第4話 エンリ薬師団とジャック海賊団
白い服装をした彼女達は怪我人を医療施設?のような建物に運びこび、少ない人数ながらも、手慣れた動きで怪我人を手当てしていた。
いや、一人慌てている奴がいるな。よく見るとさっき海賊の前に出て、足を震わしていた青年じゃないか。見るからに新人って感じだな。
建物の中は、いくつかのベット、包帯や薬のような物が入った瓶などが常備されている。しかし、見た感じ、昨日今日で空き家に作られた簡易の施設のように見える。
俺たちは彼女たちについていき、その現場を見学していた。ベルも大人しくその光景をぼーっと眺めていた。いや、ベルはいつもそうか。
しかし、いくら怪我人とはいえ、あの海賊まで助けようとするなんて、彼女たちもオーシルに負けず劣らずなお人よしなのかもしれない。しかし、彼女たちは一体何者なのだろうか。
そういえば、あの海賊の船員とみられるガラの悪い連中たちは、さっきまで建物の中に入ろうとしていたが、多すぎて邪魔だということで追い出されてしまった。彼らは外で待つようにしたらしいが、どうもソワソワして落ち着きがない。よほどあの船長らしき男が心配なんだろう。
しばらくすると、海賊じゃない方の手当てをしていた一人の男性が口を開いた。
「キャシー、こっちの男性の手当ては終わった。そっちの海賊は俺たちに任せて大丈夫だ。あんまり待たせすぎるのも良くないだろう。」
「それもそうね、ありがとう。じゃあ後はお願いするわ。」
そういうと、海賊の手当てをしていた彼女は手袋を外し、スカーフのようなものを口元から外し、こちらに歩いてきた。
見た目は30代くらいだろうか、髪は金髪で短く、顔のパーツは整っており、美人な女だ。その穏やかな顔つきは誰もが安心するだろう。
「お待たせしました。では、酒場にでも行きましょうか。フリック、あなたも付いてきなさい。」
「え?あ、はい!」
彼女がそういうと、さっきまでわちゃわちゃしていた青年が返事をし、こちらに駆け寄ってきた。
ん?なんだろ、この青年、なんだか違和感があるな・・・
「それでは行きましょうか。」
彼女は優しい笑顔を向けながらそう言い、俺たちを先導し、酒場へ向かうことになった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
しばらく歩き続けて、俺たちは街の中心部にある酒場に到着した。
近場の港の酒場に入ればよかったのにと思っていたが、あそこはこの街でもかなり賑わっているらしく、あまりゆっくり話せないとのことでわざわざこの酒場に来たというわけらしい。
早速俺たちは店の中に入り、席まで移動した。
うん、確かに港よりはだいぶ静かな気がする。それでも人が入っていないというわけではない。むしろ沢山客がいて賑やかではあった。しかし、酒を飲んで他人の席に行き、ギャーギャー騒ぐような賑やかとは違い、各々の席で、自分たちの話で盛り上がっているといった、平和的な雰囲気の店だった。
なかなかいい店じゃないか。
俺たちは席に着き、適当に女が料理を注文すると、彼女が口を開いた。
「先ほどは本当にありがとうございました。私たちは《エンリ薬師団》といって、疫病などの治療のために戦地や街に赴き、世界中を旅して周っています。
あ、申し遅れました。私はそのエンリ薬師団のリーダーをしている《キャシー》と申します。ほら、フリックもお礼を言いなさい。」
すると、キャシーはさっきから居心地悪そうに彼女の横に座っていた青年に肘打ちした。
「イテッ、ええっと、さっきは助けてくれて、ありがとうございました。《フリック》って言います・・・」
すると、キャシーが申し訳なさそうに言った。
「すみません。フリックは人付き合いが苦手な子で・・・」
「いえ、全然構いませんよ。それよりもエンリ薬師団。噂は聞いたことがありますが、素晴らしい活動ですね。」
