第33話(累計 第80話) 都内攻防戦 その1:僕は敵の動きを知る!
「マモルくん。これからどうしよう……」
「そうだよね。武器も無いし、全体の状況も分からない。これじゃ動きたくても動けないよね」
電車で移動中だった僕ら、最寄り駅から駅員さん達の案内で政府認定の避難シェルターに避難し、今は床に座っている。
最初、抜け出して戦おうとは思っていたけれど、武器も移動手段も無い。
それ以上に何処に戦いに行けばすら、僕らには分からない。
アーシャちゃんは、心配そうな顔で僕を見上げる。
「携帯電波もWiFiも繋がらないし、何も情報が入らないんじゃ、何処に行くかも分からないよ。と言って、基地まではとっても遠いし」
「そうよね。それにここの人達を放置するのも違うと思うし。あ、大丈夫だよ、お嬢ちゃん」
……シェルター内のWiFiは生きてるけど、そこから先が繋がらないんだよね。インターネット回線が何処かで壊れたのかな?
アーシャちゃんの側には、幼稚園児くらいの女の子が座り込み、怖がって泣きじゃくってる。
お母さんも横に居るが、周囲の人々の恐怖が伝染している為か。
「おねーちゃーん。あたし、こわいのぉ」
「うんうん。そうだよね、ボクも怖いよ。でもね、このお姉ちゃんやお兄ちゃんが皆を助けてくれるよ!」
アーシャちゃんは器用に、抱いていたペンギンさんのぬいぐるみで腹話術をして、泣いている幼子を慰めている。
「ホント?」
「うん、ホントだよ。だから、キミはお母さんと一緒にお行儀良く待っててね」
「うん、おにーちゃん!」
僕も笑顔で幼子を励ます。
自分の中の勇気を振り絞らせるために。
……通信手段の切断、それは戦争開始前の手段だったよね。なら、敵は本気で攻めてきたんだ。こんな小さな子まで怖がらせるなんて、許せないよ!
僕のミリタリー知識でも、戦争の開始はレーダー網の破壊と通信・インフラの破壊から始まる。
つまり、敵も大規模な戦闘を行うつもりなのだ。
……でも、今の日本相手に国単位で攻める国が、いきなり現れるかな? やっぱり『あの方』の兵がやっているの? この間の沖縄米軍訓練基地攻撃も、意味不明だったし。
「お義母様は大丈夫かしら? ミワちゃんは……」
「あの二人なら大丈夫さ。だって母さんは僕よりも強いし、都内二十四区内から家は遠いし」
……父さんは、まだ第一機動強襲室の事務所だろうから大丈夫。ユウマくんも今日は事務所行くって言ってたから、父さんと一緒。なら、ユウマくんは動いてくれそうだね。
「そうよね……。でも何も出来ないのも、わたし不安なの……」
「そこは僕も一緒だよ。でもね、僕はアーシャちゃんとは絶対に離れないからね」
僕は、ぎゅっとアーシャちゃんを抱きしめる。
この暖かい命を絶対に守る、皆で幸せになってやると、心に誓った。
「ん、あれ? スマホが……?」
アーシャちゃんを堪能していた僕のスマホから、呼び出し音がいきなり鳴る。
「わたしのも鳴ってるわ」
なんとアーシャちゃんのスマホも、同時に呼び出し音が鳴る。
SNS経由の音声通話呼出しだ。
ただ、呼出し相手に心当たりの無い番号が表示されている。
……インターネット回線が死んでいるし、携帯通信も出来ないのに、どうして? でも、今は何より情報が欲しいよ。
僕はアーシャんちゃんと顔を見合わせた後、通話に出てみた。
「もしもし、誰ですか?」
「おお、繋がったでござる! 某のカンが当たったでござるな」
「ユウマくん!? じゃあ、アーシャちゃんのスマホも」
「そうでござる。二人とも同時通話でござるよ」
◆ ◇ ◆ ◇
シェルター内では急にWiFi回線が復旧したので、誰もが連絡をしようとしたり、SNSなどで外部情報を調べている。
「ユウマくん、良く僕らが居る場所が分かったよね。ここのWiFiを回復させたんだ」
「うふふでござる。最終GPS情報が駅でござったので、駅構内の避難シェルターに避難すると踏んだでござる。後は死んだネット回線を迂回するようにしただけでござるよ。避難シェルターの壁はECMも防ぐでござる」
ユウマくん、簡単そうに言うが魔術師級ハッカーの技を使ったのは、そこまでネットに詳しくない僕でも分かる。
「で、今の状況は?」
僕とアーシャちゃんは、声を潜め周囲に情報が漏れないように話す。
……こういう時は中途半端な情報やデマでパニックになるのが一番怖いものね。
「既に都二十四区内は戦場でござる。詳細は今からメールで送るでござるが、大手町の大手通信会社ビルは施設を爆破され、インターネット回線は切断。電波通信も極超短波域を中心にECMを受けているでござる」
ユウマくんによれば中波によるアマチュア無線は通信可能だそうで、消防庁、海上保安庁とは通信が出来たらしい。
そこからの情報では、自衛隊や警察の一部が反乱。
攻撃ヘリやパワードスーツも、一部反乱軍に奪われたらしい。
……米軍も全体状況が分からず、政府からの依頼も無いから動けないらしいんだって。ちょうどリナさんと一緒に遊びに行ってた少尉お兄さんがユウマくんらと合流したから、そこは一安心だよ。
「それ、一大事じゃないか。これ、もしかして……」
「おそらくは、『そう』でござろう、マモル殿。そういえば、マモル殿ら今日はスカイツリーに行ってたでござるよな。空に何か変なものが飛んでいなかったでござるか? ECM範囲が広範囲すぎて、空中から電子攻撃しているとしか思えないでござる」
……今度も『あの方』かぁ。何を考えているんだろう? で、空だって? ECMするなら普通は電子戦機だけど、EA-18Gなんて飛んでなかったよね。アイツのエンジン音は大きいって話だから、気が付かないのもあり得ないか。
対レーダー用の電子戦機としては、F/A-18Fを元にした18Gが現役だが、基本設計は艦載型の戦闘攻撃機。
なので、航続距離の問題もあり空中給油機を活用しない限り、都内上空にずっと待機なんてできない。
「空ねぇ。あ、そういえばマモルくん、言ってたよね。珍しく飛行船が飛んでいるって」
「うん。広告用の飛行船が飛んでいたね。ヘリウム危機の今、どうやってヘリウムを集めたのやら。カラスが妙に飛行船の近くを飛んでいたのが、気になってたけど……」
「……! ビンゴでござる! その飛行船が敵のECM拠点であり、おそらくレーザー通信による情報統合拠点でござるよ。飛行許可を確認するでござる……。これは、間違いないでござる。学院を買収したEUの商社が飛ばしているのでござった!」




