マトラ旧市街
今回は全然殺伐としてません。
「あ、きっとあの建物ですよぉ」
『そうみたいですね』
三日かかってわたし達はマトラ旧市街の目的地にたどり着いた。
このマトラ旧市街は10年程前まではこの地区の首都だったが、今はすっかり荒れ果てた廃墟が立ち並ぶだけとなっている。
その理由は10年前に起こったある事件によるものだ。
その事件の詳細や、ここに来た目的については後でゆっくり説明しよう。
「でもー、いきなり入らない方がいいですよ
またいつもみたいにトラップにひっかかったら困りますから」
『…………』
「ふーむ、でもここって人が居ないだけでごくごく普通の街ですよねぇ
建物も荒れてるけど住めないことないですし」
『昼ですからね
日が暮れたらとてもじゃないですけど、こんな所歩けませんよ』
「あのぉ……」
『何ですか?』
「その喋り方、あたしとは違うけど……
丁寧語な辺りがかぶるんで語尾とか変えてもらう事って出来ないでしょぉか」
『別にかぶってないと思いますけど
あなたと違ってわたしはキャラ作ってる訳じゃありませんから
嫌ならあなたが変えて下さい』
「えーッ! 困ったなぁ~
んにゃん! は不評だったし……」
『もう着きましたよ』
「わッ! まだ決まってないのに!」
『もうその……んにゃん……でいいんじゃないですか?』
「ぷぅーククク……!
アハハハハハハハ!! 全然ッ似合わなねぇー!」
『えっと……行きましょう』
「あぁーッ! まってぇーんにゃん」
この毎回キャラを演じている彼女、名は100%偽名だと思うが「ルビー・サファイヤ」と言う欲張りそうな女だ。
クラスは小細工魔法士、小細工に関してめっぽう長ており、彼女いわく「小細工を駆使する事でほぼどんな事も出来る万能魔法使い」らしいのだが、そんなクラスは他に聞いたことがない。
わたしとよく行動を共にしていて、付き合いも長いが毎回違うキャラを演じる為、どれが本当の彼女なのかいまだに分からない。
ルビーはさっとわたしの前に回りこみ、背中を向けると両手を広げて通せんぼした。
「ちょっと待つのだー」
小細工魔法士は小細工に関しての知識が非常に高く、また見破る能力も持つのは確かだ。
彼女と一緒にいる時は、どんな些細なトラップすら見逃したことはなかった。
『どうですか?』
「よしよし、トラップはないみたいですぞぉ
入ってヨーシ! 逝ってヨーシ!」
そう言いながらルビーは手をぐるぐる回し、わたしに中に入るよう指示した。
この建物は元は豪華な屋敷だったのだろう、壁のつくりが無駄な程に手が込んでいる。
床のジュータンも朽ちて汚れてはいるが、相当高そうなものだ。
窓からの光が差し込んでいるものの長く薄暗い廊下を進み、突き当たりの部屋の前で人の気配を感じて止まった。
『(ん……)』
「(誰かいるよね、もう1人の人かな?)」
ルビーはドアに耳を近づけて中の様子を探りだした。
今回わたし達の他にもう1人来ることになっている。
どういう人物かは知らされていないが、遂行するのに絶対欠かせない人材らしい。
「(あ、気配が消えた)」
向うもこっちに気が付いたらしい。
その直後、ドアが爆発したかと思う程の強烈な音と共に突然ドアが蹴破られた。
ドアに耳を近づけていたルビーは、ドアと一緒に10メートル近く吹っ飛ばされてしまった。
わたしはドアを蹴破った人物が、そのモーションを終える前に素早く身構えるとプラズマを放った。
プラズマはタイミング良くその人物に直撃した。
プラズマは超高温を発しどんな物質でも瞬時に蒸発させられる、わたしの最も得意とする魔法だ。
物質の蒸発により発生した白い煙が辺りに漂い、そして周囲へと広がり視界を遮って行く。
恐らく直撃したこの人物は大穴が開いてしまっているだろう、もしこれがもう1人の人物なら今回の仕事は2人でする事になってしまうか。
「いったぁー!
