第34話(累計 第81話) 都内攻防戦 その2:敵の首領『あの方』が姿を現した!
「その飛行船が敵ECMの発信源でござるよ!」
僕とアーシャちゃんがスカイツリーの展望デッキで見た飛行船。
それが敵のECM・情報拠点であると分かった。
「じゃあ、その飛行船を撃墜すれば……」
「マモルくん。ミーシャがそんな事に気が付かない訳ないじゃないの? 今、中波通信が出来るのも含めて罠に決まってるわ」
「某もアリサ殿と同じ意見でござる。ヘリウムが入手できないのなら、浮かせるガスに何を使うでござる? ヒンデンブルグ号の惨劇、再びでござるよ? また、陰湿なミハイルなら追加で毒ガスや細菌兵器を飛行船に仕込んでいても、おかしくないでござるよ?」
僕が安直に敵飛行船の撃墜を言うと、アーシャちゃんやユウマくんからツッコミが入る。
……そうか、中身が水素ガスの可能性があるんだ。だったら、撃墜したら大爆発をして二次災害も起きちゃう。消防が動けない今、火災は避けなきゃだよね。その上、毒ガスや細菌兵器散布も可能性ありかぁ……。
僕は暴走した宗教団体が細菌兵器や毒ガスまで作り上げ、大規模テロを行った事を思い出した。
今、『あの方』の先兵は都内で戦争行為を行っている。
なら、これ以上何をしてもおかしくない。
「じゃあ、このまま通信妨害されたままなの?」
「何、既に対応策があるでござるよ。飛行船の飛行プランが国土交通省に提出されているでござるが、ある点を中心に飛行しているでござる。そこは、経済や情報拠点の大手町でも、政治の中心な国会議事堂や皇居、更に行政の中心な霞が関でもないでござる」
「あ! じゃあ、そこが敵の拠点なのかしら?」
敵の通信妨害をものともせずに、続々と情報を纏めていくユウマくん。
そのチートな能力に、僕はもちろんアーシャちゃんもポカン状態だ。
……これじゃ事務所でも、父さんは呆れて動けないんじゃないかなぁ。もしかして今回は、ユウマくんが指揮してるのかな?
僕は、第一機動強襲室事務所でユウマくんが大暴れし、父さん達がこき使荒れている姿を想像した。
「では、作戦を開始するでござる。お二人は、しばし待機でござる。敵の動きがあり次第、……」
ユウマくんが僕らに指示を出した時、今までノイズしか写していなかった避難シェルター内の壁掛けテレビが急に映像を表示した。
「この放送を聞く愚民どもよ! 我々は誰でもあり、誰でもない。何処にでも居て、何処にもいない。皆は、我々の事を『あの方』と呼ぶ」
……ここにきて放送ジャック? だから、配電はわざと止めなかったのか? コイツが『あの方』!? 一体、何者なんだ?
逆光を背景にした中、フードを深く被り顔を見せない人物が話し出す。
まるで電子的に合成された様に聞こえる音声で。
声や姿からは、男か女か、若いか老人なのか、正体が分からない。
しいていうなら、小柄で華奢なイメージだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「世界は歪んでいる。我々は、虐げられてきた名も無き弱かったモノの代表。全にして一つ、一つにして全。誰でもあって誰でも無い。かのような我々だからこそ、歪んだ世界に復讐を誓い、愚民社会に破滅をもたらすのだ」
画面上のフードな人物は、好き勝手に持論を語る。
虐げられた自分なら、世界を破壊しても良いという。
そして世界を自分達の望む形に再構成すると。
「そんな訳あるか! それじゃ呪いの擦り付け合いじゃないか!」
「ええ。何を言うの! 馬鹿ぁ!」
僕とアーシャちゃんは思わず、『あの方』に反論をした。
彼に聞こえるはずも無いが、それでも文句を言いたかった。
「コイツ、何様だ!」
「どうして、わたし達が苦しむの!」
『あの方』に対し、周囲の人々も文句を言う。
自分の暮らしを破壊されて、不満が無い訳はない。
「だが、我々は今の社会と違い慈悲深い。愚民に選択肢を与えよう。我々は、この場所で待つ。そこまで来い、月の妖精姫、人型兵器を駆る勇者よ!」
僕たちの声は向こうに聞こえないはずなのだが、『あの方』は奇妙な提案をした。
自分達のところに向かってこいと。
……月の妖精姫ってまさかアーシャちゃん?
テレビ画面上に地図が表示される。
そこは、東京湾臨海地域の中央防波堤外側埋立地。
そして、ユウマくんが示した飛行船移動範囲の中心点でもある。
「やはりネオバビロンシティでござるか。敵総本山にふさわしい禍々しい名前でござるよ」
……僕も名前くらいは知ってるよ。確か高さが250メートルにもなる超高層ビルだよね。神によって言葉を通じ無くされて、建築途上で破棄されたバベルの塔がモチーフって縁起悪いって思ってたんだ。
超高層ビル「ネオバビロンシティ」。
外資系企業が日本支社の為に作った物。
埋立地の地盤は不安定なので、下層部構造や地下施設に秘密があるとも聞いた覚えがある。
……そういえば大淫婦バビロンってモチーフも考えられるよね。確か悪魔の住む巣窟だったっけ? 今になれば意味深だよ。
「なお、勇者が明朝の日の出までに来ない場合は、建物内に設置した戦術核兵器が爆発する。都内は地獄になるであろうよ。更に英雄以外の者は、我々の兵が容赦なく排除する。では楽しみにしているぞ、アーシャよ!」
「きゃぁ!」
「核兵器だって!?」
「一体どうなるんだ? 政府は、自衛隊や警察は何をしているんだ!?」
「おかーさん、こわいよぉ」
言うだけ言って、突然終わる犯行宣言。
テロリストが核兵器を使うという宣言で、シェルター内はパニックになった。
……間違いない! 僕らを名指しで呼んでいるんだ。罠に違い無いだろうけど、動かない訳には行かないか。
「これ、絶対に罠だよね、アーシャちゃん。指定場所に『あの方』はいなくて、ミハイルらが待ち構えているに違いないよ」
「そうに決まってるわ、マモルくん。でも、名指しされちゃった以上、行かない選択肢はわたし達には無いの」
「某も同意見でござる。ただ、おそらく別動隊が妨害工作として某らを襲うであろうし、目的地までパワードスーツや兵器を送るのもひと手間でござるよ」
敵、『あの方』は、僕とアーシャちゃんが絶対に来るように罠を仕掛けた。
というか、僕たちを招くだけに戦争まで起こした。
そして多くの人々を巻き込み、不幸にした。
その所業は絶対に許せないし、待ち構えるミハイルには山ほど文句もあれば聞きたいこともある。
アーシャちゃんの為にもミハイルを生け捕りにして、「ぎゃふん」と言わせてやるのだ。
……どうして敵はアーシャちゃんに、ここまで固執するんだろう? ミハイルだけならまだ分かるけど、『あの方』まで執着する理由が読めないよ。
『あの方』は世界に無秩序をばらまいているのだが、その一環にしては不自然。
彼(?)の事は、アーシャちゃんも知っている人物とはミハイルも言ってはいたが。
僕は敵の目的が全く見えず、不思議に思った。




