第39話(累計 第86話) 魔の塔攻略戦その二:接岸! 上陸戦開始。
「こちら、『コブラ2』。CP、不審輸送船船の埋立地西部港湾への接近を確認。周囲に海上保安庁の巡視艇がいる。対応を問う、送れ!」
中央防波堤外側埋立地の上空を舞う攻撃ヘリAH-1F、コブラ。
既に旧式となってはいるものの、近代化改修で前方監視赤外線装置を装備しているので、夜間戦闘も楽々こなす。
「元とはいえ、味方を撃つのは気分よくねぇが、今度は海保さんか。意外と動きが早い。特殊部隊を侵入されちゃ面倒だから、ここで全部撃沈してえなぁ」
「ああ。機関砲だけで片つきゃ安上りなんだがな。こちらも弾薬に燃料、余裕は無いが」
『あの方』に寝返った元自衛隊パイロット二人。
タンデム操縦席、前席の射撃手が背後に座る操縦士に愚痴る。
「こちら、CP、『タワー』。コブラ2、埋立地に近づくものは全て排除せよ。全武装の使用を許可する!」
「了解! ヒャッハー! いくぜぇ、相棒」
「おおうよ! まずは、足の遅くてデカい輸送船からやるぜ」
司令部から、レーザー通信で撃沈命令を受けた攻撃ヘリ。
埋立地の夜空を舞うコブラは急旋回をし、一端海上へ出る。
そして、海上保安庁の船団に守られ接舷しようとしている輸送船に機首を向けた。
「ロックオン! さあ、沈め……。何ぃ。逆ロックオンだと? 何処からだぁ!」
「ん? ロックオン位置には、何も見えん? 赤外線迷彩、『隠れ蓑』か?」
機体両側にセットされたロケット弾をランチャーから撃とうとしたコブラ。
しかしロックオン警報を受け、急速離脱をした。
◆ ◇ ◆ ◇
「ヘリ、急に逃げて行ったでぇ?」
「そりゃ近SAMに狙われたら、ヘリは逃げるよね」
輸送船甲板に立つリナさんは、パワードスーツに持たせた「箱」を空に向けたまま不思議そうに話す。
……僕でも、91式携帯地対空誘導弾に狙われたら逃げるに決まってるよ。おまけに歩兵じゃなくて、装甲もあってステルス性が高いパワードスーツからじゃ、余計だね
船倉から甲板上に出た僕らの機体は全て、灰色のデジタル都市迷彩を印刷されたステルスマントを被っている。
赤外線及び電磁波遮断効果がある「隠れ蓑」。
正式名称『26式電磁迷彩外套』。
まだ完全な光学迷彩まではできないものの、各種センサーを誤魔化すには十分。
防弾性能もそれなりにあり、騎馬サムライの使う母衣の様に膨らませれば小銃弾くらいは弾ける。
沖縄でも対ミハイル戦で使ったが、今回も役に立ちそうだ。
……これ、日本のお家芸なんだそう。米軍でも同種の物が採用され始めたばかりだから、ミハイルが知らなかったのもしょうがないよね。
「おそらく次は海方向からじゃなくて、遮蔽物の多い港方向からフレア撒きつつ来ると思うでござるから、攻撃ヘリを容赦なく撃って良いでござる。なに、赤外線映像誘導でござるから、必ず当たるでござるよ」
「ユウマ! それはリーちゃんじゃなく、俺が撃つ。可愛い従妹に人殺しはさせたくない」
ユウマくんはワザと気楽に話すが、ヘリにミサイルを撃つ=人を殺すという事。
少尉は、可愛い従妹のリナさんに引き金を引かせたくないのだろう。
僕も同じ立場なら、そう言うに決まってる。
「ダニエル。ここは戦場、殺す殺さないと言っている場所では無いわ。リナ、貴方も覚悟をしなさい。マモル、貴方もそうよ?」
「ソフィアさん。二人の分は、わたしが殺します。二人は手を血で汚さないで……」
……アーシャちゃん、ありがと。ソフィアさんも態々、嫌われ役ありがとうございます。
「ソフィアさん、僕は既に覚悟をしました。アーシャちゃん、今までありがと。リナさん、ランチャーを僕に貸して。ユウマくん、僕の機体からでもミサイルは撃てるよね?」
「マモルはん! もー、誰も彼もウチを甘やかさんでええんやで? お母ちゃんも、嫌われ役あんがとね。ウチ、皆を守る為に撃つで!」
「という事でござるから、皆の衆。それぞれの役目を果たすでござる。某も、一緒にトリガーを引くでござるよ?」
皆が皆、お互いを思いあっての言葉。
僕は戦場に居る筈なのに、心がとても暖かくなった。
「ぷ! 結局、皆そうやって庇いあうのよね。ああ、仲間って良いなぁ。みんな、絶対に生きて帰ろ。その為に、今は戦うの!」
「ああ、そうだな。各員、射撃命令は俺が出す。全責任は俺、人を殺すのは俺だ! お前らは一切気にせず、生き残る事だけ考えろ!」
「了解!」
アーシャちゃんと父さんの言葉で、僕は頭を切り替える。
どうやって確実に敵を倒すかを。
「皆の衆! 接舷岸壁に多数の無人パワードスーツに戦闘ドローンが現れたでござる。こっちも倒すでござる!」
「ユウマくん! 僕が一番槍で飛び出すよ。アーシャちゃん、援護頼む」
「うん、任せて!」
僕は許可を待たずに、甲板からスラスターを吹かして空に舞う。
そして港湾護岸に設置されているガントリークレーンへ左腕部ロケットアンカーを飛ばした。
「……よいしょっと!」
アンカーのワイヤーを巻き取りながら機動、そのまま僕は護岸で射撃を開始した無人型パワードスーツに飛び蹴りをかました。
「まず一機! 続いて二機目!」
蹴り飛ばした敵がバラバラになって飛んでいくのを、視界の端に見ながら着地。
アンカーを回収後、すぐさまローラーダッシュ機動で敵機体の中を走りぬき、背後から銃撃で倒していく。
「マモルくん、無茶しちゃ嫌よ! 少尉、援護射撃してぇ」
僕の背後に迫る敵を撃ち倒してくれているアーシャちゃん。
おかげで、僕は安全にポンポンと敵機を撃破した。
「よいしょ! 五機目」
僕は、ライフルの先端につけた高周波ブレード銃剣で細い無人機の腰をぶった切る。
また足元を這う四脚戦闘ドローンを、脚部パイルで踏みつぶしていく。
……AI稼働だから動きが単調だね。これが遠隔操縦なら手ごわいけど。
「アリサ、少し待て。こっちはリーちゃんのフォローを……!? ユウマ! ヘリが来たぞ!」
「ダニー兄ちゃん、ウチ撃つでぇ。ターゲットロック、発射ぁ!」
僕のモニター上にも、攻撃ヘリのトンボの様な細い機体が映る。
先手でリナさんが対空ミサイルを撃つが、ヘリは真っ赤に燃えるフレアーを何個も撒きつつ、港湾施設を盾にして躱す。
「不味い! ここで撃たれたら、船の皆が!」
僕は攻撃態勢になった攻撃ヘリの横腹を目がけて、胸部に追加されたロケットアンカーを二基撃った。




