分岐点
街のゴミ溜めの中で目が覚める。生ごみ塗れの体を起こすと、横腹あたりが酷く痛んだ。
腹から血が出ている。手にはべっとりと血が付いていて、少し固まってきている。
あぁ・・・そうか、昨日の事を思い出した。
昨日の夜中、いつものように金を持ってそうな奴の金品を盗もうと街を練り歩いていた。
そして、街の市場にたどり着く。ここは人の数が多いので、盗みは起きにくい。そんな場所だからこそやりやすいってもんだ。
人混みに紛れながら物色していると、フードを被ったいい感じにひ弱そうな爺さんに目を付けた。
俺は市場で買い物中のその爺さんにこっそり近づいて、金が入った布袋に手をかけ、素早く走り去った。
「おい!爺さん!財布盗られたぞ!」
店主がそういう頃には距離はかなり離れていた。その声で俺の方に注目が集まる
「ははっ、どけ!どけ!」
俺が全力で走ってくるのを見ると民衆はわらわらと道を開ける。必然的に俺と爺さんの間には誰もおらず、道が出来た。
俺は成功したと思った。
しかしその瞬間。腹に激痛が走った。よく見ると血がだらだらと流れている。
「グァッ、ゲホッ」
なんだ!?なにされた!?
俺が理解できずに焦っていると、のそのそと老人がこっちに歩いてくる。
違う。まずは逃げないと。
俺はなんとかパニック状態の頭を回転させ、せっかく盗んだ財布を置いてしっぽ巻いて逃げた。
その後は爺さんは追いかけてこなかった。撒いたのか爺さんが諦めてくれたのかは分からないが、助かった・・・
俺は朦朧とした意識のなか、夜通し逃げ回りつ続け、とうとうゴミ溜めでくたばったらしい。
そして今に至る。
ひとまずゴミだらけの体を起こしフラフラと移動する。あんまり同じ場所にいたらこの街じゃ何されるか分かったもんじゃない。
力のない奴は食われるだけ・・・
そんなことはこの歳でも理解していた。
でもいつからだろう・・・
俺の事じゃないと思っていたのは。
小さいころからこんなゴミみたいな国の紛争に巻き込まれて、生きるためならなんでもやった。盗みも殺しも誰にも習わず独学で習得してやった。なんだって出来た。出来てしまったから油断した。
今俺は何歳なんだろう。いつからか数えなくなった。ただ生きることに精一杯だった。
盗んだ金ももう残り少ない。昨日盗むはずだったから。もう奪う力も体力もない。血を出しすぎたのか、身体に力が入らない。
人通りの少ない道の片隅に腰掛ける。俺のように小汚いおっさんたちが同じようにくたびれている。そいつらは死んでるのか生きてるのかも分からない。まあ俺も傍から見たら同じようなもんか・・・
「このまま死ぬのか・・・」
意識が途絶え途絶えの中、足音がゆっくり近づいているのが分かる。足音は俺の近くで止まった。重い瞼を少しだけ上げるとうっすらと視界に大きな人影が見える。どうやら目の前に人がいるらしい。シルエットだけで視界は全くクリアにならない。
「昨日の子供か」
薄れゆく意識の中、掠れた声がうっすらと聞こえる。
「・・・お前、死ぬのか」
昨日の老人か、とどめでも刺しに来たのだろうか。もう身体は動かない。正直もうどうでもいい。
「生きたいか。』
あー死ぬよ。あんたのせいだよ。いや、先に手を出したのは俺か。
「死にたいのか」
俺は生きたいのだろうか。人から石を投げられ、罵倒され、金があってもこんななりじゃまともな市場で買い物すら出来ず、腐りかけの飯を食らう毎日。このまま生きていてもこの生活からは抜け出せない。
ならいいんじゃないか?生きなくて。
あぁいいじゃないかこのまま死んでも。
・・・でも。
「し、死にたく、ない・・・」
咄嗟に声が出た。音が出たのかよく分からないレベルの小さな声。
生きたくない。だけど、死ぬのは怖い。人を殺した時、紛争地帯で死体を見た時、街中で野垂死んだ人を見た時。
ああはなりたくない。
心からそう思った。
嫌なんだ・・・だから這いつくばって生きてきたんだ。
爺さんは何も言わない。もう何も見えない。目を開けているのかすら分からない・・・
「展開 魔術陣形 回』
微かにそんな声が聞こえると、俺の意識は途絶えた。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
小説投稿サイトを使用するのが初めてなので、拙い部分がかなり多いかと思いますが、なんとか最後まで書き切るのでよろしくお願いします!