第50話(累計 第97話) 魔の塔攻略戦その十三:決戦! 僕は勇気をもって戦う。
「さて、情報支援もAI補正も無い。おまけにコクピットは丸見えで装甲も無し。そんな状態で、このボクに勝てるとでも思っているのかい、マモル?」
突然の豪雨の中。
僕は、『あの方』の騎士ミハイルと対峙している。
お互い、身長四メートル弱のパワードスーツに乗って。
しかし、僕の機体はコクピットを開き、雨が直接僕の身体を濡らす。
「さあてね。でも、操作系にハッキングしなかったのはどうしてだい? 動けなくしてたらイチコロだったよ?」
「そんなの、面白くないからじゃないか? 情報系をハッキングして警察隊が同士討ちしていくのは、とっても楽しかったよ? 自分が撃った相手が仲間だった時の叫びは、これまた極上だったね」
「なんて事を……。ミーシャ、貴方はそこまで魂が腐ってしまったの?」
僕は、疑問に思っていたことをミハイルに尋ねてみた。
ハッキングをするなら情報系だけでなく全部、こと操作系まで乗っ取れば敵は完全に無力だ。
なのに、態々情報系だけを乗っ取り同士討ちを狙う。
その悪質な行為に、僕の中で怒りが燃え上がった。
「ミハイル! オマエの根性、どこまで捻くれたんだぁ! 僕がこの手で叩き直してやる。ライフルなんて要らない、さあ接近戦で勝負だ!」
僕はライフルを投げ捨て、両手で高周波剣を握る。
そして、怒りの感情に任せてミハイルを挑発した。
「何、熱くなってんのかい? そんな自分勝手にボクが付き合う必要なんて無いのにね。じゃあ、死ねよ。甘ちゃんめ!」
しかし、こっちの挑発に乗らないミハイル。
僕に銃口を向けてきた。
「ふっ!」
僕は殺気と銃口の先を見る。
そしてミハイルが引き金を引くタイミングを見切った。
「今!」
銃口から十四.五ミリの銃弾が飛び出す瞬間、僕は肩部スラスターを全開にした。
スラスターからは亜酸化窒素とアセチレンの混合液が噴射、触媒によって着火し、凄まじいGが発生する。
スラスターが生み出す力の方向に、僕は足を踏み出した。
「くぅぅ」
一瞬、気絶しそうになる程の衝撃が僕を襲う。
機体は、瞬間移動するほどの速度でショートジャンプ。
僕の機体がさっきまで居た場所に、大型機関銃の銃弾が刺さり火花を上げた。
「ほう? では?」
「うぉぉ!」
僕は叫び声を上げ、次弾を避けつつ接近戦に持ち込むべく、脚部ローラーを全開にして僕はミハイルへと向かった。
……ユウマくんからの情報支援も視覚補助も無いんじゃ、僕の腕で射撃戦は無理だもの。まだ勝ち目がある接近戦を挑むんだ!
「へぇ。こんな至近距離でも射撃を避けられるんだ。面白いね。じゃあ、お望み通り接近戦を挑もう!」
当たらない大型ライフルをポイと捨て、両手の甲から高周波ナイフを出すミハイル。
お互いの間合いは、一足一刀。
鋭く切りつけてくる一撃を、僕は剣や小手のソードストッパーで捌く。
「剣を握る姿が、案外と様になってるね。でも、コクピット解放じゃ怖いだろ?」
ぶんぶんと青い軌跡を輝かせながら迫るミハイルのナイフ。
一発でも喰らえば僕の負け。
こと、僕自身が刺されたら死亡確定だ。
目の前で刃物同士がぶつかって火花を散らす。
とても怖い。
けれど後退するわけにはいかない。
……後ろにはアーシャちゃんが居るんだもの!
「怖いときはな、逆に前に一歩踏み込むんだ。マモル」
爺ちゃんの言葉が頭の中で蘇る。
一番怖いタイミングこそ、前に進むとき。
「おかしいなぁ。ボク、アーシャちゃん以外に、こんなに剣を打ち合った事無いよ? どうしてかなぁ。さっきから全部弾かれてる」
ミハイルの攻撃を先読み。
一番怖いタイミング、彼の攻撃のスピードが出る前にこちらの攻撃を先当てしている。
スピードが乗らない攻撃は威力も少ない。
一瞬で弾けば、高周波ブレードも対象物を切断できない。
……と言っても、僕も攻め手に欠けるんだよね。剣術は基本技しか知らないから、ここから逆転技ってのも思いつかないし。
「くそ! マモル。オマエはつくづく癇に障る! しょうがない。『あの方』、機体を全部シャットダウンさせて」
イラついたのか、大きくバックジャンプして僕から距離を取ったミハイル。
僕を殺すべく、機体のコントロールを奪いに来た。
「く!」
僕の頭の中で、過去の出来事が巡る。
俗にいう『走馬灯』。
視界の中が白黒になって、何もかもがゆっくり動く。
降り注ぐ大きな雨粒すら、ゆっくりと落ちていく。
……こんなところで死にたくはないなぁ。あ、もしかして?
機体が動かなくなる直前、僕はバックダッシュをしながら剣を機械腕から落とす。
そして一か八か、緊急脱出レバーを精一杯引いた。
「マモルくん!」
視界の端で機体から降りたアーシャちゃんが、グレネードガンをミハイルに向けるのが見えた。
「悪あがきを! 死ねよぉ!」
僕に迫る青い刃。
爆発ボルトが炸裂、僕は間一髪で機体から脱出した。
吹き飛ばされる勢いで転がり逃げる僕。
想定内の場所で止まる。
……これなら!
「甘い! 逃げても無駄だぁ!」
僕の機体に高周波ナイフを突き刺したまま、振り返るミハイル。
ずぶ濡れの機体は、まるで悪魔の様。
赤い目が光るバイザー越しにミハイルの悪意が見える。
「いやぁぁ!」
僕は、目の前に落ちている稼働中の高周波剣を握る。
ずしっと重さが僕に伸し掛かる。
だが、腰や体幹の筋肉を使い、僕は剣を持ち上げた。
僕は豪雨の中、高周波剣の重さに引っ張られる様に前に突撃する。
狙うは、ミハイルの機体の腰部。
バッテリーやオートバランサー等の重要部品が集まる弱点。
ちょうど僕の目線に、そこは存在する。
「なにぃ? 悪あがきか。ぐわぁ!」
僕の意図に気が付いたミハイルだが、アーシャちゃんのグレネード援護射撃で一瞬ひるんだ。
「うわぁぁぁぁ!」
大声を上げて、僕はランスチャージの様に剣を前に掲げ走る。
トス。
案外と簡単に高周波剣の切っ先は装甲を貫く。
そして僕は、そのまま剣を押し込んだ。
「うぁわ! ま、まさか。パワードスーツが生身に負けるなんて??」
貫いた部分から火花とオイルが吹き出す。
僕は、オイルで汚れるのを気にせずグイと剣先を捻る。
ミハイルの機体はビクンと痙攣状の動きをしたのち、脱力して崩れ落ちた。