「いえそんな、まだまだ救えない命の方が多いですから、力不足を感じるばかりです。」
と、オーシルとキャシーは敬語同士で話し始めた。もちろん俺はこういうのは苦手だ。俺は関係ないといわんばかりに、全く話を聞いていなかった。ベルもいつも通りボーっとしている。
「すみません・・・僕はオーシル、そしてこっちの子はベル、そしてこっちで子供みたいに不貞腐れているのがアレンです。」
すると、俺も横から肘打ちを食らった。こいつ・・・
「フフッ、仲が良ろしいのですね。」
俺とオーシルの絡みを見て、キャシーはクスクスと笑っている。
「そういえば、オーシルさん達は旅をしているのですか?」
「ええまあ、ですが、乗る船を探しているのですが、なかなか見つからなくて・・・」
オーシルはわざとらしく困ったような仕草をする。
「そうなのですか、それは大変でしょう・・・ちなみに、どこへ向かわれるのですか?」
「ラーンです。」
オーシルはそう答えた。
ラーン、ラーンっていうと、うーん。俺は頭の中の地図を思い描き、ラーンはどこか思い出していた。
そうだ。ラーンっていえば、モルス聖教国と同じ大陸だったな。
「ラーン。アリムレ大陸にある街ですか、うーん、なんとかお力添え出来ればいいんですが。」
キャシーはうーんと真剣に考えていた。やはり相当なお人好しらしい。まあそうでもないと薬師団なんて出来ないか、さっきの働き方を見るに、ほとんど慈善活動のようなものだ。
すると、話している間にさっき注文していた料理がテーブルに次々と置かれた。魚介類がふんだんに使われた料理で、凄く旨そうだ。
「さて、とりあえず食べましょうか、この街の魚介料理は絶品なんです。遠慮しないで食べてくださいね。」
キャシーは手をパンッと叩き、料理を勧めてきた。どうやらご馳走してくれるらしい。有難く頂こう。
「「「いただきます。」」」
俺たちが3人合わせて手を合わせてそう言うと、キャシーとフリックは少し驚いた顔をしていた。
「珍しい言葉ですね。どういう意味なんですか?」
キャシーが興味ありそうに聞いてきた。オーシルがまるで、ほら、聞かれてるぞって感じの目で俺の方を見てくる。
「あーこれは・・」
「あの!」
俺が説明しようとすると、フリックが机に上半身を乗り出して言葉を遮ってきた。
「な、なんだよ」
俺たち全員が驚いた表情をしていると、フリックはそんなことお構いなしに質問をしてきた。
「・・・その、言葉、どこで知ったんですか?」
彼は至って真剣な顔で聞いてきた。そんな顔で聞かれたらちょっと怖いんだが、
「いや、これは俺を拾ってくれた爺さんが・・・」
「それに!その腰に挿してるの、刀、ですよね!それもそのお爺さんが?その人の名前は?」
「フリック、少し落ち着きなさい!」
彼は俺がまだ話し切っていないのにも関わらず、続けて質問してきた。少し興奮し過ぎじゃないだろうか、
なんなんだよ。名前なんてどうでもいいだろう・・・
でも、この剣をカタナと知っているのは、さりげなく彼が初めてじゃないか?
フリックはキャシーに注意され、少し落ち着いたらしい。
俺は彼が落ち着いたのを確認すると質問に答えることにした。
『爺さんの名前はアベル。この剣はその爺さんからもらったんだ。確かにカタナって言ってたな。』
『え、アベル?』
オーシルがこっちを見て驚いた表情をしていた。周りを見ると、キャシーも驚いた様子だった。なんなんだよ・・・
『・・・アレン、その爺さんは顔に大きな傷とか無かった?』
オーシルが恐る恐る聞いてきた。
『ん?あぁ、あったな。顔にでかい傷が』
すると、オーシルとキャシーが2人して心底驚いた表情をしていた。
『アレン!その人は多分、50年前に魔王を討伐した。魔王討伐隊の1人だよ!』
オーシルは声を荒げて言った。
魔王討伐って言ったら、10年前じゃなかったか?確か、アベルがそう言ってた気がするんだが、なんで50年前なんだ?俺の記憶違いか?
