第38話(累計 第85話) 魔の塔攻略戦その一:まもなく上陸! 僕らは悪魔の島へ突撃す。
「各員、そのまま話を聞いていてくれ。現在、当輸送船は東京湾内を航行中。まもなく中央防波堤外側埋立地東側を通過する。海上保安庁の警備船及び警備艇が望遠カメラで埋立地内を偵察中。各機のモニターに現状を写す」
僕、アーシャちゃん、リナさん、ダニエルさんの四人はそれぞれパワードスーツのコクピットに座る。
まもなく戦闘開始。
それぞれの機体は電力を船からもらい、ウォームアップをしている。
「各地で小規模ですが火災が起きてますね、係長。問題のバビロンは……。こりゃ、本当に悪魔の塔かな?」
モニターには、周囲の照明に照らされた地上250メートルにそびえる漆黒の超高層ビル、いや塔が見える。
下層構造はゆるやかな円錐状になっていて、ある程度からは円筒上、文字通り塔の形状をしている。
「まさしく、現代のバベルの塔でござるな。皆に塔の公式見取り図及び設計図面を送るでござる。基本、低層階は天井は五メートル弱。パワードスーツでも立ったままで移動可能。上層階、塔部分では天井高さが三メートル半でござるから、しゃがみながらのローラーダッシュなら『なんとか』移動は出来るでござるが……」
モニターには、各階層の断面図とパワードスーツの大きさが重ね合って表示されている。
下層部分はショッピングモールもあるため階段、エレベーター、エスカレーターの他にスロープでも各階が繋がっているし、柱や壁も少なく高機動移動が出来る。
なので、戦闘しながら移動も可能だ。
「つまり、建物内の至る所で敵も待ち構えているんだよね、ユウマくん」
「はい、アリサ殿。間違いなく、下層部では無人機やドローンも含めて多数で待ち構えているでござろう。ただ、塔部分は狭くてパワードスーツでの戦闘はほぼ不可能。トラップなどで待ち伏せされていたら避けようもないでござろう」
しかし上層部の塔部分はビジネスフロアーが大半のために細かく分割されており、階段、エレベーターでしか各階の接続が成されていない。
「そうなったら、俺が機体を降りて歩兵戦をする。お前ら未成年には、そんな事はさせられないからな」
「少尉、CQCはわたしの専門です。それこそ、わたしの出番ですわ。それにミハイルは、わたしのターゲットなの!」
ダニエルさんとアーシャちゃんが、お互いに庇いあって生身で戦おうとする。
そんな危険な事、僕には納得できない。
……海上保安庁の特殊部隊の人も手伝ってくれることにはなったけど、それでも生身は危険だよ。
「二人とも、落ち着いて。歩兵戦なんてしなくても、僕が全部パワードスーツで倒すよ。ユウマくん。僕はクライミング未経験だけど、この機体ならビルの外側を昇れるよね。他の機体も同じ事出来ないかな?」
「なるほど、ワイヤーとローラーを使っての外壁登攀でござるな。軽量級機体でならAI補正で出来るでござるよ。重いリナ殿の機体以外は出来るでござる。幸い、アリサ殿と予備機の胸部にロケットアンカーを追加装備してるでござるから可能、今からOSに仕込んでおくでござる」
「ウチ、高いところは苦手やから、ちょうどええわ。下層で敵の足止めをするでぇ。マモルはんはアーシャちゃんの事を頼むでぇ」
「なら、俺がリーちゃんを援護する。下層は俺達に任せて、上はマモルたちで勝負付けてこい! 絶対死んで来るんじゃないぞ?」
リナさんとダニエルさん、二人は僕たちを上層部まで送ってくれるという。
実にありがたい話だ。
「分かりました。リナさん、少尉。くれぐれもお命大事にです。アーシャちゃん、一緒に行くよ!」
「うん、マモルくん!」
嬉しそうなアーシャちゃんの声で、僕も勇気が湧いてくる。
どんな敵だって、こんな暖かい仲間達と一緒なら絶対に勝てる!
「ああ、俺からも頼む。リナくん、ダニエルくんは下層部で海保の部隊と協力し敵部隊の殲滅とひきつけを。マモルたちが上に上るのを邪魔させるな。また、内部核兵器の無力化も同時に頼む。マモル、アリサくんは下層構造ベランダ部分まで移動、そこから外壁登攀。最上階付近にいると思われる敵ボスの検挙を命じる。俺とユウマは船から支援を行う。俺からの命令は一つ、全員絶対死ぬな! 以上」
「わたくしからも命令よ。機体整備はパパと一緒に最後まで行うわ。万全の形にして送り出すから、必ず生きて帰ってきなさい。機体なんていくら壊しても良いの。最悪、機体放棄しても良いわ。でもね、絶対に死なないでよ、みんな?」
父さん、そしてソフィアさんから涙声での命令。
僕は、絶対に死ねないと思った。
「そうそう。先程、雪野先生とも連絡が取れたでござる。実家に居てご両親と避難しているとの事。無茶しないでね、と伝言を貰ったでござる」
どうやら第五係の関係者は皆無事。
しかし第一係以下、第一機動強襲室の先輩方々の安否は不明。
僕たちは敵討ちをしつつ、なんとしても勝たなくてはならないのだ。
「まもなく午前一時半。これから埋立地西部コンテナふ頭に強襲上陸をする。各員、油断するな!」
「了解!」
機体モニターには、船外カメラからの映像が映る。
水銀灯を模したLED照明が照らす港湾ふ頭が見えてきた。
今のところ、敵兵の動きは無いが……。
「警告! 巡視艇より連絡。攻撃ヘリがこちらに接近中。巡視艇からの銃撃で支援をしてくれるでござるが、危険でござる!」
モニターの港湾施設にも、赤い光が多数見えてきた。
望遠拡大をすると、その光一個一個がパワードスーツや戦闘ドローンの眼。
「港湾施設内にも多数のパワードスーツ、戦闘ドローンを確認。敵は港も抑えていたでござるな! 機体識別、無人機が大半と思われるでござるよ」
……このまま船の倉庫内に居たら船ごとやられちゃう。それに海上保安庁の人も危ないよ!
海上保安庁の巡視船にも、大型船ならRFS型の二十ミリガトリング型機関砲、俗にいうバルカン砲は装備されている。
しかし、軍艦のCIWSとは違い、対空仕様ではない上に発射速度も遅め。
ミサイルも持つ攻撃ヘリ相手では、正直言って勝負にならない。
……他にもパワードスーツも使える五十口径のガトリング型機関銃を装備している船もあるけど、装甲が厚い攻撃ヘリ相手はきついよね。
「父さん、いや係長! 僕らを早く出して下さい! ヘリから船を守ります」
「……うむ、分かった。各機、緊急発進! 絶対に無茶はするなよ!」
「はい!」
一瞬躊躇した父さん、事態を見て決断をした。
そして僕らの「戦争」が開始されたのだった。




