第36話(累計 第83話) 都内攻防戦 その4:いよいよ出陣! 僕らはユウマくんの奇策に驚く。
「これが警察・自衛隊の精鋭部隊かい? 全員、只の素人じゃないか。前に戦った米軍も大したことなかったよ。まだ高校生なのに、マモルは凄く強かったのにね」
積み上げられた弾痕だらけのオリーブカラーなM3パワードスーツ達の骸。
そこからは、まるで血の様に黒い油が道路上に流れている。
また、その周囲にはバラバラになっている死体もちらほら見え、そこからは本物の血が流れていた。
機械人形の骸の山の上、憂鬱げに座り込むYK-102パラディン。
その名前の様に白銀に輝く「聖騎士」には一切の傷も無く、戦った痕跡は機械腕に持つ大型ライフルの銃口が煤けているくらいだ。
大型機関銃の薬莢と瓦礫、無人の兵員輸送トラック、戦闘指揮車などが沢山転がる路上。
そこにはミハイルの駆るパラディンの他、数機のパワードスーツが指示を待って待機している。
「でも、ここにはマモルやアーシャちゃんは来なかった。二人とも今、何処にいるんだろうね? 『あの方』情報じゃ、一時間前までは駅構内の避難シェルターに居たみたいだけど?」
両腕を上にあげて、途方に暮れたようなポーズを取るパラディン。
しかし、その声には真剣さが全く見られない。
さっきまでの戦闘すらも、「遊び」でしか無かったかのように。
「マスター、これからどうしやすか? これじゃマスターが待っている恋敵も来やしませんぜ。一応、『迎え』には行きやしたが?」
「それなら、それでも良いよ。ボクらは明朝とっとと潜水艦で退散して、ビルに仕掛けた核爆弾を起動させるだけさ。東京は死の街と化し、『あの方』の偉業が世界に広まるだけだからね。まあ、ボクとしては、マモルと戦えないからとっても残念だけどさ」
上空を攻撃ヘリが舞う中、ミハイルが駆る「パラディン」は虚空を見上げる。
そして命令を下した。
「攻撃ヘリ! この埋立地に繋がる橋を全部落として、敵の進入路をこの地下道に限定させるんだ。これでもっと面白くさせよう」
まだ夜は始まったばかり。
満月に照らされる中、パラディンは大型ライフルを肩に担ぎ、パワードスーツの躯の山から立ち上がる。
「アーシャちゃん、早く来ないと君が住む町が無くなっちゃうよ?」
まるで舞台俳優の様にパワードスーツを操りながら、ミハイルはアーシャを待つ。
歪んだ愛情をアーシャに対して持ち、彼女を困らせたいから。
◆ ◇ ◆ ◇
「アーシャちゃん、そろそろ出発しよう。もうすぐ指定時間だよ」
「そうね。でも、この子が離してくれないの」
僕らは、避難シェルターから「戦場」に行く準備をしている。
しかし、困り顔のアーシャちゃんには幼稚園児くらいの女の子がしっかりとしがみ付いている。
彼女が怖がっていたのを、ペンギンさんのぬいぐるみを使った人形劇で励ましてからは、すっかり懐かれてしまった。
ユウマくんとの通信中はお母さんと一緒に居てくれてたけど、やっぱり怖いのか。
今は、アーシャちゃんにべったりとくっついている。
……美人で優しいお姉ちゃんが居て親切に話しかけてくれたら、小さい子は懐いちゃうのも納得なんだけどね。
「こんな小さな子が怖いのは、しょうがないよ。正直、僕だって今も怖い。でもね、僕が何もしない事で人が沢山死んじゃうのは、もっと怖いよ」
「ええ、そこは分かってるの。わたしだって、この子や他の人達を助けたいもの。ねえ、お嬢ちゃん。お姉ちゃん達はもう少ししたら、お外に行くの。そして貴方とお母さんがお家に帰れるようにしてあげるわ?」
「ホント、お姉ちゃん?」
「うん、ホント。お姉ちゃんとお兄ちゃんが、皆を助けるわ。だから貴方は、わたしの代わりにこのペンギンさん達をお願い出来る?」
アーシャちゃん、自分が抱えていたのと、僕が妹に買ったお土産ペンギンさんのぬいぐるみを女の子に渡した。
「お姉ちゃん……。うん! わたし、この子を守るよ」
