完結『そして、世界は愛と笑いに包まれた』
王城中庭。
四季を織り込んだ祝福の花々が咲き誇り、民と貴族、魔導師と聖職者、果ては隣国の使節たちまでが集う盛大な式典――
その中央で、真っ白なドレスを身にまとったエレノアが立っていた。
「……ねぇ、本当にこれ、夢じゃないのよね?」
「うん。夢だったら、俺がこんなに緊張するわけない」
と隣で笑うのは、すっかり“へっぽこ元王子”を返上した男――アラン・ルークス・オルレアン。
今や彼は“王太子”として民に信頼され、そして何よりも一人の女性を愛していた。
――“エレノア・セシリア・フェルグレイン”
かつて断罪された令嬢。
異世界から転生してきた、平凡(?)な元OL。
聖女として国を変え、未来を導いた稀代の才女。
「お前みたいな女が、俺の婚約者じゃなくてよかった……とか、昔の俺に言いたいよ。
土下座で懺悔しろってな」
「……ほんとよ。十字架でも背負って毎朝鐘でも鳴らしてくれば?」
「エレノア、君の毒舌が心地よい……!」
「病気よ、あなた」
(でもまあ――)
エレノアはふと、空を見上げる。
花びらの舞う青空に、OLだった頃の自分が重なって見えた。
終電を逃し、コンビニおにぎり片手に泣いた夜。
上司に怒られ、報われない努力に絶望した日々。
でもあの経験があったからこそ、今、ここにいる。
「私は――間違ってなかった」
セリウスが小さく、頷くように微笑んだ。
「あなたは間違えるどころか、希望そのものだった。僕の、国の、未来の」
「――じゃあ、そろそろ証明してもらおうかしら? 永遠に、ってやつを」
エレノアが差し出した手を、アランがしっかりと握り返す。
「誓おう。この手を、君だけのために――」
鐘が鳴る。
教会の、国中に響き渡るその音は、かつての断罪の鐘ではない。
これは、希望の始まりの音――
聖女と王子が、手を取り合って歩み出す未来。
かつて彼女が救った民が祝福し、
かつて敵だった者が膝を折り、
かつて無力だった男が、今、世界で一番強い言葉を紡ぐ。
「――愛してる、エレノア」
彼女は、少しだけ涙ぐんで、それでも誇らしげに笑った。
「……ふん、しょうがないから、私も少しだけ愛してあげる。
だって、あなたが“選んだ”未来だもの」
そして――
国は改革され、魔法と知恵は共存し、民は笑い、愛は国を繋いだ。
“ハッピーエンド”は、ここから始まる。
――END――