幼稚園の給食の思ひ出
信辛はお母さんがいなかった。
父が間違ってつけた信じる辛さは現実のものとなっていった。
ノブカラはモノクロの幼稚園にいた。
1年遅れで入園した幼稚園。
あの頃の幼稚園は土曜日もあった。
おぼろげな記憶では土曜日の半分くらいは弁当を持参しなくてはいけなかった。
信辛のお弁当はおばあちゃんが作っていた。
みんなのお弁当はなんだかカラフルで楽しそうで優しそうで美味しそうなのに。
信辛のお弁当は茶色が多くてモノクロだった。
ワクワクなんてしなかった。いつも同じだった。
その中に1つだけハイカラなのがあった。
ゆで卵を半分に切り片方は器にし、黄身と白身とハムときゅうりを刻んだものをマヨネーズで和えたものをこんもりと乗せる。エースだった。
でも、エースもその他も毎回一緒だった。
毎回同じメンバーが弁当箱を開ければ「こんにちは」していた。
ある時、同級生の女の子のお弁当がサンドイッチだった。
キラキラしたサンドイッチだった。
衝撃だった。
まずパンを持ってくる自体、信辛には衝撃だった。
弁当といえば白米におかず。その根底を覆してくるとは。発明家が過ぎた。
そしてふわふわと、そしてキラキラとカラフルで柔らかそうなサンドイッチ。魅力的すぎた。
家庭の温かさが弁当箱に現れていた。
眩しいほど現れていた。
信辛は心底欲した。
信辛は心底羨望した。
帰ったらすぐさまおばあちゃんに懇願した。
なんとかしてサンドイッチを作ってください。
なにとぞ、なにとぞ。平に平に。
私はあの白い薄いパンに幸せが挟まれてふわふわしたサンドイッチが弁当で食べたいのです。
なんとかお願いします。
幼稚園児の持てるすべてを費やして懇願した。
本当に本気で訴えた。
その後も作ってもらえることはなかった。