「お母様。すいませんが事態が終わり次第、こちらに連絡をお願いできますか? それまで、このぬいぐるみをお願いしますね」
僕はお母さんに名刺を渡しながら、警察関係者としての身分証を見せた。
「え! 貴方たちは……。まだお若いのに戦っていらっしゃるのですね。はい、くれぐれもお気をつけて」
「はい! では、行ってきます」
「お母様、わたし行ってきますわ!」
僕らはシェルター係員に身分証を見せ、シェルターを出た。
……係員さん、びっくりして敬礼してくれたのは驚いちゃうけど。でも、応援は嬉しいなぁ。
◆ ◇ ◆ ◇
「で、ここから荒川の方に行くんだったっけ、マモルくん?」
「ユウマくんは、河川敷で僕たちを回収してくれるって話だけど。何を使って事務所から移動してくるんだろうか? 川では船を使うってくらいしか情報にも無かったけど?」
シェルターから一キロ程歩いて、僕らは荒川の河川敷まで来た。
いつもなら自動車が多く走る道路は、一台も走っていない。
誰も乗っていない、放棄された自動車で四車線道路が埋め尽くされている。
更に街中を歩いている人も居ない。
「無人のスカイツリーかぁ。こんな形では見たくなかったなぁ」
「今度はミワちゃんとも一緒に来ようね、マモルくん」
ひと気が無いスカイツリーを見ながら僕らは、しばしユウマくんを待った。
「案外と遅いなぁ。約束の時間を三十分以上過ぎちゃったよ。と言って、ここじゃ連絡も出来ないし」
「今はユウマくんを信じて待ちましょう、マモルくん。何も持たないわたし達じゃ出来る事も……!?」
僕たちが河川敷のベンチに座って待っていた時、周囲に気配、いや殺気を感じた。
そして、その殺気は僕たちを徐々に囲みこみに来ていた。
「もしかして僕らの行動はバレバレなのかな? 平文っていうか音声通信してたし」
「テレビ局をジャックするくらいだもの。これ不味いわね。敵は銃を持っているわ」
僕にも、はっきりと分かる殺気。
そして彼らは僕らの前に姿を見せた。
10人くらいの完全武装の兵士、そして僕らにアサルトライフルの銃口を向けた。
……あれって20式自動小銃だ。なら、自衛隊からの反乱兵かな?
「そこの二人、アリサとマモルだな? マスター・ミハイルが待っている。我らに投降せよ! 我ら『あの方』の使徒は、敵とはいえ非武装の者を殺しはしない。だが、逆らうのなら子供相手といえど容赦はしないぞ?」
写真を見て僕らと比較している敵兵。
すっかりバレバレの僕ら。
……そういえば、月光学院の学院長がミハイルなんだから、僕らの個人情報は敵に流れているんだよね。あ、母さんたちも危ないんじゃないか?
完全包囲で逃げ道も無く多数の銃口に囲まれて、絶体絶命のピンチ。
僕はアーシャちゃんだけは逃がそうと思い、背後にアーシャんちゃんを隠す。
「マモルくん!」
「アーシャちゃん。僕が囮になるから、その間にここから逃げて! 大丈夫、僕は絶対に死なないから」
「いや! わたしも一緒に戦うの。マモルくんから離れるのなんて出来ないわ!」
ア―シャちゃんを安心させる様に優しい声を掛けるが、アーシャちゃんは頑固にも僕の前に飛び出す。
しょうがないので、僕はアーシャちゃんと背中合わせになる。
「じゃあ、お互い生き延びる努力をしようね、アーシャちゃん」
「ええ!」
「早く投降せよ! こんなところでガキ共が、イチャつきやがって」
僕らに銃口を向けるテロリストが焦れて、今にも引き金を引こうとした瞬間。
「人の恋路を邪魔するアホは、ふっとべぇ!」
聞きなれた女の子の声が、突然川の方から聞こえてきた。
そしてポンという音の後、僕らから少し離れていた敵が爆発によって文字通りふっとんだ。
「騎兵隊、登場やでぇ!」
スラスターを吹かしたジャンプ機動の後、僕らの前に盾とグレネードランチャーを装備した太目なパワードスーツがズシャーとスライドしながら着地した。
「リナちゃん!」
「マモルはん、アーシャはん。お待たせやでぇ!」




