フードの老人
パキパキという音が聞こえる。何の音だろう。
いや、あれ、俺どうなったんだけ。
確か街を歩いてて、腹に穴が開いて、あーそうだ。爺さんだ。爺さんの財布を盗もうとして、
それで・・・
勢いよく目が覚める。
そうだ!あの爺さんに殺されかけたんだ。早く逃げ・・・
「起きたか。」
横から急に声がして、思わず驚いてしまった。
声のする方に顔を向ける。
え、フードのあの爺さんだ。何でここに、というかここどこだ。
フードを外した爺さんは白髪だった。顔には大きな傷がある。爺さんは椅子に座りながら木で暖炉に火を起こしていた。パキパキと木が爆ぜている。この音だったのか。
・・・周りをキョロキョロと見回すとどうやら建物の中らしい。レンガで出来た壁は凄く丈夫そうだ。
とりあえず、俺はその爺さんに質問してみる事にした。
「一体何があったんだ。」
「言葉遣いがなってないな。』
そう言い爺さんは俺をぎろりと睨んでくる。背筋が震えた。
一回殺されかけた相手だ、そこらのごろつきとはわけが違う。
「まあいい。何も覚えてなさそうだから、教えてやる。お前は俺の財布盗もうとして、俺に殺されかけ、俺に命乞いをした。それで俺が手当して、二日かけてこの小屋まで運んできわけだ。」
そういうと爺さんは立ち上がりでかい斧を手に取った。また背筋が震えた。
俺は殺されるのか?
「そこに置いてある飯食ったら外に来い。怪我はもうなんともないだろう。二日寝てるんだ。しっかり働いてもらうぞ。」
そういうと爺さんは困惑した俺を置いて、斧を持ったまま外に出て行ってしまった。
俺が命乞い?全く覚えていない。
状況が読めず、呆けていると腹がぐぅーとなった。ベットの横の机の上に小さなパン2つと豆が入ったスープが置かれている。
ぐうぅと腹の虫が鳴る。
俺は辛抱たまらずパンにがっつく。しかし、二日間飲まず食わずの状態の喉にパンがのどに詰まる。慌ててスープをずずずっと飲む。
「・・・ははっ味しないな。」
こんなにしっかりと味がした物を食べたのは初めてだ。久しぶりすぎて、味覚が衰えているんだろうか?
がつがつと残りのパンとスープを頬張る。
・・・あぁ、俺は生きてる。
飯を食べ終え、ベットから立ち上がる。腹に力を入れてもなんともない。服を捲し上げて確認すると、右脇腹辺りに傷の痕がある。あれは夢じゃなかったのか・・・
そう思いながら玄関に向かい、扉を開ける。光が差し込んで思わず手で顔を遮ってしまう。まぶしくて目が開けられない。明るさに慣れ少しずつ目を開けるとその情景に息をのんだ。
青い空、白い雲、そして見渡す限りの一面に草原の大地が広がっていた。
生まれて初めて景色が奇麗だと思った。
ザンッという音が裏から聞こえた。小屋の裏へ回り音のする方へ行くと、そこは薄暗い森になっていた。ザンッとまた音がする方を向くと爺さんが木を斧で割っていた。
「ようやく出てきたか。おい、こっちへ来い」
そう言って爺さんが手招きしている。それに従い歩いて近づくと
「呼ばれたらハイだ。それにもっと急いでる態度を示せ。」
『・・・ハ、ハイ。』
そう言われて俺は渋々返事をし、早走りで爺さんの所へ駆け寄る。
「持ってみろ。」
そういうと爺さんは持っていたでかい斧を俺の胸に立てかけるように渡してきた。
慌てて斧を持つとあまりの重さに倒れそうになる。
こんな重いものをよくあんな軽々と持てるもんだ。
「やってみろ」
爺さんは近くにあった丸い木のような物を持ってきて、切り株の上に置いた。
俺は見様見真似で斧を持ち上げようとするが、上手く持ち上がらない。無理やり力を入れて一瞬持ち上がるが、すぐ地面に刺さってしまった。
「・・・お前利き手はどっちだ。」
「ききて?」
爺さんは一瞬だけ驚いた表情をみせた。
「普段よく使う手はどっちだ。」
「こっちかな」
俺は首を傾げながら右手を出した。とっさな時は基本右手を使う気がする。
「なら、右手は端を持って左手で持ち手の真ん中を持ってみろ。」
言われるがままに持ってみると、さっきよりは持ちやすく感じる。でも相変わらず重く、腕には筋や血管が浮き出ている。
「腕で持ち上げようとするな。ひざを曲げてもっと腰を下ろせ。腕に力を入れるんじゃなく、足に力を入れてみろ。」
言われた通りにすると、斧を持ち上げることが出来た。さっきよりは持ちやすいが、やはり重いものは重い。
