恋の争奪戦に巻き込まれました~
王宮の朝は、だいたい騒がしい。
でもこの日は、特別に意味不明に騒がしかった。
「……エレノア様、失礼ですが、今お時間よろしいでしょうか?」
「ん? 何、マリーベル?」
「実は……厨房の方で、王子殿下とセリウス殿が……『どちらがより健康的かつ愛情のこもった料理を作れるか』というテーマで言い争っておりまして……」
「…………は?」
──意味わかんない。
いや待って、心当たりはある。昨日のあれだ。
アラン「最近疲れてないか、エレノア?」
セリウス「無理は禁物だ。君はよく働きすぎる」
私「ありがたいけど、みんな過保護よね!!」
まさか、その「過保護」が料理に転化するとは。
「――というわけで! はい! 準備できました!」
「準備が整ったら何かが始まると思うな!!!」
「いやもう、すでに厨房を借りた。王宮料理長にも許可済みだ」
「どんな根回しスピードなのよあなたたち!?!?」
舞台は、王宮の厨房。
広々とした空間に、調理器具がズラリと並ぶ豪華仕様。
その中央で、二人のイケメンがエプロン装備でにらみ合っている。
しかも、どちらのエプロンにも「For Eleonora♡」という刺繍入り。誰の仕業だ。
「……何そのエプロン。自作?」
「手縫いだ。ミスは許されないからな」
「おい、俺も手縫いだぞ!? 偶然かよ!? 恋敵すぎるだろ!!!」
「偶然ではない。君と張り合うには、最低限それくらいしないと」
「張り合う気満々じゃん!?!?」
──そして始まった料理勝負。
ルールはこうだ。
・テーマ:「疲れたエレノアに癒しを与える一皿」
・時間:一時間以内
・審査員:マリーベル(採点担当)&エレノア(食べる係)
調理パート:王子アランの場合
やたら叫んでる。
「くっそ、玉ねぎが目にっ……っ!! クソ! 涙出たら負けじゃねぇぞ俺ぇぇ!!」
「皮をむく順番が悪い。君はいつも順序を考えない」
「料理で人格否定すんなよお前ぇぇ!!」
一方で、味へのこだわりは本物。
母親直伝のレシピノートを片手に、懐かしい匂いを再現していく。
途中、私がそっと覗くと――
「……エレノア、にんじん、どう切ってほしい?」
「え、えっと……輪切りで、ちょっと厚めに」
「わかった。子供の頃、あれだけ避けてたのに、今は好きになったんだな」
「(な、なんで覚えてんのよ……! いや、照れるし! ……ちょっと嬉しいけど!!!)」
最終的に、煮込みすぎたけど味はめちゃくちゃ優しい「家庭風とろけるシチュー」が完成。
調理パート:セリウス・ノルドの場合
静か。とにかく静か。
でも手際は完璧すぎて、もはや職人。
切り揃えた野菜は魔法で温度管理、火力は魔石で微調整。
鶏の下処理にすら“魔力で雑菌を除去”とかしてる。意味不明の次元。
「これは君の体質に合わせたハーブミックスだ。眠りも深くなるはず」
「(私の体質、いつのまに解析されてるの!?)」
「なお、過度な疲労には血糖値のコントロールが重要だ。だから、糖分と塩分は控えめにした」
「(ていうかそれ、医療レベルで料理してない!?)」
完成したのは「白鶏とハーブのクリームスープ~癒しの魔導仕立て~」。
見た目はレストランレベル、香りも優しくて、ちょっと反則。
試食タイム
審査員エレノア(私)が、ド緊張の中でスプーンを手に取る。
「じゃ、じゃあまず王子のから……いただきます」
ぱくっ。
……うわ、やさしい。甘くて、温かくて、泣きそう。
あの頃を思い出す。
私が“お嬢様”でいた頃の、ほんの一瞬の幸せ。
「次は……セリウスのね」
ぱくっ。
……ん、なにこれ、癒しの精霊が舌に舞ってる!?
後味にほんのり残るミントが……あ、好き……。
「こ、これは……!!」
「どちらだ、エレノア」
「さあ、選んでくれ!」
──選べるかああああああああ!!!
「ふ、二人ともすごく美味しかったの! ほんとに! 私、感動したの!」
「つまり?」
「どっちも甲乙つけがたいのよぉぉぉ!!!」
「逃げたな」
「逃げたな」
「なんでハモったのよ!?」
──そして。
二人の間に生まれた謎の結論がこれだった。
「では今後、定期的に交互に料理を作るというのはどうだろうか」
「おい、週一じゃ足りないだろ? せめて三日に一度だな」
「よし、では火・木・土を私、水・金・日を君で」
「いや、そこに被る月曜はどうすんだ!? 平等じゃない!」
「週7でいいじゃないですかああああ!!! 私の胃がやばいぃぃぃぃ!!」
結論
胃袋の平和は、保たれたようで、保たれていない。
けれど私の心には、ちょっと温かくて、
「こんなにも想ってくれる人がいる」ことへの嬉しさが、確かに残っていた。
※ ツンデレ・おまけエピソード
夜、寝る前に。セリウスとアランがそれぞれ部屋に差し入れを持ってきた。
セリウス「今日の疲れを取る“眠りのハーブティー”だ」
アラン「おれ、オルゴール買ったんだ。寝る前に鳴らすといいって聞いてさ」
私「……わかった、もう、ありがと。
……あんたたち、ほんと、過保護なんだからね。好きとか言われても困るんだから!」
「「誰も言ってないけど!?」」
「なっ……だ、だっていつか絶対言うでしょ!? 予防線よ予防線!!」
「エレノア様、それを先手で叫ぶのは、もはやツンデレでは……」
「うるさーいっ!!」