第28話(累計 第75話) 学院の闇その八:迫りくる危機に向けて、僕らは勝利の準備をする。
「あれからミハイル、見つかりましたか、係長?」
「いや。流石に未成年者だから保護という名目での捜査なんだが、一向に足取りがつかめない。しょうがないから、今はユウマに頼んで全国の監視カメラ映像から探してもらっているのさ」
ため息をつく父さん。
その視線の先にはユウマくんがいた。
「はぁ、科捜研全員よりもユウマの方がIT分野なら随分上だからな。本当ならユウマを叱って罰を与えるところだけれども、それどころじゃないから今は政府公認で動いてもらってる」
学院校長の死から三日。
学院での薬物汚染はマスコミにも流れ、今や大騒ぎ。
こと、高校生にまで忍び寄る違法薬物に世論は大揺れ、政府も対応が大変らしい。
「国会でも、厚労省や文部科学省が野党からの質問対応で大変ですものね。それで、上は有能なユウマくんを叱るよりは活用した方が良いと判断した訳ね」
「まあ、そういう事だ、アリサくん。俺としては、ユウマには危ない橋は渡って欲しくは無いんだが、自分から勝手に首を突っ込んでいくから、心配でたまらんよ」
……父さんは親の立場で見ちゃうだろからねぇw
「そういう意味ではマモルとも似たものな同士か。マモルも戦場にアリサくんの為に飛び込んでだからな。二人とも賢いのに大バカだよあ、もちろんアリサくんは全く悪くないぞ」
「そ、そうかなぁ。僕、そこまで馬鹿しないと思うんだけど?」
「いやー。マモルはんも十分変人で大バカのお人好しや。アーシャはんに色々聞いてるで。ウチにも何かと優しいしな」
「うん。八方美人なところあるのよね、マモルくん。わたしも誰かに取られないかいつも心配してるわ。あ、リナちゃんは大丈夫よね」
知らない間に僕の方に文句が飛び火しているのは困った事だ。
アーシャちゃんがリナさんとイチャついているのは毎度だから、今更気もしないし焼きもちもしない。
……女の子同士の距離感近いイチャイチャ。う、羨ましいな、なんて思わないでも無いんだぞぉ!
今日も、第一機動強襲室第五係の事務所で宿題をしながら話を聞く僕。
事件により学院は無期限休校となり、今度は母校な天馬学園からの宿題を片付けている。
……休憩時間には普通に武術訓練やパワードスーツの訓練もしているんだけどね。パワードスーツは、動かすたびに仕様を変えてくるから対応が大変だよ。
僕の機体はもちろん、リナさんの機体もアーシャちゃんの機体も随時改修が行われてはテスト運転をしている。
どんどん誰かの「趣味」満載の傾向になっているのは、困ったものではあるが。
「皆の衆、某はこれから本格的に情報を統合に集中するでござるから、先に伝えておくでござる。おそらくミハイルは今年中に何か仕出かすでござる。以下の準備を早急にお願いするでござるよ、大尉殿、雪野先生」
そんな折、今までPCを睨んでいたユウマくん。
アーシャちゃんとリナさんの百合シーンを一瞥して、事務仕事をしていたソフィアさんや雪野先生何か書類を渡した。
「こ、これは!? ユウマ。貴方がこんな兵器を要求するなんて、敵は大規模テロをするつもりなのかしら? なら米軍にも情報を流さないとですわ」
「ええ、自衛隊にも情報共有をします」
二人も慌てだすので、すっかり置いてきぼりの僕は困る。
「ユウマくん、僕にも教えてよ。校長先生の事件についても後からだったし」
「ウチにも教えててぇなぁ」
「マモル殿やリナ殿にはミハイルと戦って勝ってもらわねば困るでござるから、詳しく説明するでござるよ。まず校長殿でござるがミハイルによる絞殺でござる。また、剣道部センパイが服用した薬物、アリサ殿が過去摂取していたものの改良型でござる」
「え! そんな事になってたの!?」
「嘘やん!」
◆ ◇ ◆ ◇
ユウマくんに種明かしをしてもらい、帰宅した僕ら。
夕ご飯を食べた後、アーシャちゃんと月明かりに照らされたベランダで話し合う。
「アーシャちゃん。君はあんな薬を飲まされて訓練をさせられていたんだ?」
「そうね。今考えれば酷い話よ。わたしの場合は生まれる前、パーパの段階からレトロウイルスによる遺伝子改造すら行われていたんだから」
アーシャちゃんは生まれる前から遺伝子改造、デナイザーズベイビーとして作られた。
優秀な軍人だったお父様なアレクサンドルさんの精子段階からの改造。
その為か、お母様なカオリさんは妊娠による多臓器不全でアーシャちゃんを出産後に亡くなっている。
また、アーシャちゃんはその後の幼少期。
某国の極秘人体改造プロジェクトにより更なる投薬と特殊訓練によって、戦士として作られていった。
「まったく酷い話だよね。だからアーシャちゃんが組織を叩き壊したのは悪くないよ」
「でも、その為にミーシャ、ミハイルはあんな風になってしまったの。そして今も自分達と同じ戦士を作っているわ」
今回の学院での薬物使用はミハイルらによる人体実験、新たなる戦士育成計画らしいのが科捜研とユウマくんにより明らかになった。
学業優秀者には、パイロット向けな精神安定と覚醒を促す薬物を。
運動優秀者には興奮効果と痛覚鈍化、そして覚醒と狂暴化を促す薬物をそれぞれ投薬。
僕が戦った学生らの精神が不安定だったのは薬物効果がまだ安定しなかったかららしい。
こと、暴走していた剣道部センパイに至れば、オーバードーズも重なって怪我以上に重度の薬物中毒で入院が長引きしそうとも聞いている。
……投薬管理が未熟だったから、オーバードーズや他の違法薬物に手を出したりして自爆したのは愚かだよね。
「もう悪魔になってしまったミハイルは、仲間だった校長すら口封じで簡単に殺すのよね。それも絞殺具による絞殺なんて」
「だから首筋にひっかき傷もあったし、縄の跡が二重になってたんだね」
校長の遺体の首には、縦に引っ掻いた傷と爪に引っ掻いた時に剥がれた自分の肉片が詰まっていた。
通常、自殺の場合は首を絞める縄に抵抗をすることは少ない。
覚悟の上での自殺だから。
しかし、他殺。
こと急に絞殺されそうになった場合、被害者は締める道具を剝がそうと行動する。
つまり両の手指で絞殺する紐を剥がそうとして、縦の引っかき傷が出来る。
……後から教えてもらったけど、優秀な検視警官さんの名前から『吉川線』って呼ばれているんだって。
絞殺具はワイヤー。
しかし遺体発見時に首を釣っていたのは、荷造りに使う細めの縄。
首に出来る跡が全く違う訳で、しっかりした検視官が見れば他殺の可能性があるってすぐにバレるのだ。
「多分ミーシャはバレてもいい、時間稼ぎにでも思っているんじゃないかしら。でも、ウチのユウマくんは優秀だから先手打てて行動範囲は狭められたわ」
少し夜風が寒いのか、アーシャちゃんは僕にくっつく。
僕もアーシャちゃんに上着をかけつつ、肩を抱く。
「手に入った時間の間に、わたし達は勝ちに行くわよ、マモルくん!」
「うん。絶対に僕がミハイルを止めてみる! アーシャちゃん。一緒に頑張ろうね」
元気に僕に勝利宣言をしたアーシャちゃんは灰蒼な眼を閉じ、顔を上にあげる。
僕は背を屈ませて、眼を閉じながらアーシャちゃんの唇に自分の唇を重ねた。




