『決戦・聖女選定の舞踏会! 輝く者と、偽りの光』
王宮最大の舞踏会が始まる。
煌めくシャンデリアの下、魔法で彩られた装飾と楽団の優雅な旋律が広間を満たす。
だが、この夜はただの社交パーティではない。
――“聖女の座”をめぐる決戦。
エレノア vs ミレイユ
正ヒロイン vs 裏聖女
愛され悪役令嬢 vs 狙いすます転生ライバル
勝つのは、誰だ。
開幕、運命のダンス
「はあ……これで最後。これが終われば、全部、決着がつく」
私は深呼吸して、鏡の中の自分を見つめた。
純白に金糸を縫い込んだドレス、肩をふわりと包む薄紗のケープ。
胸元にはセリウスから贈られた紅水晶のブローチが光る。
「よし、行くわよ。――悪役令嬢として、完膚なきまでに“ざまぁ”してあげる!」
会場に一歩足を踏み入れると、どよめきが起こった。
「見て、あれがグランツ家のエレノア令嬢……まるで、本物の聖女のようだわ」
「なんて気品……あんな表情、今までの令嬢にはなかった」
ふふ。見てなさい、ミレイユ。
こっちは“自力で”この舞台に立ってるのよ。
──しかし。
「エレノア様、ようこそ」
待ち受けていたのは、聖女候補ミレイユ・ルフェーブル。
豪奢な淡桜のドレスを纏い、完璧な笑みを浮かべていた。
「さあ、始めましょう。運命を賭けた夜会を」
【第一幕】ミレイユの“演出スキル”
「みなさま、どうかご注目くださいませ」
ミレイユが手を掲げると、突如として会場に光の花が咲いた。
花びらの雨が降りそそぎ、空中を舞う蝶たちが魔力で輝く。
《乙女演出模倣》が全開放――!
「本日は“真の聖女”を選出する儀。わたくしはここに、全霊をもって応えますわ」
どよめきと喝采。
完全に“ヒロイン演出”で観客を掌握している……けれど。
「ふん、やってくれるじゃない」
私は静かに魔力を練る。
「でもね、ミレイユ。私はあなたみたいに、見せかけじゃないのよ」
【第二幕】エレノア、真の力を解放!
《神域の浄化》――発動!
まばゆい光が会場を包み、偽の演出をすべて浄化する。
ミレイユの魔法が“演出”でしかないことが、目の前で露呈した。
「これは……!? なんて魔力……!」
「これは“本物”の聖女の力。転生者でも、チートスキルでもない。
この世界で生きて、悩んで、立ち上がってきた私の“今”よ!」
会場がどよめく。
「まさか、ミレイユ様は……聖女ではない……?」
「いや、違う……彼女が“偽り”だったのか!?」
ミレイユの笑顔が、音を立てて崩れる。
「やだ……やだ、違う、違うの……!
わたくしは……わたくしは、幸せになりたかっただけなのに――!」
「……私もよ。でもそのために、他人を踏みにじっちゃいけないの」
私は静かに、彼女の肩に手を置いた。
「転生して、やり直したいって思ったのは、あなただけじゃない」
【第三幕】王子アランの選択
「……僕の答えは、決まっている」
舞踏会の壇上で、アラン王子がゆっくりと歩き出す。
「選ばれるのは“誰か”じゃない。
僕が“一緒に未来を歩みたいと願う人”だ」
その手が、すっと差し出される。
「エレノア・グランツ。君となら、この国を背負える」
「……っ、ちょっと、唐突すぎない!?」
「うん、僕もそう思う。でも……遅すぎるよりは、いいだろう?」
照れ臭そうに笑うその表情に、思わず私は顔を真っ赤にした。
【最終幕】セリウスの告白
その時――背後から静かな声。
「……それでも俺は、諦めないよ」
振り返ると、セリウスがそこにいた。
「エレノア。お前が誰を選んでもいい。けど、俺は……お前の全部を見てきた。
怒った顔も、笑った顔も、照れ隠しの毒舌も。全部、好きになったんだ」
「……もう、なんなのよ。今日だけで何回告白されてるの、私……」
「お前はいつでも、誰かの心を“本気”にさせるんだよ」