第44話(累計 第91話) 魔の塔攻略戦その七:悲しみの海から生み出る勇気!
「……」
「マモルくん、大丈夫?」
「うん。多分……」
僕は一端タワー内に戻り、応急処置を行っている海保の方々の護衛をしている。
攻撃ヘリからの銃撃を受け、海保SSTに死傷者が多数発生してしまったからだ。
床の上には血濡れた布で包まれ物言わなくなった方が幾人も眠り、その横では仲間からの必死の治療を受けている人もいる。
別動隊、リナさんのところも同じく襲撃を受けてSSTのお兄さん達に犠牲者が出たと聞く。
……リナさん、ブチ切れて敵の機体がスクラップになるまで殴り続けたらしいけど、気持ちは分かるよ。
僕もリナさんも、怒りのまま敵を殺した。
殺さなければ、もっと犠牲者が出る。
だから、殺した事は間違いはない。
敵もこちらを殺しに来て、実際に多くの人々を殺した。
殺しに来るのだから、殺される覚悟はあるだろう。
……アーシャちゃんは、いつもこんな思いで戦っていたんだなぁ。僕、分かってたつもりで分かって無かったよ。
僕もリナさんも、そしてアーシャちゃんも少尉も間違ってはいない。
立ち向かってくる敵に対し、自らと仲間を守るために殺す。
多くの人々を殺すテロリストを殺す事は、人々を守る事に繋がる。
そのはずなんだ。
でも……。
……いくら理論、屁理屈つけてみても、心が痛いんだよね。
「マモルくん。もう無理しないで良いの。貴方は、ここで海保の人達を守ってて。上には、わたしが行くわ。ミーシャは、わたしが差し違えてでも止めるの」
「アーシャちゃん、それじゃダメだよぉ。キミまで居なくなったら、僕は……」
アーシャちゃんの慰めの声は、余計に僕を追い込む。
自分の情けなさに呆れて、言葉すら出せない。
……あれだけ、アーシャちゃんの事を慰めていたのに、逆の立場になったとたん、これだものね。僕って情けないなぁ。
僕はヘルメット内を流れる涙を拭うことも出来ず、力なく座り込んでいた。
「ははは! 大きな事を言ってても、たかが数人殺した程度でそのざまかよ!」
そんな時、館内放送がいきなり始まる。
「マモル、前にも言ったよな。オマエの攻撃には殺気が無いって。オマエは、ただの怖がりで偽善者さ。殺しはダメ、そう言いつつ自分の身が危なくなれば敵を殺す。そして勝手に落ち込む。ああ、偽善で弱虫なのさ」
館内放送は、少年らしい声の日本語で僕を酷くなじる。
「ミーシャ!? 貴方、何処からわたしたちを見ているの!? マモルくんを侮辱するのはやめて!」
「アーシャちゃん。キミには、そんな弱いやつは似合わない。ボクのような優秀で美しく、心も強い男こそ、キミのパートナーにふさわしい!」
よく見ると天井に設置されている防犯カメラに稼働ランプが灯っている。
僕らの動きを全部把握して、その上で弄んでいるのだ。
……今、襲ったら殲滅できるのに、襲わないのは僕らをイジメるためか!?
「そんなことないわ、ミーシャ! マモルくんは、わたしの王子様。背中を預けられる人なの。誰にでも優しくできて、誰の為にも怒ったり悲しんだり出来る人なの。貴方みたいに仲間ですらチェスのコマ以下の扱いをして、殺す人なんかとは全然違うの!」
「あらあら。組織を壊したときの、触ったら切れそうな鋭い刃物だったアーシャちゃんは、何処に行ったのかなぁ。平凡で退屈な日常とやらに騙されて、すっかり『なまくら』になってるよ。これは、ボクと『あの方』で再教育が必要だね」
ミハイルは、アーシャちゃんが弱くなったと侮辱する。
「しかし、日本では特殊部隊も情けないんだねぇ。仲間が死んだくらいですっかり動揺しちゃって。こんなの戦場やボクらが育った育成所じゃ日常茶飯事だったよ?」
ミハイルは更に海保のお兄さんまで侮辱する。
その言葉の刃は、僕の心に突き刺さった。
そして、僕の中で何かがブチンと切れた。
「……いい加減、好き放題言いやがって! ミハイル、お前にこそ再教育が必要だ。僕がオマエを捕縛して、ねじくれた根性、最初から叩き直してやる!」
「マモルくん……」
僕は、怒りが悲しみを超えて爆発してしまう。
僕の事を侮辱するのは、まだ許す。
しかし、僕が大好きなアーシャちゃんや一緒に戦ってくれた人を侮辱するのは絶対に許せない。
「ほう。この期に及んで大言を言うのかい、マモル? まだまだキミらはボクの待つ最上階には遠い。それに、もう一度襲ってあげたらマモルやアーシャちゃんはさておき、他の人は全員死ぬよ?」
「くっ! そ、それでも僕はお前が許せない。そして哀れに思うよ。そうやって高みから人を見下げないと自分のプライドが保てないんだからね。愛を知らない哀れなミハイルよ」
僕は、怒り以上に愛で心が燃える。
愛を知らないミハイルを、ここで止めなければ世界に不幸がまき散らされる。
それは、絶対に我慢できないから。
「……ははは! よく言ったよ、マモル。じゃあ、今から殺してあげる。もう、ボクが直接殺さなくても良いや! アーシャちゃん、キミだけは助けてあげるね」
「残念ながら、それは不可能でござるよ。ミハイル殿。マモル殿たちの活躍と時間稼ぎ。警察、海保、自衛隊の活躍。そして某の努力により、救援が間に合ったでござる」
感情を感じさせない冷たい声で僕へ死亡宣告をするのだが、直後それを否定してくれるユウマくん。
ニューバビロンシティのシステムに侵入したのか、館内放送までハッキングしてきた。
「なにぃ。さっきからチマチマとハッキングしていると思ったら、ここのシステムにまで乗り込んできたのか?」
「このくらいは朝飯前でござるよ、ミハイル殿。『あの方』とやらが背後でハッキングをしているのでござろうがが、通信速度は近くから有線で繋いだこちらが優位でござる。後は手数の勝負でござるぞ」
慌てるミハイルを他所に、最大級のドヤ顔をしているであろうユウマくんの声。
「さっきから聞いていれば、逆恨みと嫉妬が丸見えでござるぞ? 器の小さいミハイル殿、某の親友らをイジメた罰は、これから存分に味わうといいでござる」
ドヤってるユウマくんの声をバックに、僕の耳にヘリのエンジン音が聞こえてきた。
「騎兵隊、自衛隊レンジャー部隊の到着でござる」