表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/133

第8話 戻る日常。楽しい学園生活。

「今朝はわたし。自動改札に引っかからなかったわ!」


「良かったね、(ひいらぎ)さん」


 夏の制服に着替えた頃、学園の修復工事も終わり、僕と柊さんは再び学園に通いだした。

 もちろん、僕は柊さんに登校時間を合わせている。


「そういえば、前にペットショップの前で植杉くんの視線感じたんだけど?」


「あ、気が付いてたの? そりゃそうか。気配や視線に敏感じゃなきゃ銃撃戦なんて……」


 僕は以前、柊さんがウインドウの向こうの子猫に対して「猫ちゃん言葉」で話しかけていたのを隠れ見ていた。

 しかし、それを気が付かれていたとはびっくりだ。


「あ、ストップ! 植杉くん、今は他の人が聞いてるかもしれないんだから、発言には注意してよね?」


「ご、ごめん」


 柊さんは、僕に近づいて僕の唇を右手人差し指で塞ぐ。

 迂闊な事をしゃべらないようにと。


「植杉くんは頭良いけど、どこか抜けてるから気を付けてよね」


「う、うん」


 柊さんの細くて白い指が、僕の唇に触れた。

 その事で、僕の心臓は爆発しそうに鼓動を打った。


「あれ、どうしたの? 急に顔が真っ赤になって?」


「だ、だって柊さんが急に僕の唇に触れるんだもの……」


 夏服の純白な半袖ブラウス。

 そこから出ている柊さんの腕は、とても銃撃戦を行えるようには見えないくらい細く華奢だ。

 更に、指先まで日焼けを全くしないような白くて瑞々しい肌が眩しい。


 くるりと僕に向かって反転した際に、膝上のチェック地スカートの裾がひらりと舞う。

 舞い上がったスカートからちらりと見えた太ももは、健康そうな太さと眩しいばかりの純白。


 全身から眩しいオーラ―を感じる美少女に、僕は毎朝ノックアウトされそうになっている。


「ちょ、天下の公道で変な事言わないでよぉ。あ、勘違いしないでよね! わたしと植杉君は友達。間違っても恋愛感情は無いんだから。今は、植杉くんがうかつな行動をしないように監視業務の一環で、一緒に登校してるだけなんだからぁ!」


 アラバスタな肌を真っ赤にしながら、早口で話す柊さん。

 狼狽える様子に、僕は可笑しくなって笑ってしまう。


「もー。笑っちゃいや! だ、か、ら! 植杉くんは友達なの。それ以上でもそれ以下でもないのよぉ! 誤解しないで!!」


 登校中の学生たち、みんな。

 微笑で佇むお嬢様では無い、年相応の可愛い柊さんを見て不思議そうな顔をしている。

 「仮面」を被るのをすっかり忘れている彼女、僕は嬉しくなってますます笑ってしまった。


「だから、笑わないでよぉ!」


  ◆ ◇ ◆ ◇


「柊さん。最近、貴方とは随分と話しやすくなった感じがするわ」


「そうかしら? わたくし、何処か変わりましたの?」


 休み時間、女子たちが柊さんの周辺に集まる。

 それ自体は、いつもの光景。

 でも、今日は話題が違うみたいだ。


「去年までは、柊さんって悪いけどお人形さんみたいだったの。綺麗だけど、どこか作り物みたいだったわ。でもね、今年。特に学校が休校になる前くらいから急に笑顔が多くなったの」


「え!? そ、そうだったか、かしら?」


 女友達に追及されて、必死に誤魔化す柊さん。

 確かに入学式の頃とは全く違う雰囲気だ。


「そうそう。あの子と一緒に登下校し始めてからかな?」


「わ、わたし。植杉くんとは友達なだけなのよ? 間違っても、お、お付き合いとかは……」


「あれ? わたし、植杉くんとは言ってないけど? ふーん、そうかぁ。アリサ姫にも春が来たんだぁ」


「きゃー」


 僕の名前を出して、柊さんを揶揄(からか)う女子たち。

 柊さんは顔を真っ赤にしているが、僕も「流れ弾」を受けて頬が熱い。


「ですから、わたしと植杉くんとは友達。間違っても、れ、恋愛感情なんて……」


 柊さん、綺麗な頭から湯気をあげそうになっているのが可愛いけれど、イジられて可哀想。


 ……と言っても、僕が何か言ったら追加で火に油注ぐ事になりそうだし。


「これ、ホントだわ。本人だけが気がついていないのかしら? まあ植杉くんは可愛い感じで良い子だから、アリサ姫には丁度いいんじゃ無い?」


「だ、か、ら! 違うってさっきから言っているでしょ? 植杉くんも何か言ってよぉ〜」


 結局、僕も女の子同士の恋バナに巻き込まれてしまった。


「マモル殿、大変でござる」


 ……ユウマ君、そんなところで拝んでいないで僕を助けてよぉ!


  ◆ ◇ ◆ ◇


「ふぅ、クラスの女の子達にも困るよなぁ」


 僕は自室の机に向かい、宿題を片付け中。

 あらかた目途が立ったので、暖かいココアを一口飲む。


「柊さん。一杯不思議な事が多いけど、最近僕に見せてくれる顔は普通の女の子だね」


 公安の凄腕カウンターテロ・エージェント。

 それも未成年で高校生の女の子。

 普通の経歴でやれる仕事では絶対に無い。


 「何処かで戦闘訓練をしてたんだろうけど?」


 柊さんの拳銃の構え方は、最新のC.A.Rシステム。

 絶対に国内で習えるものじゃない。

 第一、日本で銃器を扱えるのは18歳以上の成人。


「子供時代は海外にいたって話してたけど、そこで訓練……? 小学生に戦闘訓練をさせるって何処のアニメ? 少年兵問題どころじゃないぞ。もしかして戦場とかに居た?」


 昨今、世界では少年兵や少女の戦地での扱いが問題になっている。

 こと、女の子は性的な対象としても悲しい目に合う場合が多い。


「でも、チビちゃんを助けられなくて躊躇(ちゅうちょ)してたよね? 何かトラウマでも抱えているんだろうか? うん、抱えていてもおかしくないや」


 戦場でPTSDとなる者は多い。

 幼い少女が戦場での戦いに巻き込まれれば、トラウマを抱える事になっても何もおかしくはない。

 もしかすると、目の前で小さな命が亡くなる事があったのかもしれない。


「他にも意味深な発言が多いんだよね」


 瞳の色は、日本人ではほとんど見られない灰色がかった蒼。

 髪の毛も黒じゃない場合もあり得たって本人の証言。


「柊さんって、もしかして海外の人とのハーフとか? うーん? 小学生戦士よりは、あり得る可能性だけど? ホント、僕って柊さんの事をよく知らないんだなぁ」


 お淑やかに微笑をする可憐なお嬢様。

 テロリストをガンファイトでやっつける少女戦士。

 そして幼げな笑みをする年相応の美少女。


 僕の中で、柊さんの存在がとても大きくなっている。

 彼女の事を考えない日は無い。


「とりあえず、柊さんが自分から語ってくれるまでは何も聞かないでおこうかな。トラウマを刺激しない方が良いしね」


 僕は再び、宿題との対決を再開した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