第32話(累計 第79話) ユウマの戦い、その二:情報を抑えるものは勝利に近づく。
「とうとう『あの方』とやらが動き出したでござる。恐らく間もなく携帯電話回線やデジタル無線も止まるでござろう。お、スマホも通信途絶になったでござる」
「く。ユウマ、マモル達は無事なんだろうか?」
本庁に固定電話や警察用デジタル無線を掛ける係長殿であるが、既に音信不通。
恐らく都内とは、一切連絡が取れない状況なのだろう。
どんどんと通信手段を切断していく手法。
現代戦において情報通信が遮断されるという事は、目や耳をふさがれるのと同意。
敵ながら、基本に忠実で効果的な攻撃だ。
……どうやって物理的破壊以外に広範囲ECMをしてるでござろうか? もしや電子戦機でも使ってるでござるか?
「係長殿。先程、最後に繋がった際のマモル殿のスマホGPS情報は駅構内だったでござる上に、アリサ殿も一緒でござった。おそらく無事。何も無ければ、近くの避難シェルターに逃げこむでござろう……」
「それなら良いのだが、無謀にも武器無しで敵に突っ込んでいかないか? 襲われている人を見たら、おそらくマモルもアリサくんも黙っていないぞ」
「そ、そうでござるな。なので、急いで通信を復活させるでござる。うむ、大阪のNSPIXP-3は生きているでござるな。大手町のNSPIXP-2群は死んでいるでござるが、神田神保町のNSPIXP-1が使えれば……」
某はインターネットの接続ポイントに命令を送り、現状を把握。
切断された部分を迂回して回線を一部でも復活させようとしている。
「ユウマ、一体何をしているんだ? 英語と数字で俺には分からん」
「切断されたインターネット回線を復活させているでござる。係長殿、少々違法な事をするでござるが、良いでござるか?」
通常以外の方法でサーバや情報伝達スイッチに侵入するのは「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」に抵触する。
仮にも公安に所属する某が法律に抵触する行為をするのは、大義名分や上の許可が必要だ。
「……! よし、許可する。ユウマ、お前は能力を最大限使い、この事態を打開するのだ!」
「了解でござる。そうだ、係長殿。テレビを!」
「そ、そうだな。ぬ、地上波はダメか。なら衛星放送は? こっちも映らない」
どうやら極超短波付近の帯域は全滅らしい。
携帯電話回線、無線LAN、WiFi、デジタル無線にテレビの電波は超短波域。
そしてレーダーに使うミリ波は極超短波の更に上。
「係長殿。敵は極超短波帯域に対し広域ECMを行っているでござろう。これでは何も情報が……」
回線の復旧を願ってはいるが、ここまで広範囲に情報遮断をしてくる敵。
某は強大な敵を相手にし、一瞬途方に暮れた。
「ユウマはん! 一体何が起こってるん?」
「ユウマ、早く教えろ? 米軍基地にも連絡が通じん!」
そんな時、事務所のドアをバンと開き、おめかし服を着たリナ殿とダニエル殿が飛び込んできた。
◆ ◇ ◆ ◇
「リナ、それにダニエル。無事でよかったわ」
「うん、お母ちゃん。ダニー兄ちゃんと一緒だったから、大丈夫だったんよ」
リナ殿が母君、ソフィア殿に抱かれているのを見て、某は安堵する。
「植杉さん、これは一体どうなっているのでしょうか? テレビは映らないし、ラジオも混乱してて」
「正木さん。俺にも詳しい事は分かりません。ただ、都内で大規模テロが発生しているのは間違いないようです。だな、ユウマ」
「はいでござる。現在、都内において通信手段は遮断。更に複数個所で爆発が起きているでござる」
リナ殿のお父上が係長殿に状況を聞いてはいるが、正直打てる手は少ない。
……ん? 今、ラジオがどーのとか?
「正木社長殿! 今、ラジオが混乱と言ってたでござるな?」
「あ、ああ。FMはダメだが、AMは聞こえるぜ」
正木殿が昔ながらのラジカセの電源を入れると、国営放送から混乱気味に状況を話す男性アナウンサーの声が聞こえてきた。
ラジオニュースによれば都内数か所で爆発、警視庁内部や自衛隊宿営地内からも銃撃音が聞こえるとの事。
他にもヘリが多数飛び立っただの、パワードスーツが目撃されたとか、情報が錯綜している。
なお、国会議事堂や首相官邸、皇居辺りでの情報は全く入ってこない。
……攻撃ヘリがビル屋上のアンテナを吹き飛ばしたとか、パワードスーツが路上で暴れているとか。まるで戦場でござるよ! しかし、国営放送にはまだ手出しをされておらぬのでござるな。普通、クーデターなら放送局を抑えるのが定石でござるが。
「……! AM波は使えるでござるか! なら、まだなんとかなるでござる!」
「ユウマ、何か手があるのか?」
「はいでござる。この日の為に某、四級アマチュア無線の免許を取っておいてよかったでござる。ふむふむ、短波は電波妨害があるでござるが、中波域は大丈夫でござるな」
某は事務所に設置していた無線機のスイッチを入れ、通信を試みる。
短波域にはECMの影響が感じられるが、中波には殆ど影響がない。
敵が忘れていたのか、自分が使うために開けているのか。
そこは不明であるが、例え罠としても今は動くべきだ。
「非常、非常、非常。CQ、CQ。こちらコールサインJK1〇〇〇。何方か聞こえますか? 非常、非常、非常。CQ、CQ。こちらコールサインJK1〇〇〇。何方か聞こえますか?」
某は無線機のマイクを取り、周波数を非常通信連絡に使う4630KHzにして通信を行った。
この周波数は警察庁、自衛隊、海上保安庁等の行政機関と直接交信が可能。
これで何処かと通信が繋がれば、状況が大きく分かるはずだ。
「CQ、CQ。 こちら消防庁。JK1〇〇〇、貴方は何者ですか? そして何がありましたか? 送れ」
「こちらJK1〇〇〇、警察庁警備局 公安課第一機動強襲室の第五係です。現在、奥多摩の事務所から通信しています。本庁や各所と通信が途絶。テロ多発と聞き、情報や安否を知りたいと思い、連絡をしました。送れ」
「こちら消防庁。機動強襲室殿。現在、都内は大パニックです」
消防庁では、各所での火災を受け消火活動を行うはずであったが、情報途絶により動けない状況。
各消防署とも通信が出来ず、更に各道路は避難する自動車に溢れパニック状態になっていた。
その上、警察も所轄が何とか動くも警視庁、警察庁には連絡が出来ず、噂レベルでは署内で銃撃戦すら行われていると。
「情報色々ありがとうございました。こちらでは現在、回線復旧できるかを試しています。お互い、国民を守るため戦いましょう。送れ」
「ええ、若い警察官さん。我々消防も動きます。では、ご武運を」
某は通信を切り、係長殿達の方へ振り返った。
「ここから大逆転でござる! 皆の衆、各パワードスーツを動かせるよう準備をお願いするでござるよ」