幼稚園で失神してしまう信辛
信辛は幼稚園をよく休んでいた。
病弱なこともあったが行きたくもなかった。
登園を示すスタンプは穴開きで少なく、毎回「らいげつはがんばろうね」と書かれていた。
幼稚園にはでっかいすべり台があった。
子供が見上げるとでっかいが、大人になるとそうでもない。
アスレチック部分がちょっとついているすべり台だった。
とは言っても、信辛も子供なのですべり台を楽しんだ。
その日は楽しく遊べていた。
同級生達とワイワイキャッキャとしながら何度も滑っていたような記憶がある。
みんなで連なって滑った。
また上がってみんなで連なって滑った。
楽しかった。
また上がって滑り出した。
下までもう少し・・・
とその時!
信辛の小さな腕が滑り台の持ち手の下の隙間に吸い込まれた。
そして滑りつつ今度は空間を仕切る縦の棒が現れた。
信辛の腕は隙間にガッチリとロックされてしまった。
自分の体重で滑っていたものが鉄の仕切りで止まり、小さな腕に全体重が乗る。
「ぎゃあああああああああああああああああああ」
信辛は叫ぶ。
この時点で激痛だ。
さっきまで楽しい幼稚園ライフを提供していた遊具が牙を剥いた。
そんなことがあるだろうか。予想だにしていない。
どうやっても腕は外れない。体重が乗り傾斜もついているから外れない。
腕が千切れそうだ。
誰か気づいてくれ!
信辛は助けを求めた。
その時!
上にいた子がどんどんと滑ってきた。
上の子にしてみては下の様子はわからない。
上にいた子は信辛にあたり止まる。
滑れない。
上の子は信辛を蹴る。早くいけと。
「ぎゃあああああああああああああああああああ」
信辛は叫ぶ。
さらに上の子が追加される。みんなで楽しく滑っていたから。
「ぎゃあああああああああああああああああああ」
さらに信辛は叫ぶ。
腕は千切れそうだ。園児は上に5人はいる。
しかし先生は気づかない。
園児は多く、そんなことが起きているなんて思ってもいない。
この時代の子供の値段は安い。
上の子は蹴る。
早くいけ。なんで止まっているんだ。
蹴る、強く。激しく。
その度に信辛の腕はロックされ押しつぶされる。もう血の気もない。
悪夢だ。
早く助けてくれ。
しかし、気づかない。
誰も気づかない。
信辛の意識は・・・なくなる・・・。
その後のことは覚えていない。
次に登園した日、なぜか上にいた子の1人だけが先生に付き添われ謝ってくる。
信辛は混乱する。
多分、君が悪いわけじゃない。
謝ってきたことを受け入れる。
解散する。
この遊具は欠陥品だ。
製作者は万死に値する。呪い殺してやる。
信辛は、生涯、この遊具を恨む。