表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/12

断罪式は、無双の幕開け

 王宮最大の舞踏会場――千本の魔晶灯が煌き、宙には音楽魔導具のメロディが流れている。

だが、今この空間は静寂に包まれていた。


 そして、その沈黙を破ったのは――王太子の怒声だった。


 


「エレノア・フォン・シュタイン! 貴様との婚約は、本日をもって破棄する!!」


――来たわね。ついにこの瞬間が。


 私は長い睫毛をゆるやかに伏せ、紅茶を最後の一口飲み干した。

 甘さ控えめのローズミントティー。……こんな場で紅茶を飲んでいられるのも、余裕があるからよ?


「……まあ。急に大声を出されてびっくりしましたわ。王太子殿下」


 私の声に、周囲がさらにざわつく。

 王子と、その腕に抱きつくようにして寄り添うのは――


「わ、私……ただ皆と仲良くしたかっただけなのに……ううっ……」


 震える声で泣き崩れる“庶民系聖女”クラリッサ嬢。

 顔を伏せ、ドレスの裾を握り締めている……が、その手に傷一つないのはなぜかしら?


 


「エレノア、お前の横暴はもはや見過ごせん!

 クラリッサを何度も侮辱し、暴力を振るい、毒を盛ったなどと……お前に王妃の資格などあるものか!」


「ほう。そこまで言われるのなら――“証拠”があるのでしょうね?」


 私は静かに問いかけた。

 王子が一瞬たじろいだのを、私は見逃さなかった。


 


「証拠もなしに、一国の侯爵令嬢を断罪するなど――それは名誉毀損と呼ぶのではなくて?」


「こ、こ、この者を庇い立てる気か!? これほどの証言が集まっているのだぞ!」


「では、確認いたしましょう。“真実”を」


 ぱん、と私は扇子で手を打った。

 空中に浮かび上がるのは、淡い青の魔法陣。そして――


 


《発動:転生スキル【無限録画魔晶石】+【証拠保存癖Lv.999】》


――空中に浮かび上がる、鮮明な記録映像。


 


【映像①】――令嬢寮の裏庭、クラリッサが自分のドレスにハサミを入れている。


クラ「このくらい裂いとけば、十分“かわいそう”に見えるよねぇ~♡」


【映像②】――薬師から受け取った小瓶を、自分の紅茶カップに注ぐ様子。


クラ「ちょっと腹壊すだけなら、全然平気♪ それより王子が怒ってくれるもんね♡」


【映像③】――王子との打ち合わせ場面。


 アラン「俺がエレノアを断罪する。そしたらクラリッサ、みんなに同情されるから」

「うふふ、アラン様のヒロインになれるの、嬉しいっ♡」


 


 会場に、硬質な沈黙が広がった。


 その空気を切り裂いたのは――


「……こ、これは魔法で捏造された偽映像だ!! 貴様、何を企んで――!」


「では、こちらをご覧ください。

 “改竄不能の監査魔晶”による証明付き、しかも王宮認定の記録。

 さらに、クラリッサ嬢が使用した毒薬の発注書も――あなたの侍従のサイン入りで発見されています」


 


《発動:転生スキル【現代法知識A+】+【訴訟構成Lv.7】+【情報整理癖Lv.99】》


 


 私は、テーブルの上にずらりと証拠書類を広げた。

 整然と並んだその書面に、貴族たちが顔を引きつらせながら目を通す。


 クラリッサの頬がみるみる青くなる。


「ま……待って……違うの! それは、違うのよ!! ぜんぶ……エレノア様が……!」


「ふふ。言い訳をするなら、法廷でどうぞ? あなたの“聖女力”とやらで、裁判官を泣かせられるかしら♡」


「ひっ……ぃぃぃいっ……!!」


 クラリッサ、ついにその場でへたり込み、震えだす。


 王子も焦り、私にすがるように声を上げた。


「エレノア……すまない。俺は……っ、彼女に……!」


「――謝罪は無用です。私は“侮辱された”のですから。

 あとは法律に則って、処理いたします」


 


《スキル:言質収集MAX》《スキル:ドヤ顔補正EX》《サブ:心情操作+冷徹演技》


 私はあくまで優雅に。けれど冷たく、王子の言葉を切り捨てる。


 


「改めて申し上げます。

 本日をもって“王太子との婚約は破棄”とさせていただきます。

 そして、名誉毀損・詐欺・陰謀共謀罪により、私の方から【告訴】いたします」


 


 その瞬間、騎士団長が静かに現れ、クラリッサと王子を囲む。


「ただいまの発言および証拠により、王国は正式に捜査に入ります。ご同行を」


「ま、待て! 俺は王子だぞ!? 王子に手を出すのかッ!?」


「王子である前に“国法の前に平等な一市民”でございますので」


 


――騎士団によって、王子とクラリッサは連行された。


 私はその様子を、淡々と眺める。


 周囲の貴族たちは、もはや私に対して完全に敬意の眼差しを向けていた。


 


「侯爵令嬢エレノア様のご処理、完璧でしたな……!」

「さすが“氷の令嬢”の異名は伊達では……!」


 


 私は静かにくるりと身を翻す。

 ドレスの裾を優雅に揺らしながら、舞踏会場を後にした。


 


――こうして、「断罪されるはずだった悪役令嬢」は、

 完璧な証拠とスキルで“無罪どころか無双”を果たす。


 物語は、ここから始まるのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