『魔王は10年前に倒されたんじゃなかったのか?』
またまた2人は驚いた表情をしている。
『魔王は3回この世界に降臨してるんだよ。10年前は3回目、そしてそのアベルって人は2回目の討伐に関わった人だよ。』
そんな事も知らなかったのか、というような顔を2人にされる。
『すみません・・・彼はキシル共和国出身で、そこんところの一般常識が欠けていて・・・』
オーシルがフォローするように言った。
んだと?こいつバカにしてるのか。
『そうなのですか・・・あの紛争地帯に・・・それは苦労された事でしょう。』
キャシーに哀れみの目を向けられる。彼女は純粋に俺のことを可哀想だと思ってくれてるのだろうが、普通に失礼だからな?
『それでその人h,・・・』
さっきまで黙っていたフリックが口を開くと、いきなり店の入り口が騒がしくなった。
『うわぁぁぁ!!助けて!助けてくれええ!』
『おい、逃げんじゃねえ!話を聞け!何もしねえって言ってんだろ』
入り口を見ると、さっきの怪我をしていた男性と、ガラの悪い海賊の船長が入り口でなにやら揉めていた。どうやら、エンリ薬師団の施設から男がここまで逃げてきたみたいだ。
『何やってるの!辞めなさい!安静にしてないとダメじゃない!』
キャシーがいつのまにか彼らの所にいた。なんかこうしてみるとあれだな。キャシーって母親みたいだな。
『おい、俺は別に暴力を振るおうってわけじゃ・・・』
『うわぁぁぁ!!助けてええ!』
『うるせえ』
『あ、こら!殴ってるじゃない!』
なんだか少し微笑ましくなってきた。
『おい、お前、金が無いから俺らの船を漁ってたんだろ。そうだろ。』
海賊は男にそう問い詰める。
『う、はい・・・店が潰れて、でも、働くあても無くて・・・』
男は観念したかのようにおとなしくなり、海賊にそう話した。海賊はその話を真剣に聞いていた。
なんだ、やっぱりあの男が悪いんじゃないか。
『お前、ガキとか女房は』
海賊はよく分からない質問をした。
『え?・・・居ませんが・・・』
『よし、なら、俺の船に来い。そしたら仕事をやる。飯もつけてやるし、寝床だって用意する。』
海賊はそう男に提案した。
『い、いいんですか?』
『その代わり、次何か俺たちの船から盗もうとしてみろ!サメのいる海にぶん投げるぞ!』
『あ、ありがとうございますぅぅ!!』
男は感激して、泣いているようだった。
なんだ、良いところあるじゃないか。海賊。
『なんだ。良い人じゃない。』
キャシーが俺と同じ事を感じたらしい。
『ん?あ!おい!兄ちゃん!探したぜ!』
すると、海賊は泣き喚いていた男性をキャシーに預け、こっちに近寄ってきた。おいおいまた何かする気か?
