第46話(累計 第93話) 魔の塔攻略戦その九:悪魔の塔の最上階へ! 待ち構えるミハイルの罠。
「地下階層、全部制圧できたそうだね。リナさんが大活躍だって」
「リナちゃん、凄いわ。わたしも頑張らなきゃ」
今、僕とアーシャちゃんはロケットアンカーを使い、ネオバビロンシティ、塔部分の外壁をパワードスーツで昇っている。
「今のところ僕たちに対して妨害は無いけど、絶対に罠を仕掛けているに決まってるよね」
「ええ。ミハイルなら、非道な事もするに決まってるの」
アンカーを撃ちだし、強化ガラスを破って室内に食い込ませる。
そしてワイヤーを巻きながら、脚部ローラーを壁にくっつけて回転し上昇。
巻き上げきったら、念の為に脚部パイルを壁に撃ち込みつつ、もう片方のアンカーを撃ちだして上層階へ固定。
使い終わったアンカーとパイルを外して、もう一度上へとワイヤーを巻き取り進む。
……単純作業はAIで代行できるけど、油断は禁物なんだよね。
アーシャちゃんの機体はM3カスタム。
脚部ローラーと胸部ロケットアンカーが追加装備。
そして僕のXM5には、それに加えて両機械腕にロケットアンカーが装備されている。
……ただ、左腕アンカーは攻撃ヘリ撃墜時にパージしちゃってるけどね。
黙々と、二人はアンカーを巻き上げて上に進む。
「まだ残り百メートルかぁ。遠いよね」
「何も襲ってこないから暇よね。昇るのはAI任せでいいし」
モニターには、オペレーター腕から自分の腕を抜いてヘルメットのバイザーを開けたアーシャちゃんが、ドリンクを飲んでいるのが見える。
「では、交代しながら一休みしよう。今はアーシャちゃんが休憩だね」
「ありがと。もう少ししたらマモルくんも休んでね」
笑顔のアーシャちゃんの優しい声、僕はそれに心を癒されながらも、周囲を警戒しながら魔の塔の外壁を昇って行った。
◆ ◇ ◆ ◇
「次が最上階。絶対、何かの罠があるに違いない。警戒して進もう、アーシャちゃん」
「うん。ミハイル、絶対止めるわよ」
屋上にアンカーを撃ち込んで最上階の五十三階、地上250メートルまで昇って来た僕ら。
結局、一回も妨害工作を受けなかったが、絶対ココで何かやってくるに違いない。
「マモルくん、アリサさん。内部監視カメラによると内部は無人です。臆病なミハイルは逃げたに違いない。楽勝ですね、ははは!」
ユウマくんは、いつもと違う雰囲気で僕らに情報を提示する。
……あれ? いつもと口調が違う。それに間違っても楽勝なんてユウマくんが言うはず無いよ。第一、人質が居る筈。
「うん、分かったよ。アーシャちゃん」
僕はユウマくんの言葉に隠された意味を感じ、指でアーシャちゃんに指示を飛ばす。
敵が待ち構えてると。
「了解。うふふ、ミハイルって臆病なのね」
Vサインで返してくれたアーシャちゃん。
これで一安心だ。
「じゃあ、いくよ!」
僕は左機械腕に握らせた赤リン発煙手榴弾を最上階に投げ込む。
強化ガラスを割り破り、内部から白色の煙がモウモウと湧きだした。
「なんだ!? ごほほほ、監視カメラは誤魔化していただろ? 人質がいるのにガスなんて使うかぁ!?」
室内から叫ぶ声が聞こえる。
敵兵はパニックになっている様だ。
…やっぱり、逆ハッキングされていたんだね。映像が不自然だったのをユウマくんは察して、ワザと口調を変えて僕らに教えてくれたんだ。
「一気に無力化するわ」
「うん!」
僕らは、一気に最上階のフロアーに踏み込む。
そこは非常灯しか灯いていないが、更に赤外線すら遮る煙で充満して視界が効かない。
しかし、僕らはモニターを超音波エコーモードに切り替え。
人質が真ん中に多数座らせられていて、その周囲に暗視モニターを付けた完全武装のテロリスト共がパニックになっているのが見えた。
「よいしょ!」
「はい!」
僕らは特殊手榴弾をテロリストたちの前に投げ込んだ。
「なんだ? ぎゃ!」
手榴弾はポンと軽く破裂する。
周囲にワイヤーを網上に広げたそれは、バチバチと音を上げる。
終わった後、テロリスト達は床に倒れていた。
残念ながら、人質も一緒に。
……人質の人達も巻き込んじゃったのはゴメンね。急いでテロリストを無力化しないと撃たれちゃうから。でも、今回はユウマくんの読み勝ちだよ。色んな装備を事前に準備してくれたから、僕らは勝てるんだもの。
「人質になっていた方、ごめんなさい。先にテロリストを無力化しないと貴方達も危なかったので、一緒に無力化しました。身体が痛くて動かないと思いますが、これは電気によるスタンボム。しばらくしたら後遺症なく動けるようになりますわ」
煙が電撃で発生したオゾンによって消えた後、僕は機体を降りずにテロリスト達を準備していた結束バンドで手足を縛っていく。
その間、アーシャちゃんが人質たちをひとりずつ、呼びかけながら介抱&持ち物検査をしている。
……人質の中に敵兵が混ざっている危険性もあるから、一緒に無力化するのは間違いないよね。もちろん命の危険性が無いのが大前提。ロシアみたいな無力化ガスは、窒息の危険性高いから使いたくはないけど。
「ははは! マモル、アーシャちゃん。君らは本当に面白いや。ボクが想像もしない方法で策を全部踏み壊してくる。しょうがない、ボクが直接相手をしてあげよう。屋上に来てよ」
館内放送で憎らしそうに話すミハイル。
僕らが策に気が付かずに最上階に侵入していたら、人質を盾にされて大変な事になっていた事だろう。
「マモルくん。やっぱり人質の中に敵が混ざってたわ。女性が拳銃を隠し持っているんだもの。油断ならないわね」
「二段、三段の罠を仕掛けてくるのが、嫌らしいミハイルらしいや。さて、では参りますか、アリサ姫様?」
ドヤ顔で敵の罠を見破ったアーシャちゃん。
僕は彼女の綺麗な灰蒼の目を見ながら、エスコートするように機体を操る。
「ええ、ナイト・マモルくん。一緒にミハイルをとっちめましょうね」