「そのまま丸太の真ん中に振り下ろせ。」
ザンッと音がなった。なんというかすごい気持ち良かった。
「同じようにここにある丸太を全部あの形になるまでやれ。さぼるなよ。あと怪我だけはするな。」
爺さんは先ほどまで自分が割っていた木を指さし、どこかへ行ってしまった。
爺さんが指さした木を見て、自分の木をもう一回同じように切ればいい事を理解すると、さっきまで丸い木だった木を再び切り株に置き、斧を振り下ろす。
ザンッ
気持ちいいい。これなら何回でも出来そうだ。
そんな気持ちで周りを見てみるとさっきの丸い形の木がたくさん積まれていた。
これは、やばいんじゃないか・・・
ーーーーーー6時間後ーーーーー
ザンッ
ようやく最後の一つが終わった。全身が痛い。特に腰と手がもう限界だ。空も暗くなってきている。
「終わったか。」
タイミング良く、爺さんが声をかけてきた。
「なら割った薪をちゃんとあそこに並べて乗せろ。そこまでやるのが薪割だ。」
「えぇ・・・」
俺のそんな声には耳も傾けず、爺さんは全身が痛くてへたり込んだ俺を尻目にまたどこかへ行ってしまった。
マキワリ、薪割か、もう二度とやりたくないな・・・
ーーーーーー30分後ーーーーーーー
ようやく薪割を終え、小屋に向かう。
すると旨そうな匂いがしてきた。どうやら爺さんが晩飯の用意をしているようだ。
「じ、爺さん」
「俺は《アベル》だ。ちゃんと名前を呼べ。」
このじじい。さっきまで俺の事を、おいとかお前とか言ってたじゃないか。
そう思う気持ちを俺はグッとこらえる。
「薪割は終わったか。」
「うん。あ、ハイ。」
俺はヤベッと思い、すかさず言い直す。
「よし、なら座れ。」
机を真ん中に椅子が二つ向かい合わせに置かれている。机の上に干し肉とパン、そして大豆の入ったスープが用意されていた。
腹がぐうぐうと鳴りよだれが止まらない。
俺は急いで席に着き、パンを頬張ろうとすると、手首をパンッと叩かれ、パンが皿に落ちてしまった。
「食べるときは手を合わせていただきますと言え、そして食べ終わったらごちそうさまと言う。それが礼儀だ。」
「・・・何の意味が?」
恐る恐る聞くと、じい、いや、アベルは一瞬ムッとした顔をして、目を閉じて話始めた。
「作った人、かかった時間、命そのもの全てに感謝するための言葉だ。それと、ちゃんとスプーンを使え。昼間使わずに食べただろう。」
感謝か、そんなこと考えもしなかったな。言われた通りに手を合わせ、声に出して、
「いただきます。」
まずはスープから飲もうと両手で皿に手を添える。
すると、スプーン!とアベルに言われ、慌てて皿を置き、スプーンで飲む。めちゃくちゃ美味い。昼間よりもなぜか美味く感じ、疲れ切った体に染み渡る。
無我夢中で食べ進めていくといつの間にか全てなくなっていた。
ふぅと満足気に椅子にもたれかかると。アベルが水を飲みながら片目でこちらをじーっと見ている。
ハッとなり、すぐに姿勢を正し、手を合わせる。
「ごちそうさま」
「・・・これは時間がかかりそうだな。」
食べ終わった食器を外の水汲み場で洗う。
今日だけはアベルが洗ってくれるらしいが、明日から俺の仕事になるらしい。
「明日から毎日薪割をしろ、逃げることは許さん。金は出さんが毎日の飯と寝床は用意はしてやる。」
アベルが洗い物をしながら話す。あれを毎日やるのか・・・
しかし、一つだけ引っかかる部分がある。
「あ、あの、なんで助けてくれたんですか?」
慣れない言葉で話す。アベルはじゃぶじゃぶ食器を洗いながら口を開いた。
「・・・人手が欲しかっただけだ。もう寝ろ。明日は早いぞ。」
何か含みがある言い方だった。
まあいい。とにかく今は早く休みたい。言葉に甘えて、小屋に戻ろうとする。
「おい待て、寝るときはおやすみなさいだ。あと、お前名前は」
俺は振り返る。名前なんてずっと使わなかった。名前。名前は確か。。。
「・・・アレン」
そう言うとアベルは少し笑みを浮かべたように見えた。
「おやすみ。アレン」
「おやすみなさい。アベルさん」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回で序章は終えようと思っていたのですが、思ったよりキリが悪くなってしまいそうだったので、次回で終了させます。次回は少し用語が多くなってしまいそうですが、なるべく読みやすいよう努力します。