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第51話(累計 第98話) 魔の塔攻略戦その十四:哀れな子供たち。僕は彼ら彼女らの運命に涙した。

「さあ、勝負はついた。ミハイル、投降しろ! そうすれば、命の補償はしてやる」


 僕は疲れ切った身体に鞭を撃ち、機体コクピットから持ち出したポンプ式散弾銃(M870)を擱座したミハイル機に向ける。

 先程まで激しく降っていた雨は止み、雲の間から満月が見えてきた。


「ええ、早く出てきて降参しなさい、ミーシャ。貴方、前もそうだったけど往生際が悪すぎよ?」


 アーシャちゃんも撃ち終えたグレネードランチャー(M320)を捨て、散弾銃をミハイル機に向けた。


「どうしたの? ミーシャ、早く出てこないと機体ごと燃やすわよ?」


 脅す様に焼夷手榴弾を戦闘ベストポケットから取り出すアーシャちゃん。

 毎度ながら過激に思うが、今回は絶対に逃せない敵。

 生かして確保はしたいけれども、殺す選択肢も十分ある。


「さあ、出てこい」


 僕は最後通告をするために、散弾銃のポンプをガシャンと送り初弾を装填した。


「死ねよぉ、マモル!」


 コクピットハッチが爆発ボルトで吹き飛び、そこからヘルメットを脱ぎ捨てたミハイルらしき姿が飛び出す。

 艶消しな黒いパイロットスーツを纏う中、手に握ったナイフと彼の青い目だけが月明かりを反射して輝く。


 バスン、バスン。


 僕もアーシャちゃんも、躊躇(ちゅうちょ)なくミハイルを撃つ。

 空中を舞っていた彼の身体には、十二(ゲージ)の硬質ゴム製弾が食い込む。


 ガチャン、バスン。

 ガチャン、バスン。


 撃ち落とされて地面に転がるミハイルへ向けて、ポンプアクションをしながら僕もアーシャちゃんも無言で非殺傷弾を連続で叩き込む。


「ぐはぁ、ど、どうぢて、ボクの相手をしない。ひ、卑怯なぁ」


 ガチャン、バスン。

 ガチャン、バスン。


 なおも暴れて文句を言うミハイルに容赦なくゴム弾を叩き込む僕ら。

 ミハイルは、完全に無力化しないと危なくてしょうがない。

 余程の事が無い限り死ぬことも無い弾丸なので、僕も気楽に叩き込む。


「ぐ、ぐぁぁ。あ、アーシャちゃん。ど、どうして。ぐは!」


「ミーシャ。貴方には生きて罪を償ってほしいの。だから、早く投降して……」


 涙を流しながらゴム弾をミハイルに撃ち込むアーシャちゃん。

 その姿に僕は悲しくなった。


「ま、参った。ぐ! いくら衝撃吸収素材だからって撃ちすぎだよ、アーシャちゃん」


 ようやく両腕を上にあげて降参のポーズを取るミハイル。

 僕はアーシャちゃんに目くばせをしながら、戦闘ベストから拘束用の結束バンドを取り出した。


「さあ、座って手を後ろに回せ! そして親指をくっつけろ!」

「はいはい。敗北者は素直に言う事を聞きますね」


 アーシャちゃんが正面から拳銃を突きつけているので大人しくするミハイル。

 僕は武装解除をさせたうえで、彼の両親指と両足首をきつく拘束した。


 ……拳銃に隠しナイフ、絞殺具なワイヤーソウ。どんだけ武器を隠しているんだか。


「じゃあ、色々と話してもらおうかしら、ミーシャ」


「しょうがないなぁ、ア―シャちゃん。でも大きくなったアーシャちゃんと直接話せるのは嬉しいや。ホントに綺麗になったね。出来れば、こんな形じゃ無かったら良かったんだけど。あ、カレシに秘密な会話じゃアーシャちゃんが疑われるから、このまま日本語で話すよ」


 一見、完全に観念した様子のミハイル。

 しかし、その顔にはまだ余裕が見え、一切の油断は出来ない。


「それは助かるわ、ミーシャ。わたしも貴方とはちゃんと話したかった。謝りたかったのよ。あの時、助けてあげられなくて」


「それはしょうがないよ、アーシャちゃん。キミはあの時、国外に逃げなきゃ確実に殺されてたからね。逆にボクみたいに身よりもない者は足がつかないから、上手く逃げられたのさ。まあ、その先は困ったけどね……」


 拳銃を付きつけつつも、涙をこぼし謝るアーシャちゃん。

 それを座った状態から、どこか空虚な笑みで見上げるミハイル。

 二人の間に過去の思い出と複雑な感情が渦巻いているのだけは、僕は理解した。


「本当にごめんなさい。わたし、貴方にどう償えば……」


「だから、もういいって。泣いちゃ折角の美人さんが台無しだよ? ホント、日本人の血が入ってるから小学生みたいに顔が幼いなぁ。でも、とっても可愛くて良いよ。マモル、今回はオマエにアーシャちゃんを譲るから、これ以上泣かすなよ?」


「オマエにだけは言われたくないぞ、ミハイル! オマエらがやった非道な事で、どれだけアーシャちゃんが悲しんだと思うんだ。もう一回、至近距離でゴム弾を撃ち込んでやろうか!」


 油断してたらアーシャちゃんを褒めるミハイル。

 僕にまで話を振るから、僕は怒りを抑えながらも銃口を向けて脅した。


「はいはい。もう遊ばないから、ゴメンね。じゃあ、聞きたいことは何かい? 多分、『あの方』についてだろうけど、正確な正体はボクも知らない。ボクですら直接『顔』は見たことは無いからね。ただ、『あの方』の中にはボクらが知っている子もいるんだ。アーシャちゃんも良く知ってる。キミの腕の中で亡くなったあの子がね」


「え!? カ、カーシャちゃんが??」


「そうさ。ボクの前に出る時、あ、もちろんPC越しにだけど、その時はカーシャちゃんの声と意識で話している気がするんだよ。一度、カーシャちゃんって呼びかけたら、自分はもうカーシャじゃない。その他、虐げられ殺されてきた人たちの集合体って言うんだよ? 不思議だよねぇ、死んだはずの子がそこにいるんだもん」

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