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第49話(累計 第96話) 魔の塔攻略戦その十二:ユウマを襲う『あの方』。戦いは情報戦に至る!

「マモル殿、アーシャ殿! 罠でござる! それはミハイルじゃ……」


 (それがし)は、持ち込んだ高性能ノート型PCの動きが何処かおかしいのと、通信ドローン経由で送られてくる映像に違和感を感じ、叫ぶ。

 某の声が聞こえたのか、マモル殿とアリサ殿は動きを止めてくれた。


「ユウマ! 一体何を言う? 今がチャンスだったはず?」


「これは罠でござる。そうでござろう、『あの方』よ?」


 係長殿は某がミハイルを討ち倒すチャンスを潰したのを怒るが、事態はそんなに簡単ではない。

 先程から妙なノイズがPCのスピーカーから出ている。


 ……某も、コップに注がれたコーヒーの波紋を見なければ気が付かなかったでござるよ。


 また、映像に何回かノイズが入ったタイミングがあり、その際に不自然なカット映像があった。


「坊や、いつワタクシの介入に気が付いたのかしら?」


「残念ながら、ついさっきでござる。そうそう催眠音波は辞めるでござる。逆位相の音楽で帳消しにしたでござるが」


 PCのスピーカーから電子音声が突然話される。

 某は、船室にあったラジオを最大音量で流しながら、係長に目くばせをした。


「え、え? 俺、まさか催眠に?」


「係長殿、間に合ったので大丈夫でござる。ただ、油断はせぬでござるよ?」


「ははは! マモルといいキミといい、どんだけチートな人材がアーシャちゃんの回りに居るんだろうねぇ」


 係長を安心させつつ、某は自ら接触をしてきた『あの方』の話を一語一句逃さずに聞く。


 ……やはり『あの方』はアリサ殿の関係者に違いないでござる。ロシア時代からでござるか?


「さて、貴方の事をどう読んだら良いで良いのでござるか? 面と向かって『あの方』ってのも言いにくいのでござるが?」


「ユウマ。キミになら『あの方』じゃない呼び方を教えてあげても良いけれども、十年以上も仲間なミーシャにもマダ呼ばせていないのよ。彼が拗ねても嫌だから、『あの方』でお願いね」


 ……間違い無いでござる。『あの方』はロシア時代からアリサ殿の事を知っているでござる。妙に女口調でござるが、前回の放送とは、声も口調も違うでござるな?


「では、『あの方』殿。今回の襲撃事件は、何をしたかったのでござるか? アリサ殿を仲間に引き入れるだけにしては、大規模すぎるでござる。催眠音波や向精神薬を併用した強化兵による都市部の制圧実験でござるかな?」


「……。本当にキミは何者かい? ワタクシは、キミもマモルも欲しくなったよ? 日本にはどれだけ優秀な人材が埋もれているんだろうか? この国を亡ぼすのが勿体なくなったわ?」


 ……某に注目をしてきたでござるね。ここが某の戦場。口先と智略で戦うでござる。マモル殿、アリサ殿。決して負けてはならぬでござるよ?


「ロシアでの児童強化実験は、残念ながら失敗でござったからな。不健全で不健康な環境での訓練では一定の兵士は作れても、飛び級(ギフテッド)な人材は育てられないでござるよ? まあ日本の画一的な義務教育も、万能ではないでござるがな」


「……。ユウマ。オマエは何処まで知っている? 俺達の正体を……」


 某が探りをいれた一言、それが『あの方』の「逆鱗」に触れたらしい。

 急に声が低く代わり、寒さすら感じるようになった。


 ……今度は男口調でござるか? もしや『あの方』とは複数の人間の集合体でござるか?


「我々は誰でもあり、誰でもない。何処にでも居て、何処にもいない。」


 そう、放送で『あの方』は話していた。

 元から複数形であり、誰でもないと言っていた。


「まだ推論の段階でござるから、お話は出来ないでござる。ただ、某の予想通りなら悲しい存在でござるよ、カーシャ殿」


 某は、ミハイルの他にアリサ殿から聞いた名前をふと呟いた。

 ヤーコフによって殺された悲しき少女。

 アリサ殿の親友。

 アリサ殿のロシア時代を知る者なら、知ってても不思議ではない名前を。


「……! ユウマ。アナタは優秀過ぎるわ。今までノーマークだったけど、アナタもターゲットにさせてもらうの。そ、それじゃ、マモルが負けるさまを見て後悔しなさい。くははは!」


 クリティカルヒットしたのか、再び女性口調に戻り、高笑いと負け惜しみらしき言葉を叫んだ『あの方』。

 その言葉を告げた後、某の高性能ノートPCはバフンという音を立てて煙を上げた。


「ユウマ! 一体、これはどういう事だ? マモルは大丈夫なのか?」


「通信が遮断されたでござるから、不明でござる。ただ、某らは今回『あの方』の正体に近づけたでござろう。後は、二人の武運をいのるばかりでござる」


 某の「予想」が当たっているのなら、どれだけ(ごう)の深くおぞましき事をロシアは実験していたのであろうか?

 そんな組織をアリサ殿やアレクサンドル殿の活躍で破壊できたのは幸いであったが、残党は世界の破滅を望みだした。

 「地獄」に居るものは、幸せな他者を地獄に引きずり込んで、「仲間」にしようとする。


「マモル殿。敵は強大でござるが、某も戦うでござる。アリサ殿を幸せにすべく勝って帰ってくるでござるよ?」


 某は、船室の窓から外を見る。

 深夜の東京湾は、寒冷前線による雷が鳴り大粒の雨がガラスを叩きだした。

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