第26話(累計 第73話) 学院の闇その六:学院の焦り! 敵を追い込む僕ら。
「マモルくん、昨日は下校中大丈夫だったの? 僕、変な話を聞いてて君らの事が心配だったんだよ」
「え、何かあったの? 僕はアーシャ、いや柊さんと一緒に帰ったけど、いつも通りだったよ?」
少し睡眠不足な事件翌日、僕はあくびを噛み殺しながら登校。
クラスの席に座ると周囲の子が僕に話しかけてきた。
どうやら、特別クラスの子が僕とアーシャちゃんを襲うって話を聞いていたそうだ。
……昨晩はしばらく事情聴取の上に健康診断受けたから、寝たのは日が変わる頃だったもの。おかげで今も眠いや。でも、間違っても僕とアーシャちゃんで全員撃破の上、警察病院送りにしたなんて誰にも言えないよね。
「そうなんだ? 君と一緒に転校してきた柊さんが、この間の期末試験で総合一位になったからって、特別クラスが荒れているって噂好きな子から聞いてたんだよ」
僕たちの会話が聞こえてはいるだろうけど、笑みを浮かべて女の子達と話しているアーシャちゃん。
流石、場慣れしている。
……たかが、一回試験で負けたからって逆恨みから襲撃ってのは普通じゃないよね。まあ、剣道部センパイの様子から考えて、薬物汚染で精神が普通じゃなかったぽいけど?
「皆さん、おはようございます。今日ですが学園生徒の一部に問題が発生しまして、緊急職員会議を行います。その関係で授業は午前中で終わります。皆さん、寄り道などせずに気を付けて帰宅してください」
朝のホームルーム、担任の女性教師は緊張気味に予定変更の知らせを僕たちにしてきた。
おそらく学院にも特別クラスの子達が僕に敗れて警察に保護された事が伝わったのだろう。
……警察が学院に家宅捜査に入ったり、マスコミが動くと無関係な生徒も巻き込まれるからね。さて、警察病院に送られたセンパイ達から、どんなヤバイ薬物が出ますやら。
ざわざわとする教室の中、僕は驚くふりをしながら次の段階の事を考えた。
……学院は、僕たちに迫ってくるよね。なら、その時に返り討ちしようかなぁ。
◆ ◇ ◆ ◇
「係長。今日の尾行には困りましたよね?」
「ああ、マモル。今日は生徒だけでなく、大人。自動車でも付いてきてた。学院側も動いている様だな。皆、すまん。大人達の汚い話にお前ら子供を巻き込んで」
「いえいえですわ、お義父様。いえ、係長。わたし、久しぶりのスパイにワクワクしちゃいましたもの」
……荒事や潜入捜査には慣れっこだものね、アーシャちゃんは。
お昼からお休みになったので、僕ら四人は一緒に係長、父さんの運転する白いバンで基地に帰宅。
バンに乗るまでは徒歩の学生や教師らしき者、バンに乗ってからは怪しげな黒塗りバンに僕らは尾行された。
……バンで尾行なんて、もしかしたら僕らの拉致も考えていたのかもね。油断大敵だよ。
「でも、流石は係長殿でござるな。上手く尾行を振り切った上に身柄確保したでござる」
「これでも元は交通課、俺のパトカー運転歴は長いぞ。上手く所轄と協力すればざっとこんなモノさ」
父さん、所轄警察と連絡をとり、尾行車両をネズミ捕りしている場所に追い込んだ。
そして、速度検知レーダー前で急加速。
僕たちに逃げられると思い込んだ敵が速度違反する様に追い込んで、検挙に持ち込んだ。
所轄パトカーから呼び出され、仕方なく止まる敵車両。
運転者の視線が憎らしそうなのが、バックミラー越しに見えた。
……これで免許証から敵の身柄がわかっちゃうよね。万が一暴れたら、そのまま逮捕だもん。
「流石はマモルはんのお父ちゃんや。作戦がえげつないでぇ。ネズミ捕りの点数風ぎと敵の身柄確保まで一石二鳥、いや尾行を振り切るんやから三鳥やん!」
「ははは。リナくん、褒めても何も出ないぞ。もう少ししたら警察病院からの情報共々、こっちに来ると思う。学院の闇を一気に晴らすぞ」
「はい!」
……あんまり褒めていないような気がするのは僕だけかな? 速度違反のネズミ捕りは、市民感情あまり良くないんだけど。
僕たちは宿題をしながら、続報を待った。
◆ ◇ ◆ ◇
「理事長! このままでは我々の生徒改造計画が表ざたになります。『あの方』の御力にて何とかしてください! 政治家から警察も黙らせることが出来ますよね?」
「ふーん。ボクらの強化戦士製作の一端が学生の暴走でバレるなんてね。やはり向精神薬の投与は難しいねぇ」
すっかり剥げあがった初老の校長。
豪華な席に仰け反って座る理事長に向かって、必死に保身を叫ぶ。
「理事長! そんな他人事のようなことをおっしゃらないでください。このままでは警察に介入され、学院は終わってしまいます。貴方がたの計画に参加する事で優秀な生徒を作り、学院の名は有名になるはず。そして倒産寸前だった経営も立て直せるはずだったのに、何処で失敗したのでしょうか?」
「そうかい? ボクや『あの方』に取って、この学院は実験台の一つに過ぎない。世界を作り直す計画で手足の様に使える強化戦士育成の場だっただけ。ある程度の成果は得られたし、日本国政府にバレたのならプロジェクトは終了。ボクらは、とっとと逃げさせてもらうね」
「そんなぁ。貴方がた、いや『あの方』に離れられては資金繰りに困っている学院は終わります! なにとぞ、『あの方』にお口添えを、理事長、いえカミンスキー様!」
理事長席に座る銀髪な少年にしがみ付く校長。
彼を蔑んだ眼で見ながらミハイルは思う。
……またアーシャちゃん達の仕業かぁ。日本国政府も未成年学生の捜査投入なんて、手段を選ばずになかなかやるね。じゃあ、ボクは次の計画に移ろうか。こいつは、もう用無し。『あの方』の関与が警察なんかにバレる前に口封じしなきゃ。
号泣し鼻水まで流す校長を見ながら、ミハイルは懐から絞殺具を取り出した。




