プロローグ
目の前で魔獣が死んでいる。
死んで、まな板の上に乗っている。
成人男性三人分はありそうな、鶏に似た巨体だ。
羽はどこもかしこも黒く、荒々しい。
尾の方には体毛がなく、太くて長い、鳥の生肉そのままの色をしたグロテスクな触手が伸びていて、鳥の胴体にでろんとかけられている。
クワッと見開かれた猛禽類の目も、触手の先端にある、鋭い鉤爪を持つ口も、だらりとして生気はない。
間違いなく死んでいる。だがデカすぎる。怖すぎる。
ごくりと喉が鳴る。
いまから自分は、この生き物を──
「がんばれ、ハルくん! 今日もコメントが盛り上がるような撮れ高期待してるよ!」
「ふふふ、今日は何を作ってくれるんだろうな。今から楽しみでしょうがないぞ。じゅるっ」
顔を上げれば、蚊帳の外から応援する二人の女の子の姿。
ハンディカメラを手に、えいえいおーっとのんびりした応援をする、かわいらしい黒髪セミボブの女の子。
その隣に立って、すでに食欲に負けて涎を垂らしているのは、全身を甲冑で包んだ金髪の女騎士だ。
どうやら、この光景を異常と思ってしまうのは自分だけらしい。
だが、しょうがない。これはもはや、今の自分の日常なのだから。
「ふぅ、すぅ……よし」
二人の様子に覚悟を決めて、気持ちを撮影モードに切り替えて。
カメラのレンズをまっすぐ見て、手にした包丁を翳し、台本通りの台詞を口にする。
「それでは今から──魔獣コカトリス、おいしく調理していきたいと思います!」
どうしてこんな状況になったのか。
目の前に横たわるとてつもなくデカい魔獣に包丁を差し込みながら、彼は静かに思い出す。
全てが劇的に変わってしまった、あの一日の事を──
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