「ざまぁのその後で? 今さら惚れられても、遅いですわ」
「好きとか言われても……あ、あんたのために頑張ってるわけじゃないんだからねっ!?」
あの“断罪舞踏会”から三ヶ月。
元婚約者アラン王子が私に本気で惚れ直し、
「今さら何言ってんのよバカ」と私が羽ペンを投げつける、そんな日々が続いていた。
でも――最近、ちょっと様子がおかしい。
「……はい、これ。新しく制定された『魔導法改正案』。王子が提案した部分、案外まともだったから、修正入れて通しておいたわよ」
「ほんと!? ありがとうエレノア!」
「べ、別に、あんたのために通したんじゃないんだからっ!!」
「……え、俺のためじゃないの?」
「そ、そうよ!? これは国民のためよ!! そもそも、あなたの案、六割は役立たずだったし!」
「……残りの四割は?」
「そ、そこは……まぁまぁ、悪くなかったんじゃないかしらっ」
(なんで私、動揺してんのよ!)
──最近、自分が“ツッコミ全振り令嬢”から
“ツンデレ片思い未満令嬢”にジョブチェンジしてきてる気がする。
まずいわ……まずい。
だって私、この男に一度、泣かされてるのよ?
断罪舞踏会で“王子の威光”使って、私の名誉をズタズタにしたあの人に。
それなのに、今さら「好き」って言われて、
毎日花束やお弁当や“全身で表現された愛”をぶつけられて――
「エレノア、今日の髪型、すごく似合ってる。見惚れた」
「っっっ……う、うるさいわねっ! 毎朝自分で巻いてるだけよっ!」
「だからすごいって言ってるんだ。君はなんでも自分でできて……」
「は、はぁ!? べ、別に、誰かに褒められるために巻いてるわけじゃないんだからねっ!!」
(ちょっと待って、何このテンプレ反応!!?)
──ダメだ。これ以上、彼のペースに巻き込まれてはいけない。
だから私は、冷静に――冷静に距離を置くことにした。
「……あんまり調子に乗らないでよ。あんたの恋路はマイナスからスタートしてるんだから」
「うん、それでも。ゼロに近づけたら、それだけで幸せだ」
「~~~~っっ!! ば、バカ!!!」
──ほんっと、どうしようもないわ、この王子。
……でも。
ちょっとだけ、
ほんのちょっとだけ、昔より“イイ男”になった気がする。
*後日*
【王城中庭】
「エレノアっ、あの! 君と一緒に散歩したいなって……あっ、いや、違う! 仕事の相談も兼ねて!」
「……仕方ないわね。た、たまたま私も、歩きながら考え事しようと思ってただけよっ」
「ほんと!? やった!!」
「べ、別に“あんたが誘ったから”じゃないんだから! 自主的よ!? 完全に私のタイミングよ!?」
「はいはい、そうだね~」
「くっ……その余裕ムカつく!!」
(……でも、なんでこっちがドキドキしてんのよ……)
──断罪された男が、遅れてきた初恋をぶつけてくるなら、
ツンデレ令嬢は、それを受け流しながら時々ちょっと照れてやるのが礼儀ってもんでしょ。
でも、くれぐれも勘違いしないでね?
私はあんたのことなんか――
「……好きになったり、してないんだからっ!!」
(あ、今、自分で言ってちょっと苦しくなった……!)