続きそうだけど続きのないプロローグ的な何か
『というわけで、お誕生日おめでとーー!!!』
彼女は満面の笑みとともに、約半年後の僕の誕生日を祝福した。呆れを通り越してもはや怖い。
「いや待って。頭大丈夫? ゲームのやり過ぎで記憶でも焼き切れたか???」
『なにおぅ、ゲーム部部長たる私がそんなヘマなんぞ……去年、管理局から一週間のフルダイブ禁止処置を喰らったくらいなもんですよ』
「盛大にやらかしてんじゃねーか」
ゲーム部部長を名乗るこの女、大和旭は生粋のゲーマーだ。それも、寝食を忘れて遊ぶ彼女を咎めた生活支援AIを、電源を落として黙らすダメなタイプの。
「それで、なんで半年も先の誕生日を僕は祝われてんだ?」
『もー、君ってば私のメール見てないでしょ』
「おう。旭イチ押しゲーム一覧、とかいうリンクが数十個のせてあった謎メールが届いてからは全部無視してるな」
『ひどい!?』
彼女の悲鳴を傍らに、端末を操作して直近のメールを開いていく。
「【定期考査日程について】【ダイブ適性定期健診の結果】【壁周清掃ボランティアのお知らせ】、それに【半年遅れのお誕生日おめでとう!】……これか」
『そそ。去年はプレゼントあげれなかったのでねーー、それは半年遅れってことで。ささ、リンクを押してみて!』
「はいはい」
彼女の案内に従いリンクを開き、操作を進める。
案の定、というべきか。
彼女からのプレゼントはゲームだった。ジャンルは最近やや廃れ気味といわれているVRMMO。タイトルは――
「〈Call of Grail〉……聖杯の呼び声、か」
『そうそうそう! ジャンルは最近は人気が低めのVRMMOなんだけど、これは期待の新星って言っても過言ではないので。製作会社はハテツヨミっていう海の向こうから最近こっちに拠点を移したとこなんですけど、これが良い会社でねぇ。俗にいう死にゲーをよく作る、私も結構古参のファンでして――』
「どうどう、落ち着けって。それで? 普段ゲームをやらない僕にわざわざ通話してまで勧めるってことは、他になんか理由があるんだろ?」
彼女はゲーム狂いではあるが、それを他人に押し付けはしない。
――嘘だ。
押しつけてくることはままある。が、それはすでにゲームを始めている奴にであって、そのゲームに興味もない奴にアプローチすることはあまりない。
曰く、“ゲームの選択は自由であるべき”なのだとか。そのせいか、彼女がゲーム狂いであることは周りにあまり知られていない。
「この隠れ廃ゲーマーが」
『え、めちゃ突然罵倒するよこの人……っと。実はですね、このゲーム曰く付きでして』
ほう。
「詳しく」
『あはー、急に乗り気になるなぁ。よ、さすがは都市伝説研究会の会長サマ!』
「部員数と研究結果レポート出せてなくて解散の危機だがな……なるほど、そういう訳か」
『お、気がつきました?』
恐らくだが。
レポートに書ける、つまり完全な出鱈目ではなく多少は信憑性のある都市伝説がこのVRMMOにはある。そして、それを餌に彼女のイチ押しとやらを僕にやらそうって魂胆だ。
「とはいえ、このゲーム買い切り型だろ? ゲーム内課金があるとはいえ、いくら誕生日祝いって名目とはいえ結構な額になると思うんだが」
『それは問題なーし。君、絶対このゲームにハマるから』
「言い切るなぁ」
『あはは。養育施設時代からの付き合いですからねー、君の趣味嗜好はまるッと把握してますとも。それに』
「それに?」
『……たまには一緒に遊びたいし。どんな手を使ってでも、私がハマらしてあげるというものです』
彼女と最後に同じゲームをしたのはいつだったか。
……一週間前にレース系のをやったな。
とはいえ。
「そこまで言うなら、精々期待させてもらいますか」
『ええ、期待してくださいな』
「ああ」
「ところで、曰く付きの内容はどのようなもので?」
『あは。それはね――』
――曰く。
VRMMO〈Call of Grail〉の一部プレイヤーは。
ゲームを始める少し前の記憶を喪失するらしい。
いずれ狂気マシマシのVRMMOのプロローグ、的なのを意識。
深淵に臨むVRMMO、某時計の更新を待ちすぎて読み専が出力するに至りました。