『兄ちゃん・・・あんたのあの一撃、さいっっこうに効いたゼェ、船が必要なんだって?俺らの船に乗ってけよ。俺らもラーンに行くんだ。』
海賊はグイグイくる。流石の人付き合いの上手いオーシルも少し苦笑いだ。
『ええ、いやぁ、そうだなぁ、アハハ・・・』
オーシルが歯切れの悪い態度を取っているとキャシーが手を叩いた。
『あら、良いとこあるじゃない。オーシルさん!良かったですね!』
キャシーはすごい良い笑顔でそう言ってきた。対するオーシルは顔が引き攣りまくっていた。
『よしっ!決定だなぁ!明日の朝に出発するんだ。港の9番の場所に来てくれ。船を停めてある。』
彼はそう言って、店を出て行こうとしていた。すると出入り口の前で一旦止まり、こちらを振り返ってきた。
『おっと、忘れるところだったな"あ"
俺の名は《ジャック!》いずれこの海を支配する男だぁぁ!!』
『よっ!ジャック船長ぉぉ!!』
どうやら、部下たちも一緒に来たらしい。船長が元気になって部下達も大喜びのご様子だ。いつの間にかさっきの泣き喚いていた男性も一緒になって歓声をあげている。彼らは盛大に盛り上がっていた。
でも、おかげで、店はめちゃくちゃ盛り下がってるぞ。
『じゃあな!明日遅れるんじゃねえぞ!』
そう言って、ジャック達は店を出ていった。
全く、嵐のような男だったな。
そうして、俺たちは騒ぎを起こしてしまって店と客に迷惑をかけてしまい、その場にいるわけにもいかず、俺たちは解散する事になった。キャシーは何度も謝っていた。
帰り際、お礼をしそびれたという事で、キャシーから金貨を1枚貰った。少なくて申し訳ないとまたまた何度も謝っていた。
まあ、なんだかんだ船は手に入ったし良しとしよう。
『大丈夫です。またどこかで会いましょう。』
『改めて本当にありがとうございました。次に会ったときは今度こそお礼させてください。』
2人は固い握手を交わした。エンリ薬師団か、世界を旅してるならまたどこかで会う事もあるかもしれないな。
こうして俺たちは、エンリ薬師団のキャシーとフリックと別れた。俺は別にどっちでもいいが、また次に会える日を願って。
辺りはすっかり夜になっていた。俺たちは宿に到着し、部屋に入り、俺たちはベッドに横になった。
すると、すぐ寝息が聞こえてきた。どうやらベルはもう寝てしまったようだ。
街に来てろくに休みもせずにすぐに歩き回ったから疲れたんだろう。俺も早く寝よう。
『なあ、フリックを見て何か感じなかったか?』
寝ようとしているとオーシルが話しかけてきた。
『何をだよ。』
『・・・なんていうか、存在感が無いっていうか。』
そう。それは俺も感じていた。エンリ薬師団の建物でフリックがこっちに駆け寄って来た時から確かに感じていた。
それに彼はいただきますやカタナにかなり興味を持っていた。異常なまでの興味を。
『確かにな、まあ、今はいいだろう。明日も早い。早く寝よう。』
『そうか・・・それもそうだな。』
正直度重なる疲れで俺の身体はもう限界だった。早く眠りたかった。俺は目を瞑るとその日はすぐに眠ることが出来た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌朝、俺たちは目を覚ました。久しぶりによく寝た気がする。やはりベットが良かったからだろうか。素晴らしく目覚めの良い朝だった。
宿の受付で手続きを済ませる。何日滞在するか分からないと言った手前、今日で部屋を出ることを伝えると店員は少し驚いていた。しかし、すぐに笑顔で良い旅を!と言ってくれた。また来たくなるような、そんないい店員だった。
手続きをを済ませて、昨日の港に直行した。
確か、9番とか言っていたな・・・俺たちは船がたくさん停泊している所の9番を探した。
9番、9番、お、あった。
そこにはかなりでかい船がそこに停泊したいた。流石は有名な海賊というだけあるな。しかし、なんだろう、あまり海賊船らしくないな。
『なんだか、海賊船らしくないね。』
どうやらオーシルも同じことを感じていたらしい。
なんだろうな、なんか妙に小綺麗な感じがして、俺のイメージしている海賊っぽくはないな。イメージと実際は全然違うとは言うが。
まあ船が立派なことはいいことじゃ無いか、そういえば、ジャックはどこだろうか?
『アレン!うっ・・・』
オーシルが急に倒れた。
ーー『お前、《首切り》だな。』ーー
男のような声が後ろから突然聞こえた。
なんだ!全く気づかなかっt
その声が聞こえ、振り向こうとした瞬間、頭に強い衝撃が走った。この感じ、前もあったな・・・
俺は、目の前が真っ暗になった。
オクトパストラベラー面白いですよね・・・