表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

800文字ショートショート

そしてお皿から誰もいなくなった

作者: 一色 良薬

 白だしとごま油で和えた、にんじんしりしり。

 たまご焼き器でふわふわに巻かれた、ましかくなタコ焼き。

 何層にも重ね合わせた、噛みしめる度にうま味が奏でるミルフィーユかつ。

 さっぱりとした大葉を練り込んだ、肉汁たっぷりの羽根つき餃子。

 

 ワニの口が大きく開いて美味しさを溢れさせながら、次々とむしゃむしゃ箸を進める。

 凶暴の象徴である鋭い瞳孔を閉じて、冷めた身体をほかほかとした料理であたためていく。

 幸せを噛みしめるように赤味噌クリームスープを堪能すると、武骨な指先であわせて命の尊重を口にした。

「オレ、こんなうめぇ餌、初めて食った」

「餌じゃなくて料理です。それにオヤジさんのところでお世話になっているはずでしょう」

「オヤジが入院してっから。オレのことがきにくわない若頭が“可愛がって”くれてんだ。ドッグフードの方がうまい餌をくれるよ」

 口端についた揚げ物の破片を取り除いてあげれば、滲んだ梅の花が現れた。ワニが大人しくしているからといって、口に傷をつけるなんて若頭は命知らずのようだ。

「君はまだまだ育ちざかりなのに。よく我慢していますね」

「きさめさんがえ……りょうり、食わせてくれっから。それだけでじゅーぶん」

 膨れた腹を満足気にさすっているのを尻目に、空いた食器を片付けるとワニが膝に顎を乗せて甘えてきた。

「きょうもオレ、残さずたべてえらい?」

「偉いですよ。ちゃんと残さず食べられて」

「でもきさめさん、オレのためにこんなすげー料理なんか作らなくても」

「私が好きでやっているだけだから。それに食材も鮮度があるうちに使わないと」

 一度も踏み入れさせたことのないキッチンに視線を向ける。

 ワニの尻を叩いた若い衆の男。

 タコ頭だと馬鹿にした老人。

 体型を鶏ガラと馬鹿にした、丸々と太った豚野郎。

 にんにく臭いと蹴り飛ばした半グレ。

 それなら代わりに美味しい姿になってもらわなきゃ。

 一人残らず皿の上でワニの栄養になって償ってもらわなきゃ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