超ムカつくんですけどぉー!」
ルビーは座ったまま怒っている。
『フッ……!?』
突如、煙の中から何かが飛び出した。
わたしはとっさにガードをしたが軽く飛ばされてしまった。
「にぎゃッ!」
わたしは座ったままのルビーに当たった。
「なんだ? ずいぶん軽いナァ」
そう言いながら、煙の中から白い鎧を着た大男が現れると、
「ギャァァァーーーッ!」
何故かここでルビーが悲鳴を上げた。
「うん? コイツ一体どうしたんだ?」
この大男、どうやら今回のもう1人の人物らしいのだが、わたしのプラズマを直撃したにも関わらず全くダメージを受けていないという。
『どういう事か説明してもらえませんか?』
「あ? 説明もなにもナァ……
何ともなかった、ただそれだけだ!」
『あなたに直撃したプラズマは二億度以上もある超高温なのです
物質の硬さや柔軟さでどうこうなるものじゃないのですよ
例え1メートル以上の厚さの鉄の固まりでも全てが無意味のはず……』
「へぇーそうなんだ! そいつぁたまげたナァー!」
全く興味なさそうにしている、聞いちゃいないな。
「アハハハハハッ!
必殺技が通じなかったからってムキになっちゃってーッ!」
その様子を見てルビーが笑った。
『ルビーさん……さっき悲鳴あげてた人がもう笑ってるんですね』
「いきなり煙の中から大男が出てきたからビックリしたのだ
むしろあそこで驚きがなかったら盛り上がらなかったと思うぞ?」
『まぁ、盛り上が……りましたね、フゥ……』
わたしはため息をついた。
「で、そのプラズマのあんたは何なんだい?」
「ちょっとまった! 自己紹介ならあたしから!」
「あん? しょうがねぇな、ちぃせーのからどうぞ」
「ちぃせーの言うな! こう見えてもな
伝説の小細工魔法士、ルビー・サファイヤさまなんだぞ!
あたしの小細工を駆使すれば出来ない事は無に等しいのだ!
味方に付ければ頼もしく、敵に付けたら超ガッカリなのさッ!」
「小細工士? しらねーな」
「小細工士じゃない! 小細工魔法士なのだ!
よろこぶがいい道中トラップの心配は皆無だぞ」
『トラップを見破る能力は本物ですよ
ルビーさんと一緒にいてトラップにかかった事ありませんから』
「一緒じゃない時は片っ端からかかってるもんねー
この間なんかー!」
『あ、もう自己紹介は終わりましたね? それじゃ』
「うへ、なんかおまえ達ってこえぇな」
微笑むわたしとルビーを見て大男が恐れた。
『わたしのクラスは科学魔導士です、精霊魔法を科学と融合させる事によって
それまで召喚魔法ですら不可能だったプラズマ化や核分裂までを可能としています』
「威力だけはあるらしい、お得意のプラズマはさっき通用しなかったみたいだけど?」
「ふーん、科学魔導士ってのも初めて聞くなぁ」
「あんたも自己紹介したらどう?
クラスはきっと大男だよな!」
「大男ってどんなクラスだよ、、
いやまぁ、オレのクラスはナイトなんだが、見て分からなかったか?」
「あぁん? ナイトだってー?」
ナイト? 古代の文献では見たことあったけど、今もまだ居たのか。
あらゆる攻撃をものともせず、決して後ろに下がる事がないと言う聖戦士。
防御に優れるのは、生まれ持った聖なるオーラを体内から発生している為だと書いてあった。
ドラゴンの吐く核熱の炎にも絶えうるらしいが、わたしのプラズマを受けて何ともなかったと言うのはやはり本物なのだろう。
「ちょっとー! ナイトって言ったら勇者さまの事じゃないの?
あんた勇者さまかッ! 勇者さま気取りなのかッ!」
「なに? 勇者ってオレの事なのか?」
「やっぱり、勇者さまって言うよりは大男だよなッ!」
もう1人のメンバー、それは古い文献で読んだ伝説のナイトだった。
個性って大事だと思いました。




